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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第1部 「新たなる奇石」
16/42

15 「勇者ハルマ」

「ええ、そう。勇者ハルマは運命を司る女神〈ノルン〉によって、この世界に転生した《異世界人》」

オリハルコンがおれたちにそう告げた。



火の試練を終えた翌日、おれたちは大広間に呼び出された。


玉座には姫様。そのとなりにオリハルコン。

おれとミスリル、ハルジオン、それにノーラが姫様と対面している。


《勇者ハルマは異世界人》

この事実をオリハルコンが認めた。


ノーラも知っていたらしい。

言うタイミングがなかったそうだ。


暗殺者アサシンの騒動もあったしなぁ……。



「まずは火の試練の達成を讃えましょう。あなた方は見事に期待にこたえてくれました」

姫様が威厳と落ち着きのある声で言う。


玉座に座る仕事モードの姫様には貫禄(かんろく)がある。(一緒にサウナに入った人とは思えないぜ)


「勇者ハルマは異世界から来た。この事実を隠していたわけではないのですが、色々と説明不足がありましたね……私も焦っていたのかもしれません」

姫様が頭を下げた。


「異世界……異世界ねぇ」

だけど、これで〈勇者ハルマ〉に対する違和感の正体が分かった。


おれはずっと不思議だった。


〈勇者ハルマ〉という人間の功績が、現実離れし過ぎていたからだ。


「正直、話盛ってんじゃないのぉ〜〜〜?」とか思ってたぜ。


・聖剣エクスカリバーを作った。

・聖宝器を5つ作った。

・岩石王を滅ぼした。

・魔鉱石の性質に気づいた。

・モーフィングを最初に使った。

・ウルカヌスにサウナを教えた。

・そして《銃》の設計図……他にもたくさん。


この世界の知識だけで成し遂げられたとは思えないよな。



「これは《(ジュウ)》と読むんだよ」

オリハルコンが設計図の文字をなぞる。

「まさか、設計図を残してたなんて……すごいね」


「《銃》というのは、勇者ハルマがいた《異世界の武器》。本当はこの銃を〈火の聖宝器〉として作りたかったんだね。だけど彼も万能ではないから。存在を知っていても、構造を完全に理解していなかった。泣く泣く断念したみたい」

オリハルコンがこめかみを抑えながら言う。


「勇者から話を聞いていたのか?」

ハルジオンが腕を組む。


「ううん、私は聞いてない。私の記憶に刻まれているの」

オリハルコンが静かに答える。


「んーよく分かんねぇけどさぁ〜。もうちょっと勇者ハルマのこと教えてくれよ」

そうオリハルコンに提案する。

「《元聖剣》が、人型に戻ってる理由も、教えてくれよなぁ?」


このタイミングだと思い、ききそびれていた疑問を彼女に投げかけた。



オリハルコンはゆっくりとうなずいた。

彼女は目を閉じ、一つ息を吐く。


「私は元聖剣。そして歴史を伝える語り手でもある。……うん、ちゃんと話すね。100年前よりも前の話」

オリハルコンが口を開いた。


「光と闇の長い戦いが落ち着いてきた時代。岩石王、あるいは魔王と呼ばれる存在が突如として現れ、闇の勢力を取り込んでしまった。彼は半巨人の姿をしていて、彼の武器や軍隊は全て、自身で生み出した魔鉱石で出来ていた。


魔鉱石の硬さは君たちもよく知ってるね?


光の勢力が所持している武器では、魔鉱石に傷一つつけられなかった。

出来ることは、守りに徹することだけ。こんなの《無理ゲー》だよね。


だけど、その守りも崩されてしまう。


岩石王は世界最強生物 〈ドラゴン〉を味方につけたの。

岩石王は魔鉱石だけじゃなく、宝石や金銀財宝も生み出せたから、財宝に目がないドラゴンを味方にすることができたんだ。


ドラゴンと岩石王の配下 《7体のサイレンス》によって、光の勢力の〈翼の民〉が住む〈天空城〉が崩落した。

この戦いで翼の民がほとんど滅亡し、同盟を組んでいたエルフも衰退。

光の勢力の完全敗北。


そして、魔王軍が世界征服目前に迫ったとき……。


〈勇者ハルマ〉が現れた。



この世界には多くの神々がいて、神々は《光の神》と《闇の神》に分かれている。

だけど、運命を司る女神〈ノルン〉だけは中立な神だった。


天空城が崩落した時、すでに神々も岩石王を止めることが出来なくなっていてね、

女神ノルンは《この世界の法則に縛られない者》が必要だと考え、異世界人である〈勇者ハルマ〉をこの世界に転生させたんだ。


女神ノルンは彼に助言をしながら、世界の平衡を取り戻すために動いた。


勇者ハルマは元々、強大な〈対魔力〉を持っていた。

そして、錬成魔術(モーフィング)を女神ノルンから与えられた。

現在、カジバくんが使っている魔術だね。


モーフィングは魔鉱石に有効だった。

元々鍛冶師だった勇者ハルマは、すぐにモーフィングを使いこなして、動く石像兵を次々と魔鉱石武器に変えていった。


勇者ハルマによって光の勢力は対抗する武器を手に入れた。

だけど、闇の魔力を持つ魔鉱石で出来た武器は、光の種族であるエルフたちには扱えなかった。


ここで活躍したのが人間。

人間はこの大陸で唯一、光と闇の両方の性質を持っていた。

だから魔鉱石武器を扱うことが出来た。


もちろん、魔鉱石に魅了されてしまう人も多く出たけど、魅了に抗うことのできる強い意思を持った騎士たちが光の勢力を救った。


そして100年前。

岩石王との最後の戦いが始まった。


勇者ハルマは〈4英雄〉と光の勢力の連合軍を連れて、闇の王国に向かった。

だけど、この時点では〈聖剣エクスカリバー〉は出来ていないんだ」



「えっ! なかったの?」

聖剣を持って最後の戦いに向かったと思ってたぜぇ……。


「そう。その時点では《5つの聖宝器》しかなかった」

オリハルコンが右手の指を広げた。


「最後の戦いは熾烈(しれつ)を極めた。光の連合軍が善戦し、ついに岩石王を戦場に引きずり出した。


でも岩石王は強かった。

勇者ハルマはボロボロになりながら最後の力でモーフィングをした。

岩石王の右腕を無理矢理|《剣》に変え、その剣で魔王の身体を粉砕したんだ。

その剣こそが〈聖剣エクスカリバー〉


それにより動く石像の軍隊が消滅し、サイレンスが力を失った。

光の勢力の勝利。


『人は切迫した状況に置かれると、普段には想像できないような力を無意識に出す瞬間がある』

勇者ハルマはそう言っていたよ。


戦場の土壇場で生まれた武器。それが〈聖剣エクスカリバー〉。この《エクスカリバー》という言葉は勇者ハルマの故郷の有名な剣の名らしいんだ」

と、オリハルコンが微笑んだ。


……100年前の話。

正直、実感が湧かない。

それでも勇者ハルマがすごいのはわかった。


辿り着けるのか……おれはそんなやつに。


「それで、なんでその《聖剣》が今は人間の姿なんだぁ? 聖剣が残ってれば、もっと早く岩石王を滅ぼせたんじゃ……」


「そう。私がまだ聖剣だったら……」

オリハルコンは一瞬目を伏せた。

「岩石王が滅びた後、勇者ハルマは天空城の跡地に城塞都市〈ノルン〉を作り、闇の勢力の監視をした」


「……敵をそのまま倒しきらなかったの?」


オリハルコンは「そう」と、うなずいた。


「勇者ハルマの使命は《光と闇の平衡を保つこと》。光と闇、どちらがいなくなってもいけない。魔王軍残党を滅ぼすことで光の勢力が強くなりすぎることも勇者ハルマは阻止しなければならなかった」


「バランス……難しいんだなぁ」


「終戦から数年。勇者ハルマは岩石王の身体を粉砕した時に散らばった〈魔鉱石の破片〉を探し、聖剣で破壊し続けた。そして彼は《岩石王の心臓》を壊しきれていないことに気づいた。


そんな中、一部の人間たちが魔王軍残党を殺戮し始めた。

……恐れからの殺戮。


すると、勇者ハルマは罪のない魔族たちを守るようになった。

岩石王の力によって強制的に戦わされていた種族や、奴隷にされていた種族を助けた。

だけど、これによって一部の人間と勇者ハルマの間に溝が出来てしまった。


そしてある時。

勇者ハルマが刺客に襲われ、致命傷を負った。


勇者ハルマはそこで、聖剣を魔鉱石に戻した。

刺客に聖剣を渡さないため。


そこで私は初めて人に擬態したの。


勇者ハルマは自分の記憶を私に刻み込んで、私を逃した。

その後、彼は命を落とした。



そうだったのか……。

《刺客に聖剣を渡さないため》

だからオリハルコンは人間の姿になった。


「刺客はもう一つの大国、〈ミズガル王国〉のはぐれ騎士だと言われている。正義を語り、異種族を排除しようとした連中だ」

となりでハルジオンが言った。


「俺たちは再び《聖剣》を手に入れる。だが、使い方を間違えてはいけない。俺は聖剣を岩石王の核を壊すために使う。闇の種族を滅ぼすことには使わない。そして役目を終えた聖剣の破壊を見届ける。岩石王の意思だけはこの世に残さない」

と、ハルジオンは拳を握った。



---



おれたちが次に向かうのはエルフの森にある〈土の神殿〉。


エルフの森はノーラの故郷だ。 

☆本作に登場する武器と種族のかんたん解説!☆


■ドラゴン

ヨーロッパの伝承に登場する伝説の生物。

鱗に覆われた爬虫類〈トカゲ〉のような姿で有翼。

炎や毒を吐くと言われているよ。

本作ではそのイメージを引き継ぎ《財宝に目がない世界最強生物》として登場。


■ノルン

北欧神話に登場する運命の女神。

神々と人間の運命を定め、人間の寿命や,幸不幸を決める。

3人姉妹だと言われているよ。


またみてね!

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