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カジバノチカラ - 鉱石少女がエクスカリバーになるまで -  作者: 上田文字禍
第1部 「新たなる奇石」
14/42

13 「火の試練 後編」

「これは受け切れるかぁ?」


ウルカヌスが口をふくらませた。

ハルジオンに向かって火球を飛ばす気だ!!!


ハルジオンは警戒して距離をとった。


「おらぁっ!」

おれはいつの間にか走り出していた。

ハルジオンの正面に立つと、大楯を構える。


「ブゥーーーーーーン!!!!!!」

ウルカヌスが勢いよく火球を飛ばした。さっきよりもデカい。


火球が大楯に衝突する。

大楯に遮られた炎が左右に広がった。

辺りの空気が一気に熱される。


炎が止むと、おれは石の床に両手をついた。


錬成(モーフィング)!!!」

壁だ!

壁を作る。


両手から火花が散った。

石の床が形を変え、おれの正面に岩壁ができる。


「壁を作れるのか……なんで言わなかった!」

背後からハルジオンが言う。


「聞かれてねぇ〜もん!」

そう言いながら大盾のモーフィングを解くと、ミスリルが人間の姿に戻った。



「で、どうするよ? あいつ、遠くからでも普通に殴ってくんぞ。なにか作戦がねぇと……協力するんだ」

と、ハルジオンに提案する。

その後、岩壁の横から顔を出してウルカヌスの様子を見た。


ウルカヌスはニヤニヤしながらスクワットをしていた。

「そうだ、策を練れ! 脳みそを動かし続けろ! センスだけで勝負するやつはセンスがねぇ! 役割を見つけろ!

誰にでも必ず役割がある! ハッハッハ! 筋肉と同じだな!」


余裕かよ……。

こっちが動くのを待ってんな。


「協力……そうだな。まず、お互いの出来ることを共有しよう」

ハルジオンは岩壁にもたれかかり、上を向いた。

「……俺は身軽で動きが早い。あいつにはまだ一撃当てれていないが、俺はもっと早く動ける」


「ふーん。それがおまえの《武器》ってわけねぇ。おれの武器は《モーフィング》だ。素材があれば武器を数十個作れるぜ」

「数十個……素材はなんでもいいのか?」

「あぁ、でもここは石しかねぇもんなぁ。できれば鉄がいいんだけど」

「鉄か」

ハルジオンは遠くを見て熟考した。


いいぞぉ。

頭いい奴には、頭使ってもらわねぇとなっ!!!



「……あっ、あのっ。私も……」

その時、ミスリルが小さく手を挙げた。



---



「作戦は決まったかぁ? 子供ォ!」

と、ウルカヌス。


壁から顔を出して様子を確認する。

やつは今、腕立て伏せをしている。


途中「フンッ! フンッ!」と、壁越しに聞こえてたから、想像はついたけどな……。



「ああ出来た。再開だ」

ハルジオンが岩壁の裏から出る。


「じゃあやろう。熱いうちになぁ!!!」

ウルカヌスが拳を握った。


「鍛冶師!」

ハルジオンが合図を出す。


「おうっ!」

おれは立ち上がると、そのまま神殿の扉に向かって走った。


ウルカヌスに背を向けて、全力逆走だぁっ!!!


「フハッ、愚かぁっ!!!」

ウルカヌスがこちらに向けて右腕を伸ばす。


ハルジオンが腕に追いつき、やつの右拳を受けとめた。


「腕はもう1本あるんだなぁ!」

ウルカヌスが左腕を伸ばす。


おれを狙う左拳。その軌道にミスリルが立った。


「うっ、うわぁっー!」

拳を受け止めようとした彼女だが、直前で目を瞑り、驚くべきことに、拳に向かって頭突きを繰り出した。

拳と額がぶつかり、ミスリルが吹っ飛んでいく。


それと同時にウルカヌスの悲鳴が轟いた。

「痛ぁぁぁっ、石頭ぁぁぁ!!!」

やつが拳を引っ込める。


ナイス石頭! 時間稼げたぜ!


おれは神殿の扉にたどり着く。

巨大な《鉄》の扉だ!


「見とけよぉ! おれの戦い方はこれだぁっ!」

両手で力強く扉に触れた。


扉が熱でオレンジに光る。

火花が散り、扉に穴が空いていく。


おれは鉄の扉を複数の短剣へ変えた。


ガラン、ガラン、ガラン

ガラン、ガラン、ガラン

ガラン、ガラン、ガラン


出来上がった短剣が地面に転がる。


「フハッ! ハハァ!!!」

ウルカヌスがそれを見て笑った。


扉に空いた大きな穴から、日の光が一気に差し込む。

外にいたノーラと修道士は、突然現れた大穴を見ておどろいていた。


「ノーラ! ちょっと離れてた方がいいぜぇ!!!」

と、外のふたりに笑いかける。



「鍛冶師! やれっ!」

ハルジオンが指図した。


「よっしゃ! ミスリル! この剣を《腕伸び野郎》に投げつけろぉ!!!」

おれは吹き飛んだミスリルに声をかける。


「……ひゃっ、ひゃい!!!」

ミスリルは意識を取り戻すと、こちらに走った。


おれとミスリルは大量の短剣を抱えて岩壁まで走る。

ウルカヌスはそれを不思議そうに見ていたが、ハルジオンの斬撃が襲い掛かり、その対応に追われた。


おれとミスリルは岩壁の上から顔を出し、鉄の短剣をウルカヌスに投げつける。

「おりゃぁああ!!!」

「……うわぁあああ!!!」


「……それは作戦なのか?」

ウルカヌスが動揺している。


壁に隠れながら物を投げつける。

ドワーフの里でやった雪合戦を思い出すぜ!!!

ドワーフのひとりが雪玉ん中に鉄鉱石を混ぜて乱闘になったっけ……。


となりのミスリルも、一生懸命投げつけている。

ウルカヌスは右手でハルジオンの斬撃をいなしながら、左手で飛んでくる短剣を弾いた。

短剣がウルカヌスの周りに散乱する。


「おりゃぁっっ!!!」

と、となりにある最後の剣を投げつけた。


ウルカヌスはそれを軽く弾く。

全く効かねぇ。

最後の剣はウルカヌスの背後に転がった。

カランと虚しい音が鳴る。


「そんなオモチャ、俺様には当たらんゾォ!!!」


「当てるさ、俺がな!!!」

ハルジオンが構える。

「これは、武器が散乱している戦場を想定した技」


ハルジオンが一気に飛び出した。

彼は散乱した短剣を取り、ウルカヌスの周囲を飛び回る。

破技ブレイクアーツ星彩連斬カボションカット!!!」


「ム、これは……」

防御の構えをとるウルカヌスに、ハルジオンがあらゆる方向から斬り込んでいく。

ウルカヌスは両腕を鞭のように動かし、その斬撃をいなす。


しかしハルジオンは止まらない。

剣を弾かれたら、新しい剣をとり、また斬り込む。

これを高速で繰り返す。


おれの作った複数の武器と、ハルジオンの素早さを活かす戦術だ。


ウルカヌスの周囲をいくつもの短剣が飛び交う。

まるで複数の兵が襲い掛かっているようだぜ!


ハルジオンが最後の一撃を放つ。


「いいねぇ!!! 気に入ったゾォ、子供ォ!!!」

ウルカヌスが吠えた。


やつは最後の一撃をギリギリでかわし、ハルジオンの短剣を弾いた。


マジかよ!?

これでも当たんねぇのか……。


「楽しかったゾォ……子供ォ」

ウルカヌスがハルジオンを捕らえ、岩壁に叩きつけた。

「いやぁ……惜しかったゾォ」



「いいや……おれたちの勝ちだぜぇ」

おれはウルカヌスに向かって言った。


ウルカヌスがこちらを見る。

そしてやつはあることに気づいた。


「……銀の石はどこだ?」

ウルカヌスは辺りを見回すと、祭壇で目をとめた。


祭壇にある〈火の聖宝器〉の横にミスリルが立っている。


「ハァ……ハァ……。……や、やりぃ〜〜」

ミスリルが遠慮がちに言った。



ウルカヌスは目を丸くしている。

「石ィ!? いつの間に」


「投げつけた短剣の中に、ミスリルの剣を混ぜたのさ。雪玉の一つが鉄鉱石入りみたいなもんだぜ!」

得意げにそう告げる。


「ミスリルの剣? 魔鉱石でできた剣なら魔力で見分けがつくゾ」

ウルカヌスがあごに手を当てた。


「いいや、見分けはつかねぇんだ。おれがモーフィングした剣じゃないからな。投げた短剣はミスリルが自分で擬態したものだ」


「ム、擬態ィ!?」



---



作戦会議の時、ミスリルが声を上げた――


「わっ、私の《武器》は、擬態……です。最近お姉さんと練習してて……何か役に立つかも」


どうやらオリハルコンと一緒に、さまざまなものに擬態する特訓を密かに練習していたらしい。

まだ無機物しか擬態できないようだけど。



---



「ミスリルの擬態は自分の魔力も隠す。だからあんたは見分けがつかなかった」


「フハッ。見事ダァ。聖宝器の所まで向かっていたことに全く気づけなかったゾォ。銀の石は気配を消す能力もあるのか! フハハッ!、素晴らしい!」


「あぁいや……それは私の影がただ薄かっただけかと……」

ミスリルが苦笑いしながら下を向いた。



「まあ……どうせ俺が一撃入れていたが。……よくやった」

ハルジオンがミスリルの近くにやってきて、そう呟いた。


相変わらず偉そうだな、こいつ。


ミスリルは少し驚くと、おれの方を見てウズウズとした。

うれしそうだ。


まぁとりあえず、ハルジオンを見返すことはできたのか。


「よかったなぁ!!!」

両手をあげ、ミスリルに笑いかける。



「さて。温まったところで早速オマエ達に火の魔力を与える」

ウルカヌスが大きく両腕を広げた。


「ええと……試練は合格ってこと?」


「いいや、むしろ試練はこれからだ」

ウルカヌスが答えた。

「ひとまず気に入ったから、オマエたちに火の魔力はやる。よぉく身体に馴染ませろぉ」


やっぱりさっきの戦いは試練じゃないのかよ……。


「なら早くお願いします」

と、ハルジオン。


「子供ォ、ふたりとも頭出せ」

と、ウルカヌス。


おれとハルジオンは大人しく頭を差し出す。

ウルカヌスはおれたちの頭を両手で豪快につかむと、その手に力を込めた。


「うぉっ!」

魔力が自分の身体に流れ込んでくるのがわかる。

体温が上がる。

血が沸き立つようだ。


突然、自分の足元が燃え始めた。

「は? おわぁっ!!!」


「動くな」

ウルカヌスがおれの頭を押さえた。


火は足元から一気に這い上がり、おれの全身を包んだ。

「人間松明じゃあ〜〜〜!!!」


となりのハルジオンも燃えている。


「ちょっ、ちょっと、焼けてるぅ!」

ミスリルがワタワタとおれの周りをうろついた。



しばらくすると火が落ち着き、やがて鎮火(ちんか)した。


「よし、いいゾォ!!!」

ウルカヌスがおれとハルジオンの頭を勢いよく叩く。


それ必要だった?


「オマエ達は火と同化した。数日は多少体温が高いが、すぐに馴染む」

ウルカヌスが腕を組む。


「これで火の魔力を手に入れたのか」

ハルジオンは少々疑い気味だ。


「そうだ。そしてこれから正しく火を扱う訓練……試練をする。まずカジバ、それにミスリル。こっちに来い」

ウルカヌスが手招きをした。


あぁ、ちゃんと名前覚えてたんだ……。



おれとミスリルはウルカヌスと共に祭壇に上がった。

ウルカヌスは台座に刺さった真っ赤な剣身の片手剣を抜く。


「これが火の聖宝器 〈イグニッション〉。4英雄の1人〈底無しのブリュンヒルデ〉の剣だ。魔力のない者でも一瞬で爆炎を起こせる。真の使い手であるブリュンヒルデはこれで敵軍を焼き尽くしたゾォ」

ウルカヌスが説明する。


細めの片手剣だ。

持ち手には何やら引き金がある。


「……これが勇者ハルマの鍛治技術」

触らなくても分かる。洗練された良い武器だ。


「オマエに与える試練は《この聖宝器イグニッションを再現すること》だ。素材は魔鉱石ミスリル。俺様が与えた火の魔力を存分に詰め込んで作ってみろ!!!」

ウルカヌスがおれとミスリルの肩を強く叩いた。


「なるほどな!!!」


「えっと、わっ、私が火の聖宝器になるって……こと?」

と、ミスリル。


「そうだ! そして鍛冶技術について俺様から教えることは特にない! 自分で見て学べ。気づけ。穴が開くほど観察しろ! 構造を理解し、模倣しろ!」

ウルカヌスが高らかと言う。


「おっしゃぁっ!」

気合い入ってきたぜ。


ウルカヌスは次にハルジオンの元へ行った。

「ハルジオン、オマエは俺様が直々に稽古をつける。火の扱い方、体の芯まで教えようゾォ!!!」


「ああ!」

と、ハルジオンは拳を握った。



---



それから4日が経った――


おれは今、《サウナ》 というものに入っている。


なんだこの状況……。


衣類は腰に巻いた布のみ。


おれの右となりにはウルカヌス。

むさ苦しい。

目の前には大量の汗をかくハルジオン。

こいつも上裸に腰布。やたら肌が白いなこいつ……。


左となりにはミスリル。

胸上まで布を巻いている。

エッチ!!!


そしてハルジオンのとなりには……。


「なんで姫様もいるんだよ!!」

そう思わず叫ぶ。


「お風呂って聞いて、思わず来ちゃった☆」

半裸の姫様が小さく舌を出した。

☆本作に登場する武器と種族のかんたん解説!☆


☆番外編!☆


■イグニッション

点火や点火装置などを意味する言葉。


またみてね!

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