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コメディ

巫女とマコと三郎

作者: くれいたけ

眞心(まこ)、父さんと母さんちょっとインドに出掛けてくるから、留守番頼んだぞ」


「はいよー」


 よっしゃ。これで私は自由だ!


「くくく、どーれ。暇潰しに巫女さんごっこでもやるかー」


 自宅のすぐそばにある神社に向かい、巫女装束に着替える。たまに気が向いたときだけ家の神社業を手伝うのが、ある意味暇潰しとなっている。

 因みに、スキル的な物は無い。あ、そろばん二級ならある。英検も二級、ついでに将棋も二級だ。


「すみません……」


 ホウキで如何にも巫女臭を放っていると、クラスメイトの三郎がやってきた。


「お願いがありまして……」


「こちらへ」


 中へと通す。

 巫女メイクもしてるし、たまにしか居ないし、三郎は私だということに全く気が付いていない。


「巫女と言えば口寄せ的な降霊術も、さもありなんなのではないかと思いまして訪ねた次第であります」


「え……え?」


「まさか……出来ないんですか? 巫女なのに?」


 いきなり来て何という物言いだろうか。無礼だぞ。

 しかし、神社の巫女として、これ以上の屈辱はない。やってやろうじゃないの!

 まぁ、そんなすぐに出来る訳ないけどね。


「今回だけですよ? それと、失敗しても文句言わないで下さいね。もともと領分ではないのですから」


「はい。お願いします」


 深く息を吸い込み、そっと手を合わせる。

 気合いを入れて、気合いで気合いを気合いする。

 兎にも角にも念じた。てかそれしか出来そうにない。そろばん二級も今は役に立ちそうにないし、将棋二級の頭脳をもってしても先が読めない。英検二級の英語力なら……


『オン マハリクマハリタ アビッグブラッグバグ ビットアビッグブラックベア ヤンバルソワカ』


「どなたをお呼び致しましょうか?」


「クラスメイトの眞心を!」



 は?


 へ?


 ほ?



 よりによって私を呼ぶんかいな!

 なら私だってバレてた方が良かったなぁ。

 てか、どうしよう。やった後にバレたら、それはそれであれだよね、マズいよね。


「どうしても彼女に伝えたい事があるんです!」


「ならば本人に直接言えばよろしいのでは?」


 すると三郎は恥ずかしそうに俯いてモジモジとしてしまった。なんやねんキモ。


「そ、その……直接言うのは……まだ……」


 何やら様子がおかしい。

 ……あれか?

 もしかしてアレなのか?


 しかし、その顔があまりにも普段の間抜けヅラとはかけ離れているので、何だか可哀想に思えてきた。


「分かりました。一度だけですよ」


「ありがとうございます!」


 私はとんでもない嘘付き巫女だ。でも、それでも私は巫女巫女マーコなのだ。

 お母さんごめんなさい。良い嘘なので許して欲しいのです。


「……眞心です」


「おお!」


 三郎が嬉しそうに顔を上げた。


「誕生日を言ってくれ!」


 コイツ、目を丸くして驚いたクセに信じてないな?

 仕方ない。これっきりの嘘なんだから、とことんやってやろうじゃないの。


「九月の十五日……」


「おおっ! 本物だ!」


 やっぱし信じてなかった。このやろう……

 三郎が、腰をあげて驚いたものの、足が痺れてその場に倒れた。


「あ゛っ! あしがっ……!」


「大丈夫?」


 うおっと、思わず素の声で尋ねてしまった。

 しかし、それで更に三郎は私を眞心だと信じ込んだ。


「その声はまさしく眞心! 頼む、そのままでいいから聞いてくれ!」


 三郎が転がりながら、そう言った。

 そこまでして伝えたい事ってなんだろう……やっぱりアレかな?



「お前のことが好きだ!」



 うん、アレだったよ。


「面と向かって言えないから、こんな形ですまない! しかし、いつか必ず直接伝えるから、今はココで練習させてくれ!」


 あー、うん。

 そういう事にしておこう。

 ちょっと恥ずかしくなってきたぞ、これ。


「ずっとお前のことが好きだった! 普段悪ふざけで絡んだりしてるけど、どうやって接していいのか分からなくて俺、その、あれだ! あれなんだよ!」


 どれなんだよ。


「どうしたらいいんだよ俺!」


 聞くなし。いや、聞いていいのか今は。


「普通でいい……普通に『おはよう』とか『今日も良い天気だね』とか『昨日もジャイアンツが勝ったね』とか、普通の会話でいい」


 自分で言っといてなんだけど、タクシーの運転手の鉄板会話じゃん。私はビジネスマンか! でも世の中にはジャイアンツが負けると機嫌が悪くなるギタリストもいるから気をつけろよ!


「……分かった。そうする。ありがとう」


 急にしおらしくなる三郎。さては足の痺れが治まってきたか?


「じゃ」


 そう言って、姿勢を解いた。


「いかがでした?」


「……本物でした」


 そりゃあそうだろうね。

 でもまぁ、罪悪感が強いなこれは……


「これで明日から眞心と普通に接する事が出来そうです。ありがとうございました」


 三郎は無理矢理立ち上がると、よろよろと出て行った。その後ろ姿はどこか憑きものが落ちたかのように、すっきりとしていた。


「あ、階段から落ちた」


 慌てて石段の下を覗くと、死にかけの体で起き上がる三郎が居た。とりあえずは無事のようだ。




「お、おはよう」


 翌日、三郎が恥ずかしそうに私に挨拶をしてきた。頭に包帯を巻いているのは昨日のアレか?

 おもわずニヤけてしまいそうになるのをこらえ、耐え凌ぐ。くっ、これは中々に苦行だな……


「おはよう」


 挨拶を返すと、三郎は「良い天気だな」と続けた。


「そうだね」


 私は笑顔でこたえた。


「昨日のジャイアンツ、勝ったな」


「そうね」


 普通に返事をした。昨日はジャイアンツ戦無かったはずだけど……


「じゃ」


 それから毎日、三郎は挨拶をくれるようになった。ついでに天気とジャイアンツの話も。そう、毎日だ。ジャイアンツが負けた翌日ですら「昨日のジャイアンツ、勝ったな」ときたもんだ。私があのギタリストならぶちキレてライブ投げ出すぞ?




「他にどうしたらいい!」


 だから本人に聞くなって。いや、聞いていいのかこの場合……


「普段、友達と話すように、自然な感じでいい」


「なるほど!」


 一度きりと言いつつも、私は二度目の口寄せをしてしまった。押し切られた形だ。

 あまりにも顔が近かったから、ねぇ? バカヅラのくせに……


「そ、それと今日も聞いてほしい事がある」


 そう言うと、三郎は息を整え始めた。

 あれか? 今日もあれするのか?



「眞心のことが好きでした! ずっと好きでした! メチャクチャ好きでしたぁぁぁぁ!」



 あ、うん。やっぱりだね。

 でもね『でした』連発されると、過去の女みたいでちょっと切ないね。


「ハァ、ハァ……!」


 叫びすぎて息切れしてますよ彼。そしてやっぱり足痺れで倒れながら告白してます。


「大丈夫?」


「俺の想い、これなら眞心に伝わるか……?」


 アゴに手を当て、暫し悩む。


「う~ん……60点かな」


「そんなっ……!」


 痺れた足をいたわりながら、三郎がそっと姿勢を正す。落ち込んだ姿でこちらを見ている。


「後25点ほど欲しいです」


 頭を下げる三郎に、私はそっと呟いた。


「どこが好き?」


「えっ……?」


「だから……私のどこが好きかってきいてんの!」


 ハトが豆を植え付けられたあげく根を張られ命を吸い取られつつあるかのような目で、私を見た。

 そんなに意外だったかな、今の質問。


「…………眞心は俺のどこが好き?」


「いや別にどこも」


 三郎の目から光が消えた。


「うわああああぁぁぁぁーーーー!」


 勢い良く飛び出した三郎。

 境内を駆け抜け、吸い込まれるように石段を転げ落ちていった。


 さすがに今の勢いはヤバくない? 慌てて近寄ってみると……


「おう眞心。今日の天気は若い男か?」


「……おかえり」


 三郎のやつ、父さんにナイスキャッチされてやがった。ついてたね。


「あら眞心、あなたその格好……」


 げっ、やべっ!


「えっ!? まこ!? あの巫女さんもまこ!?」


 うん。三郎はバカだなぁ。


「そうか。ついにお前もうちを継ぐ決心をしたんだな。うんうん」


 父さんは勘違いしてるし……


「じ、神社の方っすか!? あの巫女さんすごいですね! 口寄せ的な降霊術的な! あれはあれですか!? この神社の秘伝のあれ的なあれですか!? 一子相伝的な!」


 あれあれうるせぇよ!


「ほう……眞心もついにあの秘奥義を使えるようになったか。ほんの二週間見ない間に立派になって……父さんは嬉しいぞ!」


 何それ……


「秘奥義! すげぇーー! やっぱ巫女さん、いやマコさんすげぇや!」


 三郎……どこまでバカなの……


「とりあえず眞心、そのメイクは落としなさい。この子の勘違いが止まらないわよ? 鋭っ!」


 母さん……なんでそこまで正確に状況を読み切ってん、うぷっ……どこからこんな水が……


「あっ! その顔!」


 ほっ……バカな三郎だけど、これでやっと気付いたよね。そうだよ。あんたが今まであんなことこんなこといっぱい話してたのは本物の私だよ。私の方も恥ずかしいなこれ……


「眞心そっくり!」



 は?


 へ?


 ほ?



「すげぇよ巫女さん! いや、まこさん! 一子相伝的な秘奥義的な口寄せ的な降霊術って顔までそっくりになるんですね! おまけに名前まで同じだなんて!」


 三郎……お前ってやつは……

 これには母さんも絶句している。あ、父さんを引っ張って家の中に入っちゃったよ。


「そうと分かったらこれからも練習に付き合ってくださいね! 俺いつか絶対眞心に好きって言いますから!」


「この……バカーー!」


「お、おお! それ! それそれ! めっちゃ眞心っぽい! やっぱ巫女さん、いやまこさんってプロですね! みこまこさん尊敬します!」




 結局、三郎が私に告白してきたのは二年後、卒業式の前日だった……


 そして今でも、あの時の巫女が私だと気付いていない。


 でもさすがの三郎も今日は気付くんじゃないかな……


 だって、うちの両親に……そ、その……挨拶をしに来る日だから……

しいたけさんから『しいたけガチャ』により書きかけの原案をいただき、続きを書いたものです!

楽しいひと時でした!


しいたけ氏

https://mypage.syosetu.com/1463156/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三郎大丈夫か! 頭ぶつけておかしくなったんじゃないかと思いました。 好きな子の家業ぐらい把握しなさい!
2021/09/12 13:49 退会済み
管理
[良い点] おもしろかったです(((o(*゜▽゜*)o))) [一言] 最後の一行がしいたけさんらしいです! 途中はないはずのまさきさん成分も感じました。 気のせいなんですけどねw
[良い点] 俺のどこが好き? いや別にどこも 会話のテンポがとても軽快で楽しいコメディでした。 今日もジャイアンツ勝ちましたね。
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