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飛行機好きなご令嬢は9年越しの恋に気づかない

作者: あるもじろ

鳴田るな先生主催の「純愛短編企画」参加作品です。

長い間想いを寄せる伯爵と、伯爵の力になりたい男爵令嬢のジレジレラブストーリー、お楽しみください。

「待って〜!」

 

 空を飛ぶ鳥を追いかけて、ベルは上を向いたまま走っていた。

 幼いベルをからかうように、鳥は崖の向こうへと飛び去っていく。

 

 ぽすっと何かにぶつかったかと思ったら、足元には長い足。

 ベルは青年の膝の上で、崖に落ちないように抱えられていた。

 目の前はどこまでも続く谷底があり、子どものベルでもここから落ちたらまず助からないと分かる。


「ここで遊んだら危ないよ」

 

 青年は静かな声でベルを嗜めた。

 でもいつもメアリ夫人に金切り声で怒られているベルは、まったく堪えない。

 メアリ夫人というのはベルにマナーを教えてくれるこの屋敷の女主人だ。

 

「鳥みたいに翼が生えたらいいのに。そうすればどこまでだって逃げていけるわ」

 

「逃げたいものがあるのかい?」

 

「んー、こほん。『いいえ、わたくしは貴族の娘ですもの。えーっと……いいお家? に生まれて幸せな生活をさせていただいていますわ』」


 メアリ夫人の真似をしたベルを見て、青年は息を漏らして笑った。


「ぷっ、そう言えって教わったのかい?」

 

「ええ」

 

「ははは、君が逃げたいのはそれだな?」

 

「だってえ、淑女の作法って本当に覚えるのが大変なのよ?」


 図星を指されたベルは、その小さな頬袋をぷくっと膨らませる。

 それをくすりと笑い飛ばした青年は、ベルを優しく撫で諭すように言った。

 

「でもきっとそのマナーは将来君の役に立つよ」

 

 ベルにはなぜかそう言った青年が辛そうに見えた。

 荒涼とした谷から吹く風が、青年の髪を揺らす。

 

「あのね、ベルの知ってる自転車屋さんがね。お空をとぶんですって」

 

「自転車? 空?」

 

 意味が分からない青年は、青い空を指さして首を傾げた。

 それにベルはこくんと頷く。

 

「うん。でもね、何度も何度も失敗するんですって。だからベルは、どうしてやめないの? って聞いたの」

 

 いつの間にか前のめりで聞いていた青年が、うんうんと頷き続きを求める。

 

「成功する手がかりを見つけたのに、どうしてやめるんだ? ですって。面白いわよね」

 

 青年を元気付けようと話したはずなのに、ベルは楽しくなってふふふっと笑ってしまった。

 ひまわりのようなベルの笑顔を見た青年は、一瞬驚いたような顔をした。

 そして徐々に口角を上げた。

 

「それは面白いね。じゃあベル、僕もその自転車屋さんのように諦めずに頑張るからさ。君もマナーを覚えて立派な淑女になるというのはどうだい?」

 

 ベルはやっと青年の笑顔が見れて、嬉しくなった。

 この笑顔を絶やさないためなら、怖いメアリ夫人の話を聞くのも悪くないとさえ思えた。

 

「いいわ! 約束よ! わたし、りっぱな淑女になってみせるんだから」

 

 それからメアリ夫人のマナー講義を嫌がらずに聞くようになったベルは、たまの休みに父サンダース男爵にあの自転車屋に連れてきてもらっていた。

 

「おじちゃま、おじちゃま、この箱であそんでもいーい?」

 

「ああ、いいよ。嬢ちゃん。この自転車の点検が終わるまでな」

 

 お髭がはえたオリバーは、自転車をいじりながらベルにそう微笑みかけた。

 父親はカウンターで紅茶を片手に、自転車屋の兄ウィルと談笑している。

 ベルの父は、自転車にハマっていた。

 自転車の点検にベルを連れ出しては、この自転車屋で紅茶を飲むのだ。

 そしてベルもこの自転車屋で遊ぶのが大好きだった。

 

「ねぇ、オリバーおじちゃま。おじちゃまはほんとうにお空をとぶの?」

「ああ、本当さ。今に見てな。きっとおじちゃんたちが飛行機を完成させて空を飛んでやるから」

 

 オリバーは力こぶを作って格好つけた。

 ベルはおかしくなってクスッと笑ったけれど、飛行機がどんなものかは分からない。

 

 けれど空をとぶものは知っている。

 羽を広げて大空をとぶ鳥。

 

 その辺に落ちていたひもを拾って、指で箱に固定した。

 細長い箱が鳥の羽。

 ひもが鳥のしっぽだ。

 

「びゅーん、びゅーん」

 

 けれどもベルの小さな指ではひもはくっつかず、ポロリと落ちた。

 負けじと落ちたひもを拾って箱にくっつける。

 ひもが落ちないように指に力を入れると、箱がぐにゃりとへこんだ。

 つぶしてしまわないように力を緩めると、箱は元の形に戻る。

 そしてまた落ちるひも……。

 ひもとにらめっこしながら、ベルが指をぐにぐに動かしていると


「お、お嬢ちゃん。それをよく見せてくれないか?」


 オリバーが震えた声で、箱に手を伸ばしてきた。

  

 その一年後、通っていた自転車屋が世界初の有人動力飛行に成功したことが新聞に取り上げられた。

 

「お父さま! おじちゃまたち、ほんとうにお空をとんだわ‼︎」

 

「そうだね。嬉しいね、ベル」

 

「お父さま。おじちゃまたちにおめでとうを言いに行きましょうよ」

 

 しかし父は困った顔をして、首を縦には振らなかった。

 

「自転車屋さんたちはね、飛行機で遠い国に行ってしまったんだよ」

 

「えーっ! いやよ! ベルはおじちゃまたちにヒコーキに乗せてもらうんだもん!」

 

 ベルのおねだりにサンダース男爵は苦笑いした。

 どうにかベルを納得させようと、理由を並べてみる。


「ベルは立派な淑女になるのだから、飛行機には乗れないよ。それに最近は自転車もあんまり乗ってないからね。自転車屋にも行かないよ」


 小さなベルの瞳からじわりと雫がにじんで、ついには大粒の涙がぽろぽろこぼれ落ちる。

 やがてうわーん、と大きな声で泣き出してしまった。

 

 * * * * *

 

 九年後、ベルは立派な淑女(?)となって、メアリ夫人主催のパーティーに来ていた。

 パーティーでは決まって幼馴染のリアムが、からかいにやってくる。

 

「ベル、お前また変な本取り寄せたんだって?」

 

「失礼ね。飛行機の原理を解説した本よ。変な本じゃないわ」

 

 ベルの反論にリアムは、ぷすっと吹き出した。

 

「男じゃあるまいし、飛行機って。そんなんじゃ誰も嫁にもらってくれないぞ」

 

「嫁にもらってくれなくても結構よ。わたしは航空学者になるつもりだもの」

 

「な、何言ってんだ! そんなのダメに決まってるだろう⁉︎」

 

 リアムの大きな声はパーティー会場中に響き渡った。

 

 会場は一瞬にして静まり返り、楽しそうに歓談していた貴族たちも話をやめて、二人に視線を向ける。

 無数の視線が突き刺さり、ベルの血の気はサーッと引いていった。

 ベルは慌てて周りに向き直り、視線を向ける人たちにお辞儀した。


「み、皆様、ご歓談中に失礼いたしました」

 

 引き攣った顔でなんとか笑顔を作り、その場をおさめる。

 しかしリアムはまだベルに何か言いたそうな顔をしている。

 これ以上騒ぎたてたくないベルは、それでは失礼します、と逃げるようにその場を後にした。

 

(たくさんの貴族が集うパーティー会場で、あんな騒がしくしまうなんて。立派な淑女にはまだ程遠いわね……)

 

 ベルの足は自然とあの崖に向かっていた。

 ここで誰かと淑女になる約束をしてからは、一度も訪れていない。

 

(誰との約束だったかしら? うーんと、お父様?)

 

 崖まで来ると、目の前には見渡す限りの青空とどこまでも続く街並みが広がっていた。

 

(ここ好きだったなあ……)

 

 昔見た時より大きな建物が増え、屋根の形も色も変わっている。

 ベルがもっと景色を見ようと、崖を覗き込むと――

 

「ベルッ‼︎‼︎」

 

 いきなり後ろから名前を呼ばれて振り返ると、強い力で腕を掴まれた!

 

(誰⁉︎⁉︎)

 

 腕を掴んできたのは見覚えのない男性。

 咄嗟に逃げようと身をよじると、ヒールの先で石ころを踏んでよろけてしまう。

 スローモーションで傾いていく視界。

 目の前はどこまでも続く崖。

 ここから落ちればただでは済まない。


 ヒヤリとしたものが背筋を滑ると同時に、力強い手で引き寄せられた。

 勢いよく男性の胸に顔を埋めると、ギュッと抱きしめられる。

 オーデコロンの香りが、ベルを包み込むように優しく香った。

 

(ちょっ?!!?!?)


 抱きしめられたことなど、父親以外の男性にはない。

 ベルは頬の熱が一気に上がり、目をパチクリさせた。

 しかも相手は背の高い美丈夫だ。

 ベルの心臓は破裂寸前になる。

  

(だ、誰なの⁉︎ この人! でも崖から落ちそうなところを助けてもらったのよね……?)

 

 肌に触れた生地は上質で心地よく、こだわりが見てとれる。

 身なりを見ても、とても不審な人には見えない。

 それどころか上位貴族の方かもしれない。


 男性はベルを崖から引き離すと、すんなり手を離してくれた。


 今も耳鳴りのように心臓の音が鳴り響いているが、意外と冷静になれてると自分を励まして相手を観察してみる。

 

 黒のモーニングコートに、グレーのベスト。

 昼のパーティーに合わせて、艶を抑えたデザインだ。

 オールバックにした髪は、前髪だけ少し崩して大人の魅力までただよわせている。

 少なくとも見た目はきちんと礼節を重んじる方に見える。

 しかし上位貴族でベルを愛称呼びするような相手など、余計に思いつかなかった。

 

「あの……助けていただいてありがとうございます」

 

「いや、こちらこそいきなり呼び止めてすまなかった。飛び降りるのではないかと思って」

  

「ここから飛び降りては、翼でも生えていないと助かりませんわ」

 

 苦笑いで答えたベルは、冗談を言える程度には冷静になれていた。

 しかしどんなに冷静になっても、この人のことは思い出せない。


(わたしと会ったことがあるのかしら……?)

 

 さっぱり思い出せないベルは、メアリ夫人の教えを思い出す。

 

『どうしても相手の顔が思い出せないときは、失礼ですが……と前置きをして聞いてしまいなさい。かくのは一時の恥。嘘をついて知っているフリをしてしまえば、嘘がバレたときの恥の方が何倍も大きいですわ』

 

 メアリ夫人の教えに従い、ベルは素直に聞いてみることにした。

 

「あの、失礼ですが……どこかでお会いしたことがありましたか?」

 

「覚えてない、のか? …………無理もない」

 

 ショックを受けている様子の男性に、申し訳なく思いながらもどうしても思い出せない。

 そうこう考えているうちに、男性の方が合点が入った様子で、姿勢を正した。


「失礼した。私はダグラス・チューダー。改めてどうぞ宜しく、レディ」


 男性は丁寧な仕草で名乗り、手を差し出した。

 ベルは無意識にその手を取り、握手しながらハッと気づく。

 その名前には聞き覚えがある。

 今日のパーティーの主役ではないか!

 確か25歳の若さで手がける事業を成功に導き、国に貢献した功績で伯爵位を賜った方だ。

 覚えていないでは済まされない。


「ご挨拶が遅れました。わたし、イザベル・サンダースと申します。ジョン・サンダース男爵の娘です。この度は陞爵(しょうしゃく)おめでとうございます。……ところで今日のパーティーの主役がなぜこんなところに?」


「そりゃ、逃げるように会場から出ていくレディを放っておくことなんてできないだろう?」


 どうやらベルを心配してきてくれたらしい。

 パーティーの主役が、たかだか男爵令嬢を心配してパーティーから抜けるなど、あってはならないことだ。

 ベルは慌ててパーティーに戻るよう促そうとするが――

 

「ご心配おかけして申し訳ありません。わたしは大丈夫ですので……」

 

「ここでまたさっきのようになっては危ない。メアリ夫人に会場の外れのガゼボにお茶を用意してもらっている。そこで少し話をしないか」


 パーティーに戻る気は最初(はな)からないらしい。

 しかもすでに用意してもらっているものを、断るわけにもいかず、ベルは一緒に行くことにした。


 出された伯爵の腕にそっと手を添えてついていくと、八角形のお洒落な屋根が見えた。

 屋根は段差の上にあり、そこには白いテーブルと椅子がある。

 段差を登ると、薔薇のフェンスの向こうに、崖の上から見えたのとほぼ同じ景色が広がって見えた。


「こんな場所があったなんて知りませんでした」

 

 ベルはあまりの感激に胸を震わせた。

 いつまでだってここで眺めていられそうだ。


「ここは夫人の趣味だそうでね。高台に屋敷を建てたのも、ここを作るためだそうだよ」


 そう言って伯爵は椅子を引き、ベルを座らせてくれた。

 しかしパーティーの主役を長々とこんなところに引き留めるわけにはいかない。

 

 会場の方から漂ってきたアールグレイの香りに気づくと、ちょうどメイドが紅茶を運んできたところだった。

 琥珀色の紅茶を一口飲むと暖かさがじんわり染み渡り、気持ちを落ち着けることができた。


「落ち着いたところで、何があったのか聞いてもいいかい?」


 パーティーで何があったか話すということは、ベルの失態を教えるということだ。

 ベルはまだ話してもいないのに、情けなさで居た堪れなくなってきた。

 しかし話さなければ、目の前の男性はパーティーの主役でありながら、パーティーには戻らなさそうだ。

 ベルは恥ずかしさでそれこそ身を投げたくなりながらも、観念して全てを話すことにした。


「お恥ずかしい話なのですが――」


「――つまり幼馴染のリアムという青年と、いつも喧嘩してしまうのが困る、と」

 

「はい、できれば仲良くしたいと思っているんですが……」

 

 恥ずかしさで俯いたベルは、ギュッと手を握りしめた。

 

(わたしってば、伯爵にこんな幼稚な話をしてどうするの⁉︎)

 

「淑女らしくないと言われたのは、何の本?」

 

「飛行機が飛ぶ原理を物理学者が考察した本です」

 

 ますます呆れられるだろうと、ベルは身構えた。

 少なくとも、『ああ、だからか』みたいな納得顔をされることは間違いないだろう。

 

 しかし伯爵は少しも呆れた様子はなく、懐かしそうに微笑んで、こう言った。

 

「君は変わらないね」

 

「え……」

 

 やはりどこかで会っているらしい。

 でもそれよりも飛行機の本(ベルの好きなもの)を否定されなかったことが、ベルの胸を打った。

 

「私は淑女らしくないとは思わないね。今の時代、女性も知識があって困ることはない」

 

「ではわたしの言い方がいけなかったのですね」

 

 自分の好きなものを認めてもらえて、ベルはますます嬉しくなった。

 すると伯爵は何やら考え込んだあと、僅かに口角を上げた。


「それなら私と取引をしないか?」


「取引……ですか?」


「私は今ご婦人も利用するある事業(・・・・)を手がけている。だがしばらく海外に住んでいて戻ってきたばかりなんだ。お陰でご婦人の知り合いが少ない。君のような若い女性の意見も聞けたらありがたいな」


 それがどう今の話に繋がるのか、ピンと来なくて首を傾げていると、伯爵は手をベルに向けた。


「そして君は幼馴染とうまく話せなくて困っている。つまり私を相手に練習すれば、君は幼馴染ともうまくいくかもしれないし、私も君の話が聞けて助かる。どうだい?」


 つまり二人でおしゃべりしようということだろうか。

 願ってもない話だ。

 伯爵のような生粋の貴族と話せれば、淑女としてどうあるべきかきっと見えてくる。

 それにここまで楽しそうにベルの話を聞いてくれる男性は初めてだった。


「でもチューダー伯爵にそこまでしていただくわけには……」


「私のことはダグラスと呼んでくれるかな。チューダー伯爵という呼び名は父と重なるからね」


「ダグラス様……」


 口にしてみると、意外としっくりきた。

 ベルが名前を呼ぶと、ダグラスは満足したように相好を崩す。


(わ、笑った顔は少年のようなんて反則だわ……!)


「ダグラス様にそこまでしていただくわけにはまいりません。お話を聞いていただけただけで充分ですわ」

 

「そうか、やはり私では不足か」


「え……」

 

 その聞き方はずるい。

 でも願わくば甘えてしまいたいという気持ちと、ベルは必死で格闘していた。


「いいえ、そんなことはありませんけれど……」


「じゃあ決まりだね」


 ベルが悩む間も無く、取引成立である。

 ダグラスはニッとイタズラっぽい笑みを浮かべ、立ち上がった。

 そしてエスコートすべく手を差し出す。

 ベルはこれ以上断るのも逆に失礼だと観念して、その手を取ることにした。


 会場に戻り、サンダース男爵を見つけたダグラスは、ベルを伴って早速声をかけた。


「サンダース男爵。お嬢様をお連れしました」


「チューダー伯爵。手を煩わせてしまってすまなかったね。こら、ベル……」


(やっぱりダグラス様がいらしたのは、お父様の仕業ね。危うく騙されるところだったわ。……そうでもなければ伯爵がわたしを追いかけて来るはずがないもの)


「あ、男爵。叱らないであげてください。今日のことは相手にも非があるようですし。それにこれからは私がお嬢様の会話の手解きをさせていただくので、ご安心ください」


「は……?」

 

 有無を言わさぬ笑顔でそう告げるダグラス。

 男爵はポカンとした顔でただ頷いた。



 後日、手紙を受け取ったサンダース男爵は、ノスタルジーに浸りながら感心していた。


「最近では電話で簡単に済ませる貴族も多いというのに、こんな丁寧な手紙を送ってくるとは。なんて古風な人なんだ」


 手紙はダグラスかららしい。

 ベルを写真展へ招待したいという手紙だった。


「写真展であれば、二人きりでもないし、うるさくしなければ会話もできる。それに古臭くなくて若い子でも楽しめるだろう。さすがはチューダー伯爵。洒落れてるね」


 そうダグラスのことを褒めながら、サンダース男爵はワインの箱を嬉しそうに撫でた。

 ベルが手紙の最後を読んでみると、こう書かれている。

 

『P.S. 先日お好きと伺った外国産のワインも一緒にお届けします。今度男爵邸に伺ったときにでも、一緒に呑みましょう』


 男爵はただ大好きなワインを貰って、機嫌がよくなっているだけだった。

 そんな父に呆れたベルだったが、ベル自身もダグラスとの写真展が楽しみで仕方なかった。


 約束の日の朝、準備を終え待っていると馬車の蹄の音ではなく、ブルンッブルンッという自動車特有の音が聞こえてきた。

 そしてキュキューッと甲高い音を立てて、屋敷の前で止まる。

 

(最近流行りの自動車をお持ちなのね。まだかなりのお値段がするとお父様は買い渋っていたけれど)

 

 玄関まで迎えに行くと、サンダース男爵がすでに出迎えていた。

 しかし入ってきたのはダグラスではなくリアムだった。

 車の後ろはタイヤの跡が抉れ、深い溝になっている。

 

 リアムの髪は毛先がいろんな方向を向いていて、ボサボサに乱れている。

 オープンカーでスピードを出しては、風で髪が乱れるのも無理はない。

 それを手で舐めつけながら、リアムはサンダース男爵に挨拶した。

 

「突然お邪魔してすみません。通りかかったものですから、ご挨拶だけしようかと」

 

 男爵に丁寧に挨拶したリアムは、ベルに向き直ってこう言った。

 

「ベル、こっ……この間はすまなかったな。別にお前の趣味を否定するつもりはなかったんだ」

 

 またすぐ顔だけ背けたリアムは、頬が赤くなっている。

 

「今度お前を自動車に乗せてやるから」

 

 ベルはそれをポカーンと見つめていると、照れたように笑い、それでは、と屋敷を後にした。


(自動車に……? なぜ?)

 

 リアムがドライブに誘ってくれた意図が分からない上、ベルは少し不安になってきた。

 あんな乱れた髪で外を出歩くなんてごめんだ。

 

 そこに再び自動車の音が近づいてきた。

 少しずつ音がゆっくりになり、静かに屋敷の前に停車する。

 招かれ屋敷に入ってきたのは今度こそダグラスだった。

 シルクハットにロングコートという出立ちで、もちろん髪は乱れていない。

 艶のあるベストからは、チェーンがコートの内側に伸びている。最近王族が流行らせたという懐中時計の身につけ方だ。

 

「サンダース男爵、お嬢様をお迎えに参りました」

 

 ダグラスを出迎えたサンダース男爵は、厳しい表情をしていた。

 てっきりにこやかに迎えると思っていたベルからすれば意外だ。

 

「婚約もしていない若い娘を連れて歩くんだ。分かっているだろうね」

 

 ワインに夢中だった男爵も数日経って冷静になったらしい。

 ちょっと大袈裟じゃないかしらと思ったベルだったが、父親とは娘の貞操には過保護になるものだ。

 するとダグラスはベストに繋いでいた印章付きの懐中時計を外し、男爵に渡した。

 

「必ずお嬢様を傷ひとつなく連れ帰ることをこの印章に誓います。もちろん身体だけでなく名誉も」

 

 名誉というのは、不埒な醜聞も立てないということだ。

 高級感のある金の懐中時計を開けると、王国御用達のメーカーのマークが彫られていた。

 ダグラスの言葉に安心した男爵は、笑顔で頷いた。


「その言葉を信じているよ」

 

「では行ってまいります」

  

 ダグラスの車に乗りしばらくすると、前方に写真展の看板が見えてきた。

 

 写真展に入ると、最初の展示室では植物の写真が飾られていた。

 壁一面は大きな一枚の写真。

 一面に広がる花畑が、太陽の光を浴びて燦々と輝いている。

 

「わあ! 素敵ですわ。まるでお花畑の中にいるよう」

 

 展示場の中なので敢えて声は控え目だけれど、ダグラスにはベルの感動は充分伝わったようだ。

 ダグラスも同じくらい楽しそうに、目尻を下げた。


 すると少し離れたダグラスは指で四角を作り、その間からこちらを覗いた。

 

「カシャッ! うーん、素晴らしい写真が撮れた」

 

 写真展で写真を撮るなんて冗談を言うものだから、ベルは楽しくなってくすくす笑ってしまった。


 蝶がとまった大きな花の写真は、おしべとめしべがよく見えるほど接近した写真だ。

 蝶はストローを伸ばし、花の蜜を吸っている。

 

「今度は蝶の細部までよく見えますね」

 

「虫は苦手ではないかい?」

 

「いいえ。蝶はとても綺麗で好すし。それに蜂とかトンボだって好きです。あ、でもあおむしとかはちょっと……」

 

「ははは、あおむしは空を飛ばないからね」

 

 図星を指されて、ベルは肩をすくめた。

 

「ふふ、よくお分かりで」


 次の部屋は外国の風景だった。

 木でできた粗末な家に住む人々。

 痩せ細った体は満足に食べ物がないことが伺える。

 

 その中に片手で子どもを連れ、片手で荷物を運ぶ母親の写真があった。

 ベルはその写真の前で足を止めた。

 写真のラベルには「子連れで働く母親」と書いてある。

 

「全く子連れで働くなど、けしからん母親だね。子どもが可哀想だとは思わんのかね」

 

(なんてことをッ……)

 

 振り向いてみると、そこにいたのはメンデル卿だ。

 かなりの歳の差でありながら、ベルに婚約の申し入れをしてきたので、男爵が丁重にお断りした相手である。

 彼は恰幅のいいお腹を重そうに揺らしながら、宝飾品で着飾った腕を組んで難しい顔をしている。

 そのメンデル卿とベルの間に入ったダグラスが、卿に話しかけた。

 

「これはメンデル卿。卿も写真に興味がおありで?」

 

「ああ、最新の技術を見ておこうかと思ってね」

 

「そうですか。さすがは古くから続く伯爵家のご当主ですね。情報感度が高くていらっしゃる」

 

「ふふん、まあな」

 

「この母親も貧しい中でやむなく子連れで働くしかできないのでしょう。そんな可哀想な親子を憂う優しい心もお持ちとは。私は感服いたしました」

 

「え? あ……ふむ、そうだな。可哀想な親子だ」

 

「やはりそうでしたか。実は私、海外の可哀想な人々を救う募金活動もやっておりまして、もしよかったら今度卿もご参加ください」

 

「ぐっ……ま、まぁ、考えておこう」

 

 募金と聞いてメンデル卿は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 まんまとやり込められたメンデル卿は話題を変えようとベルの方を振り向いた。

 ベルはギクリと肩を振るわせるも、なんとか顔には出さず挨拶(カーテシー)をした。

 

「ごきげんよう、メンデル卿。その節はお世話になりました」

 

「ほほぅ。誰かと思えば、サンダース男爵の娘を連れていたのか、チューダーくん。あ、最近伯爵位をたまわったんだったかな?」

 

「はい。おかげさまでメンデル伯爵と肩を並べる栄誉を授かりました」

 

「ふむ、いい心がけだ。だが女性の趣味はあまりいいとは言えんな」

 

 メンデル伯爵は値踏みするように、ダグラスからベルに視線を向けた。

 

「…………と、言いますと?」

 

「その娘はこの私の婚約の申し出を断ってきたのだ。そんな礼儀知らずを連れ歩くとは、チューダー家もまだまだだね」

 

 婚約という言葉にピクッと反応したダグラスは、その後一瞬にして顔を曇らせた。


 メンデル卿は古くからある伯爵家の家長である。

 その影響力は計り知れない。

 ここでダグラスが反論するメリットなど何もない。

 

 それにそもそもベルはダグラスの婚約者でもなんでもないのだ。

 ベルは自分が一緒にいることでダグラスが悪く言われるのが我慢ならなかった。

 

「わたしのことは何とおっしゃっても構いませんが、ダグラス様はあなたのおっしゃるような方ではありませんわ。だって彼とわたしは何も」


「ちょっと待って」

 

 まさかのベルの言葉を止めたのは、ダグラスだった。

 ダグラスは眉間に皺を寄せて、メンデル卿を見たことない生物を見るように訪ねた。

 

「恐れ入りますが、メンデル卿は確か御歳53歳でいらっしゃいますよね……? 奥様を数年前に亡くされて……」

 

「そうだが、何か? 男爵令嬢が伯爵家に嫁ぐのだ。歳が離れていようと、二人目であろうと当然であろう」

 

 爵位が上であればあるほど、相手から見ればこちらが格下。

 よほどの理由がなければ、釣り合わない。

 それはメンデル卿だけでなく、ダグラスにも言えることだった。

 

 そこでダグラスは、はぁー……とため息をついて大きな手で顔を覆った。

 

「よかった。メンデル卿はご自身がイザベル嬢にそぐわないことをご存知のようだ」


「なに⁉︎」

 

 手を下にずらし、目だけを覗かせたダグラスは、鷹のような鋭い目でメンデル卿を見据えた。

 

「メンデル卿が好色なのは海外まで聞こえてきていますからね。愛人を作っては、奥様に許しを乞うために贈り物をしていたとか。卿の申し出を断ったサンダース男爵、ご英断ですね。イザベル嬢はまだ若い大切なお嬢さんですから」

 

「ぐぬっ!」

 

 メンデル卿はたじろいだ。

 全て図星なんだろう。

 

 メンデル卿と婚約など慰み者以外の何者でもない。

 ダグラスは家を出る時の父との約束通り、ベルの名誉を守ったのだ。


 ベルは嬉しさと驚きで、手で口を覆ったまま泣きそうになっていた。

 同時にメンデル卿に逆らうことで、ダグラスに何か影響がないか不安になる。


 自身の醜聞を詳らかにされたメンデル卿は、茹だりそうなほど顔を真っ赤にしていた。

  

「フンッ! 気分が悪い! 帰るぞ」

 

 メンデル卿は側にいた従者を呼び寄せ、クルリと踵を返す。

 そしてすぐにその姿は見えなくなった。

 

「イザベル嬢、大丈夫だった?」

 

 振り返ったダグラスは、もう鋭い目はしていない。

 ただちょっと慌てた様子で、ベルを心配していた。

 

「は、はい」

  

「せっかくの楽しみが台無しだね。それにそろそろ歩き通しで疲れたろう? お茶にしようか。ここ、カフェが併設してあるんだ」

 

 カフェで紅茶を注文したダグラスは、紅茶を一息飲んでふぅと息をついた。

 ダグラスが落ち着いたことで、ベルも肩の力を抜いた。

 ヒールで歩き通しの足は意外と疲れていたようで、少し張っている。

 

「イザベル嬢、さっきはすまなかった」

 

「いえ、あれはダグラス様が悪いわけでは……」

 

 ベルのせいでメンデル卿に悪く言われたのはダグラスの方ではないのか。

 なぜ謝るのか分からないベルは、顔を上げるよう手を差し出し

 

「さっきのメンデル卿、あれは私をからかいにきたんだよ」

 

「えっ⁉︎ そうなのですか?」

 

「爵位を得たばかりの若造に上下関係を教えてやろうという心積もりじゃないかな。まさか今日来るとは……」

 

 そう言って首を掻いたダグラスは申し訳なさそうに苦笑いした。

 確かにメンデル卿は最初ダグラスを標的にしていた。

 しかも難なく返り討ちにしていたではないか。

 

 そうと分かったら、ベルはドッと力が抜けた。

 

「それでは……わたしの方がお邪魔をしてしまったのですね」

 

「いや、あれは……嬉しかった」

 

 大きな手で口元を隠したダグラスは少し頬が赤らんでいるようだ。

 こほん、と気を取り直した様子のダグラスは続けた。

 

「私のために言ってくれたんだろう。ありがとう。まさか庇ってくれるとは思わなかった」

 

 まだ口元に手を当てたままのダグラスは、指の間から上った口角が僅かに見えていた。

 

「君は優しい人だ。一緒にいて楽しいしね。幼馴染くんとうまくいかないのは、君のせいではないんじゃないかな」

 

「そうでしょうか」

 

 ベルも褒められて、思わず口角が上がった。

 リアムには貶されてばかりだが、こんなに優しいことを言ってくれる人もいるのだ。

 ダグラスの溢れるような笑顔が、ベルの自信を取り戻させた。

 

 ゆっくり休憩して、紅茶を飲み終わった頃。

 

「今日はこのまま帰る? それとももう少し見ていくかい?」

 

「もう少し見たいです」

 

 二人で話をするのが楽しくなってきたベルは、まだダグラスと一緒にいたかった。

 

「よかった。とっておきがあるんだ」

 

「とっておき……?」

 

 ダグラスについて展示室に入ると、そこには壁一面に空の写真が飾ってあった。

 木の上に留まる鳥の向こうに大きな空が映っている写真。

 おぼろ雲の向こうに太陽が薄ぼんやりと光っている写真。

 日の光を反射したひつじ雲と空だけの写真もある。

 

「ダグラス様! すごいです。ぜんぶ空の写真」

 

「ああ、そうだよ。これを見せたかったんだ」

 

 空が大好きなベルにとっては、とびっきりのとっておきだ。

 ダグラスの腕に手を添えてエスコートされる形だが、微妙な視線の動きだけでベルが見たいところを分かって進んでくれる。

 お陰でベルは思う存分、空の写真を堪能することができた。

 

「まるで空を飛んでいるみたいだわ。自転車屋のおじさまたちはどうしているかしら……」

 

 ボソリと呟いたベルの言葉を、ダグラスは聞き逃さなかった。

 

「イザベル嬢、私はもうひとつ君に謝らなければいけないことがあるんだ」


「??」

 

「君が自転車屋のライアン兄弟に会えなくなったのは私のせいなんだ」

 

「え……二人に何かあったのですか?」

 

「いや今も元気にしているよ。ただ自転車屋をやめてしまったから」

 

「そうなんですか。二人に会えなくなったのは少し寂しいですけど、今も元気にしているならわたしはそれで幸せです」

 

 気づけばもう展示場の出口が見えてきた。

 太陽の光が差し込み、ベルは目を細める。

 眩しい太陽は背が高いダグラスの体で遮られ、影ができた。

 

「二人に会いたいかい?」

 

「それはもちろん会いたいですけれど……」

 

(会えなくなったのでは……?)

 

「じゃあ会わせてあげるよ」

 

「えっ?」

 

「さあ、車に乗って」

 

 車に乗り込むと、ダグラスはサンダース男爵邸とは違う方向に車を走らせた。


 着いた場所は見覚えのある自転車屋。

 看板はおろしてあるが、シャッターは一枚だけ開いている。

 ダグラスが先に中に入ると、聞き覚えのある二人の名前を呼んだ。


「ウィル、オリバー、お前たちの小さな女神を連れてきたぞ」


(小さな女神⁉︎⁉︎)


 ダグラスに促されるままシャッターの中に入ると、そこにはツナギ姿のあの自転車屋兄弟が立っていた。


 兄のウィルは、昔より髪の毛が少なくなっていたけど、優しい眼差しが変わっていない。

 弟のオリバーの顎のラインに沿って生えていた髭が、首が隠れるくらいのモジャモジャになっていた。

 それでもあの頃のようにニッといたずらっぽく歯を見せて笑っている。


「ウィルおじさま! オリバーおじさま!」


 ベルは二人の元へ駆け出した。

 会いたかったわ、とウィルをギュッと抱きしめ微笑むと、驚いた顔をしていた。

 お髭とっても素敵よ、とオリバーも抱きしめると、頬を掻きながら照れ臭そうに笑っている。


「へへ、おじさまだってよ。あの頃は『おじちゃま、おじちゃま』って俺の後を着いてきたのになぁ」

 

「ああ、立派なレディになられましたな。イザベルお嬢様」


「今は何をしてらっしゃるの? まだ飛行機を作っているのかしら?」

 

「作っておりますぞ。そこにいるダグラス坊っちゃまのお陰で、本場で腕を磨いてきました」

 

「ウィル、もう坊っちゃまって歳じゃないよ」


 振り返るとダグラスは、腕を組んで苦笑いを浮かべていた。


「もしかしてダグラス様が手がけている事業って……」

 

「君の大好きな飛行機事業だよ。二人が初飛行を成功させてから私がスカウトして、本場の外国で腕を磨いてきたんだ」


「素敵だわ!」

 

「でも国家機密だから内緒だよ」


 ダグラスは唇に人差し指を当てた。


「嬢ちゃん、まだ飛行機が好きなんだなぁ」


 嬉しそうにくしゃっと笑ったオリバーは、机の引き出しから数枚の設計図を取り出した。


「こんなもんもあるが、見るかい?」


 ベルは一目でそれが飛行機の設計図だと分かった。


「これは初めて有人飛行に成功したときの飛行機ね!」

 

「分かるのか?」

 

「ええ! もちろん!」


 うずうずしてきたベルは、机の上に無造作に置いてあった粗末な紙と鉛筆を取り、兄弟に尋ねた。


「これ描いてもいいかしら?」


「ん、お絵かきか? いいぞ。好きなだけ描いても」


 ベルはこれまで何度も想像してきた飛行機の形を描いた。

 見たいと思っても叶わなかったその形を。

 何度も描いて紙で模型を作ったりした飛行機は、設計図を見るだけでスラスラ描けた。

 ものの数分で古びた紙の上に、斜め前から見た飛行機の姿が浮かび上がる。


「ねぇ、こんな感じかしら? 新聞では粗くてよく分からなかったの。詳しく教えて」


「驚いたな。嬢ちゃんにこんな才能があったなんて……」

 

「ああ、当時のライアン・フライヤー号そのままだ。尾翼が少し違うくらいだ」


「尾翼はこう? こうやって軌道を確保してるのね!」

 

 オリバーはガハハとがなり声を上げて笑った。

 

「そんなに好きなら、この設計図も持っていくといい」

 

「いいの!?」

 

「ああ、俺たちはここを引き払いに来たんだ。その設計図ももう捨てるところだったからな」

 

「またどこかに行ってしまうの?」


 またお別れかと、ベルはしゅんと項垂れた。


「ああ、ダグラス坊っちゃまの新しい領地にな」

 

「まあ! ダグラス様のところに?」

 

「ああ、そうだ。出来上がったら、嬢ちゃんも飛行機に乗せてやろう。坊っちゃまは婚約者を最初に乗せるっておっしゃっていたぞ」


 一瞬ズキリと胸が痛んだ。

 飛行機に乗れないことに傷付いたのではない。

 自分ではない誰かがダグラスの婚約者として、飛行機に乗る姿を想像して胸が深く抉られた。


「こら、オリバー。それは国家機密よりも重要な秘密だ」

 

 困ったようにちぐはぐに眉尻を下げたダグラスが嗜めると、オリバーは肩をすくめてみせた。


「オリバーおじさま。わたしはダグラス様の婚約者ではないの」

 

 信じられないとばかりに目を見開いた自転車屋兄弟は、ダグラスの方を振り返った。

 すると苦笑いだけを返す。

 

 伯爵ともあろう方ならきっと身分の高い素敵なレディが婚約者にいるだろう。

 どんな人がダグラスの隣に並ぶのか、とても気になる。

 しかしそれを聞くことはできなかった。

 

「弟が失礼しました。てっきりお二人は……」

 

「いいのよ。今日はありがとう。二人に会えて、本当に嬉しかったわ」

 

 その先を聞きたくなくて、ウィルの言葉を遮るようにお礼を言ってしまった。

 帽子を脱いで頭を下げた二人を後に、ダグラスと帰りの車に乗った。

 

(わたしはなんて浅はかなのかしら……。ダグラス様ほどのお方に婚約者がいないはずがないわ。それに婚約者でなくたって、先日のパーティーでも、今日も、こんなによくしてくださったじゃない)

 

 夕方の涼しい風が頬をなで、ベルの沈みそうな気持ちをさらっていく。

 さっきまでの暗い気持ちが、ダグラスのために何かしたいという気持ちに切り替わっていった。

 

「ダグラス様、わたしに飛行機開発のお手伝いをさせていただけませんか。雑用でもなんでも構いません」

 

「それはありがたいけど…………いいのかい? 年頃のお嬢さんが飛行機開発って……」

 

「わたしがしたいんです。きっとお父様を説得してみせますわ」

 

 屋敷に戻るとサンダース男爵が二人を出迎えた。

 ベルがダグラスにとてもよくしていただけたことを話すと、男爵は満足そうな笑顔で懐中時計をダグラスに返した。

 

 その勢いのまま、飛行機開発の手伝いをすることを話すと

 

「うーん……そうだね。一時期だけならいいんじゃないかな。でも縁談とかあったら、すぐに辞めてもらうよ。いいね?」

 

「はい! ありがとうございます、お父様」

 

 意外とアッサリ許可が降りた。

 ベルほどではないが、サンダース男爵も存外飛行機が好きなようだ。


 それから数日おきにダグラスが迎えに来て、ライアン兄弟の作業場に連れて行ってくれた。


 最初はお茶汲みや雑用をしていたベルだが、何回か作業場を訪れると、設計図を描く手伝いまでするようになった。


「おじさま、羽根のここを動くようにしたらどうかしら? ほら、鳥は羽根をまるで指のように動かすじゃない?」

 

「羽根をか? うーむ、だがしかし、できるかな……」

 

「いや悪くないかもしれないぞ。左右の揚力のバランスを変え、機体を傾けるんだ。方向転換がしやすくなるかもしれない」


 ベルとライアン兄弟が寄り集まって議論していると、発注書の束を持ったダグラスが後ろからヒョイと覗き込んだ。


「それなら制御盤があとふたつは必要になるね」

 

「ダグラス様。足りますか?」

 

「任せて」


 手伝うようになって分かったことだが、ダグラスは貴族でありながら、指示をするだけではなく開発にも関わっていた。

 どうやら車好きが高じて、エンジンの仕組みを外国で教わってきたらしい。

 機械部品にも詳しく、その知識が飛行機開発にも役立っているようだ。


 ベルは彼らの手伝いをするのが楽しくて仕方がなかった。

 ずっとこうして彼らの手伝いをしていたかったが、楽しい時間は長くは続かなかった――。


 * * * * *

 

「ベル、話がある」

 

 神妙な面持ちで父に呼ばれたベルは、嫌な予感がした。

 

「フォスター男爵家から婚約の申し入れがあった」

 

「フォスターって……まさかあのリアムですか⁉︎」

 

「そうだ。ちょうど歳も同じだし、随分昔から準備をしていたようで、リアムも男爵位を授かることが決まったらしい」

 

「男爵位を……」

  

 リアムは嫌いではない。

 会えば悪態をついてはくるが、言葉尻は優しいものが多い。

 リアムが気遣って言ってくれていることを、ベル自身も気付いていた。

 

 ただ――

 

「縁談が来たんだ。分かってるね? ベル」

 

「はい……」

 

 この縁談が決まれば、リアムが婚約者だ。

 他の男性と一緒にいることなど許されるはずがない。

 自ずと飛行機開発の手伝いはおしまいだと分かった。

 

「今日の訪問で最後にすると、ダグラス様にはお伝えします……」

 

 ベルはダグラスが迎えに来ても、なかなかその事を伝えることができなかった。

 ベルの様子はライアン兄弟の作業場に行っても同じだった。

 ダグラスにも、ライアン兄弟にも、何度も言おうとしたが次の言葉はなかなか出てこない。

 

「嬢ちゃん、この設計図をしまってくれ」

 

「はい」

 

 最初こそ兄弟の仕事には手を出さなかったベルも、何度も通ううちに設計図を触れるまで信頼してもらえた。

 それがベルにとってはやりがいでもあり、大好きな飛行機に関われる喜びだった。

 

 オリバーから手渡された設計図が、ベルの手をスルリと抜けこぼれ落ちる。

 

「ああ、すまん。落としちまった」

 

「いいえ。大事な設計図を落としてしまって、私こそごめんなさい」

 

 すぐに拾い上げたベルだったが、謝る声は上擦っていた。

 ベルの泣きそうな声に、オリバーは手を止めてベルを覗き込む。

 

「どうしたんだ、嬢ちゃん。何かあったのか?」

 

「おじさま…………わたし、もうここには来れないの」

 

 ガタッとオリバーの後ろで、ファイルを落とす音がした。

 

 ファイルを落としたのは、ダグラスだった。

 放心したようにその場に立ち尽くす足元だけが見えた。

 

「イザベル嬢、それってまさか…………」

 

「フォスター男爵家から婚約の申し入れがありました。ここに来るのは今日で最後なんです」

 

「嬢ちゃん……」


 オリバーが驚いて声を上げるが、ベルはオリバーの顔もダグラスの顔さえも見ることはできなかった。

 ただ一人ウィルだけは冷静にベルに近づき、優しく諭した。

 

「イザベルお嬢様。本来であれば男爵家のご令嬢がこんなむさ苦しいところにいる方が例外的なことなのです。お嬢様の将来を考えれば、その方が宜しいでしょう」

 

「ウィルおじさま……」

 

 ウィルの言葉は正論だった。

 お陰でベルの心にも深く突き刺さった。

 

(わたしの将来を考えてくださるお父様のためにも、わがままは終わりにしないと……)

 

「おじさまの言う通りね。今までありがとう。ウィルおじさま。オリバーおじさま。……そしてダグラス様」

 

「あ、ああ。そうだね。こちらこそありがとう」

 

 今度こそ笑顔でダグラスとも握手を交わした。

 

 それからのベルには、ダグラスに会う前の日常が戻っていた。

 飛行機に関する記事や本を集めては、憧れるだけの日常。

 だが以前と違って、ベルの心にはぽっかり穴が空いたようだった。

 

「ベル、分かっているね? 今日の夜会ではリアムも来るから、二人でよく話してごらん。飛行機の話はナシだよ」

 

「はい、お父様」

 

 夜会のために空色の華やかなドレスを着ているのに、ベルの気持ちは一向に晴れなかった。

 鏡の前でにっこり笑ってみたけれど、上手に笑えない。

 

(リアムのことは嫌いじゃない。それなのにこんな顔していたら、失礼よね)

 

 もう一度口角を上げて、にっこり笑顔を作る。

 

(うん、さっきよりはマシね)

 

 それから何度も笑顔の練習をしてから夜会に臨んだ。

 夜会ではリアムとダンスを踊った。

 昔からよく一緒にいたので、これが初めてじゃない。

 

「ベル、ちょっとあっちで話さないか?」


 あっちというのは二人きりで話せる場所。

 夜会も始まってから随分経つと、抜ける人たちもちらほら出てくる。

 きっとリアムは婚約のことを話すのだと、ベルは理解した。


「ええ、いいわ」

 

 鏡の前で練習したみたいに、口角を上げてにっこり笑顔。

 飛行機のことも今日は忘れなきゃ。

 ダグラス様のことも…………。

 

 メイドに頼んで用意してもらった個室に入っても、リアムは黙ったままだった。

 

「婚約の話は聞いたわよ」

 

 いつもならもうベルをからかいに来ているはず。

 リアムのらしくない様子に、どうしたの? くらいのつもりで聞いた。

 

「お前、もっとこう、なんかないのかよ……」

 

「なんかって言われても……」

 

「あ、えっと、そうじゃなくて……」

 

 歯切れが悪い言い方がやっぱりリアムらしくない。

 何か言いづらいことがあるのかしら?

 

「……?」

 

「この婚約を父様にお願いしたのは、俺なんだ」

 

 てっきりフォスター男爵とサンダース男爵同士の取り決めだと思っていたベルは、どうしてリアムがそんなことをするのか分からなかった。

 

「…………どういうこと?」

 

 決心するようにギュッと手を握りしめたリアムは、逸らした顔をベルに向けた。

 

「お前と結婚したくて、そうしたんだ。いい加減分かれ!」

 

 え……リアムが? まさか。

 いつもあれだけ私のことをからかっていたのに。

 

 ベルは困惑するしかできなかった。

 好意を伝えられても、ベルが想いを寄せているのはダグラスだ。

 かと言って家同士の婚約を断ることなど、ベルにはできない。

 

「あ……あの、わたし……」

 

 二の句が告げず、後ずさったベルを、リアムは追いかけた。

 その手がベルの肩を掴もうかというところで

 

「ごめんなさいッ‼︎」

 

 ベルは駆け出した!

 部屋を出て、足の赴くまま走った!

 

 もう夜だというのに外に飛び出し、月明かりの導く方向へ向かった。

 

 ランプもないのにたどり着いたのはあの崖。

 遮るものが何もない崖で、月光に照らされる背の高い男性の後ろ姿が見える。

 

「ダグラス様……?」

 

 振り向いたダグラスは、悲しげな瞳をベルに向けた。

 するとその表情が十年前見た光景と重なる。

 

 ベルを崖から落ちないように支えながら、優しく諭してくれた青年。

 あの時も同じように辛そうな顔をしていた。

 

 昔とは違って今のダグラスは立派な大人で、髪もオールバックにしているが、確かに同じ人物に見えた。

 

「わたしがこの崖で約束をした相手は……ダグラス様……?」

 

「やっと思い出してくれた?」

 

 ふふ、と笑いながら言った言葉もなぜか悲しげで、胸が痛くなる。

 あの時も辛そうな青年を元気付けたくて何か言った気がする。

 

「何か悲しいことでもあったのですか? わたしでよろしければ話を聞くだけでも……」

 

「君には格好悪いところばかり見られてしまうな」

 

「そんなことありません。ダグラス様はいつでも大人っぽくて、優しくて、とても素敵です」

 

「ふふ、ありがとう。でもいつだって取り繕うのに必死なんだ。十年前だって本当はここで死のうとしていた」

 

 衝撃の告白にベルはたじろいだ。

 今もこの崖から飛び降りるんじゃないかと不安になってダグラスの裾を掴む。

 

「今思えば笑っちゃうくらい下らないことなんだけどね。当時父に任された事業で失敗してね。自分なんて生きる価値はないと思っていた。そこに君が来た」

 

「わたし、ですか?」

 

「そうだよ。空しか見ずに崖に落ちそうになっていたのに、ひたすら前だけを見てた。そして私を励ましてくれたんだ」

 

 当時のことなんてあまり覚えてないけれど、何も考えていない子どものようでちょっぴり恥ずかしい。

 

「君に教えてもらった『自転車屋』をサンダース男爵に紹介してもらって、それから全てが上手くいくようになったんだ」

 

「父が……」

 

「だから君のおかげで私は前に進めた。ありがとう、感謝している」

 

「いえ、わたしは何も。すべてダグラス様の功績です」

 

 幼かったベルはただダグラスを励ましただけ。

 ライアン兄弟と出会ったのも、飛行機事業を成功させたのも、全てはライアン兄弟とダグラスの手腕と努力の成果だ。

 

「君は前に進めた? リアムと婚約が決まったんだろう?」

 

 ベルは苦笑いを返すことしかできなかった。


「逃げてきちゃいました……」

 

「なぜ? いい雰囲気だったろう?」

 

「み、見ていらしたんですか。違うんです。リアムにはわたしと結婚したいと言われたんですけど……」

 

「じゃあ、なぜ⁉︎ 両思いじゃないのか?」

 

「…………だってわたしが好きなのは、ダグラス様だから」

 

 思わず口から溢れてしまった言葉に、ベル自身が驚いた。

 言うつもりなんてなかった、困らせたくはないのに。

 そう思った次の瞬間――

 

 ダグラスの熱い視線が近づいてきて、ベルは包みこむように抱きしめられた。

 ダグラスの大きな背の向こうに、無数の星が瞬いて見える。


「じゃあ私が君をもらってもいいかい?」

 

 ドクン、ドクンッ……。

 心臓の音が耳鳴りのように聞こえる。

 

 今度はベルの方からその大きな背に手を伸ばした。

 

「そうだったらいいなと何度も思っていました」

 

 返事をしたベルの声は上擦っていた。

 ダグラスは抱きしめた手を緩めると、ダグラスの熱っぽい視線でベルのことを見つめた。

 ダグラスのダークブルーの瞳が近づき交差すると、頬に柔らかい唇が押し当てられた。


「あとは私に任せて」

 

 そう言ったダグラスは、ベルの手を引きサンダース男爵がいるサロンへ向かった。

 

 * * * * *

 

「サンダース男爵、大事なお話があります」

 

 ダグラスの真剣な表情と、繋いだ手。

 サンダース男爵は一瞬で理解して、別室を手配した。

 

 別室の扉が閉まると、ダグラスは左手を胸に当てて頭を下げた。


「男爵、フォスター男爵家から婚約の申し入れがあったことは聞いております。知っておきながら甚だ失礼とは思いますが、イザベル嬢に婚約の申し入れをさせていただきたい」


 本来婚約が決まっている相手に婚約を申し込むのはマナー違反だ。

 ましてや爵位が上の伯爵から申し込めば、威圧的に取られてもおかしくはない。

 

 それでも今言わなければ、婚約が決まってから覆すのは難しい。

 失礼と分かっていながら、頭を下げ婚約の申し入れをするしかない。

 そこには駆け引きなどなく、あるのはダグラスの熱意のみだった。

 それに対してサンダース男爵は――

 

「待っていたよ」


 と落ち着いた様子で微笑んだ。

 これにはダグラスも目を見開く。

 まさかすんなり受け入れてもらえるなど、誰が思っただろうか。

 苦言を呈しこそすれ、まさかこんなに早く同意を得られるとは思ってもみなかった。


「九年前にも娘を所望してくれただろう?」

 

「覚えておいででしたか……」

 

 九年前――ダグラスがこの国を出立する前日にもサンダース男爵と会っていた。

 

「サンダース男爵、どうか僕とお嬢様との婚約を許していただけないでしょうか」

 

 夜も深まり、サンダース男爵はワインに酔いつぶれ出来上がっていた。

 

「らぐらすくん、婚約? うちの娘はまだ七歳らよ?」

 

「はい。それでももう今日しかないんです。明日には僕は外国に」

 

「うん、いいよ」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「その代わり、私の娘に相応しい男になってから帰ってきてくれたまえ」

 

 * * * * *

 

 てっきりダグラスは酔っていたサンダース男爵は覚えていないと思っていた。


「酒に酔っていても、大事な娘への婚約の申し入れなんて忘れるわけがないじゃないか。約束通り娘に相応しい男になって帰ってきたしね。フォスター男爵からは確かにリアムとの婚約の申し入れがあったけど、まだ返事は待ってもらっている。私は君からもう一度申し入れがあれば、ベルは君と結婚させようと決めていたよ」


「……ありがとうございます!」


 ダグラスは男爵の手を取り、頭を下げた。

 その肩は僅かに震えている。

 

「お父様、ありがとうございます」

 

 ベルもダグラスの手に自らの手を添えた。

 

「ベルの気持ちは見ていれば分かるよ。君の父親だからね」

 

 父親の温かい眼差しに、ベルの瞳から一筋の雫が溢れた。

 

 * * * * *

 

 数日後――天気は快晴、風はそよ風。

 絶好の飛行日和だ。

 

「嬢ちゃん、待っていたぜ」

 

 ダグラスは婚約者として、のちに旅客機となる飛行機にベルを乗せる約束をしてくれた。

 飛行機の整備はもちろんライアン兄弟の仕事である。


「オリバーおじさま! ウィルおじさま!」

 

 ベルは二人一緒に抱きしめた。

 二人に会うのは、飛行機開発の手伝いを辞めて以来だ。

 ベルはまた会えたことが嬉しくて仕方がなかった。

 しかしウィルは困ったような顔をして……

 

「イザベルお嬢様。私は嬉しいのですが、こういったことは今後は控えられた方が宜しいかと。坊っちゃまが恨めしそうにこちらを見ておられます」

 

 振り返るとダグラスが恥ずかしそうに頬を描いていた。

 

「正直に言うと、最初から妬けてた」

 

「がははは‼︎」

 

 オリバーの笑い声が空にこだまする。

 ベルはダグラスに悪いと思いつつ、その嫉妬がちょっと嬉しい。

 

「私が愛してるのは、ダグラス様だけですよ」

 

 そう言ってベルはダグラスの頬に口付けを落とした。

 

 天気は快晴、絶好の飛行日和ですが、春の嵐にお気をつけて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 企画からお邪魔します。飛行機好きのベルちゃんに共感してしまう一作でした。お父さんの、娘への理解がとても良かった。純愛とは違いますが、父が娘を見る目の優しさが作品全体で印象的でした。 ダグラス…
[良い点] 主役コンビはもちろん、ツンデレ幼馴染からおじさん兄弟までみんな可愛かったです。 最後の嫉妬していた発言を鑑みると、彼女から再会時に忘れられていたのを悟った時とか同年代の少年と良い雰囲気っ…
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