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勝敗の行方


 ボクシングで勝負するというのか。それなら勝てると思ったサイクロプトロールに思わず笑ってしまう……。

 私には顔が無いからアッパーカットやクロスカウンターが効かないのだ。目の周りが青くなったり唇が腫れたり……鼻血も出ないのだ! さらには、ボクシンググローブで体を叩かれても……全身金属製鎧だから痛くないのだぞ! それすら分からないのか?


 二人がリングへ上がり今まさにゴングが鳴ろうとしたその時、ソーサラモナーが部屋へ入って来た。噂を聞きつけたのか、盗聴でもしていたのか……。

「やめないか! 四天王同士がフィットネスクラブ内で喧嘩するとは……嘆かわしい」

「「……」」

「他のモンスターが迷惑しているだろ」

 スライムやスケルトンに白い目で見られている。もっとこう、「やれーデュラハン! やっちまえー!」とか、「くたばれサイクロプトロール! 引っ込めソーサラモナー!」とか、声援や野次が飛び交っても良さそうなのに……。ひょっとしなくても邪魔者扱いだ。誰も四天王同士の戦いに興味を持っていない。

 血気盛んなモンスターは、もはや魔王城にはいないのか――。

「フッ、命拾いをしたな、デュラハンよ」

 リングを下りるサイクロプトロールに冷や汗が出る。

「え、ええー? マジでやらないの」


 期待させておいて裏切る感が半端ないぞ……。


 ……せっかく時間をかけてバンテージを拳にグルグルグーグル巻いてグローブを付けて紐を結んで貰ったのに。ガントレットの上からグローブを付けるのは至難の業だったのに~!

 ――栓抜きまで短パンに隠し持っていたというのに――。全身鎧の上から短パンを穿くのも至難の業だったのに~!

「じゃあなクスクス」

 ……やられた。私としたことが、一生の不覚!

「グヌヌヌヌ……おのれ、まて! ちょっと待って! リングの上に一人ぼっちにしないで」

 サイクロプトロールはグローブの紐を口で緩め、スポッと脱いで去っていった。


 首から上が無いので……グローブの紐を緩めるのに苦労するではないか~! 両手グローブでは短パンの紐もほどけない~! キイ―! 悔しいー! バルタソ星人もきっと同じような歯痒さを感じていたに違いない――! フォッフォッフォ……冷や汗が出る、古過ぎて。



 遅くなったが、昼食は魔食堂でコッペパンを食べた。

 パンならグローブを付けたままでも食べられる。食べながら勝ち組と負け組について頭の中で整理することにした。食堂で働くモンスター達に白い目で見られるのを気にもせず、パンを食べながらブツブツ独り言……ではなく、一人会議を行う。

 気が付くとコッペパンではなく、グローブを口に頬張っていた。冷や汗が出る。首から上は無いのだ。


 勝ち組の条件。

 ①トリュフ入りポテチを食べたことがある。

 ②大好物がステーキとビフテキ以外。

 ③「ちきしょー!」より「よっしゃー!」と叫ぶ回数の方が多い。

 ④鬼ごっこの鬼以外。一般人。

 ⑤住宅ローン。ホームはローン。

 ⑥肉食獣。肉食系。ステーキとビフテキ好きを含む。

 ⑦美貌と若さ。カッチカチ。キンキン。……筋肉が。

 ⑧遊ぶ楽しさを知っている。遊んでいる。

 ⑨ダンベル、プロテイン、筋トレ。


 負け組の条件。

 ①ポテチのBIGを魔ドラッグストアで購入。ダラダラ食べる。知らないうちに全部食べている。

 ②大好物がステーキとビフテキ。ステーキとビフテキの違いが分からない。

 ③気付くと「ちきしょー!」を連呼している。

 ④鬼ごっこの鬼。

 ⑤貯金貧乏。使いたくても使えない。

 ⑥草食動物。草食系男子。ジャガイモは野菜。ポテチはサラダ。

 ⑦フニャフニャ。モフモフとは異なるもの。

 ⑧遊ぶ楽しさを知らない。遊んでいない。

 ⑨筋肉痛と頭痛と下痢。お腹の急降下。


 ……冷や汗が出る。これでは私も負け組に当てはまってしまうではないか――!

 いや、私だけではない。魔王様も負け組から抜け出せない! 蟻地獄のように永遠に抜け出せない負け組地獄ではないか……。


 他にも勝ち負けを左右する条件は色々ある。

 WI-FI環境は勝ち組だ。冷や汗が出るがその通りだ。WI-FI使い放題は完全なる勝ち組だ。

 お腹一杯も勝ち組だ。どれだけ勝ち組であっても腹ペコのときだけは負け組感が拭いきれない。

 休日がたくさんあるのも勝ち組だが……断言できない。働きたいのに働けない場合、果たして勝ち組と呼べるだろうか……。

 やりたい仕事をしていれば給料が安くても勝ち組だ。逆に給料が高ければ嫌な仕事を続けていても……あれ、勝ち組なのか? パワハラを我慢してでも高い給料が貰えるのならば……勝ち組なのか?

 大人になってもサンタさんがこれば……コレは絶対に勝ち組だ! では逆に自分で自分にプレゼントを買うのって……負け組になる。欲しい時に欲しい物を買えていないところに負け組感が漂う。ピエーンと泣きたくなる。

 頭が痛くなってきたぞ。首から上が無いのに……。


 要するに、勝ち負けなど人それぞれなのだ。勝ち組負け組にこだわるべきではない。人生は勝負などではないし白黒では決められない……引き分けやグレーゾーンがある。この部分は勝ち。この部分は負け。この部分は引き分けと分別すればいいのだ。他人と比べるから勝ち負けを意識してしまうのだ――。


 ――だが、それでもなんとか魔王様を勝ち組にせねばならぬ。

 魔王様が負け組では、その下で働く我ら四天王や魔族全員の士気に支障をきたしてしまうのだ。それこそ私が魔王様に勝ち組と認識して頂きたい最大の理由……。


 勝ち組の魔王様率いる勝ち組の魔王軍でなくては、人間共に示しがつかないのだ――。


読んでいただきありがとうございます!


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