勝ち組は筋肉もカッチカチ?
テーブルで一人タピオカミルクティーを飲んでいると、四天王の一人、妖惑のサッキュバスがユラユラと近付いてきて隣に座った。……席は他にもたくさんあるのに。
サッキュバスは……朝から飲んどる。朝っぱらからカフェで生ビールを飲むなと言いたい! 飲んで絡んでくるなとも言いたい。淫らな服装は目のやり場に困る。
「……サッキュバスよ、朝から生ビールはお腹を壊すぞ」
外は寒い。魔王城内もそこそこ寒い。暖房の設定は低めなのだ。20℃だ。
「おはよう。デュラハンったら今日もキンキンね」
「……まだ朝だぞ」
色んな意味で。
「やーね。デュラハンの鎧が冷たく冷えてキンキンって言ったのよ。どこと勘違いしたの」
「触るな! いや、鎧を触るな!」
あえて部位は言わせるな! 私は全身金属製鎧のモンスターなのだ。キンキンもキンキンだ――!
「わたしは勝ち組よ。もっともっとこれから勝ち組になるわ」
喉を鳴らして生ビールを飲む。いったい何杯飲んでいたのか心配になる。
「どうやってだ。酒を飲んでいるだけでは勝ち組になどなれぬぞ」
ビールっ腹になるぞと忠告したい。黒のキャミソールからへそが出ているから一層腹も冷えるぞ。
「ウフフ。若い生気をタップリ吸い取って永遠の若さと更なる美貌を手に入れるのよ」
「リアルに怖いぞ、サッキュバスよ」
でも、魔族として一番まともなのかもしれない。魔族らしい。四天王らしい。
「今日は誰にベロチュウしようかしら~」
首から上が無いので私は安心だ。
「ソーサラモナーやサイクロプトロールにしてやればいい。あいつらなら泣いて喜ぶぞ」
若い生気とやらが吸い取れるかは微妙だがな。引きこもり魔導士と筋肉ダルマだから。
「いやよ。生理的に受け付けないの。わたしが欲しいのは、魔王様の無限の魔力」
……。
「問題発言だぞ」
魔王様は私のものだぞ、とは言わない。言えない。
「あれこそ最高の勝ち組よ。チートよチート」
……だよねー。
そんなチートのような無限の魔力をお持ちなのに、魔王様が勝ち組ではないなんて……。
「魔王様ももっと遊べばいいのよ。遊びを知らない者は勝ち組になんてなれないわ」
「遊びか……」
魔王様が遊びに没頭されても困るが、たしかに勝ち組の者こそ娯楽や楽しいことをよく知っている。
「あ、ひょっとして今、わたしの胸元見ていたでしょ。エッチい目で」
「見ておらん!」
慌てて視線を逸らす。エッチい目ってなんだ! 首から上が無いのに……プンプン。
「いやらしいなあ。デュラハンも、もっと遊ばないと負け組になっちゃうよ、キャハハハ」
「私は勝ち組だ」
「あ、すっごいカッチカチ!」
「さーわーるーなっ!」
私は全身金属製鎧なのだから、どこもかしこもカッチカチなのだ!
酔っ払ったサッキュバスから逃げるようにカフェを出た。ベタベタ触ってくるのが……苦手だ。鎧に口紅を付けられると拭くのに一苦労するのだ。
最後にもう一人の四天王、巨漢のサイクロプトロールにも話を聞くことにした。
汗臭い魔王城内のフィットネスクラブで丸椅子に座り重そうなダンベルを何度も上げ下げしている。3キロくらいはありそうだ。重そうだが白金の剣よりは遥かに軽そうだ……。
「毎日好きな時間に好きなだけ筋トレができるのだから、サイクロプトロールは勝ち組だな」
額には汗が流れている。ダンベルを上げ下げする手を止めることなくサイクロプトロールは答えた。
「そうでもない。筋肉を維持するのは容易ではないのだ。筋トレし過ぎると頭痛くなる」
頭が痛くなるって……ひょっとすると頭が悪くなっているのではないだろうか。
「やり過ぎなだけだろ」
せめて筋肉痛とかで気付けよ。
「プロテインも飲み過ぎると腹も痛くなるのだ」
「それは知らん」
チンして飲めと言いたいが言わない。
「自分の筋肉に勝っていない俺はまだまだなのだ」
「筋肉に勝つだと」
真剣な眼差しでダンベルを上げ下げしている手を止めない。
「ああ。自分の筋力を自由自在に操り、適度かつ効率の良い筋トレ方法を知ることこそが筋肉に勝つこと、つまり、勝ち組になる唯一の方法なのだ」
勝ち組になる方法を模索しているのか。
「であれば、サイクロプトロールは負け組なのだな」
ピタッとダンベルが止まった。
「負け組と言われると……腹立つぞデュラハン」
「ほほう。自分で言うのはよくても人に言われるのは腹が立つものなのか」
「当たり前だ! そういうデュラハンも十分に負け組ではないか」
「――!」
あっ! 本当だ! 他の誰に言われても腹立たなくても、サイクロプトロールに言われると滅茶苦茶腹が立つ~! 十分に負け組っていうのが一層腹立つ!
「お前に負け組と言われたくないぞ!」
「俺だってそうだ! お前よりは勝ち組だ!」
「じゃあ俺もお前よりは勝ち組だ!」
サイクロプトロールが丸椅子から立ちあがった。
「なんだとこのやろ! リングへ上がるがいい」
「……上等だ。白金の剣で滅多滅多に切り刻んでやる」
なめろうサイズにまで刻んでやる。ネギと味噌と混ぜてやる――。
「……いや、剣は使うなよ。いくらなんでも」
「フッ、冗談だ」
思う存分手加減してやろう。
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