魔王様、魔王様は勝ち組です! たぶん
「なぜだ、なぜそう言い切れるのだ」
「魔王様は正真正銘、勝ち組でございます。疑いようもありませぬ」
「ヌヌヌヌ。であれば、『たぶん』は不要であろう」
「はっ! 私としたことが迂闊でした」
テヘペロにございます。
「……語尾に『知らんけど』と付ける大阪人と同じだぞよ」
「御意――。冷や汗が出ます」
……知らんけど。
「予は最近、自分が勝ち組ではない気がしてならぬのだ。そうは思わぬか」
「ぜんぜん思いません。これっぽっちも思いませぬ」
これっぽっちを親指と人差し指で表現する。1ミリの隙間もない。よく見るとくっついているかもしれない。
「魔王様は勝ち組でいらっしゃいます。負け組などとは程遠いでございます。ご安心ください」
本心で御座います。
体育館よりも広く天井の高い魔王城玉座の間には、絢爛豪華な玉座がただ一つだけ置かれている。王族のみしか座ることの許されない玉座に座られし美しき金髪の魔王様は、言わば勝ち組中の勝ち組――。
その玉座でポテチをパリパリと食べ、特に何もせずにボーっと暇を持て余していらっしゃる魔王様こそ、比類なき権威者の暴挙――。勝ち組筆頭!
「勝ち組以外の何者でもありませぬ」
「ちょっとディスっておらぬか」
「おらぬ」
「……」
「予の手を見るがいい」
……近付いて魔王様の手を拝見する。これまでたくさんの人間共との戦いや、魔王軍における醜い権力闘争で血に汚れた……手?
「いや、ポテチの袋じゃ」
「そっち――!」
ポテチの袋は大き目だ。「うすしお」と書かれているが……。
「もう少し下」
「……BIGと書かれております」
「そう! それ! そこ!」
なにが「そうそれそこ」なのか、意味が分からない。
「なぜ予が、BIGのポテチを食べているか、卿には分かるか」
分かるものかと言いたいが、分からなくもない。なぞなぞよりも簡単だ。
「……たくさん食べたいからではございませんこと」
「ません! ませんこと! ブッブー! ハズレ!」
ハズレのブザー音が腹立たしいなあ……。ツバまで飛んできて嬉しくなる。
「予がポテチのBIGを食べている理由はただ一つ――!」
――入っているグラムに対して値段が一番安いからだぞよ~――!
「――!」
勿体ぶっておいて普通の理由に驚いてしまう。
「そのまんまです! なんの捻りもないではありませぬか!」
せめて個別包装よりも包装が少なくなるので環境に優しいエコだとか、いつかきっと一人でBIGを食べきってやるとの野望達成とか、お捻り頂きとうございます。
「これは勝ち組のやることではないであろう」
「BIGのポテチでございますか」
たしかに……勝ち組のやることではないかもしれませぬが、――勝ち組のやることなのかもしれません。
「ですが魔王様、その手にされているポテチのBIGは魔王様ご自身が魔コンビニで買ってきた商品……。言わば、魔王様ご自身のご決断によるものでございます」
誰に落ち度がある訳でもありません。私は悪くないです。
「無論。予が選んだのだが……」
だが……ってなんだろう。魔王様のおっしゃりたいことが分からない。いつものように。
「であれば、魔王様がお考えになる勝ち組であれば、いったいどのような措置を取られると申すのでしょうか。お聞かせ願いたい」
魔王様の勝ち組の定義とやらを。ポテチを皿に盛り付けるのか? それとも、パーティー開けして床にばら撒くのか。バーンと。
「……ほら、トリュフ入りのポテチとかもあるではないか。予はあれが食べたいのだ」
「買って食べい――!」
「――!」
でっかいポテチのBIGばかり手に取るのではなく、その隣の隣の隣のお高いトリュフ入りポテチを買って食べい――! ポテチのBIGばかり食べていれば、やがて魔王様が隣の隣のトト□のような体型になってしまいますぞと忠告したい!
「食べたくても……倍以上もする値段のポテチには手が出せぬのだ」
――倍以上!
「……御意」
袋は小さく、さらに値段が高くては……たしかに手が出せない。見えないバリアーが張られているかのように。
魔王様の無限の魔力を持ってしても突破できないバリアーが張られているのか。トリュフ入りポテチに……。
「じつは、このポテチも魔コンビニではなく魔ドラッグストアで買ってきた……」
「……」
お察しいたします。
「さらには、朝食も……7枚切りの食パンだ」
7枚切りの食パン……トースターで焼き過ぎるとパリパリの黒焦げだ。
魔王様はいつも焦げ味を楽しんでいらっしゃるのかと思っていたのだが……違うのか。トースターやレンジで微調整とかが上手く出来ない御方なのか。
「魔王様、トーストに負け組感を抱くのであれば、朝からフォアグラをお召し上がりください。食堂のオーナーシェフが腕を振るうでしょう」
胃にもたれるぞ~。贅沢の極み、毎朝フォアグラの焦がしバターソースにメイプルシロップを添えて。
「……卿は豪華な料理といえば、すぐにフォアグラフォアグラと口にするが、恥ずかしいぞよ」
「――フォアグラが恥ずかしいですと――!」
フォアグラ≒御馳走のハズなのに! ガチョウが泣きますぞ!
「昔で例えれば、大好物が『ステーキとビフテキ』と言う小学生と同じだぞよ」
ステーキとビフテキ――! さらには小学生――!
「自己紹介で、『好きな食べ物は、ステーキとビフテキです!』ぞよ」
「……グヌヌヌヌ」
ステーキとビフテキも……永遠にご馳走の代名詞のはず! 「ステーキとビフテキ様でした」は、「ご馳走様でした」と同義語のはず――!
「フォアグラ以外の御馳走を言ってみよ、デュラハン」
「はっ! ……ハムカツ」
――! 咄嗟に口から出てしまった! 首から上は無いのだが。
「卿も庶民よのう」
「――ガビーン」
ガクリと膝を落とす。……庶民は負け組なのか。それでは勝ち組と負け組の比率は半々どころではないではないか。
世の中、ほぼほぼが負け組に該当するではないか――!
「さらには、ガビーンと口で言うな」
「……申し訳……ございません」
涙が流れそうになる。ひょっとすると、この私めも負け組に片足を突っ込んでいるのだろうか……。いや、それはない。それは嫌だ!
「……ではお聞かせ願いたい。今の勝ち組が好んで食する物とは何でございましょうか」
それを食べなければ勝ち組になれない食材とは――!
ステーキとビフテキを超え、フォアグラをも凌駕する勝ち組の食材とは――!
「アンコウの肝とかぞよ」
「……ほぼフォアグラではございませぬか」
鳥と魚の違いくらいだぞ。缶詰でも売っているぞ。
自己紹介でそれを好物と言えば、おおよそが「美味〇んぽ」の見過ぎだと笑われるぞ。冷や汗が出る、古過ぎて。
読んでいただきありがとうございます!
ブクマ、感想、お星様ポチっと、などよろしくお願いします!