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その手に刃を  作者: 竜樹
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第四話 少女と少年

 ミソラは屋上で空を見ていた。もう学園で学ぶのは人間関係だけだと学園長に太鼓判を押され、第二学年以下の好きな教室に参加するようにと言われた身だ。

おそらくは、少しくらいサボっても平気だろう。

本当ならジュンのクラスに参加するつもりだったのだがああなってしまった手前、顔を合わせ辛い。


「……暇ね」


 思わず声が漏れる。ミソラはじっとしてるのは元々は得意ではないのだ。そこに大きな音を立てて屋上のドアが開く。開けた人物に目をやりミソラは笑いかける。


「あら、何か用?」


「俺と勝負しろ」


 真剣な表情で見つめてくるレイジィにミソラは頷く。


「私もあなたの実力を確かめたいと思っていたところよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はぁ」


 ジュンは授業が始まってから何度目かもしれないため息をついた。人数は五人もいない教室だ。全員がジュンのため息の多さには気づいている。

ジュンの頭にあるのはミソラと名乗った少女。勢いで叩いてしまったが相手は学園は始めての年下の少女なのだ。いくら、この学校に年齢の垣根が無いと言っても幼い少女だ。いきなり叩くのはやりすぎだ。後悔は考える度に深くなっていく。その時、窓際の生徒が窓の外の校庭の異変に声を上げた。


「あれってレイジィ?」


 声から感じた嫌な予感にジュンは席を立ち窓に駆け寄る。校庭には黒髪の男女が歩いている。


「あの、馬鹿っ」


 ジュンは思わず叫び教師が止めるのも無視してドアに向かって駆け出していた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 レイジィに校庭まで連れてこられたミソラは周りを見渡す。


「ここじゃ直ぐに教師が駆けつけちゃうわよ」


 ミソラの言葉にレイジィは鼻をならす。


「お前、教師が駆けつけるまで耐えれるつもりか?」


 ミソラから先程のような妙な感覚は感じないためあれは、気のせいだったと思ったレイジィは再び偉そうに言う。


「……相手と自分の力量差も分からないなんて」

 ミソラは侮蔑を隠そうともしない。レイジィは地面を強く踏みつける。


「調子にのるなよ」


 低い声で脅すレイジィ。それに対してミソラは動かない。


「先手は譲るわ。何時でも来なさい」


 ミソラの言葉が終える前にレイジィは前もって校庭に仕掛けておいた魔法を発動し、無数の火の玉がミソラの周りに出現しミソラを襲った。ミソラの立っていた場所は爆発の煙が立ち込めている。


「……ふん、馬鹿なやつ」


 勝利を確信したレイジィは吐き捨てる。しかし、その頬に一筋の傷が入る。


「まだまだね。

火の魔法は確かに協力だけど爆発で視界が塞がれちゃうから今の場面は風か水にした方がいいわよ。あと、確実に倒したと確認するまでは気を抜かない事ね」


 傷一つない姿でミソラが煙の中から現れる。


「何でだよ!!何で無事なんだ!!」


 レイジィは思わず叫ぶ。


「確かに奇襲のタイミングはなかなか良かったわ」


 言葉は誉めているが口調は氷のように冷たい。

「あなたは確かに魔法使いとしての才能はあるわ。魔法使いはどんな手を使っても常に自分の有利なように戦況をコントロールする必要があるわ。

けどね。あなたは王族としては失格よ」


 急な否定の言葉にレイジィは顔を怒りで赤らめる。


「お前にそんな事言われる筋合いはないだろ!!」

「王族とは他の人々を率いていく者よ。そういう人は例え相手がどんなに強大でも正面から立ち向かっていかなければならないのよ。

そうじゃなきゃ誰もついて来なくなるわよ」



 ミソラは冷静に言葉を述べてレイジィに近づいていく。ミソラの氷のような視線に焦ったレイジィは手のひらに火の玉を作りミソラに向けて放つ。しかし、火の玉はミソラを避けるように真っ二つに真ん中で割れる。


「無駄よ」


 ミソラが近づくにつれレイジィの顔には焦りが強くなっていく。様々な魔法を連続して放つがそのことごとくがミソラの前で切り裂かれる。

ミソラはレイジィの近くまで近寄り不意に優しげな表情をして耳元で囁く。


「悔しかったら、もっと強くなりなさい」


 ミソラはそのまま手刀をレイジィの首筋に叩き込みレイジィはその場にゆっくりと倒れ込んだ。


 途中からだが様子をみていたジュンは驚きを隠せなかった。第二学年では抜きん出た実力を持つレイジィがclass1に手も足も出せずに敗北した。恐らくは自分の目で見ていなかったならば信じなかっただろう状況にジュンは思わず口を開いた。


「あんた、何者?」


「そうね。一つの魔法のみ極めた魔法使いってところかしら」


 元よりジュンが何処にいたのか知っていたかのようにミソラはジュンの方を向く。


「魔法なんてたくさんの種類が使えればいいなんてものじゃないの。一つだけを極める強さもあるのよ」


 ミソラは諭すような口調で言う。以前のジュンなら、そんなのは机上の空論だと鼻で笑っていただろう。しかし、実際に目にしてしまった以上は何も言えない。

せめてもの仕返しをしようと口を開く。


「まだ小さい癖に良く言うわね」


 それにミソラは苦笑する。


「まぁ、でもあなたよりは長生きしてるわよ」


 ジュンはミソラを見つめる。黒い髪や黒い瞳は神秘的だし、顔立ちも整ってはいる。その上落ち着いた雰囲気を持っているが、どう見てもまだ十歳前後である。


「嘘ね」


疑いの視線を向けてくるジュンにミソラはため息をつく。


「……まぁ、いいわ。ところで授業中じゃないの?」


「あっ」


 ジュンは口に手を当てて声を上げる。ミソラはその仕草に軽い笑みを見せると校舎に向けて歩き始める。


「ちょっと、何処にいくの?」


 ジュンは慌ててミソラの後を追う。


「教室よ」


 ミソラは後を追ってくるジュンの気配を感じ、これから何かが起きる確信に近い直感を得ていた。

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