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その手に刃を  作者: 竜樹
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第三話 少女と少年と少女

 最初、視点は空中にあった。広い森の中、忽然と白い城が不自然に建っていた。やがて、視点は豪華な造りの城の中に移る。


おそらくは夢なのであることはもう分かっている。しかし、妙にリアルな夢だ。視点は巨大だが人気の無い城を巡り、やがて、地下に降りた。そして、そこには見知らぬ一人の少女が鎖に繋がれていた。五歳ほどであろう少女は薄汚れ、布のような服しか身につけていない。しかし、少女の黒い瞳は高貴な輝きを放ち、黒い髪は汚れなど関係ないかの様に艶やかだ。

それに向かい合うように年老いた男が立っている。


「我を笑いに来たか」


 幼い少女は泣け叫びもせずに静かに男に問いかけた。男はただ首を振る。


「では、憐れみにきたか」


 再び男は首を振り口を開いた。


「私はあなた様を救いに来ました」


 その言葉に少女は目を見開く。予想していない答えだったのだろう少女は口をポカンと広げている。そんな、少女を無視して男は少女の繋がれている鎖に手を伸ばす。男の手に不意に一筋の切り傷が走る。男は一瞬だけ怯むが尚も手を伸ばす。


「やめろっ!!」


 近付くたびに傷が増えていく男の手を見て少女が悲痛な叫びを上げる。しかし、男はそのまま鎖を掴むと何やら小言で呟く。鎖が砕けちり少女は倒れる。男は自分が傷つくのにも構わず少女を抱きしめる。少女は慌てて離れようと男の胸を押すが男は新たな傷を幾重に作ろうと抱きしめる力を弱めようとはしない。


「大丈夫です。私はこの位で死んだりはしません」


 抱きしめた少女の耳元で男は囁く。少女の抵抗が弱まる。


「例え、あなた様のお父上やお母上、弟君があなたの敵になろうと私は常にあなた様の盾となりましょう」


 傷ついた男の言葉にすっかり抵抗を止めた少女の目から涙が零れ落ちた。


 嫌な夢を見た。ジュン・フランシアは汗のせいで額に張り付く自らの赤味のある茶色い髪を拭う。窓からの明かりが起きるにはまだ早い時間だと知らせる。しかし、二度寝できる時間でも無いだろう。ジュンは溜め息をついて起き上がろうとして違和感を感じた。腕に何かが乗っかっている感触。不気味に思ったジュンは一気に布団をめくり言葉を無くした。


「んっ」


 そこには静かに寝息を漏らす黒い髪をした自分より小さい少女が眠っていた。おまけに着ているのはジュンの予備の寝巻きだ。昨日の記憶を辿っても符合する出来事は無い。ということは不法侵入?取りあえずジュンは眠っている少女、ミソラをベッドから蹴り落とした。


「で、あんたは誰な訳?」


 ジュンは落とされて目を覚ましたミソラを詰問した。本来のジュンなら勝手に寝ていたりしたら殴り飛ばすくらいはするのだが、ミソラの見た目が自分より幼いのと美少女だという理由から自重したらしい。

因みにジュンはベッドの上に座っているがミソラはジュンの断りも得ずにキッチンから取り出した紅茶の葉で紅茶を入れている。


「紅茶に砂糖は?」


 ミソラは質問には答えず紅茶を入れながらジュンに聞く。


「……ミルク」


 無視された事に憤慨しつつジュンが答えるとミソラは優雅にミルクを入れて渡す。不覚にもその味は良かった。


「ミソラ・クランク・キルヒア」


 紅茶を飲んでジュンの気持ちが落ち着いた頃を見計らってミソラはゆっくりと言った。


「えっ」


 突然の言葉にジュンはそれが少女の名前だと判断するのに時間がかかった。


「あなたは?」


 戸惑うジュンにミソラは問いかける。


「ジュン・フランシア」

 ジュンは辛うじて自分の名前を呟く。


「それで、聞きたい事があるんじゃない?」


 軽やかなその言葉で我に返ったジュンは我に返った。


「お嬢ちゃんは何で私の部屋で寝てたの?」


「簡単に言うと私は今日から、この学校に入学するんだけど部屋が無かったのよ」


 ミソラは真上に可愛らしく人差し指を伸ばして説明する。しかし、ジュンの疑問はまだ晴れない。


「まだ、空き部屋は沢山ある筈よ」


 ジュンの記憶が正しいなら空き部屋がまだあった筈だ。


「あら、学園長はどの部屋を使っても良いって言ったわよ」


 学園長もよもや、もう人がいる部屋に行くとは思わなかったのだろう。とジュンは諦めのため息をつく。


「分かった。部屋に泊まるまではいい。いや、良くはないけど良いとして何で私の寝巻きを着て同じベッドで寝ているのよ」


 再び、ジュンはミソラに矛先を向ける。ベッドは一部屋に二つあり、ジュンは一人で部屋を使っているためベッドは一つ空きがあるのだ。そこをつかれたミソラは首を傾げ考える仕草をしてみせる。


「………………特に意味は無いわ。いいじゃない女同士なんだし」


 そして、暫くの間の後にミソラは笑顔を浮かべて言ってみせる。


「何よその間は!!変な事してないでしょうね」


 その言葉にミソラはニヤリと笑ってみせる。その笑みを見た瞬間にジュンの背筋が冷えた。


「……まさか、本当に何かしたの?」


「さぁ、どうかしら?」


 冷や汗を流して尋ねるジュンにミソラはただ笑い返した。


「何したんだー!!」


 ジュンの叫び声が寮に響き渡った。


 ジュンはいつもより大分、早く部屋から出た。結局、何をされたか分からなかった。脅しても、問い詰めてもミソラは笑うだけで話しにならず、我慢の限界を迎えたジュンは怒りに任せて部屋を飛び出したのだ。しかし、校舎を目の前にしてもジュンの苛立ちは収まらない。苛立ちの原因が一歩後ろに着いてくるのだから当然だ。


「何で着いてくんのよっ!!」


 ジュンは振り返ってミソラを怒鳴りつけた。


「何でって、面白そうだから?」


 ミソラは笑って答える。ジュンはその態度に何を言っていいか分からず再び教室に向けて歩き始めミソラはそれに着いていく。


「あなた、クラスはどこなの?」


 後ろからミソラがジュンに声をかける。


「どこでもいいでしょ」

 ジュンは振り向きもしないで怒った口調で言う。


「あら、そんな事は無いわよ。同じようにクラスに一夜を共にした子がいたら心強いじゃない」


「私は第二学年だから新入生とは絶対に違うクラスよ」


 心にも無いことを言うミソラを言ってジュンは教室に足を早める。


「大丈夫よ。学園長の許可は取ってあるから」


 歩く速度を速めてあくまで後ろを歩くミソラに何の許可だ心の中でツッコミジュンは教室に向かう。

担任の教師がなんとかしてくれる事を願いながら。


「機嫌が悪そうだね。ミズ・フランシア」


 そして、もう少しで教室につくというところで声をかくられたジュンは露骨に顔をしかめ声の主を見た。黒い髪に灰色の瞳をしたジュンと同年代の少年はジュンを見下す。


「class:1の君がclass:3の僕に挨拶も無しかい?」


 自分を見たまま何も言わないジュンを少年が侮辱する。classとは使える魔法の系統の種類の数によって分けられる基準のような物だ。1〜3に分類され、基本的に数の多い方が優秀とされる。

実際、一系統内の魔法の種類はたかが知れており、ジュンは十種類しか切るカードを持っていないのに対して少年は五十種類も切るカードがあるのだ。戦略の幅では大きく劣ると言って過言では無い。ジュンは唇を噛みしめる。

何も答えられないジュンを少年は見下し優越感に浸る。


「classって何?」


 少年は知らない声の方を見てミソラに気付き突然、不機嫌な顔になる。


「誰だ。お前?」


「私はミソラ・クランク・キルヒア。今日からここに通う事になったんだけど」


 少年は値踏みするような目でミソラを見る。


「まぁ、いい。学園の事を説明するのも第二学年の主席である僕の役目だ。この学園は使える魔法の系統の数によって学年ごとにclassに分けられクラスが決まるんだよ」


 その話を聞いてミソラは呆れた顔をする。


「全く……使える魔法の数で優越を決めるなんてまだ、やってる所があったのね。これが最高の学習機関だなんて」


 おまけとばかりにため息までつくミソラに少年は額に青筋を立てるが、無理矢理、笑みを浮かべてみせる。


「負け惜しみか?どうせ、大した数の魔法も使えないんだろう?」


 挑発めいた少年の言葉にミソラは頷く。


「ええ、種類で言うならば、私は一種類しか使えないわ」


 その言葉に少年は勝ち誇った顔をするが次の言葉で一気に顔色を無くした。


「けど、何百回勝負してもあなた如きの勘違いしたお坊ちゃんには負けないわ」


 女に、しかも年下の少女に馬鹿にされた少年は怒りのあまりに顔を青くする。


「おまえぇ」


 少年の手のひらに赤く光る火の玉が現れる。


「ちょっと!!やめなさいよ」


 ジュンが止めようと慌てて間に入る。いくら、会ったばかりで、おまけにイライラさせる相手だったが、このまま怪我をさせるのは嫌だった。


「うるさいっ」


 しかし、ジュンは少年の空いたいるほうの手ではね飛ばされて尻餅をついてしまう。


「ふうん。死にたいみたいね」


 それを見たミソラの瞳がスッと細まる。そして、同時に強い殺気を放つ。

それが何なのか分からない少年は震える手を握り締める。相手は一種類しか魔法が使えないと言った。なら、自分の方が強い筈だ。それに、いざという時は自分には最強の後ろ盾がある。


「うわぁぁぁ」


 無意識のうちに放たれた無様なわめき声を上げて火の玉を放とうとして少年の目の前は闇に包まれた。


 ジュンには何が起こったのか分からなかった。突き飛ばされて嫌な気配に目を開けると雰囲気の変わったミソラが少年、レイジィ・クロノ・フェァリーを睨みつけていた。そして、レイジィが何やらわめきながら火の玉を放とうとした時、レイジィは何やら黒い影に包まれた。影はそのまま、地面に溶けるように消えた。


「本来に遅い到着ね」


 ミソラが呟いて呟いて振り返ると肩で息をしているヌエがいた。


「私闘は禁止」


 荒い息をしながらヌエはミソラを睨みつける。


「向こうから仕掛けてきたのよ」


 ミソラは肩をすくめながら言う。


「それでも、自分より弱い物をあまり挑発するのは良くない」


 ヌエの言葉にミソラは若干、顔をしかめる。そして、座ったままのジュンに手を差し出す。


「確かに少し大人気なかったわ」


 差し出された手をジュンは躊躇いがちに取る。


「……ねぇ」


 ジュンは立ち上がってミソラを睨みつける。自分より格上の相手に喧嘩を売って何とも思ってないような態度が腹にきた。


「あなた、あのままいったら怪我してたのよ。ううん、下手したらもっと怪我してたのかもしれないのよ」


 思わず声を荒げるジュンにミソラはきょとんとした顔をする。


「怪我?私が?」


 本気で首を傾げるミソラにジュンは思わず右手を振り上げていた。

乾いた音が廊下に響く。叩いたジュンは何も言わずに教室に入って行ってしまい、叩かれたミソラは呆然と叩かれた左頬に触れる。


「ぷっ」


 吹き出した声にミソラがヌエの方を向くとヌエは必死に笑いをこらえている。


「……何よ」


 思いっきり不機嫌な顔でミソラはヌエに言う。


「いや、互いの勘違いの上に叩かれた君が愉快だった。彼女、ジュンは君が私が回収した少年にやられると思ったんだよ。彼は仮にも王家のエリートだからな」


「王家?」


 ミソラは思わず聞き返した。


「ああ、彼、レイジィ・クロノ・フェァリーは第一王子だ」


 その言葉にミソラは真剣な顔で黙り込む。


「どうかしたか?」


 その様子にヌエが声をかけるがミソラはいえと首を振るだけだった。

読んでくださいありがとうございますm(_ _)m


今回、この話のもう1人の主人公が登場しました。そっちも今後、活躍させてく予定です。


竜樹は感想、評価を待ってます!!簡単な事でも書いてもらえると嬉しいです

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