第一話 切り裂く少女
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黒髪の少女は旅の途中、適当に取った宿のベッドの上で寝転がりながら手にした紙をボンヤリと眺めた。
上半分あたりにミソラ・クランク・キルヒアと少女の名前が。
そして、その下には簡略化された地図が書かれている。突然、師匠に地図の印の場所に迎えと追い出され三日がたつ地図の上ではすぐでも実際はかなり遠いらしく今日でやっと半分程度といったところ。最初は腹が立ってしょうがなかった旅だけどいろんな物を見てまわれるのは良いことかなとも思い始めていた。
やがて夜も更け眠気が襲ってきた頃、トントンと控えめなノックがミソラの耳朶を叩いた。無視しよう。瞬時に決断したミソラは狸寝入りをする。誰かは知らないけどこんな夜更けに来るほうが悪い。そう判断したのだ。しかし次の瞬間、無視できない事態が起こった。ノックした主が鍵を開けて入って来たのだ。しかも足音から判断するに複数人。
「良く寝ているみたいです」
この声には聞き覚えがある。宿屋の女将だ。
「本当に上玉なんだろうな?」
もう一人は野太く低い声。男の様だ。顔を覗き込んでくる気配。
「なるほど。なかなかの値段になりそうだ」
その言葉で男が何者かがはっきりとした。
男は奴隷売りなんだろう。
そして、この宿は奴隷を調達するための偽物の宿といったところか。薄く目を開けて現状を確認する。部屋の中には女将と男の二人。ドアの外に男が一人。今日は野宿かと思うとため息がこぼれた。だが、売られる訳にはいかない。何といっても花も恥じらう17歳の乙女なのだ。狸寝入りをしたまま右手に魔力を通わせる。右手が熱を持ち始める。
男はいつも通りに仕事をこなそうと寝息を立てる少女の体に触れようとした。
その瞬間、少女の目が開き男を捕らえる。
男は驚きに体を固まらせた。それが命取りだった。ミソラは人差し指と中指を揃え横に振る。男の目から血しぶきが飛び散る。
「――――――」
目を潰された男は声にならない悲鳴を上げる。そんな男のこみかめにミソラの細く長い足による回し蹴りがめり込む。昏倒する男。残りの二人が異変に気付いた時には既に遅かった。ミソラは立ち上がり一瞬のうち間合いに入ると刃と化した指を振った。