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だいごわ。踏み込みが足りん!

 才悟朗は転がった状態から体のバネとパワーアシストによって跳ね起きると、姿勢を低くして地を蹴った。黒いスケルトンがトリガーを引き絞るのが見える。無意識的にレーザーブレードを持つ右腕が動いた。銃口が光る。レーザー自体は光速で到達するが、熱が生じるまでにはタイムラグがある。とはいえそれはコンマ数秒の間もなく、実質一瞬だ。

 だが、スキルによって人の領分を超えた才悟朗であれば、その一瞬があれば良い。

 レーザーブレードの実体なき刃が閃く。それは過たず直進してきたレーザーを捉えて、電磁干渉により光線をあらぬ方向へと弾き飛ばした。

 切り払い、と呼ばれるテクニックだ。

 スターウォーズのジェダイ騎士や、スーパーロボット大戦Fのエリート兵が用いるのが一般(?)には有名だろう。

 才悟朗がとっさに習得したのは、その「切り払い」そのもののスキルである。剣術スキルを更に細分化し先鋭化させたもののようで、取得コストは50点とリーズナブルな設定であった。初回特典の余りはこれで50点を残すばかりとなったが、悪い選択ではなかったと、弾かれ壁に着弾するレーザーを見て思う。

 てか、これまでスケルトン30体弱倒してるのに全然スキルポイント伸びてねーのな。才悟朗は頭の片隅でそう思って、もうそのへんの仕様について尋ねることすらできない事に気が付き顔をしかめた。

 ブルーのことについて、未だ心の整理がついたとは言えない。

 今はそれどころでは無い、という状況が、うまくそれを忘れさせてくれるのはありがたかった。

 スケルトンは才悟郎がレーザー光線をこともなげに切り払ったのを見るや否や、かたかたと顎を鳴らしてバックジャンプで距離をとる。彼に肉と声帯があれば、きっと悪態の一つや二つはあっただろう。そんな憔悴を感じさせる動きだ。

 肉が無い割に機敏に動くのはいかがなものか。空中で引鉄が引かれ、銃口から閃光が迸る。才悟郎の右腕がレーザーブレードを振ってそれを逸らすが、しかし反射角が甘くヘルメットに一条の焦げ跡を作った。樹脂の焦げる音が耳元で聞こえ、それを警告音が打ち消す。


(2点射……!)


 振りぬかれた右腕が戻るよりもレーザーの着弾のほうが早い。まさしく付け焼刃の「切り払い」スキルでは、小癪な2点射レーザーに対応できるほどの技量は望むべくもない。

 才悟郎はそれでも可能な限り高速で右腕を戻しながら、せめてとレーザーの射線から頭部を外す。

 空中から撃ち下ろされたレーザーは才悟郎の防御をすり抜け、しかしその頭部を掠めることなく石床に吸い込まれた。


「あっ、ぐ……!」


 とはいえ才悟郎が万事において無事であるかといえばそうでもない。頭部こそ逸れたレーザーは才悟郎の左肩を置き土産代わりに貫通して行ったのだ。文字通り焼けるような激痛が才悟郎を襲った。レーザーで焼かれたため出血量こそ大したものではないが、しかし人体に直径1センチの穴が貫通している状態というのは十分に致命的である。その衝撃に才悟郎は耐え切れず、トップスピードの走行状態から足をもつれさせ、もんどりうって派手に転倒する。通路の壁に背をしたたかに打ち付け、胃と肺の内容物が全て口から飛び出るほどの衝撃が彼を襲った。

 才悟郎の脳は痛みに苛まされながらも、体を起こして立と命令する。しかしそれは伝達の中途であやふやになって、手足に力が入らない。手足に力が入らなければパワーアシストもくそもない。ホワイトスノーのダメージコントロールが即座に作動してスーツの穴を補修し、ヘルメット内を濃縮酸素が満たす。しかし才悟郎の体に空いた穴までは如何ともし難く、即効性の局所麻酔が投与されるにとどまった。根本的な解決策とは言い難くとも、喫緊の状況に対応するには現状これしかない。

 才悟郎は一瞬で左腕の痛みと感覚が消失したことについてひとまずの安堵を感じ、しかし状況は何も好転していないことに気づいて歯噛みする。体中から染み出た脂汗が体表を這う不快さがあった。バイタルの異常を示すアラートは鳴りっぱなしで、才悟郎は煩わしげにそれをカットする。

 そうこうしている間にも、スケルトンは着地して体勢を立て直している。銃口はこちらに向けたままだ。

 才悟郎は肺に酸素が戻ったところで、手足が早々自由になるかといったらそうでもない。壁に背を預け側臥の状態で手足を投げ出している様は素人目にも死に体である。

 スケルトンはすぐに手にした得物で才悟郎を殺すでもなく、じりじりとこちらへ距離を詰めてきた。その動きに油断は無い。確実に仕留められる距離をよくわかっているようだった。

 才悟郎は頭を巡らせる。事ここに至って、動かせるのは頭と右腕が少々。あとはダメだ。足に至っては折れているのか、膝から先があらぬ方向を向いている。レーザーブレードはとり落とし、10mばかり後方に寂しく柄だけが転がっていた。あれを拾いに行くだけの時間は無い。才悟郎に残された時間は、スケルトンがいい位置まで移動するわためのずかな時間のみである。

 スケルトンが足を止めた。

 タイムアップという事なのだろう。スケルトンはレーザーライフルを構え直し、引き金に指を描ける。


「ま、待ってくれ! 投降する! だから殺さないでくれ!!」


 スケルトンが引き金を引き絞る直前、才悟郎は叫んだ。外部スピーカーに切り替え、情けない声で、唯一自由になる右手でスケルトンを制止するように弱々しく掲げて。

 命乞いだ。

 才悟郎に思い付く作戦など、もうこれしかなかった。明らかに人ではないスケルトンに言葉が通じるかは賭けだったが、どうやら動きを止めたことから、賭けには勝ったらしい。

 スケルトンは下あごをかたかたと鳴らしながら、更にこちらに歩み寄ってくる。そしてそのままライフルの引き金を引いた。

 銃口から迸った閃光は、才悟郎の右膝から下を吹き飛ばした。出力をわざわざあげたのだろう。才悟郎は痛みをはるかに超えた熱と衝撃を受け、しかし歯をくいしばって耐えた。

 いたぶる気だ。才悟郎は悟る。考えないルートではなかった。しかし、考えていたからといって痛みがおさまるわけではない。麻酔が施され、右足の感覚がなくなる。胃の奥底から吐き気が押しあがってきて、我慢できずヘルメットの中に吐いた。薬物中毒だ。起き抜けから何も食べていなかったのは幸いだった。胃液だけがHMDを汚す。


「ま、待ってくれ! なんでもする! 殺さないで……あっぐぁ」


 今度は左足が吹き飛ぶ。スケルトンはさらに下あごをかたかたと震わせた。笑っているのだ。才悟郎は察した。涙で視界が滲む。鼻水で息ができない。

 スケルトンはついに才悟郎の目と鼻の先にまでやってきて、武骨なレーザーライフルを才悟郎の装甲ヘルメットに押し当てた。表情筋もクソもあったものではない骸骨が、しかし最大限ニヤついているのは才悟郎にもわかった。


「ま、待て……カヒュー……ま、まだ死にたく……ない」


 才悟郎はいろいろな体液でぐちゃぐちゃになった顔をさらにぐちゃうちゃにして懇願した。足を飛ばされ、左手は動かず、唯一動く右腕で、縋りつくように。

 スケルトンはその右腕を造作もなく振り払うと、さらに銃口をぐいと押す。持ちあがった才悟郎の視線と、スケルトンの空洞の眼窩、その中に浮かぶ怪しい灯が交錯する。そこに色濃い侮蔑の色が宿っていたのは、決して才悟郎の思い込みではない。


「や、やめて……やめてくれ……」


 スケルトンがかたかたと下あごを鳴らした。そしてトリガーに掛ける指に力を込め……。




 カシュン、と圧縮された空気が解放される音が、通路に響く。続いて、ガツンと言う硬質な打撃音。

 才悟郎の掲げた右腕から、直径5ミリの鉄心が射出され、それは間違えずスケルトンの眼窩の奥へと突き立っていた。それまで30体弱のスケルトンを斬ってきた才悟郎は、肉も神経もないスケルトンにも、感覚器に相当する器官があることに気が付いていた。それが、あの怪しい灯だ。あからさまに実体のないそれに物理攻撃が通用するかは賭けだったが、どうやらまたしても才悟郎は賭けに勝った。半狂乱に陥った黒いスケルトンをみれば一目瞭然である。反射で引かれたトリガーも、照準がわずかにぶれて才悟郎の頭上の壁を焦がすだけに終わった。


「まんまと……掛かってくれて……感謝するぜ」


 全身を襲う強烈な不快感に苛まされながらも、才悟郎は不敵な笑みを作って言った。それが悶絶するスケルトンに届いたか定かではないが、別に届いていなくても何ら構わない。ニードルガンは距離に反比例するようにその威力を落す。効力打を叩きこむには、一歩でも近く。こちらが動けない以上、あちらを寄せるしかない。スケルトンにも感情はあって、しかもそれは存外に人間的だということは知っていた。だから立てた、作戦とも言えない作戦は、何とか成功したと言っていいだろう。

 だから、ま、一矢報いたってことで。ざまーみろ。才悟郎は霞む目を細めて笑った。

 そんな才悟郎にかかる、ゆらりと幽鬼めいた影。


「マジかよ……」


 それは、頭蓋骨を半ば砕かれた黒いスケルトンであった。その砕かれた頭蓋の亀裂からは、めらめらと揺らめく灯が漏れる。

 無力化できたと思っていた。レーザーブレードの威力に慣れきっていて、戦力評価を誤ったのだ。スケルトンの生命力はそう甘いものではなかった。

 それに気が付いたところで、おそかった。スケルトンはまさしく気焔ともいうべき灯を揺らして、才悟郎に激情を向けている。頭は麻酔で鈍って、ニードルガンの2射目を叩きこむべきという判断が、一瞬贈れる。致命の隙だった。スケルトンはその骨だけの腕で才悟郎の腕をとると、力任せに捩じ切る。骨の折れる音と、腱と筋肉の断絶する音が耳の内側から聞こえ、目にはスパークが飛んだ。あまりにも粗雑な人体破壊は、鈍りきった才悟郎の神経をして激痛を脳に伝える。


「ぢ、ぐッ……しょぉ……」


 いっそ意識が飛んでしまえばどれだけ楽だろう。才悟郎はガタガタと顎を鳴らすスケルトンの凶相を睨み、悪態を吐くのがやっとだった。

 スケルトンが、わざわざ腰のカトラスを抜き放った。ナックルガードに見事な装飾の施された、場違いなほどに優美な剣である。おそらく、スケルトンにとっても何らか意味のあるひと振りなのだろう。殺傷力で言えば圧倒的に差があるライフルを捨てて、わざわざ持ち替えたほどだ。

 それがいかに原始的であれ、殺意は本物で。才悟郎には抵抗しようにももう武器がない。よしんぼ武器があったとして、それを取り扱う手足が既になかった。

 スケルトンがカトラスを高らかに掲げる。それは一種の儀式のような洗練された動作であって、狙いは間違わず才悟郎の首に定まっていた。


 どうすることも、出来ない。


 諦念が、じわりと視界を淡くにじませた。


 カトラスが、ついに振り下ろされ……


///


「頭、吹っ飛ばされたくなかったら引っ込めときなさい!!」


///


「あ……?」


 ノイズ交じりの通信が、耳鳴りでほとんど何も聞こえない耳朶を叩く。緩慢な動作で、しかし反射的に才悟郎は頭を引っ込めた。

 直後、頭上を通過するプラズマの火球が、今にもカトラスを振り下ろさんとしていたスケルトンに吸い込まれていく。直後、爆発。

 才悟郎はわけもわからないまま、爆風に呷られて通路を転がった。スケルトンのあった場所には、黒い骨をさらに黒く炭化させ燃え盛る骨の残骸だけがある。


「無事……じゃないみたいだけど、死ななかっただけ上出来ね」


 もうほとんど何も見えない才悟郎の視界に映ったのは、物々しいプラズマランチャーを構えた、15センチばかりの人影で。


「ぶ、るー……」


 かすれた声でその名を呼ぶと、人影は小さな体で大きくうなずく。


「よく頑張った。帰りましょう、ラック」


 その言葉を聞き終わるとほとんど同時に、才悟郎の意識の糸はぶつりと切れた。

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