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だいさんわ。レッツダンジョン!イエーイ!

「いいえ待てないわ。今日のご飯がかかってるもの」


 ブルーは腕組みをして、空中で仁王立ちしながらピシャリと言い切った。ようやく現状を朧気ながらうっすらなんとなくちょびっとだけ気持ち理解した才悟朗は再び谷底に蹴り落とされた気分である。


どう(Do)いう(you)意味(mean)?」


「どうもこうもそのまんまよ。食料生産施設どころか材料すらないんだから、店屋物に頼るしかないじゃない?」


「え、店とかあんの?」


「あるわよー。超絶広域売買ネットワーク『神ネット』で揃わない物資はないわ!」


「名前安直すぎでわ?」


「いーのよ。こういうのはわかりやすいほうが。で、神ネットでものを売り買いするときの共通通過がゴッドポイント、略して『GP』」


「うわあ予想通りの安直さ」


「うっさいわねー。さてこっからが重要なんだけど、手っ取り早くGPを稼ごうと思ったら、やっぱダンジョンアタックが一番なのよ」


「いやさ、そもそもダンジョンってなによ?」


 ブルーは心底めんどくさそうな目で、そっからぁ? とため息を吐く。そっから、っていうかまずそこでは??? 才悟朗はいい加減暴れだしたくなったが、社会経験で鍛えられた鋼の自制心でそれをこらえ、頷きのみで返す。


「ダンジョンってのは異次元に発生したマイナスエネルギーの集積体よ。このフィールドでも夜になればモンスターとか出てくるけど、ダンジョン内での発生率はその比じゃないわ。つまり稼げるってワケ」


「うーん意味がわからない。いろいろ脇に置くけど、何でモンスター一杯いると稼げるんスか」


「そりゃ、モンスターを倒せば報奨金が出るからよ」


 ブルーがゲスい目つきで親指と人差し指で輪っかを作った。うーん女神のやるジェスチャーじゃない。要約すれば害獣駆除のようなもので、お役所仕事感がすごい。


「てか、そのモンスターって人間がどうこうできる相手なの?」


「ハンッ、人間風情がどうこうできるわけないじゃない。驕りすぎじゃない?」


「えぇ……無茶ぶりやん……」


 どーしよ話し通じてる? これ。仰向けで力なく寝そべりながら、才悟朗は途方に暮れていた。それをみとめて、ブルーは慌てて補足した。


「人間じゃ逆立ちしたって無理だけどさ、ラックならだいじょーぶだって。もう人間じゃないんだし!」


「それフォロー?」


「もちろん」


 うーん、思考スケールが神基準。まあ、フォローのつもりならそういうことにしておこう。純粋な善意で他意はないみたいだし。才悟朗はゆっくりと体を起こした。


「で、どうすりゃいいの? まさか着の身着のままで突っ込めとか言わないよな?」


「言うわけ無いでしょーが。装備もなしに突っ込んだら無駄死に確定よ」


 ビシッと才悟朗を指差してブルーは言う。才悟朗はそれを聞いてひとまず胸をなでおろした。


「初期装備はそこのチェストに入ってるわ。早速確認してチョーだい」


「へぇー、どれどれ」


 なんだかんだ、才悟朗も中年男性、いやさ男の子である。加えていえばオタクの気もある。ダンジョンに突っ込めと言われれば気後れするが、しかし装備がどうとか言われると興味を惹かれるのはまた事実なのだ。

 ブルーの指し示したチェストというのは、マインクラフトのラージチェストまんまであった。出来のいいファンアイテムだと言われれば納得できそうなしつらえだが、作りはしっかりとしていて質実剛健である。


「ン、どうやって開けるんだ、これ?」


「あー、開けるっていうより引き出す感じよ。白い制御盤に手をかざせばわかると思う」


「引き出す……? 制御盤っていうと、これか」


 言われるがままに制御盤に手をかざすと、ピピッという短いピープ音とともに眼前に『認証成功』の文字だ投影され、続いて内容物がリスト形式で表示される。えぇ……? SFやん……。才悟朗は驚くより先に困惑した。


「あとは取り出したいものにカーソル合わせて取り出しボタン押せばいいから。装備品は装備するか聞いてくるし、装備するならYESね。今着てる服は自動的に収納されるから」


「げ、ゲーム的すぎでは……」


「仕様です」


 そう言われてしまえば才悟朗としても黙る他ない。内容物リスト内には「新人ユニット初期セット」という項目があり、装備品のアイコンマークが付いているからおそらくこれであろう。才悟朗はそうあたりをつけて取り出しボタンを押した。鎧の着方なんてわからないので、もちろん装備しますか、についてはYESを選択する。

 一体どのように着替えるのだろう。才悟朗が少しばかりウキウキしながら待っていると、いつの間にか彼は装備を身に着けていた。


 装着のプロセスは0.05秒で行われる。では装着プロセスをもう一度見てみよう。


「ギャバン……!!」


 才悟朗はどこへともなく絞り出すようなツッコミを行った。ブルーの生ぬるい視線が痛い。

 ともあれ、装備である。

 才悟朗の全身を包むのは、白い装甲服である。関節部位こそ薄手の素材だが、致命的部位については厚い装甲板がそれを守る。頭はすっぽりと装甲ヘルメットに覆われ、内部のヘッドマウントディスプレイには酸素残量や電力量、トイレパックの容量などを示すインジゲーターが映し出されていて、ほかにも様々なステータスが表示されていた。

 かなりの重量を持つはずの装甲服はしかし、全身のパワーアシストによって羽のように軽い。

 武装は左前腕部に超振動ナイフひと振り、右前腕部にニードルガン一門、左腰にはレーザーブレードをひと振り佩いていた。


「ギャバン………!!!」


「残念ながらコンバットスーツじゃなくてマルチプルエクスプローラースーツね。安価で信頼性の高い量産モデル、『MMES-Wスノーホワイト』。あたしとオソロってワケ」


「ファンタジー詐欺だこれ」


「ダンジョン初心者なんだから使いやすい装備を渡すのは当然じゃん? ひのきの棒だけ持たせてほーりだすようなことすんのはドラクエの王様だけっしょ」


「ありがたいにはありがたいけど風情がない……」


「ぜーたくいわないの。じゃ、次はスキルとろっか」


「ほうスキル」


 才悟朗の目がキラリと光った。ここまでゲームのような世界ならば、きっとそのたぐいもあるのではと期待していたのだ。ようやくファンタジーっぽくなってきた。


「スキルは自然に生えたり、スキルポイントを使って無理やり生やすこともできるわ。基本、どっちにしても効果は変わんないかな。今は初回特典ってことでスキルポイント1000点が付与されてるはずよ」


「思った以上にゲームっぽい」


「人間を効率的に神へ引き上げるために組まれたシステムだからねー。システマチックなのは当然っちゃ当然かな。とりあえず初期スキル取るまえにステータス確認しよっか」


「ステータス! そういうのもあるのか……」


「ハイハイ。HMDにステータスの項目あるでしょ? 視線入力で選択できるから、開いてみて」


「これか……おっ」


 才悟朗がくだんの項目を選択すると、ディスプレイの隅に新たなウィンドウがポップした。視線を合わせると、それは拡大されて読みやすくなる。

 記載されているステータスは、以下の通りである。


 /// STATUS ///


 個体名:内守 才悟朗

 読 み:ダイス サイゴロー

 元種族:human

 性 別:男

 年 齢:20(固定)

 身 長:175.535cm

 体 重’: 68.016kg

 血液型:A

 H P:100/100

 M P:100/100

 SAN: 60/100

 STR:15

 POW: 5

 DEX:10

 SIZ:10

 APP:11

 INT:11

 EDU:18


 /// SKILL ///


 不滅

 → 存在の保護

 適応

 → 環境への適応を補助。削除不可

 精神保護 Lv.4

 → 精神的負荷の緩和

 形状認識 Lv.2

 → 物体の形状把握の精度及び速度上昇

 設計製図 Lv.3

 → 設計図面の作図精度及び速度上昇

 電算機(操作) Lv.5

 → 電算機の操作精度及び速度上昇

 指示 Lv.2

 → 指示の伝達精度上昇及び成功率上昇

 体術 Lv.0

 → 体術関連行動に補正


/// END ///


「これっていい方?」


「んー、フツーかな。精神力が貧弱だけどほかはそこそこ。弱い精神はスキルで補うタイプね。リーマンに多い傾向かしら。昔なんかスポーツやってた?」


「高校まで空手やってたけど、三十年も前だしもうほとんど覚えてないな。だからLV.0ってこと?」


「そゆこと。レベルは結構簡単に上下するから、マメに確認しとくといいわ」


「うーん製図スキルとかすぐなくなっちゃいそうだ」


「そうでもないかもよ? じゃ、次はスキルの新規獲得ね。ステータス項目のツリーにスキル管理があるから、起動してみて」


「おっ、これか」


 スキル管理を起動すると、現状獲得しているスキル一覧とスキルポイント、そして管理メニューが表示される。実にゲーム的だ。管理メニューから「取得」を選択すると、現在獲得できるスキルのリストが表示された。なかなか膨大な量だ。表示をツリー形式に変更すると、様々なスキルが派生したり統合したり収束したりで余計ややこしかったのでリスト形式に戻す。


「名前もわからんスキルが結構あるなあ……やり込み要素?」


「流石に全スキルコンプは無理かな。いやどーだろ、わかんないけど、世界管理者まで目指すならやってもいーかもね。スキルコンプって要するに全知全能ってことだからサ」


「あー、なるなる。まあ余裕があれば。で、どれ選んだらいいのコレ」


「そーねー、ひとまずは「戦闘心得」「冒険心得」を取ってレベルを3くらいまで上げればいいかな」


「フーン、どんなスキル?」


「「〜〜(なになに)心得」系のスキルはその分野に対する知識とか体の動かし方を広くあさーく取得できる複合スキルね。深い知識とかまではカバーできないけど、初心者ならとっといて損はないかも」


「ほーん」


 「戦闘心得」「冒険心得」それぞれ取得に必要なのは250点だ。「罠察知」「剣術」なんかのいわゆる単一スキルがおおよそ50〜80点辺りなので、比較的高額と言えるか。とはいえそこまで隔絶したポイント差ではないので、ブルーのいうとおり本当に広く浅いのだろう。才悟朗はその二つのスキルをとりあえず取得した。


「うわぁ、これは……」


 才悟朗は右手で額を抑えようとしてヘルメットに遮られる。えも言われぬ気持ち悪さがあった。今まで微塵も知らなかった知識がまるで常識のように頭の中に居座っていて、言いようのない違和感がある。全身に鳥肌が立って、脂汗が流れた。HMDにバイタル警戒のアラートが表示される。


「吐きそうだったらバイザー上げないと悲惨なことになるわよー」


 ブルーは才悟朗の様子になんら慌てた様子はなく、それどころかケラケラ笑っていた。


「お前……こうなるのがわかってたなら……せめて忠告くらい……してくれよぉ」


 才悟朗は情けない声で恨み言を絞り出した。まだ我慢できるが、気を抜くとすぐにでも胃の中身をぶちまけてしまいそうだ。バイザーの開け方がわからないので、それだけは阻止せねばならない。


「ま、すぐに納まるしじき慣れるわよ」


 気楽に言ってくれるなぁ! 才悟朗は抗議の声を上げる余裕もないので、目線だけで抗議の代わりとした。

 1分ほど経つと、確かに不快感は薄れ、新たにねじ込まれた知識も「馴染んだ」という漠然とした感覚がある。息も落ち着いたところで、次はスキルのレベル上げだ。スキル管理のメインメニューに戻り、レベル管理メニューを開く。GUIはシンプルで、各スキルの右側にレベルを増減するためのインタフェースがあり、操作するとレベルの増減に合わせてスキルポイントも増減する。最終的に決定ボタンを押した時点で変化が確定されるらしい。レベルを1から2にあげるのに必要なポイントは100点。2から3だと200点、3から4で400点と、倍々に増えていく仕組みのようだ。取得よりもレベル上げの方が難しいように設定されているのはまあ順当だろう。ちなみにレベル減少に伴うキャッシュバックは一律100点のようだ。割に合わないようなレートだが、実装されている以上は意味があるのだろう。


「バイザーの開放ってどうすりゃいいの」


「首筋のボタン押せば開くわよー」


「これか」


 音もなくバイザーが開いた。再び押すと閉まる。全く音がしないので、いろいろ挟まないように気をつけねば。――さて。

 才悟朗は小屋を出て、いつでもどうなってもいい状態で決定を押した。レベル1の知識であれだ。2つも上がれば、それこそ昏倒したって可笑しくはない。


「えーい、ままよ」


 才悟朗は決定ボタンを押した。

 その瞬間に脳内で未知の知識がさも当然のように既知になり、五感が研ぎ澄まされ、目に映る世界の姿が刷新されていく。そして当然のように、バックファイアとも言うべき反動が強烈な不快感という形で才悟朗を襲った。

 しかし腹の底からこみ上げる嘔吐感は先程よりもだいぶマシで、才悟朗は安心するやら拍子抜けするやら。ひとまずは取り越し苦労に終わったことに肩を撫で下ろし小屋へと戻った。


「さっきよりはいい顔じゃん」


 才悟朗を待ち構えていたブルーは空中に仁王立ちして、不敵な笑みを才悟朗に向ける。


「さっきよりはだいぶ気分がいいからな。コレって反動が少なかったの? それとも慣れなの?」


「慣れね。ラックの体がスキルレベルの変動に適応したってコト。取得よりもレベル変動のが、よっぽど負荷は高いんだから」


「適応ねえ。あの消せないスキル、こういうことだったのネ」


「そーゆーこと。じゃ、準備万端整ったわけだし、行きますか」


「ダンジョン?」


「イエスダンジョン、レッツダンジョン! イエーイ!」


「……いえーい!」


 こうしてブルーの勢いにおし流される感じで、才悟朗の初ダンジョンアタックは敢行の運びと相成ったのだった。

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