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15話

「まあ姉さんらしいといえば、らしいですね」

 一通り聞いた楓子はそんな感想を漏らした。

「昔から打たれ弱いくせに度胸だけはあるというか。確かに姉ならそういうことをするだろうなとは思います」

「君たちも同じ人種だよ」

「君たち?」

「楓子さんと湯島君だ。楓子さんは桜子さんを悪く言われて僕を殴ったし、湯島君は髪の色がコンプレックスな君を気遣ってわざわざ染髪してるんだろう。そういう他人のために行動できる人が、僕の言うところの魂の高潔な人なんだ」

「――気にしすぎだと思いますけどね。孝平は確かにそんなことを言ってますけど、別にそれで私が救われてるなんてことはないですよ。あいつの自己満足です。さっき言ったように私も自分のために音桐さんを殴りました。

姉さんの場合だって、それでいじめが解決するとは限らないじゃないですか。いじめを本当に解決するだけなら先生にでもこっそり告げ口するほうが確実なんじゃないですか」

 楓子の読み通り、あのとき目撃したいじめはまだ続いている。ただ少しだけメンバーシップが変わっていた。一番奥にいた派手な女生徒だけはめっきりいじめに参加している姿を少なくとも音桐の知る限りでは見かけなくなった。改心したのかどうかはわからない。

 桜子の行為にはいじめを止める以上の価値があったと音桐は思っている。面と向かって自分と同じ立場の学生が止めに入ってくれるというのはそれだけできっと救われた気持ちになるんじゃないだろうか。

「実際に行動し得るかが大切なんだ。僕はあのとき行動できなかった。自分の不利益と天秤にかけてまで人を助けることが僕にはできない。

 そして次の機会にも、あのとき星合さんに尊敬の念を抱いたにもかかわらず僕は彼女が傷付くことを止められなかったし、そのあと助けることもできなかった。そればかりか自分の心の弱さに負けて彼女を一緒になって傷付けたんだ」

 音桐は文芸部で桜子の悪口が交わされた日のできごとをそのまま語った。楓子は何も返してはくれなかった。

「わかるだろう。僕は彼女と釣り合ってなんかいないし、彼女の前に平気な顔して姿を表せる人間じゃないんだ」

「だからって謝らないんじゃ一生このままだよ。釣り合ってるかどうかはわかんないし、謝って姉さんが赦してくれるかどうかもわからないけど、音桐さんは謝りたいんだよね? 多分今謝れなかったら音桐さんは一生謝れないですよ」

 そうかもしれないな、と音桐はつぶやいた。

「まあ打ち明けるのか、そして打ち明けるとしていつ打ち明けるのかは音桐さんに任せるよ。もう前みたいに強制はしない。音桐さんの言っていることは相変わらずいまいちわからないけど、尊重はするよ」

「ありがとう」「ただし自分で蒔いた種なんだ。自分でけじめつけてよね」

「けじめとは」

「だから姉さん悲しませるような真似だけはすんなよってこと、ですよ」

「わかったよ。必ずいずれ星合さんには伝える」

「それと。音桐さん自身がどう思っているかは知りませんが、音桐さんは人のために行動できる人ですよ。姉さんは音桐さんが病室に来るようになってからきっと救われたし、嫌がる私を無理矢理自分の家に連れ込んだりするし」

 その表現は誤解を生みそうだ。

「美人の同級生の見舞いに行くのが嬉しくない男子高校生はいないし、その妹さんに優しくするのもやっぱり当然の反応だろ。

 それにどちらも、僕にとって不利益はなかったから」

 それきり音桐と楓子は一言もしゃべらなかった。音桐たちは焼きそばやイカ焼きetcを購入して皆の下へ戻ることにした。

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