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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪夢のもぐもぐハンバーガー

作者: 飯屋魚

アメリカ中西部のアイオワ州。


ハッキリ言って田舎である。見渡す限り畑しかない。冗談や誇張抜きで、畑ばっかである。なんせ土地の90%以上が農業用地で、人口の75パーセントが農業関連の仕事に就いているといえば、どれほどのものか理解していただけるだろう。


この州を、アメリカ人にひと言で表現させると『アイオワ州は存在してるよ』になる。

それだけ存在感が薄いのだ。


そんな田舎で刺激のないアイオワ州のマディソン郡。

かつて『マディソン郡の橋』というベストセラー小説と、その映画化で、一世を風靡して観光地化しているローズマン・ブリッジからほど近いファストフード店で事件は起きる。



「マジで、この店のハンバーガーが絶品なんだって!」


そう言ったのは胸板がはち切れんばかりにパンパンなジャックである。


━━ジャック・ハマー【21歳】大学生♂

  趣味:筋トレ

  死亡確率:55パーセント

       脳筋は直ぐ死ぬかorなかなか死なないか、の2択である。

       でも、結局死にそう。


「隠れた名店ってやつかい?」


迫っ苦しい店内を見回してメガネのケインが言う。


━━ケイン・ホワイト【21歳】大学生♂

  趣味:サッカー

  死亡確率:20パーセント

       定番のインテリ・メガネである。

       主人公っぽいので最後まで死なないかもしれない。


「わたしも食べたけど、ほんと美味しかったんだから」


言いながら、恋人のジャックに寄りかかるのはボインボインのリタだ。


━━リタ・ヘイワース【20歳】大学生♀

  趣味:可愛らしい下着集め

  死亡確率:55パーセント

       アメリカ人が大好きな金髪の女、わくである。

       こういった手合いは恋人によって決まる。ジャックが死ねば、リタも死ぬだろう。


「楽しみね」


おっとりとアリサが言った。


━━アリサ・ブルック【20歳】大学生♀

  趣味:射撃

  死亡確率:20パーセント

       金髪でスタイル抜群のヒロイン枠。

       今はケインと意識し合っているだけだが、これが恋人同士になれば死亡確率は居大幅に減じるだろう。しかし調子にのってパコパコしちゃうと、途端にケイン諸共に死んじゃうかも。


ジャック、ケイン、リタ、アリサの四人はテーブル席について、注文の品がくるのを今か今かと待っていた。



店は狭いし、けっして清潔でもない。

日本でいうところの寂れた駅前なんかにある中華料理屋みたいなものである。


時刻は午後の8時。閉店間際ということで、あまり客はいない。


「ち、もう帰れるかと思ってたのによ」


そう小声で文句を言いつつもパティを鉄板で焼いているのが黒人枠のでぶっちょダニエルだ。


━━ダニエル・オコナー【43歳】ラッキー・バーガー店員 調理担当♂

  趣味:ダイエットをして痩せた自分を妄想すること

  死亡確率:75パーセント

       コックで生きながらえるのは『沈黙の戦艦』と『ディープ・ブルー』だけである。

       なので、遅かれ早かれ死ぬだろう。


「手を動かせ、手を!」


ラッキー・バーガー13号店の店長であるチェイスが自分はすっかり帰り支度を整えながら言った。


━━チェイス・チョイス【33歳】ラッキー・バーガー店長♂

  趣味:映画鑑賞

  死亡確率:100パーセント

       名前が語呂ごろで付けられて、趣味がテケトーなとこでもうね。

       たぶん、まっさきに死ぬだろう。南無南無。


「へいへい」


面倒くさそうに応えて、ダニエルはハンバーガーを4つこしらえた。


「できたぜ!」


「ほーい」


と出来立てほやほやのバーガーをトレイに乗せたのは如何にも田舎くさい垢ぬけてないウェイトレス服を身に着けているレイチェルだ。


━━レイチェル・リットン【23歳】ラッキー・バーガー店員 ウェイトレス♀

  趣味:人間観察という名目で来店するお客様の家庭を想像すること

  死亡確率:50パーセント

       リタに代わって、主人公っぽいケインの恋人になれたらワンチャン。

       でも短編なので速攻しないと、死んじゃうぞ!


「お待ちどおさまでーす」


レイチェルが配膳すると


「おほ! 来た来た!」


ジャックは待ってましたとばかりに両手を揉んでから、バーガーの袋を取り去った。


「見た目は普通だな」


ケインの言う通りで、まったくもって変哲のないバーガーだ。


フツーのバンズに。

フツーのパティ。

フツーのトマトケチャップ。

フツーにレタスが1枚とピクルスが挟まっている。


これで200円…もとい2ドルである。


「ですね」


アリサがうなずく。


「でも、ほんとに美味しんだよ、これ」


銘々もバーガーの包み紙を取り払って、さぁ食べようという時だった。


ガチャン! とドアを乱暴に開けて真っ黒なライダースーツを着た何者かが飛び込んできた。


ギョ! として店内のみんながライダースーツに注目する。


ライダースーツは乱暴にフルフェイスのメットを脱いだ。


4人の前にあるバーガーを見るなり


「食べちゃ駄目!」


ミカコは叫んだ。


━━ミカコ・サカウエ【26歳】自分探しの旅に出ていた日本人♀

  趣味:詩を書くこと

  死亡確率:65パーセント

       白黒黄と登場させないと世間的にうるさいので、仕方なくのアジア人枠ですから。

       まぁ、死んじゃうんじゃない?


なんだ、なんだ! と注目を集めながら、ミカコは半ば駆け足で4人に近づくと、大口を開けたままでいたジャックのバーガーを叩き落とした。


「おい!」


憤るジャックの前で、ミカコは床に叩きつけたハンバーガーをぐちゃぐちゃに踏みにじる。


この狂行に、4人は気を飲まれた。

特にアジア人はどいつも同じ顔に見えるから、恐怖が一層だ。

カラテとかケンポーとか使うかもしれないし!


もっとも、そんなことを言ってられないのが店長だのチェイスだ。


「警察に連絡しろ」


レイチェルに指示すると、怖いもの知らずにもミカコに迫った。


「あんた、どーいう積もりだ? 直ぐに警察が来るからな!」


ふん、とミカコは鼻で笑った。


「無駄よ」


「はぁん?」


チェイスが眉間に皺を寄せる。


と。


「てんちょー、警察につながりません」


レイチェルが半泣きで言った。


「言ったでしょ?」


ミカコに今度こそ視線が集まる。


ミカコは言った。


「よく聞きなさい! 世界中の人がハンバーガーに襲われてるのよ!」




ババン! とココでタイトルが表示だ!


悪夢のもぐもぐハンバーガー




ぷ、と吹きだしたのはケインだ。


「ハンバーガーが人を襲う? 何を馬鹿な」


言うなり、手にしていたハンバーガーを「がおー」とからかうみたいにアリサに突きつけた。


「もぉ、やめてよ」


まんざらでもなさそうにアリサがクスクス笑いながら言う。


その時だ。


ガバンチョ


ハンバーガーが大きく口を開けたのだ。


鮫やピラニアもかくやの鋭い牙がずらりと並んだ口で、アリサの顔面をひとくちで削って食べてしまった。



ピューとシャワーみたいに鮮血がケインを濡らす。


ヒューとあけっぴろげになった喉から空気をもらして、アリサがバタンと椅子ごと倒れた。



━━おーと、ココで予想外の展開です!

  まさかまさかの1人目の犠牲者が死亡率20%のアリサ・ブルックさんでした。

  この展開をどう見ますか、解説のヨドガーワさん?


━━映画はね、予想外のことがあるから面白いんですね。

  しかし、これで死亡率がまったく意味のないことが分かりましたね~。



「きゃああああああああ!」


「うわああああああああ!」


ラッキー・バーガーの店内が阿鼻叫喚に満たされた。


ケインの落とした化けバーガーがガチガチ歯を鳴らしながら床を疾走して、チェイスに飛びかかったのをミカコが「えい!」と鋭い蹴りで粉砕した。


もっともチェイスはただでは済まない。


爆発したみたいにミンチになった化けバーガーを顔面にかぶったのだ。


一方でリタとアリサのハンバーガーも今や化けバーガーに変態していた。


ガッチンガッチン、トラバサミみたいな口を開けてリタに殺到した化けバーガーを


「おおおおおおお!」


ジャックがパンチした。


しょせんはハンバーガーである。パンチ1発で吹き飛んで、壁にぶつかってボカンと爆発した。


あとの1体は。


シュカカカカ! と全身・・・もとい全体に真っ黒な棒みたいなものを刺されて転がり落ちた。


それをダニエルが踏みつぶす。


黒い棒の正体は、焦げっ焦げに揚げたポテトだった。

それをダニエルが手裏剣さながらに投擲したのだ!


「ダニエルさん、あなた!」


目撃していたレイチェルが目をまん丸にする。


「あなた…カラテを習ってたわね」


ミカコが指摘する。


「その通りさ。ボクはミヤキさんという日本人の老人からカラーテを習って、このあいだまで海軍の特殊部隊に在籍していたんだ」



━━来ました! セガールですよ!


━━いいですね~、わくわくしてきますね~。



「あなたみたいな人が、どうしてこんな場末のファストフード店に?」


「色々あっ」


とまで言って、ダニエルが血反吐をはいた。


こんにちは!


とお腹を食い破って化けバーガーが3体も飛び出した。

それこそ名作『エイリアン』のパクリもパクリ、丸パクリな感じで、だ。


というかダニエル。

ハンバーガーをつまみ食いしていたのだ!



━━ちょーと待ってくださいよ。

  ダニエルはハンバーガーを丸呑みしてたってことですか?

  無理がありますよね?


━━映画なんてものはですね~、無理がまかり通ってこそなんですよ。

  それにコレはZ級映画なんですから、そういうところは笑って受け流さないといけませんね~。


3体の化けバーガーが飛びかかった。


アリサの返り血で視界を塞がれていたケインは哀れにもパックンチョ!


同じく化けバーガーのミンチで目つぶしされてしまったチェイスも、いッただきま~す!


最後はレイチェルに向かったけど、これは彼女が咄嗟に手にしたモップで床に叩き落とされて


「ハン…バーガー」


瀕死のダニエルが食い意地で手を伸ばしてグシャリと握りつぶした。


そのままガクリと事切れる。


ダァアアアニィエエエエル!



━━ずんどこと登場人物が死にますね?


━━短編ですからね~。

  仕方のないこととはいえ、もうすこ~し、面白みが欲しいところですね~。



「きゃああああああ!」


狂乱したリタが席を立って、お店のドアに手をかける。


「外は駄目!」


ミカコが言ったけど、もう遅い。


ドアを開けたリタは屋外を走り? 回っていた幾体もの化けバーガーにガブガブとられてしまった。


「リタアアアアアア!」


助けに行こうとするジャックの腕を、ミカコがおさえる。


「もう無理よ、助けられないし、死んでるわ」


リタの死体が障害となって開け放ったままのドアから、次々に化けバーガーが侵入してくる。


「調理室に!」


レイチェルが先導して、生き残った3人は辛くも別部屋の調理室に逃げ込んだ。


「その棚をはやく!」


バリケードにすべく、ステンレスの棚をドアの前に横倒しにする。


待つほどもなく、ドッカン、ドッカン、扉が叩かれるかと思いきや。

トントンと幼児が遠慮がちにノックするみたいな音しかしない。


しょせんはハンバーガー。

体がパンなので、強くぶつかってもこの程度なのだ!


「ふ~」


とミカコが脱力して座り込む。


その前にジャックが仁王立ちした。


「あれは何なんだ!」


「言ったでしょ、ハンバーガーよ。あなたも見たじゃない」


思い出してしまったのだろう、ジャックが「ゲンゲロゲー」と胃の内容物を吐き出す。


「でも、どうしてハンバーガーが?」


レイチェルが泣きそうな顔をして言う。


「さぁね」


ミカコは肩を竦めた。

日本人として一番鼻につく仕草である。

イラ! とくる仕草である。

このアメリカかぶれが!


「わたしもミート・バーガーに居たら襲われたのよ。ニュースだと世界中で同じことが起きてるみたいよ」


そう聞いて、ジャックもレイチェルも自分のスマホを取り出してニュースを確認した。


世界各地で同じような事件が起きていた。

現場でリポートしていた美人キャスターが、呑気に生放送してたところで、化けバーガーにガブリンチョされる。そんな鮮血ドバー動画が早々にネットにUPされたりしていた。


「オー、マイ、ゴッド!」


レイチェルが天を仰いで


「シット!」


ジャックが口汚く罵る。


そして。


そして?


ブッツリと映像は途切れた。



━━ちょっと! テープが切れてるだけど?


━━これは、まさか!


━━え!?

  ヨドガーワさん? なにかあったんですか?


━━これは…これは…。

  予算が足りなくて、ここまでしか撮影されてないのでしょうね~。



ということで、ここからはダイジェスト!


化けバーガーの猛威は留まることを知らずに、世界中を襲った。


人々は、ただ待った。


しょせんはハンバーガー。

腐るのを待ったのである。


ところが!


化けバーガーは腐らなかった。


読者の皆様もご存じの通りに、とある大手ファストフード店のハンバーガーは防腐剤がたっぷりなので腐らないしカビも生えないのだ!


という設定だったのだけど。


詳しく調べたら、フツーに腐るしカビるんだってさ。


なのでこの設定はNG。


防腐剤とかは関係なしに、化けバーガーなので謎のパゥワーで腐らなかったしカビもしなかった。


人々は絶望した。


そんななかである。


化けバーガーで仲間割れが起きたのだ。


理由はレタスだった。

化けバーガーといえどもレタスは直ぐに腐ったのだ。


ほら。最初の設定だと防腐剤ウンヌンだったからさ…。


化けバーガーは3つの組織に別れた。


ひとつはエリート・化けバーガー。

本物のレタスを常に取り替えているバーガーである。


ふたつが、だつ・化けバーガー。

レタスを『要らぬ!』と拒んだバーガーだった。


みっつが、にせ・化けバーガー。

レタスを、ろうでつくった作り物で代わりにしたバーガーである。


血で血を洗う。

もとい、シェイクでシェイクを洗うような戦争だった。


まず、鼻につくエリート・化けバーガーを、脱バーガーと偽バーガーが連合を組んで襲ったのだ。


少数だったエリートは全滅した。


そうなると、今度は脱バーガーと偽バーガーとが争った。


ひどい戦いだった。

昨日まで親友だった化けバーガーが、今日は敵同士で殺し合うのだ。

父親は戦場に行ったまま戻らず。

母親を失った化けバーガーは何万体にも及んだ。


そうして……大戦は双方の滅亡をもって終結したのだ。



「あ~、終わった終わった」


調理室からジャックが出てきた。


「マジ、かんべん」


おなじくレイチェルも


「げぇ~ぷ」


ミカコも出てきた。


しかし、その姿はあまりにも様変わりしていた。


だって、食べるものと言えばフライドポテトとシェイクしかないような状態だったのだ。


3人とも見事に肥えていた。

体重、100キロ越えである!


ということで。

お~しまい!


ファストフードの食べ過ぎには注意しようね!


以上。プレイステーションの迷作。『ゼノギアス』並みにお送りいたしました。


うん、満足!

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― 新着の感想 ―
[一言] ダメだというのに油断する若者の末路、いきなり出てくるアクション要素、容赦ないスプラッタ要素、最後に加わる少々強引な教訓入りのまとめ…まさに何段にも積まれたハンバーガーの中身のようにこれでもか…
[良い点] メタい要素が多分に含まれるホラーコメディーという新しいジャンルを作り出した一作品。結構好きです。 [気になる点] 「あんた、どーいう積もりだ? 直ぐに警察が来るからな!」 積もり→つもり…
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