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寂しい侍女は、高慢王子の一番になる  作者: 三国司
建国祭編

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37日目(7)

「私は本当、すごい悪女なのです。嘘の塊なのです。殿下の気持ちを弄んだのは申し訳なく思いますが、王妃様の命令でしたし、仕方がないでしょう?」


 これもロキオ殿下をお手本にして、つんと顎を上げる。そしてさらに高慢な態度で髪を払った。

 ロキオ殿下は顔をしかめて言う。


「これまでの私に対する言動も全て嘘だったと認めるのか?」


 これに頷くのは辛い。ロキオ殿下を好きだという自分の想いも否定する事になるし、殿下を傷つける事にもなるから。

 けれどここで頷いた方が、最終的にロキオ殿下の心の傷は浅く済むだろう。

 私はしっかりと頷いた。


「そうです。全て嘘でした」

「嘘をつけ」

「え?」


 即座に返された言葉に面食らう。嘘でしたと認めたのに、それを嘘だと言われた。

 

「なんだ、今の演技は。酷いぞ。目も当てられない」


 ロキオ殿下は眉根を寄せたまま言う。


「明らかに嘘だろう。大体エアーリアが悪女なんて、正反対過ぎて笑える」

「なっ……! だって、ロキオ殿下がおっしゃったんじゃないですか! 私の事を、恐ろしい奴だって」

「む……そうだったな」


 殿下は腕を組んで首を傾げた。

 そして無言で考えを巡らせた後、私を真正面からじっと見つめて言う。


「冷静に考えれば、エアーリアが悪女なわけがないな。こんなに演技も下手なのに」


 自分の顎に手を当て、さらに少し考えて殿下は続ける。


「最初にエアーリアが言っていた事が、きっと真実なのだな。――王妃の計画に反対で、私を傷つけるような事はしたくなかったし、私を誘惑する気もなかった、というのが」

「殿下……」

「なのに私が勝手に惚れたのだ」


 ロキオ殿下はそこでフッと柔らかく笑った。


「疑って悪かった。エアーリアを愛しているからこそ、動揺してしまって冷静になれなかった。エアーリアの過去を疑った事も謝る。すまなかった」


 昼食会が行われた庭の方からはまだ人々のお喋りの声が聞こえてくるが、この回廊はしんとしていて静かだ。


「けれどエアーリアが恐ろしい奴だというのは間違いないな。控えめで優しく猫好きな性格は私の好みそのものだし、何の計算も策略もなく私の心をここまで掴むのだから」


 そしてロキオ殿下は晴れやかな表情をして言う。


「さぁ、覚悟を決めろ、エアーリア。もう嘘をついても無駄だぞ。私の事を好きなら好きだと言え」


 殿下とは対象的に、私はまだ動揺と迷いの中にいた。覚悟なんて決まらない。


「殿下、私にそれを言わせてどうしたいのですか? 殿下の婚約者は決まっているのに、私たちが想いを伝え合ったところで何にもなりません」

「それは分からないぞ。もしもエアーリアも私の事を愛しているなら、私は王妃や国王に訴えるからな。エアーリアと結婚したいと」


 私は大きく目を見開いた。


「そんな事……! 無理ですよ! サベールの王女様はロキオ殿下の事を気に入っておられて、結婚には乗り気なのです。この婚約を反故にすれば、大きな問題になります」


 しかしロキオ殿下は引かない。


「大きな問題にはならないよう、まとめてみせる。婚約を解消する代わりに、何かサベールの利益となる物や条件を差し出すとか、あるいは私がサベールの王女と会って、彼女に嫌われるよう演技をしてもいい。エアーリアと違って私は演技が上手いからな、きっと向こうから結婚は無しでと断りを入れてくるだろう」

「そんなに上手く行くとは思えません……」


 小さな声で自信なく言うと、ロキオ殿下は呆れたように口を開く。


「エアーリアは考えが後ろ向きだな。心配するな。必ず上手くいく。私が必ず、王妃もサベールも説得してみせる」


 ロキオ殿下が自信たっぷりに胸を張って言うと、本当に全てが上手くいくんじゃないかと希望を持ってしまう。


「だから教えてくれ。お前の本当の気持ちを」


 殿下は両手で、私の両手を握った。


「頼む……」


 アイスブルーの瞳は真剣で、意外にも表情には余裕がなかった。私がロキオ殿下を好きな事には気づいているはずだが、はっきりと言葉で伝えた事はないから不安なのかもしれない。

 自分を受け入れてもらえるという期待よりも、拒否されるかもという恐怖の方が大きいようだった。


「エアーリア」


 優しく名前を呼ぶ声が、私の頬を撫でていく。

 私の手を握る殿下の手には、不安からか力が入っている。


(こんなの……)


 私はぎゅっと眉根を寄せた。

 心臓の音がやけに大きく体の中で響いている。


(こんなの、拒否できるわけない)


 私はついに覚悟を決めた。

 たとえそうした方が全て上手くまとまるのだとしても、こんなに不安そうなロキオ殿下に嘘をつく事はできない。

 私は殿下に、いつも自信満々で高慢でいてほしいのだ。


「殿下、私はあなたの事が好きです」


 床を見るのはやめて、私は目の前にいるロキオ殿下を見つめた。


「私にとっての一番はロキオ殿下なのです。心から……愛しています。――これが私の本当の気持ちです」


 言った途端に、ロキオ殿下の瞳に喜びの感情が広がっていく。

 元々殿下は感情が表情に出やすい人だ。今も喜色をあらわにして、頬を赤く染めている。興奮の感情が私にも伝染してきそうなくらいだった。


「やっと言ったな……!」


 子どもように破顔して、ロキオ殿下は私を強く抱きしめた。ぎゅうぎゅうと音がなりそうなほどだ。


「く、苦しいです……」


 ロキオ殿下の肩に口を塞がれつつ、息も絶え絶えに訴える。

 拘束から開放されると私は必死で空気を吸ったが、まだ十分に息を整えられていないうちに、ロキオ殿下が私の唇を奪った。


「ん、う……」


 前にした時とは全く違う情熱的な口付けだった。まるでロキオ殿下の愛を行為で示されているようだ。私が思っていたより、ロキオ殿下の愛は激しくて重く、しつこいのかもしれない。

 

 そうしてようやく開放された頃には、私は赤面して息を乱していた。

 キスの間も上手に息をしていたらしいロキオ殿下は、呼吸を乱している様子もなく、私の手を引いて勇ましく言う。


「よし、まずは王妃に話をつけに行くぞ!」


 殿下、ちょっと展開が早いです……!

 

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