学園モノの5割は部活動。(3)
今回、やっと不良の部活が決まる!!
「はぁ〜〜。」
俺は廊下を歩きながら10回目のため息を付いた。そして、100回目くらいになる言葉を発する。
「部活・・どうしよ・・・」
ダイエットやるやる詐欺のようにたくさん呟く原因になったのは、あのサッカーから1日後の出来事だ。
その日、俺は廊下で渋井先生に呼び止められた。
「不良。明日までに部活決めておけよ。」
「・・え!?サッカー部の件で帳消しなんじゃないですか!?」
「当たり前だろう!!1年は絶対にどこかの部活に所属しなくちゃいけないんだ。わかったな!『明日まで』だ!」
・・・と、こんな感じで脅され、今――放課後に至る。
まったく『明日まで』って、どこの意地悪な継母だよ!!でもって俺はシンデレラか!!まあ確かにめっちゃ美しいってところは合ってるけど!!どっちかというと王子役にして欲しかったわ!!あ、でも戦闘民族の王子じゃなく、ハンサムキラリン王子で!!
――などと、そのようなことが言える立場ではないことはわかってる。何らかの部活に入らないと学園モノとして重要な1部分を失うからな。キーワード変えなきゃいけなくなる・・って、なんの話だ。
でも、俺のフラグで迷惑がかからない部活なんてないしな・・・。いっそ新しい部活を・・・いや、無理だ。俺、特に特技とか趣味とかなかったわ。
「・・・はぁ。これはもうお手上げかな。」
俺がつぶやいた瞬間。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいましたああああああああああああ!!!!!!」
「え・・・うわあぁぁぁぁぁあああ!?!?!」
突然、前から一人の女子生徒が走ってきた・・と思った瞬間、目の前にその人が居た。
こいつ、いつの間に!?あ、廊下の端に誰かいるな、と思った瞬間目の前に来たぞ!?まさか、ギア2とか神速とかクロックアップとかの使い手か!?もしくは新手のスタンド使いか!?
いや、でも・・・この人めっちゃ可愛いぞ!?
150くらいの身長、それにスリムな体とショートヘアーと小顔が相まって、小動物的な可愛らしさを感じさせる!!見た目は高1だが、頭脳は大人!!・・じゃなくて、胸につけた校章の色から2年だとわかった。でも、なんでこんな可愛い人が俺に?
はっ!まさか・・・告白!?
あ、あうう、あ、えええ、あおおおお、あっふあっふ、ふぇぇおおい!!!!
いや、落ち着け、俺。よく考えろ、俺。お前の美しさなら、こんな可愛い子が告白に来てもおかしくないだろう?これはラッキーなんかじゃない。必然だ。だから、慌てる必要なんてない。そうだ。ゆっくり、大人の対応をするんだ。
俺は、口角をミステリアスな角度に上げ、目を細める。どこからどう見ても大人の雰囲気だ。そして、そのまま話しかけようと口を開く。が、
「あなたが!!まだ校内で唯一部活に入っていない新入生、通称『ナルシスト不良』ね!!噂通りの変な顔ね!!」
それより先に、女子生徒がキラキラした目と天真爛漫な笑顔で不良を見上げてきた。やべぇ。めっちゃかわええ。・・・って、そうじゃなく。
・・・え?なんですか、その『ナルシスト不良』って?フランスのお菓子ですか?それとも新しいワインの銘柄ですか?まさか、新手のスタンド使いか!?
それに『変な顔』とは・・・。やはり、俺の大人の雰囲気は誰にも伝わらないのか・・・。早く時代が俺に追いつけばいいのに。
・・・まあ、細かいことは気にしないでいこう。そんなちっさい男だと思われたくないからな。恐らく、語彙が少し特殊な子なんだろう。うん。そうに違いない。
ここは、大人なヴォイスで告白しやすい雰囲気にしてあげないとだな。
「えぇ・・。そうですよぉ・・・。」
「良かった!!その噂通りの変な声、絶対あってると思ってた!!じゃ、ちょっと来て!!」
「えぇ・・・。・・・ん?ちょっ、え!?」
俺が大人なヴォイスを止め、『変な声』について抗議しようとしたときには、もう遅い。女子生徒は俺の腕を掴み、ものすごいスピードで走り出していた。
【3秒後】
女子生徒はキキ〜〜っと両足でブレーキをかけ、とある教室のドアの前でピッタリ止まった。
「ついた!!」
「は、はぁぃ・・・・。」
もちろんこれは大人ヴォイスじゃない。酔った人が「大丈夫?」と聞かれたときの反応だ。
だって早すぎるんだよ!!今まで乗ったどのジェットコースターよりも早かったぞ!?階段を10段飛ばしで駆け上がった時とか・・・もう・・・あ、ダメだ。思い出すだけで吐き気が・・。
疲労困憊している俺をよそに、女子生徒は目の前のドアを開け放った。
「新入部員!!連れてきたわよ!!」
『おお〜〜〜!!』
ドアの先にある教室の中は、椅子と机がすべて後ろに下げられ、前に広いスペースを作っていた。そして、そこで冊子を持ちながら動いていた3人の生徒が、一斉に女子生徒の方を振り向き、歓声を上げた。
俺が女子生徒に引っ張られて中に入ると、そのうちの2人――ぐるぐるメガネでオタクっぽい、高2を表す校章をつけた男子/白髪青目と無表情、白衣を着ていて校章が見えない女子――がいつの間にか目の前に居た。またか!!どいつもこいつもゴムゴムの実の使い手か!!もしかしてここってグランドライン!?
二人は、ものすごい勢いで喋りだした。
「おお〜〜!あなたが我らが演劇部に入会を希望した、『ナルシスト不良』殿ですな!!いや〜〜嬉しいでござるなぁ〜〜!!拙者、男一人で肩幅狭い思いをしてましたので、不良殿に来ていただいて本当にありがたいのでござる〜〜〜!!」
「えっ・・演劇部!?いやそれより、『ナルシスト不良』ってどういう・・」
「顔良し。身長良し。体型良し。声良し。完璧。」
「そりゃ当たり前でしょ。」
「問題点発見。性格に難有り。早急な対応が不可欠。」
「おっふ。加賀殿、相変わらずキツイこと言うでござるな!そんなことを言ったら、不良殿が怒ってしまうかもでござるよ?」
「比較結果。大田久手井が50%の比較対象で不良具辰より劣る。」
「半分もでござるか!!キッツいですなぁ〜〜〜!!」
「い、いや!ちょっと待ってください!!」
俺は二人――大田先輩と加賀先輩(?)の間に入って会話を止めた。危なかった・・・。これ以上喋られると俺の主人公としての立場が消えるとこだったぜ。
俺は、不思議そうな顔をしている大田先輩と、相変わらず無表情の加賀先輩(?)。そして、さっきからこっちを見ながらニコニコしているジェットコースター娘に向けていった。
「あの、色々と質問してもいいですか?」
「もちろんでござるよ!!何でも聞くでござる!!」
「許可。」
「うん!!どうぞ!!」
良かった・・。とりあえずはいい人たちみたいだ・・。もし悪い人たちだったら質問すると
「おぉん!?」
「あぁん!?」
「えぇん!?」
のどれかが返ってくるはずだからな。
よし。じゃあ一番大事な質問をしよう。これを聞いとかないと、何も始まらない。
「まずは・・・。僕のあだ名、『ナルシスト不良』っていうんですか?」
「そうでござるよ。」
「常識。」
「うん!!」
「グワッはぁっっ!!!」
クリティカルヒット!!!不良に100000000のダメージが入った!!
俺は廊下まで吹っ飛び、体をピクピク痙攣させた。大田、加賀、ジェットコースター先輩方はすぐさま俺を追って廊下に駆け出してきた。
「だ、だいじょぶでござるか!?」
「・・いや、何他人事のように言ってるんですか。」
「外傷なし。問題ないと推測。」
「内傷半端じゃないですよ。」
「あっはは!!派手にふっとんだね!!」
「・・・いや、それは流石にひどくないですか!?」
皆自分でやっといて何言ってんだ、って感じだったけど、おいジェットコースター娘。笑うってどういうことだ笑うって。俺はリアクション芸人じゃないぞ!?ならせめて「言うなよ言うなよ!!」くらい言わせてくれよ!!
ていうか、俺のあだ名『ナルシスト不良』って・・・。一体どこをどう見たらこんな美しい生徒にそんなあだ名つけるんだ・・。やはり、この学校はナンセンスな人ばっかりだな。
俺は腰をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。
「・・はぁ。じゃあ、2つ目の質問しますね。」
「おぉ!いいでござるよ!」
「了解。」
「うん!!」
「・・演劇部、って言ってましたけど、僕ここに入るんですか?」
すると、大田先輩と加賀先輩(?)は嬉々とした表情でパッとジェットコースター娘の方を向いた。
だが当のジェットコースター娘は、向けられた視線からさっと目をそらした。その様子から、大田先輩と加賀先輩(?)は何かを察したらしい。顔を「まさか」という風に歪めた後、グッとジェットコースター娘に詰め寄った。
「まさか・・・まさかでござるが武田殿!また強引に連れてきたのでござるか!?」
「え、あ、いや。そ、ソンナコトナイヨ。」
「分泌物量、体温の上昇を確認。武田伊舞のデータと照合。80%の確率で嘘と推測。」
「ほら、やっぱりそうでござるな!!電話で伝えられた時、声が震えていたからおかしいと思ったのでござるよ!!」
「いや!!でも、だって!!」
「肯定。だが否定。理想と現実の差が甚大。人材不足は肯定。だが人道面から拉致は否定。」
「全く、そうでござるよ・・。何度言ったらわかってくれるのでござるか?あ、不良殿。もう帰っても大丈夫でござるよ。付き合わせて悪かったでござるね。」
「え、ああ。え、あ、はい・・・?」
不良は思わず話を振られたことと、その内容にダブルで驚いた。
っと、危ない!3人称!!ここでちゃんと1人称に戻さないと、マジで俺が主役じゃなくなる!!
・・で。えーっと、もう俺帰っていいのかな?たしかに勝手に連れてこられたけど、今ちょっとだけだけど興味湧いてきてたんだよな。演劇部なんてあるの知らなかったし。
でもな〜〜。入ったところでやっぱりフラグで迷惑かけちゃうんだろうな。まあそれを言ったらどの部活にも入れなくなるんだけど、人に迷惑かけるよりは俺だけが渋井先生にバルス食らったほうがマシだし・・・うん。やっぱり入部はお断りしよう。
俺は、まだ紛糾している先輩たちに頭を下げたあと言った。
「えっと、じゃ、じゃあ。僕はこれで・・」
「待って!!」
その必死な声に、立ち去りかけていた俺は振り返った。そこにはジェットコースター娘――武田先輩が、何かを決心したかのようなキッとした顔で立っていた。後ろには不安そうな顔をした大田先輩と加賀先輩(?)がハラハラしながら(加賀先輩は相変わらず無表情だが)見守っている。・・あれ、これ結構ヤバイんじゃね?
俺が警戒心から身構える前に、武田先輩は動き出していた。マズイ!また富士急ハイランドに強制送還される!!まだ心の準備が!!あ!金!!金払ってないから!!無銭乗車だから!!!
俺の叫びも虚しく、アトラクションは動き出す。武田先輩は両手を前に出し・・・
「お願いです。せめて部活動体験してって下さい。」
・・見事なスライディングDO☆GE☆ZAを決めた。
【5分後】
「・・うん!その位置でオッケー!!」
俺は武田先輩に動かされ、教室の前のドアの近くに配置された。大田先輩と加賀先輩(聞いたら先輩だった。マジかよ。どう見たってロ)も、同じように俺の横に配置される。流石にこの2人は慣れてるなぁ。立ち方から気品が漂ってるよ。こう、顎を出すのがいいのかなぁ。
俺が持ち前の気品を更に高めていると、武田先輩が3冊の厚い本を持ってきた。
「ほら不良くん!!アント○オ猪木みたいな顔してないで、これ見て!!」
「え!?いや、違いますよ!!元気はありますけど何でもできます!!」
「後半は否定せんのかい!!そんなことより、はい!」
そう言いながら武田先輩は『台本』と書かれた本を俺に渡した。てか、これが台本!?国語辞典くらいあるぞ・・。恐怖で震えながら、俺はゆっくりとそれを開いて見た。・・って、おう!?なんだこの文字数!!1ページに3000文字位詰まってるぞ!?
俺は、隣で気品を出している大田先輩に台本を見せながら問いかけた。
「ま、まさか。この量やるんですか!?」
「・・・ん?・・ああ。台本でござるか。いやぁ〜、深夜に作っていたら止まらなくなってしまいましてな。気づいたらこの量になっていたでござる。」
「え!?この台本、先輩が作ったんですか!?」
そう言われて大田先輩は顔をニヤけさせながら頭をかいた。間違いない。この人が台本の作者だ。
全く、深夜テンションで物を作るから!!理性飛ばして作業するとろくな物ができないのは当たり前だろ!!
「・・はぁ・・。でも、すごいですね。ザッと見ましたけど、結構いいストーリーですし、冗長なところも説明不足なところもない。長さを除けば、完璧な台本ですよ。」
「おお!!そうでござるか!完璧な台本でござるか!!いやぁ〜〜。嬉しいでござるなぁ〜〜〜。3徹したかいがあったでござるよ!!」
「ええ!!特にここの、さらわれた王女様が侍女の助けを借り脱出――と思いきやそれは公爵の罠で、外には大勢の兵士がいた、ってところとか、ホントにもう最高です!!」
「そうでござるかそうでござるか!!そこが好きなら、こっちもおすすめ・・・」
大田先輩が俺の持つ台本を覗き込んだ、その瞬間。
ダン!
大きな音が隣から響いた。大田先輩・・じゃない。大田先輩も驚いて隣を向いてるな。あと1人・・え、まさか!!
俺は急いで左を向いた。そこには・・
「本番。準備。ふざけるな。」
明らかに起こった様子の加賀先輩が、とてつもない目力で俺たちを睨みつけているところだった。壁に拳がついているところを見ると、どうやら教室の壁を叩いたようだ。
って、なんだこの髪の毛!?逆立つを通り越して、宙に浮いてるぞ!?しかも髪の毛一本一本から、ただならないオーラを感じるんだが!?しかもさっきまで青色だった目が、なんで赤色に!?で、なんで怒ってても無表情を突き通すの!?怖いよ!!
大田先輩と俺は思わず抱き合い、ガタガタ震えながら答えた。
『ひゃっ、ひぃぇい!!!!』
「うん。」
すると加賀先輩は何事もなかったかのように立ち位置に戻った。髪の毛もスッと落ち、目も青色に戻る。全く、どこの孫悟○だよ・・。かメカめ波なら出せそうだけど。
そして、舞台が静まる。演奏会や映画の前と同じ、緊張感と期待に満ちた空気が流れた。・・おお。流石に部活なだけあって、真面目だな。こっちまでその気になっちまう・・って、俺もやるんだった。
・・あれ?そういえば、どの役やればいいのか言われてなくないか?
俺は台本を開いてみたが、やはりそこに指示は書いていない。もしかして、フィーリングでどれかを選べってことか!?舞台にキャラ選択要素はいらないって!!
えっと、ここにある役は、村人A、村人B、村人C、村人D、村人E、村人・・・・あれ?ちょっと待て。
「先輩。これ、役の数に対して部員の数が圧倒的に足りてない気が・・・」
だが俺が質問した瞬間に武田先輩が動き出し、舞台が始まった。
そして、その光景に俺は目を疑った。
説明が難しいので、その1コマを台本風に語ろう。
武田(キャリー)「なんで!?春の収穫祭が終わったら、一緒に結婚してくれるって、言ってたじゃない!!」
大田(ジョン)「いや〜。すまんでござる。どうしても父上が許してくれなかったのでござるよ。」
加賀(ジョンの父・ジェーン)「結婚。反対。」
武田(ジョンの母・メアリー)「まぁまぁおじいちゃん。ここはどうか抑えて抑えて。」
大田(ジョンの執事)「そうでござるよジェーン殿。ここはやめどきです。」
加賀(ジェーン)「うるせー。反対。反対。」
・・・と、こんな感じだ。
いやツッコミどころ満載すぎでしょ!!!なんで大田先輩と加賀先輩は頑なにその口調を通そうとするの!?ジョンがただのチャラ男になって、ジェーンが国会の前で座り込んでる人たちみたいになってるぞ!?それに、1人何役やるんだよ!!確認しただけで10以上あったぞ!?1,2人ならまだしも10人なんて覚えられるわけないじゃん!!
・・ん?なんか、先輩たちが一斉に俺のこと見てきた。俺、別に何も言ってない・・はっ!まさか、俺の心を読んできたのか!?こいつら全員サイコキネシスか!?
ん?大田先輩が俺の手を指差してる・・・あ、そうか。台本か。次俺のセリフってことか。えーっと、次のセリフは・・・あ、ナレーターか。ふぅ、良かったー。何かの役だったら俺うまく演技する自信皆無だからな。このウォーラを消すなんて、できるわけないじゃないか。えっと、セリフは・・・
不良(ナレーション)「・・おお。かわいそうなキャリーとジョン!こんな時、こんな時あの人が来てくれれば!!」
俺が叫んだ、その瞬間。
目の前にいた武田先輩が消えた。と同時に
パリィィィィィィィン!!!!
ガラスの割れる音が教室内に響き渡った。校庭側から響いてきたのだから、間違いない。これは窓ガラスが割れた音だ。
俺が驚いて窓を見ると、そこにはガラスの破片が舞う中、全く傷のない姿で立ち上がる武田先輩の姿があった。
・・・って、誰!?いや、確かに輪郭とかから武田先輩って言うのはわかるけど、何その髪の毛!?ド○クエの勇者(Ⅰ)みたいになってるぞ!?ていうか、どうやって来たんだ!?窓ガラス割って入ってきたってことは、一回外に出て3階の窓まで跳んで来た、ってことか!?まるで人間業じゃない・・・あ、そっか。この人ジェットコースターだったわ。
・・それに、手に持ってる剣は何!?その独特の鍔の形・・・はっ!!まさか、ロ○の剣!?超カッケー!!!
俺の驚きと憧れの目をよそに、勇者・武田は喋りだした。
武田(英雄・スレイン)「はっはっは!!!私が来たからにはもう大丈夫だ!!その婚姻、絶対に遂げさせようぞ!!」
加賀(ジェーン)「いや!!結婚などやはり認められん!!我が家はこのオバ帝国に何百年の歴史を持つ名家!!お前のような蛆虫どもにはやれんわ!!さあ、帰るぞメアリー!!」
武田(メアリー)「いや!止めて!お父様!!」
加賀(ジェーン)「メアリー・・・」
大田(執事)「お嬢様が、初めて旦那様のご命令に逆らいなさった・・・!!」
・・・いや。なんだこの尋常じゃないレベルの高さは!?
加賀先輩はいつの間にかちょび髭生やしてるし、大田先輩は付けてもなかった片眼鏡はめてるし、武田先輩に至っては英雄と彼女役で分身してるぞ!?悪魔の実の能力に加えて忍術まで!!2大主人公を混ぜたら流石にチートすぎるでしょ!!
でもって、演技力がすごい!!大田先輩は屋久の執じぃそっくりだし、武田先輩は英雄の自信たっぷりの顔と泣き顔を同時にやってるし、加賀先輩の声がバリッバリのテノールなんだが!?どうやって声変えてんの!?あしゅら男爵か!!
・・ん?なんだ?前に進んでる?でも俺、前に進む気なんてこれっぽちもないはずなのに・・。
そして勝手に先輩たちの前に出た俺は、勝手に喋り始めた。
不良「その時、不思議な事が起こった!!英雄、スイレンの驚異的なパワーによりラブラブ光線が発射され、ジェーンとメアリーの、険悪な関係を一瞬にして改善させたのである!!」
俺は、最初こそ戸惑ったがすぐに思い出した。こんな風に自分の口が勝手に動く経験を最近したな、と。
・・ああ。そっか。フラグか。
後ろでジェーンとメアリーが抱き合う中、俺は自分の体を動かす気を無くし、この舞台の鑑賞者の一人になることを密かに決意したのだった。
【5時間後】
全員『ラブラブ光線!!!』
デデーーーーン!!!!!!!
途中から鳴り響き始めたオーケストラが止まり、教室内に静寂が訪れる。だがそれもすぐ、1人の拍手によって破られた。
下校時刻後にオーケストラの音を聞きつけてかけてきた警備員のおじさんは、舞台を見終わり、涙を流し拍手をしながら席を立った。
「いや〜〜。本当に、ほんっとうに素晴らしい公演だったよ。ラストシーンまでの畳み掛けは、予想だにしなかったけど、美しく、それでいて面白くて、泣けたよ・・・。いや本当に今日の警備当番でよかった・・・。」
そう言い残した警備員のおじさんは、ハンカチで目元を押さえながら手を降って教室から出ていった。
一瞬の沈黙。そして、最初に動き出したのは武田先輩だった。ラストシーンの決めポーズを解き、スタスタと教室のドアのそばに立つ俺のところまで近づく。そして、目の前まで来てから・・・
スッ。
右手を差し出しながら、出会ったときと同じ満面の笑みで言い放った。
「ようこそ!!風楽高校演劇部へ!!!」
俺は、無言でその手を見つめる。ちなみにだが、もうフラグは終わっている。つまり、これは紛れもない俺の意志だ。
体が動くのなら、俺がやることはただ一つだ。
俺はその手を取ってぐっと握りしめ、武田先輩に劣らない笑顔で言い返した。
「これからよろしくおねがいします!!!」
『よっしゃーーー!!!!!』「でござる〜〜〜!!!」「やった。」
俺は、飛びついてきた3人の先輩の姿を見ながら考えていた。今まで俺は、この能力を邪魔だとしか思っていなかった。下手なことを喋れない、この体が嫌で嫌で仕方なかった。
だが、ここなら変われるかもしれない。この能力を無くそうとせず、共存していける自分に。
その日の演劇部の活動は、夜12時まではしゃぐことで終わった。
ということで、不良の部活は演劇部に決まりました。
この話を書く時、どうしても避けられなかったのが部活問題でした。学園モノなのに部活がないというのは何か物足りなかったのです。でも、不良でも楽しめる部活=フラグに左右されない部活というのがすぐに思い浮かびませんでした。そんなとき、友達と一緒にミュージカルを見て、「これだ!!」と思ったのです。セリフの中にはフラグが死ぬほどあり、それらは全部舞台をいい方向に持っていきます。まさに、不良にぴったりではないでしょうか?
今後、演劇部そして裁縫部の話は何度か出していきます。乞うご期待!!
さて、次回は前話の「脇役A」フラグを回収します。不良が「脇役A」になる話です。では、主役は誰になるのか・・?乞うご期待。