不良のいるところにヤクザあり。(2)
バシィ!!!
「グホォ!?」
「えええええええ!?!?」
俺は目の前の光景に思わず声を上げた。
そこには、緑髪を殴り飛ばすいい人ヤクザの姿・・・
ではなく。
「これで許してつかぁさい!!」
懐から札束を取り出し、床に叩きつけながらDO☆GE☆ZAするいい人ヤクザの姿があった。
ちなみに「グホォ!?」は、あまりの額に緑髪が思わずうめいた声だ。
いや、そこは殴り飛ばせよ!そんないいカラダしてるんだったら、10人くらい簡単に無双するのがセオリーだろう!?
てか、なんで制服の裏ポケットに札束入れてんだよ!どんだけ金持ちなんだ、あんたは!!
緑髪は、頭を思いっきり床につけるいい人ヤクザを、実にムカつくニヤケ顔で見下ろした。
「へ、へっ!い、言えば分かるじゃねぇか。」
そういって、いい人ヤクザの目の前・・いや、頭の前に置かれた札束をしゃがんで手に取った。
その瞬間。いい人ヤクザは突然頭を上げ、緑髪の顎に強烈な頭突きを・・・
食らわせず、緑髪は何事もなく立ち上がった。
いや、そこは頭突きだろ!札束をお取りにして顎を自分の頭の上に持ってこさせて、すかさず頭突きがセオリーだろ!!どんだけ空気よめないんだこのヤクザ!!
てか震えてんじゃん!ヤクザめっちゃビクついてんじゃん!!え、怖いの!?そのナリで!?
立ち上がった緑髪は、ニヤケ顔のままで俺たちを睨めつけた。つかその顔やめろよ。うぜぇ。
「おいてめぇら。今日はこれくらいで勘弁してやる!!さっさと教室に帰りな!この甘ちゃん共が!」
いや。甘ちゃんになったつもりは無いんだが・・・
でも、ここで文句言ったら確実にリンチされるからな。ここはおとなしく帰って・・
「・・・おい、先輩。あんた・・・今おれのこのあだ名のことなんつった!」
いつの間にか俺は立ち上がり、緑髪にガンを飛ばしていた。
・・・ふぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!またやっちまったぁぁぁ!!!
やばい!確実に殺される!!こんなヤンキーの前でこんなこと言ったら確実に殺されるぅ!!!
・・・いや。まて。さっきも殺されるって思ってたのに、結局ヤクザいい人だったぞ?俺が気づいてないだけで、実はこのフラグはそこまで含めてのフラグなんじゃないか?
これは、もしや今回も・・・
「ぁぁぁぁぁぁああああん!?!?!?てめぇ今なんつったぁぁぁ!?!?命の恩人に対して、んだその態度はよぉォォ!!!」
ああ!ダメだ!こいつら根っからの悪人だった!
緑髪は、まだDO☆GE☆ZAしているヤクザを素通りし、個室の前にいる俺の所までツカツカと歩み寄る。
そして、
「ウラぁ!!」
ボコッ!!
「うっ!!」
思いっきり俺の顔面を殴りつけた。
ふっとばされた俺の体が個室のドアにぶつかる。その勢いでドアが開き、俺は個室に転がり込んだ。
くっ。視界がぼやけて来た。前の様子が・・・よく見えない・・・あ、緑髪が2発目のパンチを用意してる。あれを食らったら・・・・
・・・今度こそ、おしまいみたいだ。
・・・くそっ。まだ死にたくない。
妹に割り算教えるのだって、お母さんの寿司食べるのだって、可愛い彼女作るのだって、そして、
高校で友達作るのだって、やってないのに。
・・・誰か。
誰か、助けてくれ。
「くははは!!死ねぇ!!」
緑髪の拳が俺の顔に致命傷を負わせようとした、その時
パァン!!ヒューン・・・バシッ!!
トイレの入口の方からすごい速さで何かが飛んできて、緑髪の拳にクリーンヒットした。
「・・?・・あ、ああ!?い、いてぇぇぇ!!!いてぇぇぇよぉぉぉぉ!!!」
少し遅れて、緑髪が手を抑えてうずくまる。俺は全く状況が理解できず、ただ口を開けていた。
これは・・・どうゆうことだ?ここには俺とヤクザしか・・
はっ!まさかヤクザが・・・!!
俺がヤクザの方を見ると、彼はいつの間にかDO☆ZE☆ZAをやめ、トイレの入口をじっと見つめていた。
「ずいぶん遅いじゃないか。じぃや。」
「すみません坊ちゃま。私がトロいせいで、お友達を救うことは出来ませんでした。」
うんうん。全くあんたがトロいせいで・・・って、誰だ!?
俺がバッとトイレの入口を見ると、そこにはスーツを着たザ・ジェントルマンという感じのおじいちゃんがいた。もっと正確に言うなら、ザ・執事。ただ立っているだけでもかっこいい、ダンディなおじいちゃんだ。
でも、なぜこんなおじいちゃんが学校に?
俺の不思議そうな顔に気づいたのか、ヤクザは言った。
「じぃやはいつも俺の近くにいてな。このブザーを鳴らすと、3分以内に駆けつける仕組みになってるんだ。」
そういってヤクザは、内ポケットからボタンを出した。なるほど、札束を出したのは内ポケットに手を入れ、ボタンを押すためだった、ってことか。何度も疑ってすいません・・・
・・って、あれ?おじいちゃんが持ってるのって・・・ライフル?てか、銃口から煙が出てる・・・って事は!?
「まさか・・・撃ったのか!?」
「ええ。ただし、球はスーパーボールですがね。」
見るとたしかに、うずくまる緑髪の近くでスーパーボールがピョンピョンはねている。
ふぅ〜。ヒヤッとしたぁ。流石に実弾だったらやばすぎたからな。この話にR15タグ付けるハメになる・・・って何の話だ。
でもこのおじいちゃん、よくあのヤンキーどもを突破して銀髪を狙える位置までこれたな・・・
って、あれ?銀髪以外のヤンキーがいつの間にか消えてるぞ?
「他の奴らは・・・?」
「ああ。それなら一人100万で片付きました。全く、たかが100万でリーダーを売るとは・・・ヘナチョコ共ですねぇ。」
そう言っておじいちゃんは胸ポケットから札束をドサドサ出した。
いや一人100万って!!金銭感覚どうかしてるだろ!ちぇっ。これなら俺もヤンキーになればよかった。
俺が悔しがっていると、ヤクザが急に顔と手をこちらに近づけてきた。え!?お、おれ、なんもしてないですよ!!何もしてないから許して・・・
「おい。立てるか?」
ヤクザはそう言って、めっちゃ怖い顔をした。目元の寄せ具合からして、恐らく心配そうな顔のつもりだろう。いや、めっちゃ怖いけど。
てかヤクザさん、俺を引っ張り上げようとしてただけなのね・・・すみません・・
「はい。ありがとうございます。」
俺がその手をつかむと、ヤクザはぐっと引っ張って俺を起こしてくれた。ヤクザさんまじ神。
ふぅ〜。妹に殴られ慣れてるからダメージは問題ないんだけど、結構汚れちゃったな〜
パンパンとホコリを払っていると、ヤクザがこちらを睨んで・・あ、見てるだけだ。ヤクザがこちらを見てきた。
「ところで、まだ名乗ってなかったな。俺の名前は屋久佐人だ。で、こっちが俺の執事。」
おじいちゃんがペコリと頭を下げたので、俺もつられて頭を下げた。いや『俺の執事』って・・・札束もそうだけど、この人どんだけ金持ちなんだ!?
ってか名前!!面白すぎだろ!!やくさひとって・・・ぷぷぷ・・ヤクザ人・・・ぷぷぷ・・
「おい?どうした?腹が痛いのか?」
屋久先輩が俺の顔を心配そうに覗き込んだ。おっと、思わず笑ってた。痙攣してたのを具合がわるいのと勘違いされたか。失礼失礼。
そういえば、まだ俺の名前を言ってなかったな。もう先輩は名乗ったのに。失礼失礼。
「いえ。何でもないですよ。それより、僕の名前を言ってませんでしたね。僕は・・・」
キーーーン、コーーーン、カーーーン、コーーーン・・・
ん?この音は、チャイム?
ああ。1時間目のチャイムか・・・
え、1時間目、の?ってことは・・
「やべっ!遅刻だ!!」
「あ!おい!手を洗えって・・・」
「ぐぁぁぁぁ!!!手が!手がぁぁぁ!!」
屋久先輩と緑髪の声は、すぐ聞こえなくなった。そんなことより、今は一刻も早く教室に向かうことが大事だ。さもないと・・・
俺は廊下を全速力で駆け抜け、コーナーを最短距離で曲がり、階段を駆け上がってあっという間に教室の前についた。どうだ!この速さ!伊達に中学校で『韋駄天の不良』と呼ばれたかったわけじゃないんだぜ!!
だが、教室のドアに手をかけた瞬間、俺はこの先に起こるであろうことを想像してしまった。
みんなの視線が集まり、笑われ、『チコくん』呼ばわりされ、この先ずっと『チコくん(w)』と嘲笑われる、惨めな俺の姿。
っっっ!くそっ!せっかくの・・・高校生活が・・・っ!!
いや。今入れば、まだ間に合うかもしれない。笑ってごまかせるかもしれないぞ!!さあ入れ!入るんだ俺!!
・・・くそっ。体が震えて、動かねぇ。
くそっくそっくそっ!!!こんなことで・・こんなところで俺の人生が・・!!!
・・・誰か・・・
「誰か・・・助けて・・」
すると、
「助けてやんよ。」
後ろから、ドスの利いた声がした。
この声は・・・
いや。ありえない。彼がここにいるはずがない。だって彼は・・・・
俺は、ゆっくりと、確かめるようにして後ろを振り向く。
そこにいたのはやはり、屋久先輩だった。
「先輩!!どうしてここ・・・」
「シー!」
先輩は太い人差し指で俺の口を抑えると、
ガラッ!!
教室のドアを開け放った。
先輩が教室に入ると、クラス全員が驚愕を顔に浮かべて彼を凝視した。そりゃそうだ。誰だって、先輩が教室に入ってきたらびっくりするわ。
でも、この状況からどうやって俺を助けるつもりなんだ?
すると、担任の先生(期待通り、渋井先生)が口を開いた。
「・・おお、屋久。お前が遅刻するとはな。高校入試トップ生らしくないぞ。どうした。」
・・・え?
え、いやちょっと待て!?『このヤクザが遅刻した』ということは、屋久先輩は、いや屋久はこの教室の生徒、つまり、俺の同級生!?
てゆうか、このヤクザが入試トップ?こんなナリなのに?
俺の混乱をよそに、屋久は渋井先生に答えた。
「はい、すみません先生。校内を散策していたら、ヤンキーの集団に襲われてしまって・・・。でも、この人が僕を助けてくれたんですよ。」
そういって、ヤクザは俺のことを指差した。
渋井先生は渋い顔を作った。
「ああ。まーた2年の八木井達だな。全くあいつらときたら・・・後で1発ぶん殴っとかんとな・・・。それにしても不良!お前、よくやったじゃないか!その顔を見ると苦闘だったんだろう?なのに、友を守るために頑張るとは・・・見直したぞ!!」
渋井先生は俺に満面の笑みを向けた。それに対しクラス全員が驚愕を顔に浮かべて渋井先生を凝視した。
そりゃ、まだ生徒は渋井先生のバ◯ス顔しか見てないもんな。驚くわ。
そして、生徒は渋井先生の笑顔を見飽きると、今度は一斉に俺の方を見てきた。
そこに、俺をあざ笑う目は無い。
そして・・・
パチ、パチパチ、
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ・・・
誰ともなく拍手をし始め、それはすぐに、教室全体に広まった。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ・・
皆が俺に視線を浴びせ、皆が笑っている。でもそこに、『チコくん(w)』という声は全く無かった。
それどころか、
「よっ!ヒーロー!!」「かっけえ!!」「キャーーー―!!!」
という声まで聞こえる。
どうやら屋久は、俺を助けること以上のことをしてくれたようだ。
轟の中、俺は屋久にグッと親指を立てた。これは、周りがうるさくて俺の声が聴こえないと思ったからだ。本当は素直にこう言いたかった。
「ありがとう。屋久。」
と。
俺の親指を見た屋久は、にやりと笑いながら、グッと親指を立てた。
「はい静かに〜〜(一瞬で静かになる)。よし。じゃあお前ら、早く席につけ。」
渋井先生の指示通り、俺は教室の窓側の一番うしろの席に座った。案の定、ヤクザは俺の横の席だ。
「・・・俺の名前は不良具辰よろしく。」
「・・・ああ、よろしくな。」
俺達は小声で挨拶した。
その日から、俺の校内でのイメージは『チコくん』から『仲間思いの良い奴』に代わり、俺はクラス内の雰囲気に徐々に溶け込んでいった。
そしてまたその日から、ヤクザ・・屋久佐人は俺の親友になった。
いい話になっちゃった\(^o^)/