不良の居るところにヤクザあり。(1)
高校生活2日目
俺は、初日に作った100人の友だちを引き連れ、快適そのものの学校生活を・・・
「みて〜。あいつ昨日遅刻した・・・」
「ホントだ〜。今日は遅刻してないんだね〜。」
「おーい、チコくん〜。今日は遅刻してないんだな〜www」
・・・はい、すみません。送れてません。
【昨日】
「あれ?皆は?」
遅刻した俺を待ち受けていたのは、誰もいない教室だった。
いや。誰もいないなんてありえない。だって今日は入学式!1人位ならともかく、皆が遅刻するなんてこと、ありえるわけがない・・・
いや、まて。逆だ!こんなに人がいないということは!!
「なぁ〜んだ!今日が入学式じゃないのか!!まったく〜ヒヤッとさせやがって〜!!」
まさか、入学式の日を間違えるなんてギャグ漫画のようなミスをこの俺がしてしまうとは・・・まあでも、ある意味ラッキーと言ったほうがいいか。そのおかげで、俺だけ遅刻、という最悪の状況は避けられたんだからな。
ということで。
「ほんじゃ、さいなら~~!」
俺は教室に手を振り、ダッシュで家に帰った。
この時、俺は知らなかった。
他のクラスメートが体育館で入学式をやっている最中だったことを。
「ただいま〜〜ア〜〜〜ンド、おかえり!!!」
セルフ帰りの挨拶で家に入った俺は、秘技・瞬間着替により、1分で普段着に着替え、ソファにダイブした。んん〜。この包容力、癖になるぅ〜〜〜
そしてこれまたラッキーなことに、今家には俺1人。ということはあんなことやこんなことがやり放題!!
「ふへへへ・・・。今日こそ、あれを読む時・・・」
そして、俺はソファの下に隠してあった本を取り出した。表紙は、俺の好みのFカップ女優の水着姿。内容は言わずもがなだ。ぐふふ、かわゆいのぉ・・・
では、いざ、まいる。
俺はゆっくりとエロ本の1ページ目に手をかける。そして、まさにFカップが出てきそうになった、
その瞬間。
プルルル、プルルル、プルルル、プルルル・・・・
「チッ。」
大きな音で電話が鳴った。俺は思わず舌打ちをしてしまう。
くそっ。また邪魔が入りやがった。なぜか俺がエロ本を読もうとすると、いつもいいところで邪魔が入る。おかげでこの本は買ってから1ヶ月もソファの下だ。そろそろエロ本に仕事させてやれよ!!まあ絶対に見つからないのでチャンスは有り余るほどある。でもなぁ・・・
いや、今はエロ本との別れを惜しんでいる場合じゃない。
俺は、鳴り続いている電話の受話器を取った。
ガチャ。
「はい。不良ですが。」
『こんにちは。こちら市立風楽高校の教師をやっております渋井というものですが、ご自宅に不良具辰さんはいらっしゃいますでしょうか。』
電話の相手は、とっても渋い声の中年男性だった。昭和の俳優みたいな感じだ。時代劇で「ええぃ!」って言ってそう。
でも、学校の教師?そんな人がなぜ今家に電話を?今日はまだ休みなのに・・。
「はい。私が不良具辰ですが・・・」
その瞬間・・
『ーーーお前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!!』
「ぐぉっふ!?!?!?!?!?」
耳がぁ、耳がぁぁぁぁぁ!!!!!なんだこの怒鳴り声!!バ◯ス並の破壊力!!
俺はすぐに受話器を放して身の安全を確保し、しばらく耳を抑えてじっとした。地震が起こった時みたいな感じだ。皆復唱!!『身の安全を確保し、じっと待機!』
しかし、3分くらいして耳が治った時も、取り落とした受話器からは怒鳴り声が漏れ聞こえてきていた。一言で終わらないバ◯スだと・・・最強すぎだろ。町が何個あっても足りないよ。
『・・・だいたい、入学日に遅れるとは何事だ!高校をナメているのか!高校をナメているという頃は俺をナメているということ!お前は俺をナメているのか!?え!?』
いや、あなたがFカップ女優だったら喜んでナメるけど・・・
ん?今、『入学式』って聞こえたんだけど、気のせい、だよね?
いや、別に、信じて、無いんだけどね?ほら、一応、案内とか、確認してみたほうが、ね?
ペラッ チラッ
「入学式今日じゃねぇか!」
そこには『入学式は4月8日。場所は体育館』と書かれていた。
つまり、教室に誰もいなかったのは皆体育館に行ってたから、ってことか!!くそっ!まんまと罠にハマっちまった!
いや、今は悔やんでいる場合じゃない。とりあえず、遅刻したことを謝らなくては。
俺は、さっきから不気味な沈黙が続いている受話器を手に取り、『すみません』と言おうとした。
が、
『ーーー聞いてんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!』
「ぐおぉぉぉう!?!?!?」
2度目のバ◯スで俺の意識は、ム◯カ大佐のように真っ逆さまに落ちていった。
「ふぅ〜やっと着いた・・」
俺は学校に着いて走るのをやめた。ちなみに、俺の家は学校からまあまあ遠いところにある。今も家から全力疾走して軽く20分はかかった。
『家が遠いから遅れました』は・・・だめだ。言い訳にしてはあまりにも苦しすぎる。
お?なんか、校門の前に渋すぎるおっさんと、そのおっさんを囲んでめっちゃ生徒がいる。
ん?渋い、おっさん?渋井・・・あ、
あれは、まさか・・・
「ーーー遅いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
この破壊力、間違いない。予想通り、さっき電話をかけてきた渋井先生だった。
そこから先は嵐のような時間だった。先生のバ◯ス並の説教、『うわぁ〜おもしろ』といって生徒がスマホのフラッシュをたく。それに対して、
「学校でケータイ出すなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
と、渋井先生がバ◯ス。俺がボソッと
「でも今日の朝は上からスパナが落ちて来たりして・・・」
といってしまってスパナの雨、それに対してフラッシュ、バ◯ス、スパナ、バ◯ス・・・・
そしてその時生徒が取った写真が校内中に出回り、校内の生徒のほとんどが俺のことを知り、はじめの状況に戻る。
【今】
「はぁ〜〜〜」
俺は教室から離れたトイレの個室にこもり、大きなため息をついた。
「まったく・・おれの平凡な日常はどこへ行ったんだ・・・」
俺が望んでいるのは、『不良!』とか『ふっくん!』と親しげに呼ばれる平和な毎日なのに、現実は『チコくん(w)』と嘲笑われる学校2日めだ。嫌にだってなる。
でも俺は、この状況を打開する方法が考えつかない。くそっ。
だから、とにかく今願うことは、
この先、これ以上何もなければいいなぁ、ということだ。
まあ、ため息ばっかりついてはいられない。俺はきっかり20回ため息を付いて気持ちを落ち着かせ、トイレを流して外に出・・・
「う・・(!!!!!!)」
あぶねぇ!声出すとこだった!
だってしょうがないだろ!?トイレのドア開けたら、目の前にでっかい背中があったんだから!!お化け屋敷で、目の前の扉からいきなりおばけが出てきたら驚くだろう。それと同じ感じだ。
だが大男は小の真っ最中で、俺の方に体を向けることは出来ない。良かったぁ〜。さすがの俺でも、こんなガタイのいい先輩に真正面から睨まれたら怖・・・驚いちゃうからな!!
じゃあ、ここは見つからないようにスゴスゴと退場するのがベストだな。
そして、俺はソロリソロリと出口に向かった。あと一歩で外に出れる・・と思った瞬間。
「ぅおいコラ。てめぇ何やってんだよ。」
「うひぃ!!」
ギギギギと顔を後ろに向けると、そこにはチャックを引き上げながらこちらを睨む先輩の姿があった。
ちょ、こわ!!!顔めっちゃ怖い!!え、なにその頬の傷!?何?何やったの!?で、睨まないで!怖い!
ジャアーーと水が流れる音をBGMに、先輩はずんずんと俺の方に向かってきた。そして、俺の制服の襟を掴んで、そのまま空中にグイッと引き上げた。
「てめぇ。なに通り過ぎようとしてんだよ。ちゃんとやってから表出ろよ。あぁん!?」
やばいやばいやばいやばい!!!どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・
いや、冷静になれ、俺。
今、俺なにか悪いことしたか?
否。俺は何もやってない。なのにこのヤクザはいきなりガンつけてきたのだ。理不尽極まりない。
俺はTVをよく見ているので、こうゆうヤクザへの対処法を知っている。それは・・
DO☆GE☆ZAだ。
とりあえず謝る。ひたすら謝る。死ぬほど謝る。この3つが、人の怒りを静める一番の方法だ。ふっ、ちょろい日本人め。
だが今は持ち上げられていてDO☆GE☆ZAは出来ない。仕方ない、口だけでDO☆GE☆ZAするか。
「すみませんすみませんすみませんすみません!どーかお許し下さい!なんでもします!なんでもしますから許してください!!」
どうだ!この平身低頭の口調と言葉遣い!!これで素直に許せ!!
だが・・・
「ぁぁぁぁああああああんんんんん!?何謝ってんだ!」
しまったー!逆効果だったーーー!!!!
時々、この最高にへりくだった姿にムカつくという奴がいるが、このヤクザはそのたぐいだったようだ。
全く、わけがわからない。お前も日本人なら、DO☆GE☆ZAの重要性が分かるだろ!?
ヤクザは更にヒートアップして言った。
「謝る暇あったらさっさとやることやれやぁ!このチコくんがぁ!」
・・ちっ。そのあだ名で俺を呼ぶな。腹が立つ。
・・なーんて言ったらぶちのめされるのがオチだな。しょうがない。怒鳴り返したいけど、今はとりあえず黙っていよう・・
だが、俺がそう思った瞬間、手が勝手に動いてヤクザの腕を掴んだ。ヤクザと俺があっけにとられていると、今度は口が勝手に動いた。
「・・・おい、先輩。あんた・・・今おれのこのあだ名のことなんつった!」
空気が固まった。あっけにとられたヤクザが、口を開けて俺の方を見てくる。いや、俺が一番口開けたいわ。
え。え?なんで、俺、こんなこと言いたくなかったのに。まさか、誰かが俺の体を乗っ取っているのか!?右手には何も寄生してないぞ!
・・ん?そういえば、前もこんな感じになったことがあった気がする。あれは確か・・
・・・あ、そうだ。フラグだ。
・・・
やっべぇぇぇぇえ!!!フラグだったぁ!
そうだ!小学校のころにも似たようなことがあった!
これは、主人公が挑発に耐え続け、何かの拍子に怒りを爆発させるフラグ!!くそっ!こんなところで!
しかもこのフラグ、言い返すだけだから相手に物理的なダメージがない!よりによってこんなヤクザの前でなんで一番役に立たないフラグが!
見ると、ヤクザは黙りこくって下を向いていた。やばいやばいやばい!もう、絶対怒ってるだろ!あれだ!怒りを貯めに貯めてからの、渾身の一撃だ!
あ、顔上げた。もう駄目だ・・・おしまいだぁ。
・・・ん?なんかこのヤクザ、泣いてる・・?
すると、ヤクザは俺を優しくおろした。そして、俺が困惑している間にヤクザはこちらをまっすぐに見て・・
「・・・すまん!」
「・・・は?」
即座にDO☆GE☆ZAした。
「このとおりだ!許してくれ!」
「え!?いや、ちょっと待って下さい!なんであなたが謝っているんですか!」
「さっき、お前のことをチコくんと呼んでしまった!俺としたことが・・・っ、そのあだ名をお前が気に入ってないのくらい、普通に考えればわかったはずなのに・・・!すまんっ!俺の不注意で、お前の怒りを買ってしまった!」
平身低頭で謝るヤクザを見ながら、俺は思った。
え・・・・。この人・・普通にいい人じゃね?
いや、騙されるな!俺!もしヤクザがいい人だったら、さっき俺を持ち上げたことの説明がつかないだろ!これは芝居だ!
俺はヤクザを立ち上がらせながら、それとなく聞いてみた。
「いや、もういいですよ。それより、なんでさっき俺を持ち上げたりしたんです?」
「・・・ああ、それは、お前がトイレの個室から出てきた後、手を洗わずに出ようとしたからだ。そうそう!お前、トイレから出たら手くらい洗え!不潔だろうが!」
「あ、はい。」
なるほど確かに汚いな。実際にしてないとしても、トイレから出てきたんだから。
そして、そんなことをいちいち取り立てて、さらには襟を掴んで引っ張り上げるなんて熱血先生みたいなことをするんだから、間違いない。
このヤクザはいい人だ。
俺は「疑ってすみません」という気持ちも含め、ヤクザに謝った。
「あ、はい。すみません。でもこれにはわけが・・・」
その時俺は、とても嫌な予感がして、喋るのをやめた。
案の定、ドカドカと音を立てながら人が入ってきた・・・って怖い!!え、なにその釘バット。なんでトイレにそんなもん持ってきてんの!?バットを粗末にするなって、小さい頃に教わらなかったか!?それになんで制服所々破けてるの!?クールビズ?!
てか、なんか。
たくさん入ってきてるんですけど!?
俺が突っ込んでるわずかな時間で、いつの間にかトイレには総勢10人の明らかにヤバイ生徒が集結していた。
全員髪を染め、タバコの臭いをまとわり付かせ、腕にシルバーのチェーンを巻いている。
そのうちの、緑髪の奴が言った。
「おい、てめぇら!!!なにこのトイレ使ってやがる!!ここは、俺たちマクロガンゲッターイデ28団の、テリトリーだぞオラァ!!」
その声は、さっきのヤクザの何倍もの迫力だった。
ヤクザをジャ◯アンとするなら、ヤンキーはゴ◯ラくらいだ。
やばいやばいやばいやばい!!!どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・
だが俺の頭の冷静な部分は、しっかりと対策を考えていた。さっきも言った通り、こうゆうヤクザに対してすることはただ一つ。
俺は覚悟を決めて手を握り・・
「すみませんすみませんすみませんすみません!どーかお許し下さい!なんでもします!なんでもしますから許してください!!」
床に思いっきり頭と拳を付けた。さぁ!さっさと解放してくれ!
だが、
「あぁん!?うっせぇなぁ!!!オラ!!」
「グフッ!?」
緑髪は床と俺の頭の間に足をねじ込み、そのまま俺の頭を天井に向かって蹴り上げた。痛みとともに、体が宙に浮く。そして、個室のドアにバシッっと思い切りぶつかった。
「グハッ!!!」
くそっ。血の味がする。痛い。体中が痛い。
だめだ。俺に出来る事はもう全部やったのに、こいつらまるで止まる気配がねぇ。いい人ヤクザといい、最近の若いもんは日本人としての規範がなっとらんな。
・・はぁ・・・・俺、ここで死ぬのか・・・せめて彼女欲しかったな・・・
その時だった。
急に俺の隣にいたヤクザが無言でスタスタとヤンキーに近づいていった。そして、そのゴツゴツした手を大きく振り上げ・・
バシィッ!!!
「グホォ!?」
え、えええええええ!?
宮◯駿先生、ごめんなさい。(確信犯)
後半、ヤクザがかっこいい!?