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六、勇者ソウヘイ

色とりどりの三角旗が上で風に揺られる。花びらが舞い、異国の、しかしどこか懐かしくも感じる曲が、騒ぎを聞きつけてやってきた音楽隊によって奏でられ空気までもが色を持つ。大路地では、先程まではなかったテントや屋台が持ち込まれ、更に賑わいを見せていた。

サモンは店に戻って威勢のいい掛け声で人を呼び、リオは「運命の相手が俺を待っている!」と言ってどこかへ駆けて行った。

「帰れないだって!?」

残された蒼平は、道行く人に輪投げの如く次々と花飾りを掛けられながら、アレサの話を聞いて愕然としていた。

「帰り方を知らねぇってだけで、帰れないとまでは言ってねぇよ。」

対してアレサは特に慌てることなくのんびりと応える。

「じゃ、じゃあ、知ってる人を教えてよ!」

「ライナだな。」

「どこにいんの!?」

「知らねぇ。」

「うわあぁ!」

頭を抱えてしゃがみこむと同時に、花びらがひらひらりと宙を舞った。街の人達は特に気遣うでもなく、更に蒼平の上へ花を振りかける。

「どうしたんだよソウヘイ。とびっきりの幸運がお前を選んだっていうのに、落ち込む事なんてなんもねぇだろ。」

「幸運と思えないから落ち込んでるんじゃないか…」

アレサが景気つけるように明るく言うが、花のボタ山は低く呻くだけだった。

「まあライナにはそのうち会えるだろ。それよりも、お前の『待ち人』に会うのが先だろうが。」

「俺の『待ち人』…?」

「あ?そうだよ、そのためにお前が願い事して来たんだろ。トボけてんのか?…まあいいや。何はともあれお前はとびっきりの幸運が選んだとびっきりの『勇者』に変わりはねぇんだ。だから、俺がお前の『待ち人探し』のお供をしてやるよ。ホラ、しっかりしろ!」

「え、うわっ」

花の中に手を突っ込み、蒼平の腕を探り掴んで乱暴に引っ張り立たせる。花山が噴火して花びらがはらはらと舞い落ちる中、状況を一切理解できていないままの蒼平は目を白黒させていた。

「おっし行くぞ!」

「えっ待って待って、ど、どこに!?俺、何も分かってないんだけど」

「昼も近ぇし、腹ごしらえも兼ねて一旦ウチに帰るんだよ。俺買い出しの途中だったし。あげパンっと。奢ってやっからついて来いよ!」

話の途中で再び狼に戻ると、野菜の箱が積まれた荷台にブーツを咥えて放り込み、ハーネスに体を通してさっさと出発してしまった。

「ちょ、アレサ、待ってってば!」

フラワーシャワーを浴びながら、蒼平も後を追って少し駆け出す。道を行くたびに新しい花輪や花びらが投げられるので、まるでオリンピックの優勝パレードで祝われているかのように思えた。実際に祝われているのだろうけれど蒼平にはその原因がよく分からなかったので、花と一緒にかけられる祝福の言葉に、複雑な気持ちで礼を言った。

「これどうしよう…」

嵩張る花輪を腕に掛け直しながら、蒼平が呟く。

「商店街抜ける時に後ろに放っちまえばいいよ。『勇者』からの施しってな。」

上機嫌にアレサが言うが、蒼平は気が進まず返事を渋る。そのまま少し考えているとやっぱり引っかかることがあって、思い切って聞いてみた。

「…ねぇアレサ、さっきから気になってるんだけど、なんで俺が『勇者』なの?」

「あ?よく言うだろ。『幸運は勇者を好む』って。ライナに願いを聞いてもらえるなんて幸運以外の何物でもねぇんだから、お前は『勇者』だってこと!」

「そういうこと、なのかな…」

結局モヤモヤしたまま、街角で無邪気に遊ぶ子供たちに花輪をあげて、賑やかな商店街を後にした。


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