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五、出逢いの町

「どけどけぇ!」

突然、人集りの中にいた男が大声を上げた。ずんずんと人を掻き分けて蒼平達の前に立ちはだかるスーツ姿でオールバックの大男。

「オメェ、新人なんだってな…?」

「ハッ、はいっ」

ジロリと品定めをするように見下ろす鳶色の瞳。それが、アレサの時と同じようなものに感じられて、嫌な汗が噴き出した。

男はソウヘイの肩を抱くサモンを睨みつけ、ベリッと二人を引き剥がした。

「わ、何すんだよリオ!」

「黙ってろサモン!…オイ。」

「ひ、」

鋭い視線が蒼平に戻る。

「うわ!?」

ぐいと両手を掴まれて、何をされるのかと身構えた途端、急に男が跪いた。


「オ、オレの…パートナーになってくれ!」


「…は?」


この顔を赤らめた屈強な男は一体何なのか。それに、パートナーとはどういうことなのか。

即座に視線でアレサに助け船を求めたが、当の本人はケラケラと笑っているだけで救いなどなかった。

「笑うんじゃねぇアレサ!オレは真剣だ!」

「フハッやめろよリオ、余計に笑うだろ。」

必死に言う姿を見て、更にお腹を抱えヒィヒィ言いながら笑うアレサ。

「アレサぁ…」

蒼平からしたら全く笑えない状況なのだが。

「んだよ、絶対こいつなんだって!百獣の王に釣り合うオーラを持った、スッゲェ幸運野郎なんだよ。オレの野生の感が言ってんだ、間違いねぇ!」

リオと呼ばれている男が立ち上がって抗議するが、アレサは笑いっぱなしで請け合わない。蒼平の手は掴まれたままで、この奇妙な状況から逃げる事も叶わなかった。

ひたすら笑い続けて疲れたのか、ふぅと一息ついて、ようやくアレサが話し出した。

「残念だけど、ソウヘイとはパートナーになれねぇよ。でもまあ、スッゲェ幸運野郎ってのには賛成だけどな。」

幸運野郎?

蒼平の頭にまた疑問符が浮かぶ。

「あ?どういう事だよ。」

リオが訝しげに問い返すと、やれやれとアレサが一歩前に進み出た。

「おらどけよリオ。みんな見えねぇだろ。」

「いっだ!なんだよポニテ野郎、スネ蹴るこたねぇだろ!」

「うっせオールバッカ。」

やいやい言いながらリオの脛を蹴り上げて、蒼平から離させる。

「うわっ、ちょっと、!?」

そして、突然蒼平の伸びっぱなしの前髪を鷲掴んで上に押さえつけた。

その額のある一点を認めた途端、リオが口をあんぐりと開けて固まった。

「え、何、突然…」

同じように額を見た周りの人達がどよめき出したので、更に蒼平は困惑した。

「お前、それ…」

隣で見ていたサモンが、ようやく口を開いた。


「雲鯨の印じゃねぇか!」


「く、くもくじら?」

何だか聞き覚えのある言葉だった。…そう言えば、何か大事なことを忘れている気がする。

蒼平が悶々とする一方で、サモンの言葉が火種となって周りが再び湧き上がっていた。

「ヒュー!ラッキーボーイ!」

「ライナに願い事を聞いてもらったっていう噂の奴か!」

「おめでとう!」

「なんて健気な男の子なの!」

「会えるといいね!」

「こうしちゃいられねぇ!祭りだ!祭りの準備だぁ!」

みんなが思い思いに言葉をかけ、誰かの声を合図に和気藹々と準備が始まる。

「ライナ…願い事…?」

そして、次々に覚えのある言葉が飛び込んできて、蒼平はまた首を傾げた。

「嘘だろ!こいつがライナの言ってた…クッソォ!今度こそ見つかったと思ったのによぉ…ああ!俺の運命の相手はどこだっ早く会いてぇのに!」

「フハハッ残念だったなリオ。ま、気長にガンバレヨ。」

「フラれたな、んじゃ今度残念会するか!あ、BBQやろうぜ!」

「あああうるせぇ!お前ら相手持ちの余裕いらねぇし、BBQもやらねぇよ!」

アレサの手が離れて周りで三人が騒ぎ出す。蒼平はそれを聞き流しながら、思い出そうとひとり頭を巡らせた。

そして、会話の中でどうにも引っかかった言葉をポツリと繰り返してみた。

「会える……会いたい…?」


ーーそらに会いたいかい?


「あれ、」

青い目が得意げに笑った気がして、頭の中の霧が一気に晴れていくような心地がする。

忘れかけていた記憶の中で、あの男が青空を背に声高らかに言っている。


ーー我は、雲居を統べるーー


「…雲鯨…!」

突風が吹き抜けて、残りの霧が吹っ飛んだ。

そうだ、ライナという男と出会ってから摩訶不思議な出来事が立て続けに起こってるんじゃないか!なんでここまで順応してたんだ、もっと早くに気づけよ俺の馬鹿野郎…!

全て理解した途端、自責の念に駆られ蒼平は項垂れながら両の手で顔を覆った。

「ん?ソウヘイ?」

蒼平の様子がおかしい事に気づき、アレサが声をかける。

「……アレサ…」

少し間が空いて、蒼平が顔を上げた。

「帰り道はどこですか。」

苦笑いとも照れ笑いともとれるあやふやな表情で言う蒼平は、涙目だった。


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