②
「順調に対応していただいて、安心しました…」
「そろそろ狩り時か?」
「ええ……だいぶ選別も出来ました……」
「では…『あれ』を渡す者を決めたと?」
「ええ……あなた方に公開するつもりは有りませんが……」
「この期に及んで、この私でさえ信用しないのか?」
「いえ、ただ……あなたは顔に出やすいので、それにその方があなたも面白いのでは?」
「痛いところをついてくる…富豪達の表情を見るとどうしてもな…私にはポーカーフェイスは出来ないようだ」
「では…そろそろ富豪たちに集まっていただきましょうか…高揚感が冷めぬうちに……」
……二日目…午後十二時三十分……。
前日の夕食はそれなりに盛り上がり、皆が楽しいひとときを過ごした。
葵もそのなかで、楽しんだ……。
不可解な事は多数あるが……とにかく楽しめる事は悪いことではない、愛美の酒癖の悪さが、葵は少々イラついたが、他は特に問題はなかった。
葵の部屋をノックする音がする……。
葵がドアを開けるとそこには有紀がいて、その隣には九条と歩がいる。
有紀が言った。
「葵……少しいいか?」
三人の表情は……少し硬い。
「おはようございます…お三方……」
九条は呆れ気味に言った。
「おはようって、もう正午だよ……」
「眠ったのが遅かったので……まぁ入って下さい……たいしたもてなしは、できませんが…」
そう言うと葵は三人を部屋へと招いた。
葵は三人を招き入れると「適当に座って下さい」と言い、用件を聞いた。
「で?どうしました?表情からして昼食の誘いでは、なさそうですが……」
九条が言った。
「昼食は……じきに山村さんが用意してくれるよ…」
有紀が言った。
「その山村氏が昼食の準備に取りかかった時に、気がついたようなんだが…」
「何をです?」
「昨日使ったはずの食糧が…『元に戻っている』とな…」
葵は顔をしかめて言った。
「『元に戻っている』…それは僕らがこの島に来た時の状態になっている……と、言う事ですか?」
九条が言った。
「そういう事だね……因みに誰も補充してないよ、補給船が来た形跡もないからね」
葵が冗談混じりに言った。
「まぁそうでしょう……でも、これで食糧難にはなりませんね…」
歩がすかさず突っ込んだ。
「確かにそうだけど……そういう問題じゃないでしょっ!」
葵は言った。
「わかってますよ……ただ、面白いと言いたいところですが…」
有紀が言った。
「厄介だな……」
葵が言った。
「ええ……厄介です、確かに食糧難を避けれるのは好ましいですが……元に戻るのは食糧だけではないでしょう」
有紀が言った。
「そうだ……これで劇薬の管理が難しくなった…」
「使用しても、元に戻りますからねぇ……ただ『条件』があるはずです…」
葵の言う『条件』のフレーズに三人は顔を見合わせた。
九条が三人を代表して、葵に聞いた。
「条件って……なんだい?」
葵はいつものように髪をクルクル回して説明し始めた。
「まず、僕らがこの島に着たのが昨日の午後1時30分前後……そのあとに夕食用の食糧を使い……おそらく今日の朝、何人か朝食を用意してもらったはずです……」
有紀が答えた。
「私と、堂島夫婦は午前9時頃に和食の朝食をいただいたが…」
葵は三人に聞いた。
「山村船長が昼食の準備を始めた時刻は?」
歩が答えた。
「さっきだから……12時くらい……そうかっ!」
歩のハッとした表情を確認すると、葵は不適な笑みで説明を続けた。
「そうです……答えは簡単です。つまり、昨日の午後1時30分~今日の正午までは『使った物は減ったまま』だった事になります」
さらに葵は言った。
「少し調べたい事があります……今日誰かプールは使用してましたか?」
九条が言った。
「まだ誰も使っていないはずだが……」
「では……昼食時でいいので、僕がいいと言うまでプールの使用は禁止して下さい…あと、医務室の使用は必ず九条さんか、歩さんが付き添うように……劇薬などの見張りを予て……」
九条が言った。
「わかった……そろそろ皆、昼食に集まる頃だ。僕から伝えよう…」
「感謝します……そして有紀さん…」
有紀は葵の言いたい事を察してか、先に答えた。
「「プールの水を調べろ」だろ?」
「お願いします……あと、島を囲っている水面の水もお願いします…」
「了解だ…ふふ、面白くなったきたな」
歩が呆れ気味に言った。
「面白がっている場合じゃないよ……明らかにおかしいだろ!?薄気味悪いし」
葵が言った。
「確かにこの島は、ありえない事が多すぎます。太陽が無いのに朝昼晩が、存在する。パソコンと倉庫をつなぐ謎の転送機能など…」
歩が言った。
「現実離れし過ぎている…」
葵が言った。
「とにかく九条さんと歩さんは昼食に行って下さい。有紀さんは申し訳ないですが昼食は後回しで……」
有紀は笑って言った。
「ふっ、人使いが荒いな……まぁいい、私も興味がある」
九条が呆れ気味に言った。
「皆を誤魔化す僕の身にもなってくれよ……」
歩が言った。
「あきらめろ、九条……それがお前の役割だ」
歩が九条の肩を叩き、部屋を出てパーティールームに向かった。
葵が言った。
「それでは僕たちも向かいましょう…」
葵と有紀はプールに向うため部屋を出た。
部屋の外に出たが、パーティールームに向かった歩と九条以外、人の気配はない。
どうやら他の皆は昼食をしに、パーティールームに行ったようだ。
葵と有紀は真っ直ぐプールに向かった。
目的地に着いた二人は早々に採取を始めた。
有紀は小さな小瓶を二つ持ち、一つをプールの水を、もう一つに島を囲っている水面の水を入れ、プールの水が入った小瓶にマーカーで印を着けている。
そんな有紀の様は、格好よく見える…内科医というより、美人科学者のようだ。
葵にいたっては、芝の一部と、その下にある土を採取している。
採取している葵は広場の入口の右すみにある、高さ1m程の鉄のボックスらしき物を指で指して言った。
「有紀さん…昨日あんな物……ありましたか?」
有紀も不思議そうに言った。
「いや、私の記憶にはないな…」
葵はボックスに近づいて、その物を確認する。
ボックスは鉄製で、これまた鉄製のとって付の蓋が付いてる。
葵はとってを握って、蓋を開けた。
中は……空っぽだ。ただ、大人が一人入れるくらいのスペースはある。
「なんなんでしょう?この箱は?昨日は確かになかったはずですが…」
「ゴミ入れか、何かじゃないのか?」
そう有紀が言うと、葵は何か閃いたように言った。
「有紀さん!ここで少し待っていて下さい…」
そう言うと葵は走って自分の部屋に戻った。
時間にしたら1~2分くらいだろうか……手に空のペットボトルを持って、葵は戻って来た。
「いったいなんなんだ?葵……」
有紀に返事をする事なく、葵は真っ直ぐボックスに向かい……ボックスの蓋を開け、空のペットボトルを空のボックスに入れて、再び蓋をした。
しばらく間を取り、葵は意を決したように、とってを握って蓋を開けた。
ボックスの中を確認した葵は不気味に笑って、有紀を呼んだ。
「ふふふ……来て下さい有紀さん…」
有紀はなんなんだ?といった感じで葵に言われるまま、ボックスの中を見た。
ボックスの中を見た有紀は目をしかめて言った。
「これは……いったい?」
有紀が驚くのも無理はない…なぜなら、あるはずのペットボトルがそこにはなく……ボックスの中身は何事もなかったかのように、空だったのだ。
有紀が言った。
「なぜ気づいた?」
葵が答えた。
「逆の可能性を考えてみました…」
「逆の可能性?」
「はい……パソコンと六時の方向の倉庫……そうですね『転送倉庫』とでも呼びましょうか…」
有紀が言った。
「物が現れる倉庫と、物を消すボックスか……」
「そういう事です……それにしても主催者は何がしたいのでしょうか…」
「さぁな、ただ言える事があるとすれば……あまり良い趣味とは言えないな…」
「ええ……悪趣味です」
有紀は葵に聞いた。
「それでなぜ水を調べる?」
葵は答えた。
「僕の予想では、水の状態は…昨日有紀さんが調べた状態になっているでしょう」
有紀は何かに気付いたように言った。
「そうか……だとすれば……おかしい…」
「ええ……昨日は複数の人が遊泳してました……」
有紀は言った。
「だとすれば、汗の成分や皮脂、垢などが、検出されなければならない……」
「さっそく調べましょう……」
そして二人は実験室へ向かい……採取した水を調査した。
葵の予想通りプールの水は昨日のままだった。
葵が言った。
「やはり……プールもですか……どうやらこの島は決まった時間……つまり、24時間に一回、リセットされるようですねぇ…」
葵が言うと有紀は言った。
「ああ……だか、それよりも厄介な事がわかった……見てみろ」
有紀に促され、一つの資料を見た葵は言った。
「これは……」
「この資料は、島を囲っている水面の水の分析結果だ」
「予想はしていましたが……塩分がありませんね…つまり、海水ではない」
「ああ……つまり、ここは海に浮いた島ではないという事だ」
「まぁ、太陽が存在しない時点で、ある程度予想はしてましたが……」
有紀は言った。
「証明してしまったな……我々は隔離されている事を…」
『隔離』?何の為に…。
ネガティブなそのフレーズは、他のメンバーにも重くのしかかる事を、二人には安易に想像できた…。