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choice01  作者: 陽芹 孝介
第三章 疑問の中での休息
7/27

葵は部屋にこもって、パソコンをいじっていた……。

いつもの甘いアイスカフェラテを一口すすり……軽くため息をついて、呟いた。

「やはり……開かないか……」

すると……葵の部屋に美夢と有紀が入ってきた。

有紀が葵に言った。

「どうだ?開いたか?」

「ダメです……開きません……やはりこの七桁のパスワードを解かないと、開かないようです。思い当たるワードは試してみましたが……」

葵はパソコンのアプリ『AMS』を開こうと試みたようだが……どうやらダメだったようだ。

葵はいつものように、自分の髪を指でクルクル回している。考え事をしている時の癖だ。

葵は有紀に聞いた。

「プールの水はどうでしたか?」

有紀は淡々と答えた。

「水質はいたって普通だ。例えるなら……水道水を、ろ過して飲めるくらいの水……泳ぐのには問題ない」

「そうですか……で、皆さんはどうしてます?」

美夢が答えた。

「皆それぞれ楽しんでるよ、愛美さんと容子さんのOL組はプールで遊んでるし……九条さんと歩さんは広場でゴザ開いてビール飲んでる」

葵が美夢に言った。

「で……美夢は遊ばないのか?」

「あんたを呼びにきたんでしょっ!ねぇ私たちも行こうよ……堂島さんがお茶飲ましてくれるって」

葵はそっけなく答えた。

「僕はこっちのほうが楽しい……」

葵はパソコンから離れようとしない。そんな葵を見て、呆れ気味に美夢が言った。

「あんたねぇ……協調性が無さすぎ……」

頭を抱えた美夢を見かねて、有紀は葵に言った。

「葵……まぁ、そう言うな……美夢の気持ちも察してやれ。それに気分転換も必要だ、そのために旅に参加したんだろ?」

葵は時間を確認した。午後3時30分過ぎ……昼食を終えてから、約3時間部屋にこもっている。

葵は有紀と美夢をみて言った。

「わかりました……ちょうど甘い物が食べたかったところです。堂島夫婦にお茶菓子でもご馳走になりましょうか……もっとも苦いお茶は御遠慮しますが……」

三人は部屋を出て、広場とプールの方へと向かった。

三人が広場に到着すると、そこには皆、それぞれ楽しんでる光景がそこにあった。

先程パーティールームにいた時とは違い、皆は正装から楽な私服に着替え、プールで遊んでるものは、水着だったり……それは様々だ。

プールの中で愛美、容子……そして順平が、ビーチボールで遊んでいる。

その光景をみた美夢は葵に言った。

「私も泳ごっかな?葵は?……まぁあんたは泳がないか……」

「よくわかってるな……」

美夢は葵を気にせず、プールの中の三人に大きな声をかけた。

「私も混ぜてもらって、いいですか?」

愛美が手を振って大きな返事をした。

「いいよっ!美夢ちゃん……早く着替えてきなっ!」

返事をもらった美夢は「すぐ戻りますね」と言って、自分の部屋へと走って行った。

走って行った美夢を見て有紀は葵に言った。

「いいのか?葵も行かなくて……」

「僕は甘い物を食べに来たのですから、泳ぐ必要はありません」

「ふっ……そうか……ならいい……」

そう言うと二人は広場でゴザを敷いてお茶を楽しんでいる、堂島夫婦の方へと向かった。

すると二人に気づいた歩がジョッキを片手に、近づいてきた。

「よぉ……お二人さん……どうだい?一緒に……」

歩はかなり出来上がっているようで、色黒の顔が赤黒く見える。

歩は長袖の白いシャツを着ているので、顔色しか確認できないが、だいぶ酔っているようだ。

そんな歩を有紀は冷たくあしらう。

「よるなっ!馬鹿がうつる……」

有紀にシッシッと払われた歩は、しょんぼりして言った。

「葵君……俺って可哀想だと思わない?いつもこんな扱いだぜ……」

葵は少し歩に同情して言った。

「そんなに落ち込まないで下さい……堂島夫婦にお茶菓子を御馳走になりましたら、そちらにも伺います」

有紀は冷たい表情を変えずに言った。

「葵、そんなやつは放っておけ!それに歩……お前もハメを外しすぎたら、プールに蹴り落とすぞ」

有紀は物騒な事を言っている。

「ひとまず退散しまぁす……」

そう言うと歩は逃げるように九条の元へ逃げて行った。

「行くぞ、葵……」

そう言われた葵は有紀について行った。

この時……葵が「有紀には逆らわないほうがいい」と思ったのは……いうまでもない。

堂島夫婦のいる広場のゴザに着いた二人は、夫婦の(かも)し出している空気に少し見とれてしまった。

芝の上に敷かれた和風のゴザはけっして茶を()てるには、少し貧相だが……光一が茶を点てている姿は、それら貧相な部分を包み隠すような爽やかさがあった。

その横で夫を見つめているサキも実に絵になっていた。

「ほぉ……」

思わず有紀も感心した。

先約がいたようで椿が光一の点てた、お茶を堪能している。

椿は洋装だが…違和感がないほど、光一の空気にはまっている。

葵と有紀に気づいたサキが声をかけた。

「あら……お二人ともいらして下さったのね……さぁ、どうぞお座りになって……」

サキに促され椿の隣に、有紀、葵の順に正座で座った。

有紀は正座姿も様になっているが、葵慣れていないのかモジモジしている。

そんな葵に光一は言った。

「楽にするといい……あまりに型を気にすると、美味い茶も美味くなくなる……」

葵は申し訳なさそうに言った。

「そう言っていただければ有難いです。生活環境の事情で正座には慣れていませんので……」

光一は葵の方を見る事なくお茶を点てながら言った。

「ふっ……気にする事はない、今は正式な場ではないからな……」

サキは笑顔で葵に言った。

「月島さん……お茶もお酒も、楽しく飲む物なのよ」

光一が言った。

(わし)は、ただ楽しんで欲しいだけだ……」

サキが言った。

「この人……普段は無愛想で頑固者だけど、ただ相手にお茶を楽しんで欲しいだけ……強面だから勘違いされやすいですけどねっ……」

二人の話を聞き、葵は穏やかな表情で言った。

「では、お茶をいただきましょうか……苦いのは正直苦手ですが…その後で食べる茶菓子はさぞ絶品でしょう……」

「そうだなでは馳走になろうか……」

そう有紀が言ったところで、椿が立ち上がった。

「それでは私は業務に戻ります……どうもご馳走さまでした」

椿はそう言って去っていった。

椿と入れ替わる形になったが、御茶会は続く、葵はお茶を一口すする……もちろん作法など知るはずもない。

葵はすすったお茶に苦味を少し感じたが、嫌な味ではない……不思議と体に染み渡る。

「意外といけますねぇ…さすがは茶道家の先生です、苦いのが苦手な僕でも飲みやすい…」

と、葵が言うように……光一の点てた茶はそれほどに飲みやすかった。

一緒に出してもらった茶菓子を堪能している…葵と有紀に、サキが聞いた。

「お二人はどうして……この旅に参加なさったのですか?」

葵が出して貰った水羊羹をつまみながら答えた。

「僕はただの代理です……僕と一緒に来た藤崎美夢……彼女の兄の代理です」

有紀が言った。

「そうだったか……確か……幼馴染みだったか?」

「ええ……幼い頃からよく面倒を見てもらいました、一人っ子の僕にとっては兄のような存在です」

サキが言った。

「いいお兄さんなのね……」

「ええ、彼の面倒見の良い性格は……刑事になった今でも変わりません」

すると今まで黙っていた光一が驚いたように言った。

「藤崎殿の兄上は警官か!?」

葵は目を丸くして言った。

「えっ、ええ……捜査一課の警部です。まぁ、キャリアですが……」

光一は頷きながら言った。

「警部殿に想い人はいるのか?いないなら……」

サキが光一の言葉を遮る。

「あなた!「亜美の婿に」などと言うつもりじゃないでしょうねっ?」

サキが見透かされた光一はわずかながらの抵抗をした。

「しかし……これはいい機会だぞ」

「押し付けてはいけません!」

有紀が言った。

「夫人の言う通りだな……結婚などは当人同士で決めるのが一番だ。私は結婚などは考えた事すらない……」

「まったく最近の若人は……」

光一がぶつぶつ言い出したところで、葵はこの場を退散するように言った。

「それでは僕は、もう行きます……ご馳走さまでした。とても味わい深かったです……」

葵は有紀を残してその場を離れて、 歩と九条が待つ方へと向かった。

葵が行く頃には、二人はすでに広場には居らず、プールサイドでのんびりしていた、時刻は午後四時前……辺りはまだまだ明るい。

葵に気づいた歩が手招きする。

「葵君!こっちこっち!」

歩の表情を見て葵は言った。

「酔いは覚めましたか?」

歩は答えた。

「ある程度ね……有紀に蹴り飛ばされちゃあ、たまらないからね……」

九条がクスクス笑いながら言った。

「ふふ、本当にいいコンビだ……君たちは……」

「笑い事じゃないよ…九条も気を付けてあいつには接したほうがいい……」

「ご忠告どうも……ただ僕は常識のある人間だからねぇ」

「まぁ、「俺は紳士」って、空気を醸し出しているからね……九条は……」

二人は冗談を交え笑いながら話している、同い年という事もあるかもしれないが、九条は歩の馴れ馴れしさが嫌ではなかった。

幼少期から九条は『政治家の息子』と、いうだけで、腫れ物扱いをうけてきた。

ただ……この旅に参加し、皆が九条司という一人の青年として接してくれている。特に歩に関してはただの『同級生』と、いった接し方だ。

九条にとってこれ程、新鮮なことはなかった。

葵がそんな心地よい気分の九条聞いた。

「九条さんは、なぜこの旅に?一人旅のようですが……」

九条は柔らかい表情で答えた。

「ここ最近……休暇がとれなくてね。そしたら偶然知り合いの伝から、チケットをもらってね……それで思いきって休暇をとったのさ」

九条が言うように、彼は実業家の傍ら……メディアにもでずっぱりで、休みがないのも納得がいく。

「まだこの場所に安心したわけではないけど…今は楽しむしかないからね」

歩が言った。

「まぁ、あんまり考えてもしょうがないよ……あんまし考えすぎると有紀みたいになっちまうぜ……」

その時だった……歩はいきなり後ろから蹴られ、プールに豪快に落ちた。

バシャっと豪快に落ちた歩は、あわてて水面から顔を出した。

歩の視線の先には有紀が仁王立ちしていた。

「誰が私みたいになると?……」

歩はあわてて言い訳した。

「なんだよっ!悪口言ってないだろ!」

「一連の話の流れからすると、どう考えても私の悪口だろ…」

「だからってプールに落とすことないだろ!」

「おかげで酔いも覚めただろ?」

「もう覚めたっての!」

「いいから着替えてこい!」

そう言われた歩はプールから出て、腕に張り付いて気持ちが悪いのか……シャツの量袖をまくる。

色黒の両腕は、いい感じの筋肉だが……よく見ると無数の傷や火傷跡などがある。

歩は有紀にぶつぶつ言いながら、自分の部屋へ着替えに戻った。

九条が有紀に聞いた。

「片岡さん、歩に厳し過ぎないかい?」

有紀は言った。

「悪口を言うからだ……」

葵は言った。

「怒らせたら……恐いという事です。それよりも歩さんの腕の傷はなんです?」

有紀は少し考えて答えた。

「私から言えることは無い……だか、葵の観察力があればいずれわかるだろ……」

渡辺 歩……カメラマン……腕にある無数の傷に火傷の跡……。

葵は言った。

「いや、今の彼に無駄な詮索はやめておきます……事情も有りそうですから……」

有紀が言った。

「ふっ、そうしてやってくれ……悪いやつではない」

「ええ……今までの彼の言動から信頼はできます」

各人それぞれがバカンスを楽しむなか、気がつけばもう午後五時になる……辺りは少しだけ夕方のように赤みが射してきた。

葵は言った。

「まったくもって不思議ですね……太陽が無いのに夕方ですか、演出が凝ってます」

そうこうしている間に椿が皆を呼びに来た。

少し早いが山村が夕食の用意をしたらしい、後一時間程で用意が完了するとの事だ。

皆は一度に解散し、一時間後にパーティールームに集合する事となった。

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