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choice01  作者: 陽芹 孝介
第二章 島
4/27

………暗い………。


明るすぎる白い光に包まれ……そして、暗い闇……。


光から闇へ……その激しい落差を感じることもなく、深く意識が墜ちる。


………どの位の時が過ぎたのだろう………。


………背中が冷たい………。


コンクリート?……シアタールームの床で無いのは確かだ。


すると声が聞こえる……。


「……君………葵君…」


………誰だ?………。


「葵君………おい!しっかりしろ!葵君!」

必死に葵を呼び掛ける声がする。

呼び掛ける声に反応し、葵は少しづつ目蓋を開ける。

「……歩……さん?」

葵を呼び掛けた声の主は歩だった。

「良かった……気がついたみたいだね、座って少し休んでて、けだるさが残ってるはずだから……」

歩の言うように、葵は体が少し重く感じた。

目を覚ました葵を確認すると、歩は有紀に声を掛ける。

「有紀、そっちはどうだ?」

有紀の方には倒れている愛美と容子、そして、その隣に座りこんでいる順平がいる。

有紀は歩に言った。

「二人共……共に呼吸、心音、脈拍は正常だ。じきに目覚めるだろう」

有紀は順平に言った。

「順平……恐らく二人共大丈夫だが……一応目覚めるよう、呼び掛けてくれ」

「わかりました」

順平はけだるそうだ。順平も目覚めて間もないのがわかる。

有紀は順平に二人を託し、倒れている堂島夫婦の所へ向かった歩も別で倒れている船長の山村とその助手の椿の元へ向かう。

葵の元へ九条と美夢が寄ってきた。どうやら九条と美夢も無事だったようだ。

「葵……大丈夫?これ……一体どういう事?」

美夢も少しだるそうだ。

葵は立ち上がって言った。

「それをこれから考える……少し辺りを見てくる」

「葵君っ!危険だぞ!」

九条が葵を制止しようと言ったが、葵は言い返した。

「今のところは大丈夫でしょう……危険ならば僕らは今頃とっくに危害を加えられてますよ」

そう言うと葵は行ってしまった。

九条は呆れた様子で美夢に聞いた。

「彼はいつもこうなのかい?」

美夢は申し訳なさそうに九条に謝った。

「すみません……後できっちり怒っておきます」

九条は苦笑いで言った。

「まぁ……彼の言う通り、僕らは全員気絶してたわけだからね……今の状況が危険なら、とっくに危害を加えられてるからね」

九条と美夢の元に歩が来た。

九条が歩に聞いた。

「どうだった?」

「皆は一応無事だ……って、葵君は?」

「彼はもう行ったよ」

歩は美夢に聞こえないよう九条と会話する。

「やれやれだな……俺は葵君を追うよ。今のところ危険は無さそうだか、流石に一人で行動さす訳にいかないからな」

「皆にどう説明するんだ?」

「九条は船長にこの状況を確認してくれ……まぁ、恐らく船長もわからないだろうが……」

「で、僕にどうしろと?」

「船長と口裏を合わせて、ここが目的地だと……うまいこと誤魔化してくれ。演説は得意だろ?」

「演説は関係ないだろ…」

「皆が混乱するのはなるべく避けたい……そうなると、リーダーシップのある船長とお前でこの場をおさめるのがベストだ」

九条は仕方ないといった表情で言った。

「了解した。じゃあ……葵君は頼んだぞ」

「ああ……体調に異常があれば有紀に言え……あいつは信用して大丈夫だ」

そう言い残して、歩は葵を追った。


葵は倒れていた場所から敷地の端の方まで来ていた。

敷地その物はリゾート地にしては広くない、むしろ狭いくらいた。

この位置からでも、皆か居ることがわかる。

………およそ150m程か………。

先程確認したが、皆がいるところがおそらくこの丸い敷地の中心で、高さ3m程の時計台がそびえ立っている。

その時計台を中心に、回りに十二戸の小さなコンクリートの建物が建っている。

更にその外側四方向に四つの施設が……一つは…プールか?

葵は右の人差し指でクルクル髪の毛を回しながら呟いた。

「なかなか面白い……」

すると葵のほうに歩が駆け寄った来た。

「葵君!」

「歩さん……先程はどうも」

「どうもじゃないよ!まぁいい、一応俺も同行させて貰うよ」

「ええ、どうぞ。だが皆はいいのですか?」

「あっちは九条に任せた……皆を混乱させない為にはあいつが適任だ。それに有紀にもいるからね」

「今……一番最悪の状況は混乱して各々がパニックになることです。それに先程の有紀さんの言動から察するに、医療に携わっている人間でしょう……懸命な判断です」

「ああ……葵君のいう通りあいつは優秀な内科医だ……信用できる。で、何かわかった?」

「さっぱりです……ただ……」

「ただ?」

「この円形の敷地に、十二戸小さな建物に四つの施設……それに外側を見てください」

歩は葵に、言われた通り外側を見た。敷地を、水面が囲い広がっている。

「海か?でもそれにしても……」

歩も違和感に気づいたのか、葵が答えた。

「ええ、波がありません。あと空を見て下さい」

歩は空を見た。

雲が一つもなく、快晴と呼ぶにふさわしいくらいだ。

違和感を感じない歩に葵が言った。

「気がつきませんか?回りは東西南北、水平線で陸地が一つも有りません……そして、こんなにも明るい……」

歩はようやく葵の伝えたい事がわかった。そして、それと同時に表情が凍りついた。

葵は不敵な笑みで答えた。

「そうです……太陽が何処にもないんです」

敷地の回りは水面で囲まれていて、360度水平線だ。陸地が見えない水平線で、この明るさ……太陽が何処にも見当たらないのは……あり得なく、ここは明らかに異質だ。

葵は歩に聞いた。

「尋ねたい事があります」

「なんだい?」

「最初に起きていたのは誰ですか?」

「九条だ……それから俺を九条が起こして、有紀、美夢ちゃんに……葵君と順平君その後は……ほとんどかわらないなあ」

「そうですか……」

考え込んでいる葵に歩は言った。

「なぁ、葵君……これって主催者のサプライズって、事は……ないよなぁ?」

葵は少し考えて答えた。

「なくはないですが……不可解な事が多々あります。これを見て下さい」

そう言うと葵は自分のスマホを歩見せて言った。

「時刻は午後1時40分を過ぎたところです」

葵は時計台の方を指差し、言った。

「時計台の下に僕らの荷物が置いてあります」

確かに葵の言うように、時計台の下には自分たちの荷物が確認できる。

葵は更に続けた。

「僕たちがシアタールームに入ったのが午後1時過…気を失ったのか1時10分過ぎ……まだ30分程しか経っていません。歩さん、あなたも気付いているのでしょう?」

葵は歩の微かな望みを絶ちきるように言った。

「仮に一番最初に起きていたと言う九条さんが、主催者とグルだったとしても、一人で僕たちを運び出し、御丁寧に荷物まで運び出す何て事は……たった20~30分では不可能です」

歩は項垂れた様子で言った。

「やっぱりそうだよねぇ……どう考えても普通じゃないよね」

葵は更に追い討ちをかける。

「もう僕らの乗っていた船も見当たりませんからね」

歩は言った。

「それは俺も気付いていたよ……九条に起こされた時には既に船はなかったよ」

葵は歩に言った。

「とにかく一度皆の所へ戻りましょう」

「そうだね……時間はたくさん有りそうだし、『島』の探索はそれからでも遅くないしね」

「島と呼ぶには……人工的過ぎますが……辺りは水面なので島でいいでしょう……」

葵と歩は一度皆が集まっている時計台に戻る事にした。


皆のいる時計台に葵と歩が、戻って来た。

いち早く美夢が葵に駆け寄る。

「何してたのよ!かってな行動はだめでしょっ!」

「すまない……だが、なかなか良いリゾート地だぞ……プールもあった」

葵は美夢を心配させないよう、あえて自分が思う不可解な事は言わなかった。

九条と船長の山村も、歩の方に向かい何かしら話している。

すると歩が葵を呼んだ。

「葵君……ちょっと……」

葵は美夢に有紀や、順平のいる所で待つ様に指示し、歩達の方へ向かった。

歩が葵に言った。

「九条が上手く誤魔化してくれたようだよ」

葵が言った。

「どの様に?いや、それより……山村船長……ここは何なんですか?」

山村は少し混乱しているのか、訳がわからないといった表情で言った。

「私にもさっぱり……」

葵が言った。

「でしょうね……聞いていた話と違う……もしくは、そもそも何も知らないと、いったところですか……」

九条が驚いた表情で言った。

「葵君の言う通りだよ、よく分かったね……船長は何も知らないらしい……」

葵は淡々と言った。

「まず一つは……船長や助手のスタッフまで気を失っているのは変です」

九条が興味津々で聞いた。

「それと?」

「船長はコックなども兼任してました……なら船長か料理を創っている間、誰が船を操縦しますか?」

歩が少し目を広げて言った。

「そうか……オートパイロットか!」

葵が言った。

「そうです。おおかた主催者に「オートパイロットが目的地まで運んでくれる。だから接客業を重視しろ」と言われたって、ところでしょう」

山村が言った。

「はい、月島様の仰る通りです。先程九条様にもご説明しましたが、私も助手の一ノ瀬も書類選考だけで採用されましたので、オーナーとは会った事がないのです」

歩は不思議そうに言った。

「よく、怪しまなかったねぇ……」

山村は少しためらって、少し暗い表情で言った。

「恥ずかしながら、報酬額良かったものですから……」

九条が山村の気まずそうな様子を察して言った。

「これ以上はヤボだ……よそう」

葵が言った。

「山村船長……方位磁針を見せてもらっていいですか?」

山村は驚いた様に言った。

「え、ええ……持ってますが……よくおわかりになりましたね…」

葵は山村から方位磁針を受け取り、淡々と答えた。

「いくらオートパイロットとはいえ、トラブルがないとは言いきれませんから……他の業務を行いながら方角をチェックするには、常に携帯しなければいけませんからね」

山村から受け取った方位磁針は、懐中時計のように蓋がついている。

葵は蓋を開け、方角を確認したが、すぐに異変に気付いた。

「やはり……」

そう言うと葵は三人に方位磁針を見せた。

三人には驚き、そして歩が言った。

「これはっ!?」

磁針は方向を示す事なく、クルクル回っている。

葵はクルクル回っている方位磁針を見て、興味津々だが、他の三人にの表情には緊張感がある。

山村が恐る恐る言った。

「これは……どういう事ですか?」

葵は「あまり詳しくない」と前置きしたうえで、考えられる可能性を言った。

「方位磁針のN極S極は、両磁極を結ぶその方向を、その地点の向きに沿わせようと回転動作を起こします、それは地球に地磁気が……つまり地球が持つ磁気があるからです」

葵は緊張感のある三人をよそに、話を続けた。

「僕の知識の範囲ですが、考えられる可能性は…いまのところ、二つあります」

山村はまたもや、恐る恐る聞いた。

「な、何ですか?」

葵は楽しいといった表情で答えた。

「一つはこの島に磁力が集中している…もしくは島じたいが様々な磁力で構築されている……」

そして葵は少しためて不敵な笑顔で言った。

「二つめは地磁気じたいが、ここには存在しないか……です。それほどにこの島は異質といえます」

三人にはおそらく同時に思っただろう……。

葵は何故こんなにも楽しそうなのか?と……島も葵の言うように確かに異質かもしれないが、この月島葵という青年も異質だと思っただろう。

緊張感の残る九条が言った。

「確かに……地球場には方位磁針が役に立たない場所が多々あるようだか……」

葵が言った。

「それは秘境の地や、磁気性の高い岩などかある一部の場所です。だが……この島は明らかに人工的です」

葵の言うように、この島の建造物は明らかに人工的だ。

葵が言った。

「あと、お持ちの携帯電話などを確認して下さい」

九条が言った。

「僕のは……カバンの中だ」

「俺は持っているよ」

歩はそう言うと、ジャケットの内ポケットから、スマホを取り出した。

電波は……当たり前のように圏外だ。

歩は葵に言った。

「時計台の時刻ともあってるし……特に異常は……」

歩は「異常は無い」と、言いかけたところで、目を疑った。

そんな歩の反応に満足したのか、葵は言った。

「気が付きましたか……」

歩は不思議そうに言った。

「どうして?……」

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