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choice01  作者: 陽芹 孝介
第七章 鎖
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「フフフ……さあ…役者は揃いました。一人予定外の人間がいますが……問題はないでしょう」

「君らしい面白い人選だ。今回程、興味深いのは……過去にはなかったな」

「フフフ……私もたまには楽しみたいのですよ」

「遊び心が出たか?……君の悪い癖だな」

「そう言わないで下さい……ただ先程言われた通り、今回の人選は自分で言うのもなんですが、実に興味深い」

「そのため、今までと違ったサンプルが採れるわけか……」

「その通りです。今回は今まで以上に富豪達にも楽しんで頂ける事でしょう……」



……午前11時30分……



自己紹介を終えた10人は、それぞれ談笑を交え、出航の時を待っていた。

その中で茶道家の堂島光一は、憮然とした表情で妻のサキに呟いた。

「まだ船は出ぬのか?集合時間からもう30分は過ぎているぞ」

憮然とした光一に、サキはなだめるように言った。

「いいではありませんか……あなた。見知らぬ若い人達と、ふれ合いながら出航の時を待つ……中々できる経験ではありませんよ」

そんなやり取りをしている、堂島夫婦にOLの愛美と容子、そしてそのOL二人とすっかり仲良くなった美夢が、夫婦に近づいて行った。

グラスビールを片手に愛美が言った。

「そうですよ!奥さんの言う通り!旅は長いんですから、楽しみましょう!」

愛美は少し酔い気味で、はたから見たら絡んでいる様にも見える。

そんな愛美を友人の容子が嗜めるように言った。

「ちょっと……失礼よ!愛美っ!」

愛美の様子を見て、サキはクスクス笑いながら言った。

「気になさらないでいいんですよ。主人にもこういった刺激は必要ですから……ねっ、あなた?」

「うむ……そうだな……。しかし我が娘なら許さぬところだが……善き旅にするには無礼講も必要かもしれぬな」

光一は、怒ってはいないが呆れ気味だ。

呆れ気味の光一に美夢は尋ねた。

「娘さんがいるんですか?」

光一は美夢に答えた。

「うむ、24歳になる娘が一人な……茶道の修行がまだまだ足らぬと言うのに、ふらふらしおって」

娘の愚痴を言い出した光一を見て、サキは言った。

「あらあら……あなたったら、こんな所でまで亜美(あみ)の愚痴を言っても、皆さんに迷惑ですよ」

美夢はサキに尋ねた。

「亜美さんって言うんですか?」

サキは笑顔で美夢に返す。

「ええ……一人娘よ。こうは言ってもこの人娘には甘いのよ」

すかさず光一は反論する。

「何を言うか!あいつには早く婿を見つけさせて、家業を継いでもらわねば……」

酔っ払った愛美が、光一の反論を遮る。

「年頃の女の子が、修行なんかやってられるかっての!」

容子が愛美を抑える。

「愛美っ!失礼だってば!」

光一をなだめるサキに、愛美のフォローに追われる容子……それに上手く溶け込む美夢……ワイワイガヤガヤとやっているが、楽しそうだ。

そんな光景を少し離れた席から見ていた、葵は一人呟いた。

「ふむ……やはりコーヒー6の牛乳4の割合に、シロップ三つだな」

葵は自分で作ったアイスカフェラテを堪能している。

そして隣に座っている、専門学生の順平に言った。

「君もいかがです?順平君。よかったら作りますよ」

順平は苦笑いしながら言った。

「ありがとうございます……でも、遠慮します。俺……無糖派なんで……葵さん甘党っすか?」

シロップ三つはかなり甘いが、順平の苦笑いを気にする事なく、葵は言った。

「ええ……甘い物を摂取していないと……僕の場合、落ち着かないので……軽い中毒症状です」

「ははは、三つはさすがに多いっすよね……」

「よく言われます……あっ、それと僕の事は、さん付けで呼ばなくて結構ですよ……歳も一つしか違いませんからね」

少し考えて、順平は葵に言った。

「わかったっす、じゃあ葵君って呼ばせてもらうっす」

「わかりました。では、そう呼んで下さい」

すると、葵と順平の二人に、カクテルらしき物を片手に有紀が話し掛けて来た。

「私は二人共呼び捨てで、呼ばせてもらうぞ……葵に順平」

そう言うと有紀は葵の隣に座る。

葵は有紀のカクテルを見て言った。

「カルーアミルクですか……」

「私も甘党でな……まぁ……君と似たようなところだ。順平は未成年だか……葵、君は二十歳だろ?酒は飲めないのか?」

「飲めなくはありませんが、アルコールを摂取すると、思考が弱冠低下しますからね……なるべく飲まないようにしています」

「ふふ……成程……どっかの馬鹿にも聞かせてやりたいな」

「どっかの馬鹿って俺の事?」

そう言いながら、歩は九条と一緒にやって来た。

歩に有紀が更に毒づいた。

「ほお……お前にも自覚があるのか?なら尚の事、たちが悪いな」

すかさず九条が歩のフォローをする。

「まぁ、片岡さん……いいじゃないか……新しい出会いを祝い、お互いにグラスを交わす……多目に見てやってくれ」

「この男を甘やかすと後で痛い目を見る事になるぞ、九条氏」

有紀が九条に注告したところで、パーティールームの入口が開いた。

開いた入口から、先程受付をしていた女性と、もう一人50歳前後のコックの服装をした男性が、ワゴンに豪華な料理を乗せて、入って来た。

男性は物腰の柔らかそうで、優しい表情をしている。

受付の女性と、コックらしき男性は「失礼致します」と言い、専用のカウンターに料理を並べていく。

女性陣が「美味しそう」と、口々に言うなか、二人は淡々と料理を並べていく。

女性陣の言う通り、パスタや肉料理、魚介類と、いった美味しそうな料理が次々並べられていく。

皆が注目する中、料理を並べ終えた二人は、皆の方を向き一礼し、男性の方が言った。

「皆様……この度は、大型クルーザー『エンジェル』へ、ようこそ御来場下さりました。船長兼コックの山村崇(やまむらたかし)と申します。一週間よろしくお願い致します」

どうやらこの山村という男性は、この船の船長まで兼任しているようだ。

山村の丁寧な挨拶が終わると、次に先程受付をしていた女性が、言った。

「船長の助手を任されております……一ノ瀬椿(いちのせつばき)です。よろしくどうぞ」

助手の椿の挨拶が終えると、船長の山村が再び話始めた。

「後……20分程……12時正午に出航致します。目的地ですが、この港から南東へ数百キロ先の、プライベートリゾート島へ向かいます。何事もなければ、深夜には現地に到着します」

九条が山村に質問した。

「深夜の到着だと、今夜はこの船で宿泊し、明日の朝に島に入ると……?」

椿が山村に代わり答えた。

「その通りでございます。リゾート地とはいえ、自然が溢れる所らしいので、深夜の危険がないとは言いきれません」

危険というフレーズに女性陣は少し反応したが、椿は構わず続けた。

「ですので、今夜は目的地の港に船を停泊させ、明日の朝に皆様には島に入って頂きます」

愛美は安心したように言った。

「その方がいいわ……ヘビとか出たら発狂しちゃうかも…」

愛美はジャングルでも想像しているのだろうか?容子にも同意を求める。

容子は愛美に合わす感じで言った。

「そうね…私もヘビはちょっと…」

二人の中では、蛇が出現する事が前提になっているようだ。

そんな不安そうな女性二人を心配してか、山村は言った。

「ご心配なさらずに……危険な生物は確認されてないようですので」

山村の話を聞いて、愛美と容子は「よかった、よかった」と言い、安堵の表情になった。

山村は続けて言った。

「皆様……昼食はバイキング形式で御座いますので、お好きな料理をお取りください」

山村に続けて椿も言った。

「ただ、この船のスタッフは私と山村船長の二人だけで御座いますので、多少不備があるかもしれませんが、ご了承下さい」

山村と椿は皆に深々とお辞儀し、「出航時には船内アナウンスで御知らせします」と言い残し、去って行った。

そして、各々が好きな食事を取り昼食会のようなものが始まった。

最初は皆でテーブルを囲い食事をしていたが、しばらくすると、また各々が自由に行動し始めた。

すると船内アナウンスがパーティールームに響き渡る。山村の声だ。

『只今より出航いたします。多少船が揺れますのでご注意下さい』

山村のアナウンス通り、船のエンジン音と共に少し船が揺れる。

そして少しづつ皆の体にGがかかる。とうとう船が出航したようだ。

九条が言った。

「とうとう僕らの旅が始まったね」

歩が言った。

「でも、こんな豪華なクルーザーにスタッフが二人だけって、ちょっと大変だねぇ……」

歩に美夢が言った。

「自分たちで出来ることは、なるべく自分たちでしたらいいんじゃないですか?」

美夢の提案に九条も快く賛同し、皆に聞いた。

「確かに藤崎さんの言う通りだな。皆、どうだろうか?」

特に誰も異論はないようだ。

有紀が言った。

「美夢と九条氏の言う通りだな。まぁ、タダでこの旅に参加したようなものだしな…異論はないな?歩……」

「あのぉ~、俺、何も反論してないんですけど……」

「お前にはしつこい位、言っておかないとな」

歩は苦笑いしながら言った。

「俺ってそんなに信用ないわけ?」

有紀は皮肉った。

「よくわかっているじゃないか……」

歩は葵に助けを求めてきた。

「葵君……どう思うよぉ?……」

葵は特に歩をフォローする事もなく言った。

「有紀さんの言ってる事が、正しいかどうかは……この一週間でわかることです」

美夢がすかさず葵に指摘する。

「葵……そこは歩さんのフォローでしょ…」

そんな二組の様子を見て九条は言った。

「ふふふ、二組共いいコンビだね。でもあまり歩をいじめてやるなよ……」



……一時間経過……



船が出航して一時間程経過した頃、葵と美夢は船の甲板に出ていた。

「風か気持ちいいねっ!来てよかったでしょ?葵…」

風になびいた髪を、手でかきあげながら、心地の良い風を、美夢は堪能している。

そんな美夢を見て、葵は言った。

「そうだな……皆個性が有り興味深い……警部殿に感謝だな」

「そうだね、お兄ちゃんにお土産買って帰らなくちゃ」

葵と美夢が会話をしていると、甲板に歩がやって来た。

「うう……少し飲み過ぎた……」

歩は少しふらついている。

悪戯めいた表情で、美夢が歩に言った。

「また有紀さんに怒られますよ」

歩は苦笑いして答えた。

「うん、だから有紀から逃げる様にここに来た……。酔い冷しもかねてね」

美夢は歩に言った。

「歩さんて、人見知りとか全然無さそうですね。あの九条さんともすぐに仲良くなったんですよね?」

「俺、あいつが有名人って、知らなかったんだよ……有紀に聞いて驚いたよ……大臣の息子だろ?」

葵が歩に言った。

「あれだけメディアに露出しているのに、知らないとは……もしかして……」

美夢は葵が話しているのを遮って、歩に笑顔で聞いた。

「有紀さんとはどういう関係なんですか?恋人同士ではないんですよね?」

ストレートな美夢の質問に歩は特に不快感を示すことはなかった。

裏表のない美夢の笑顔に、悪意は感じ取れない。歩は少し間を取って答えた。

「一言で言うと……戦友かな……」

「戦友……ですか?」

美夢よくわからないと、いった表情だ。

葵が歩に聞いた。

「因みに職業は?世界中を飛び回ってそうですが……」

歩は目を丸くして言った。

「よくわかったね!?俺、カメラマンでさぁ……ほとんど日本にいないんだよね。なんでわかったの?」

葵は淡々と答えた。

「やはりカメラマンですか……他の職業の可能性もありましたが、答は簡単です。まずこの国内で九条司を知らない人間は、いないからです。時の人ですからね……」

更に葵は続けた。

「では、何故知らなかったか?それはあなたが常に日本にいないからです。それにそのあなたの日焼けの仕方は、海外転勤のビジネスマンの日焼け仕方ではありません」

歩は頷きながら葵の話を聞いている。

「それとあなたの、その誰とでも仲良くなれるフランクな性格は……コミュニケーションを取り、各国のシャッターポイントの情報を得るには最適です」

歩は葵に言った。

「でもそれだけで俺がカメラマンとは断定できないよ、ジャーナリストかもしれなよ」

葵は答えた。

「断定はしてませんよ。ただ、ジャーナリストなら余計に九条司を知ってる可能性が高くなります……よってジャーナリストではありません。ジャーナリストなら嫌でも現大臣の御子息の情報は耳に入ってきますからね」

葵は更に続けた。

「美しい風景や、秘境を撮るのなら九条さんの情報は必要有りませんからね……ただ、ボランティアや他の職業の可能性も有りましたから、断定はしませんでした」

歩は感心したように言った。

「おそれいったよ!流石、天変……いや、天才月島ってところか…」

葵は偉ぶる事もなく歩に言った。

「カメラマンの可能性が僕の中で高かっただけです。でも、当たって良かったです」

美夢は葵に言った。

「あんた、その……人のアラ探しみたいな事するの止めなよ……」

葵は少しムスっとした表情で言った。

「僕はアラなど探してないぞ」

歩が二人をなだめる。

「まぁまぁ……美夢ちゃん……俺は何にも気にしてないよ。でも本当に葵君は凄いよ有紀が興味持つのもわかるよ」

しばらく葵、歩、美夢の三人で話していると、九条が甲板にやって来た。

「君達……船長が呼んでいるぞ。シアタールームに来て欲しいようだ」

九条は山村船長の代わりに三人を呼びに来たようだ。

九条を加えて四人で甲板からパーティールームに戻ったら、他の乗客の姿は既になく、シアタールームへ向かったようだ。

シアタールームは最初に入った、パーティールームの入口の、逆側の扉を出た通路の奥に有るようだ。

シアタールームへの道中に葵は呟いた。

「クルーザーと言うより、客船ですね」

葵の言うように、パーティールームにシアタールーム、客室10室に、スタッフルームに厨房……クルーザーと言うより、小型客室だ。

九条も葵に賛同した。

「葵君の言う通りだね…僕もクルーザーは所有しているが……ここまで豪華ではないからね」

九条もクルーザーを所有してるようだ。流石は有名な実業家だ。

四人がシアタールームに到着すると、船長の山村、助手の椿が出迎えてくれた。

シアタールームはそんなには広くなく、席も15~16席程で、正面には大型の液晶モニターが備え付けてある。

遅れてきた四人が空いている席に座るのを確認し、船長の山村が話始めた。

「皆様、お楽しみの最中にお集まり頂いて、恐縮です」

山村と椿は皆に向かってお辞儀し、再び山村は話始めた。

「これから皆様に御覧頂きますのは、オーナーからのメッセージPVです。お時間は取らせませんので、しばし御覧下さい」

そう言うと、山村と椿も皆に一礼し、空いている席に座った。

少し時間が経つと、部屋の明かりが消え、部屋が真っ暗になる。

「どんなPVかなぁ?」

「愛美!静に!」

部屋は暗いが、愛美と容子のやり取りだと、すぐにわかる。

落ち着きのない愛美と、それを落ち着かす容子…、この二人もなんだかんだで、バランスがとれたコンビだ。

すると、巨大モニターにメッセージらしき物が表れた。


『ようこそ……夢の船へ……』


葵はその文字を見た瞬間、何故か背筋が凍りついた。

それは本能的なのか、今までの経験上か…理由はわからないが、嫌な予感がした。

そんな葵をよそに、美夢は言った。

「斬新な演出だね!なんか映画みたい!」

更にメッセージは続く。


『これから貴方達に、素敵なプレゼントをお届けします』


順平の声がする。

「何かのサプライズっすか?」

シアタールーム内がざわつきだす。


『さあ……夢の世界へ……』


このメッセージが出て、2~3秒後に、巨大モニターから、白い光が放たれた。

シアタールームにいる全員が白い光に包まれる。

すると、すぐに体に変化が起こった。


……意識が……朦朧とする……。


葵は意識が朦朧とする中で、隣に座っている美夢を確認する。だが……美夢は既に意識はないようで、ぐったり項垂れている。

葵は意識を保とうとしたが……。


……ダメだ……意識が……。これ……は、なん……だ?


……ここで意識が途絶えた……。


最後のメッセージがモニターに写し出される。

『さぁ、始まりましたよ…。希望か?絶望か?それは貴方達しだいです』

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