②
……七日目…午前九時……
久しぶりに安眠できた感じが、体の疲れを確かに癒してくれた。
太陽がないこの島でも朝の光がある…そんな光を感じて目覚めた美夢は、葵の方を見た。
「まだ寝てる……でも気持ち良さそう…」
美夢の言うように葵は実に、快適に寝ている……何かに開放されたように…熟睡している。
「もう少し………寝かしとくか……」
そう言うと美夢は、顔を洗うべく洗面所に向かい、朝のメイクなどの支度を済ませた。
そして自分が飲むアイスティーと、葵の好きなアイスカフェラテを用意した。
「そろそろかな……」
美夢がそう呟くと、葵がベッドからノソノソ起きてきた。
美夢が葵に言った。
「おはよっ……」
寝ぼけ眼の葵も美夢に言った。
「おはよう………何時だ?」
「もう9時30分だよ。はいっ……」
そう言うと美夢は葵にアイスカフェラテを渡した。葵はそれを受けとると、一口飲んだ。
「……美味いな……」
一口飲んだ葵に美夢は言った。
「さっ、顔……洗ってきなっ…」
美夢言われた葵は洗面所へ向かった。幼馴染みの日常だ。
顔を洗い、洗面所から戻った葵は再びアイスカフェラテをのみ始めた。
美夢が言った。
「ねぇ……いつ帰れるの?…」
葵は言った。
「たぶん……今日かな……」
美夢は驚いた。
「葵っ!あんた、帰りかたわかったの?…」
「たぶん……でも歩さんに確認しないとな…」
「歩さん……昨日辛そうだった。大丈夫かな?」
「大丈夫……歩さんは強い。さぁパーティールームに行こう……皆も、もう行ってるだろう……」
二人はパーティールームに向かった。
太陽がない島だったが……久々に爽やかな朝を、確かに美夢には実感できた。
パーティールームに到着すると、皆揃っていた。
九条が葵と美夢に言った。
「おはよう……眠れたかい?」
葵が答えた。
「ええ……久しぶりに熟睡しました。皆さんは?」
有紀が言った。
「私はいつも通り、適度な睡眠だ…手紙だった歩はあまり眠れなかったようだが……眠れと言ったのに、まったく…」
歩が言った。
「仕方ないだろ………俺にだって、考える事があるんだよ」
九条が言った。
「まぁまぁ、片岡さん……」
歩の昨日の話を聞いて、歩の心情を察した九条がフォローした。
容子が葵と美夢に言った。
「おはよう二人とも……朝ごはん用意するねっ……トーストでいいかな?」
美夢が言った。
「容子さん……私も手伝いますよ」
そう言うと、二人は仲良く厨房へ行った。
二人が厨房へ向かったのを確認し、九条が葵に言った。
「人数も半分になってしまったね」
「ええ……初日が嘘のようです」
九条は少し遠慮がちに言った。
「葵君……聞いていいかな?」
「どうしました?」
「堂島夫婦と山村さん、それに順平君だが……君なら彼らを死なせずに救えたんじゃないか?」
葵は少し考えて言った。
「確かに三人は難しかったですが……順平君を救う事は、できました」
九条は怪訝な表情で言った。
「では……何故?」
「殺人の記憶を持ったまま現実に戻ったら……彼は、一生その自責に捕らわれ……下手すれば自殺しかねない……」
「それってどういう意味だい?」
葵は髪をクルクル回しながら言った。
「海外でこんな事例がありました……映画館の一室で、その部屋にいたおよそ30人が…突然昏睡状態になり……」
九条が目を見開いて言った。
「それって……」
葵は続けた。
「だがしかし……一ヶ月後、突然全員目を覚ましたそうです」
いつの間にか歩と有紀も聞き入っている。
葵は続けた。
「目を覚ました30人は『スクリーンから放たれた白い光に包まれた』ところまでしか、覚えていなかったそうです……」
葵はさらに続けた。
「僕はあのアマツカという人物と、対峙した時思いました……海外の今言った事例……いやそれ以外の集団昏睡事件も、アマツカによるものではないかと……」
有紀が言った。
「原因不明の集団昏睡は国内外問わず、事例がある……事件性はないようだが……」
葵が言った。
「そこで僕は、仮説をまたもや立てました…」
歩が言った。
「仮説とは?」
「ここで死んだ人間は……現実世界に戻ると、その間の記憶が無くなるんじゃないかと……」
九条が言った。
「て、事は……アマツカは……その30人を全員殺害したのか!?」
「アマツカは言いました…『来るべき時の資金稼ぎ』と……だとすれば、様々なパターンのゲームを、『アマツカのユーザー』達に提供していると思れます……」
歩が言った。
「だから……あえて順平君を死なせた……彼の……未来を守るために……」
葵は言った。
「それは買いかぶり過ぎです。彼から殺人の記憶を消したかったのは事実ですが、彼の未来まで保証はできません…」
有紀が言った。
「いや、お前は守ったさ……順平の未来を…」
九条が言った。
「そうだね……無事に帰っても、彼を殺人罪で立件できないからね……これで良かったのかもしれない……」
歩が言った。
「殺された人も……ここでの記憶が消えてしまう。でも……生き残った俺たちは鮮明に記憶に残ってるんだろな…」
九条が言った。
「しかし、何故記憶が消えて無くなるんだろうか?…」
葵が言った。
「この島で僕たちが動けるのは、脳波のおかげです手紙だった…つまりこの島で殺されるという事は、脳波に危害を与えた事になり…」
有紀が言った。
「外傷性健忘か……」
歩が言った。
「頭部の外傷がきっかけで、一時的な記憶喪失を起こす症状か……」
葵が言った。
「それと似たような事でしょう……」
九条が言った。
「なるほどね……とにかく脱出しなければ、わからないか……」
葵が言った。
「脱出できればの話ですが……」
有紀が言った。
「暗号が解けてないのか?」
「いえ、暗号は解きました……合っているとは思うのですが……ヘタに試して面倒な事になると厄介です。アマツカの事ですどんな仕掛けがあるか……」
歩が呟いた。
「答え合わせか……」
「歩さんには酷かもしれませんが……」
先日のアマツカの言動から、この島からの脱出には『歩が関係している』事はじゅうぶんに考えられた。
九条が言った。
「葵君……君の答えを聞かせてくれ…」
その時ちょうど美夢と容子が、皆の朝食を持って、戻ってきた。
葵が言った。
「では皆が揃ったので……始めますか…」
「謎解きを…」




