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choice01  作者: 陽芹 孝介
第七章 分解……分離……解放
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九条は驚いた様子で言った。

「……戦場?……」

歩は言った。

「あぁ……馬鹿だった俺は、外科医としての腕を振るうには、もってこいだと思った。軍医ではなかったけど…」


……暫く場が沈黙する……。


葵が辛そうな歩を見て、話を変えるように言った。

「少し休憩しましょう……二人の遺体も忌ってあげないと…」

九条が場の空気を変えようとする、葵を察して言った。

「そうだね……パーティールームに移動して、少し休憩しよう…」

葵が言った。

「では、遺体を広場に運びますので……誰が手を…」

有紀が言った。

「私が貸そう……九条氏も手を貸してくれ…」

九条が言った。

「あ、あぁ……わかった。じゃあ、歩と美夢ちゃんと容子君は、先にパーティールームで休んでいてくれ…」

それから二手に別れて、葵達は遺体を広場に運ぶ作業に取り掛かった。

アマツカの放った火は、もう収まっていたが、広場はまるで爆撃を浴びた焼け野はらのようだった。

二人の遺体を広場に運び終えて、九条はアマツカの遺体を見て言った。

「アマツカとはいったい……歩とどんな関係があったんだろ?…」

有紀が言った。

「それは私にもわからんが……奴の口振りから……おそらく戦地か災害地で知り合ったのだろう…」

九条が言った。

「災害医療とは……過酷なのは想像がつくが…」

有紀が言った。

「過酷なんてものではない……自らも危険であり、さらに……命を切り捨てる覚悟が必要だ…」

九条は目を丸くして言った。

「命を……切り捨てる?…」

葵が言った。

「……『トリアージ』……ですか?」

九条が言った。

「『トリアージ』?…」

葵が言った。

「災害医療の事です……本来医療とは『全ての患者を救う』が一般的な医療の理論ですが……トリアージは違います…」

九条が言った。

「違うとは?…」

葵が言った。

「トリアージのロジックは『小の虫を殺して大の虫を助ける』です。わかりやすく言うと、患者のレベルを4段階に色分けし、軽いのから……緑→黄→赤→黒の順にし…」

九条が言った。

「それって……まさか……」

九条は察したようだったが、葵は言った。

「黒は……切り捨てる…」

有紀が言った。

「確かに……だが、少し違う……トリアージは、例えば……テロなどによる大量負傷者が発生し医療キャパが足りなくなった『極限状況』でのみ是認される。医者はいつでも全ての患者を救いたいと思っている……色に関わらず、どんな時でもな……」

葵は言った。

「わかっています……だからこそ歩さんは、誰よりも命を重んじる…」

有紀が言った。

「そうだ………だが……我々医者も神ではない。あいつは割り切れなかったんだ…」

有紀の言葉に、その場が重たくなった。

九条が言った。

「そろそろ戻ろう……皆が心配する…」

三人がパーティールームに戻ると、皆は静かにそれぞれ飲み物を飲み……ぐったりとしていた。

様々な事が起こり過ぎてよほど疲れたのだろう。

歩が言った。

「おかえり…」

歩の表情は穏やかだが……どこか哀しげだった。

葵が言った。

「広場は焼け野はらでしたよ…」

美夢が言った。

「皆さんのお茶も用意したんで、座って下さい…」

三人が座ると、再び場が沈黙に包まれた。

そしてしばらくして、歩が再び話始めた。

「どこまで話したかな?……戦場に行ったところまでか…」

九条が歩を気づかった。

「あまり無理をするな……君のタイミングでいいよ…」

歩は九条に作り笑顔で言った。

「サンキュー……九条。でも……もう大丈夫…」

九条の気づかいに感謝しつつ、話を始めた。

「俺は自分の腕をあの現場に生かして、救えない命を救えると疑わなかった…」

「しかし……そんな俺の理想は簡単に打ち砕かれたよ……4段階に色分けされた患者を……黒の患者を見捨てるしかない現実…」

「今日も……また今日もか……と……俺は心底自分の無力さに絶望した」

「救えなかった患者ほど覚えてるもんでさ……特に子供のは…鮮明に記憶に残ってる…」

皆は歩の悲痛そうな表情をじっと見つめて……黙って話を聞いている。

歩は話を続けた。

「信じられないよ……子供が銃を持ち、戦争してるんだぜ?今日を生きるために………考えられないだろ?…でもそれが日常で起こってる。でも……救えない……治療しても、治療しても……患者は溢れるばかり……黒が……なくならないんだ……」

美夢や容子も歩と同じように悲痛そうな表情をしている……歩の話を想像したのだろう。

歩は構わず続けた。

「だから俺はメスを捨てた………救えないなら……起こさなければいい…」

九条が言った。

「だからカメラマンに?」

「あぁ……少しでもこの世界の慘状を知って欲しくて、訴えたくてね…」

有紀が言った。

「ではアマツカとは?」

歩が言った。

「どこかで救えた患者だと思う……邦人患者も結構いたから…ボランティアの人とか…」

葵が言った。

「その中の一人だと?」

「たぶん……でも…誰かまでかは……」

葵が言った。

「アマツカは死の間際に「何故私を助けた?」と、歩さんに言っていたようですが……心当たりは?」

「思い出そうとしてるんだけど……わからないんだ…」

すると歩の疲れた表情を見て九条が言った。

「今日はもう遅い……歩も少し休んだほうがいい…」

葵が言った。

「そうですね……危険の可能性は0ではありませんが、とりあえず身の安全は確保できたと言っていいでしょう……」

有紀が言った。

「そうだな……少し皆眠ったほうがいい……歩にも睡眠が必要だ。ここ最近ほとんど眠っていない…」

こうして皆は解散する事となった。念のため二人一組になり、解散した。

葵と美夢が部屋に戻ると、美夢が言った。

「歩さんの話……なんか辛かった…」

「辛くならない者などいない」

「私……知らない事だらけで……情けないよ…」

「だったら……これから知って、美夢の出来る事を考えたらいい…」

美夢は少し考えて言った。

「わかった……勉強する」

「……ならいい……」

美夢は話を変えた。

「話変わるんだけど……葵の偽物の死体って、どうやったの?」

葵は美夢にパソコンを見せた。

「これを見ろ…」

葵に見せられたのは、『AMS』のアプリを開いた画面だった。

内容に美夢は驚いている。

「なに?……これ……」

葵は言った。

「これは転送システムの…そうだな『裏サイト』とでも、言っておこうか……内容は見ての通りだ…」

リストには、拳銃や刃物等の武器類に、そしてなりより驚きなのは、世界の死刑囚リストがあった。

葵が言った。

「順平君はこのサイトから……銃と、自分の身代わりになる遺体を手にいれたんだ」

美夢が言った。

「死刑囚を転送したって事?」

「あぁ……死刑囚を転送し、すぐに殺害してそして火を着けた……」

美夢が葵に恐る恐る聞いた。

「まさか……あんた…」

葵はニヤリとした。

「僕が死刑囚を身代わりにすると思うか?」

「おっ、思わない……」

「当たり前だ……僕が転送したのは銃だけだ。遺体は寝る間を惜しんで人形で作った」

美夢はほっとした表情で言った。

「だよねぇ……いくら変人でもそこまでしないよね……安心した……

でも、順平君が人形に気づいたら……逃げられるんじゃ?」

葵はポケットから、何かのスイッチを取りだし、それを押した。

『早いですね……どうぞ入ってきて下さい……まだ作業中なので、少し待っていただかないと……』

ボイスレコーダーだった。

美夢が言った。

「あんたそんな仕掛けまでしてたの?」

「そうまでしないと、アマツカを追い詰める事は……できなかった……僕は隣の美夢の部屋で待機して、ボイスレコーダーであらかじめ録っておいた、僕の声を遠隔操作で、タイミングよく出したんだ…」

「やっぱたいしたやつだわ……葵って……」

こうして夜は過ぎていった。

脱出する希望を胸に抱きながら……。

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