③
葵は偽椿に言った。
「何が目的でこのシステムをつくったのです?…」
偽椿は言った。
「目的………フフフ……では逆に問います。いかがでしたか?この島は?」
葵は答えた。
「特定の人間を隔離し、そしてサバイバルゲーム……実に悪趣味です」
偽椿は言った。
「では……誰も死なず、この島で平穏に暮らせたら?現に小林順平はこのままこの島で過ごしたかったようですが…」
「その順平君をあなたが口車にのせたのでしょう…」
偽椿は言った。
「しかし、この島……いやシステムは素晴らしい……食べるに困らず、必要な物は手に入る……まさに『夢の島』と呼ぶにふさわしい…」
「では何故サバイバルゲームを仕掛けたのです?資金調達ですか?…こんな物の使い道はそれくらいでしょ…」
九条が言った。
「資金調達とは?」
葵が言った。
「僕たちを賭けの対象にし、刺激に飢えた暇な金持ちに、多額の金を賭けさす……ただの金儲けです…」
偽椿が言った。
「フフフ………そこまでわかっているとは……しかし、ただの金儲けとは心外です……来たるべき時の資金稼ぎですよ…」
葵が言った。
「あなたは恐ろしい存在だ……このシステムを拡張させれば……想像するだけでゾッとしますよ…」
偽椿が言った。
「私にとっては、月島葵……君の方が恐ろしいですよ。この私をここまで追い詰めるのですから……まぁだからこそ今回のゲームは楽しめましたが…」
九条が言った。
「君は……いったい?…」
偽椿が言った。
「小林順平が言っていたでしょう…『アマツカ』と…」
有紀が言った。
「アマツカ?…」
アマツカが言った。
「そう私はアマツカ……この世の全てを構築する存在…」
葵が言った。
「アマツカですか………神の使者にでもなったつもりですか?…いや、これ以上あなたとの問答は不要です……脱出方法を教えてもらいましょうか?」
アマツカは笑いながら言った。
「この私が素直に教えると思いますか?」
葵はアマツカに言った。
「自殺して自らの口封じをしようとしても無駄ですよ。あなたの利き腕は使えなく……銃は有紀さんが回収済みです…」
アマツカが言った。
「さて……それはどうでしょうか?…」
……ドォォォォォォンッ!!……
アマツカがそう言った瞬間だった……背後で凄まじい爆発音が鳴った。
全員がそれを無意識で確認した……広場の方から火が上がっている。
葵はアマツカの方に視線を戻し言った。
「いったい、な………?!」
葵が視線を戻したその先には……胸から血を流すアマツカがいる。
アマツカは一瞬の隙をついて、利き腕とは逆の手で……隠し持っていたナイフで、自らの胸を突き刺した。
「フフフ……あ、安心………して、下さい………軽い……爆発です…」
アマツカは悶絶しながら、葵を真っ直ぐ見て言った。
「今回は……よ、くて……引き分け……でしょう……脱出の…答は…ドクター渡辺に……うあっ!…はぁはぁ…………答は合わせでも…はぁはぁ…」
葵に言葉を発するとは出来ない。
そしてアマツカは歩に言った。
「Your having……helped me……(あなたは私を……助けたことを…)…はぁはぁ…」
「You will be sorry……by all means…(あなたは必ず……後悔する…)」
そして最後の言葉を振り絞った。
「また……会いましょう…た、たの……しかった……です…よ……」
こうしてアマツカは息絶えた。
アマツカの壮絶とも言える死に、残された一同はただ呆然とした。
そんな中九条が言った。
「いったい何だったんだ?アマツカとは?…」
有紀が言った。
「まさかあっさりと、自ら命を絶つとはな…」
葵が言った。
「おそらく僕たちが脱出出来ると確信して、自殺したのでしょう……アマツカの言った『今回は引き分け』とは、そう言う意味でしょう…」
有紀が言った。
「重要な情報を漏らさず……システムを我々に開放させ、生還する……確かに引き分けかもな…」
美夢が言った。
「でも脱出できなかったら……あの人も生きて帰れないじゃないですか?…」
葵が言った。
「だからヒントを置いていった…『歩さんに答え合わせをしてもらえ』と……それは答は歩さんが知っているワードと言える…」
有紀が言った。
「歩……ヤツは何者だ?…」
葵が言った。
「アマツカは英語で『何故私を助けた?』と言ってましたね…」
歩はさっきから黙ったままだ。
歩の様子を見て九条が言った。
「僕たちが信用できないのか?」
歩はやっと言葉を発した。
「まさか……信用してるよ。ただ少し頭を整理したい……ただ今言えるのは…」
少し間をとって歩は言った。
「俺がまだ外科医だった頃の患者だ…」
九条や美夢、容子は驚いている。
九条が言った。
「歩……医者だったのか?」
歩は無理に作ったような笑顔で言った。
「そっ……有紀は知ってて…葵君には見破られたけど……あまり思い出したく無い事なんだ…」
有紀が言った。
「いいのか?歩…」
歩は答えた。
「俺がこの状況を作った原因なら…今いる皆にはちゃんと話さないとね…」
九条が歩の様子を気づかった。
「確かにそうだが…あまり無理をするなよ…」
「いや、ちゃんと話すよ……九条に美夢ちゃん、容子ちゃんも聞いてくれ…」
歩は話始めた。
「俺は以前大学病院で外科医をやっていてね…「俺に出来ないオペはない」とか言っていた頃があってさ…今思えば馬鹿だよ…」
有紀が言った。
「歩は一時…『天才外科医』など呼ばれていた頃もあってな…」
歩が言った。
「有紀とはそこでコンビだったんだ。有紀が受けた患者を俺がオペで治す……その繰り返し…」
有紀が言った。
「一見華やかだが……現実はそうではなかった…」
歩が言った。
「俺達がいた病院はリスクを犯さない……オペにリスクのある患者は、提携先の終末医療専門の病院に回されていたんだ……ただ問題はそこじゃない…」
有紀は言った。
「自分の腕を信じて疑わない歩は、大学病院を出ていった…自分の腕を証明するためにな……まぁ、私が今まで見てきた外科医では歩は一番だったが……でも、どんなに優れた外科医でも神ではない……救えない患者もいる…」
歩は苦笑いて言った。
「俺は井の中の蛙だったんだ……でも……その時は気づかなかったんだ……馬鹿だったしね…」
九条が言った。
「それでどこにいったんだ?」
歩は言った。
「災害地や…」
「戦場さ……」




