②
葵は事の真相を語り始めた。
「順平君が死んだ犯人はとされる、広場を調査していた時です…」
……五日目…正午……
広場の調査を終えパーティールームに戻ろうとした時だった。
「何だって?犯人がわかった?!」
歩が思わす大声で言ったが、葵が制した。
「落ちついて…うろたえないように…」
有紀が言った。
「どういう事だ?…犯人は?」
「犯人は……おそらく順平君です…」
歩が勢いよく疑問を投げ掛けようとしたが、有紀がそれを制し、代わりに聞いた。
「順平は……我々の目の前で死んだんだぞ?」
「どうしてあれが順平君だと、確信かもてるのです?」
有紀は目を見開いて言った。
「まさか…別人か?…」
葵は言った。
「別人かどうかは、わかりませんが……あれは偽物でしょう…」
歩が言った。
「しかし……いくらなんでも…」
葵は言った。
「他にも妙な点があります…」
有紀が言った。
「妙な点?…」
「ええ……広場を調べましたが…キレイ過ぎる…」
歩が言った。
「それは、リセットのルールだろ?」
「だったら尚更、おかしい……ルールが適用されるなら、残ってないといけない物まで消えてしまってる…」
有紀が言った。
「残ってないといけない物?」
「モロトフカクテルを使用した時の硝子片や、爆発を起こしたスプレー缶の残骸などです…」
有紀が言った。
「そうか……確かに凶器まで消えているのは、おかしい…」
歩が言った。
「つまり……どういう事?」
葵は言った。
「つまり…犯人は、あの偽の遺体に火を放ち、11時30分頃に出てくる僕たちに…その光景をみせる。そして爆発で僕らを威嚇して…パーティールームに僕らを避難させ……その後僕らがいなくなったのを、見計らい…消火作業をし、偽の遺体と痕跡を、あの鉄のボックスに捨て消去した」
有紀が言った。
「火や爆発で荒れた広場はリセットのルールで、元通りか…しかし何故順平だと?順平が犯人を返り討ちにした可能性もあるぞ…」
葵が何かを取り出して言った。
「これです……」
それは先程葵が拾った黒い棒状の欠片だった。
葵が言った。
「これは、後でもう一度調べますが、眼鏡のフレームの破片です…順平君のね…」
有紀言った。
「そうかその丸みがかった箇所は、耳にかかる部分か…」
「そうです、これが残っているとう事は…」
歩が言った。
「順平君が生きている……しかしどうやって拳銃を…」
葵が言った。
「おそらく貰ったのでしょう…」
歩が言った。
「貰ったって?」
葵が言った。
「考えてみて下さい…こんな大それた事順平君一人に出来ると思いますか?先程のトリックもこの島の性質を熟知していなければ出来ません…」
有紀が言った。
「順平が『X』の可能性は?」
「それも考えましたが……ないですね…」
「何故言い切れる?」
「僕たちを四六時中監視してないと、このトリックは成立しません……愛美さんを殺害した後に引きこもった順平君には、監視できません…」
歩が言った。
「じゃあ、順平君は『X』に操られてると?…」
葵が言った。
「はい……そして『X』に関しては思い当たる人がいます…しかし確証がありません」
歩が言った。
「とにかく今は順平君を確保して、脱出する事を考えなければ…」
葵が言った。
「いや、それはダメです…」
歩が驚いて言った。
「何でだよ?」
葵は言った。
「今順平君を確保し、皆で脱出を試みたら、『X』はなりふり構わず、僕らを消しにくるでしょう…」
有紀が言った。
「では、どうする?」
「騙されたふりをして、引き続き『X』には、遊ばせましょう…その方がまだ安全で、全滅は免れます…」
有紀が言った。
「しかしそれほど時間がないぞ?」
「確かに有紀さんの言う通り、これはただの延命処置で…時間がないのは事実です…」
歩が何か思い出したように言った。
「葵君……さっき『X』に心当たりがあるって言ってなかった?それってこの島にいるって事?」
「ええ……なので『X』をあぶり出します…」
歩が言った。
「でもなんで『X』が、この島にいるってわかったんだ?」
「部屋のドアの暗号です。暗号を使うという事は……脱出とシステムの解析に必要だから…」
有紀が言った。
「この島にいるのが我々だけなら、脱出ルートを作らず閉じ込めておけばいいからな…」
「そうです……すなわち『X』はこの島にいる事になります…」
歩が言った。
「しかし、どうやってあぶり出す?」
葵は髪をクルクルさせながら言った。
「『X』が僕の予想通りの人なら……僕らが戻った時に、アクションを起こし……そして、今夜また順平君を使い殺人を犯します…」
歩が言った。
「そこを抑えるのか?」
しかし葵は静かに首を横に振って言った。
「いや、ここはスルーします…」
歩が驚いて言った。
「何故だ?!チャンスじゃないのか!?しかも殺されるのを……見殺しにするのか?」
「この時点ではまだ早い…それに先程も言いましたが、誰が『X』かは、確証が持てません…」
葵の言葉に歩は悔しそうにしている。
有紀が言った。
「では、どうする?」
「明日の昼までに僕はシステムの解析をします……同時に脱出方法も…」
「出来るのか?」
「やるしかありません…」
「それで…?」
「明日の昼……皆が集まった時に、『脱出方法がわかった』と僕は宣言します」
有紀と歩は顔を見合わせた。
葵は続けた。
「そう言えば、『X』は順平君を使い僕を消しにくるでしょう…」
歩は言った。
「まさか……囮に?…」
「似たようなものですが……僕も偽物の遺体を用意します。それを順平君に襲わせて、隙をみて順平君を拘束して下さい…歩さんなら出来るでしょう?」
「確かに、それは簡単だが…」
歩は戦場カメラマンで数々の修羅場をくぐってきた……葵の、頼み事など容易かった。
有紀が言った。
「確かに順平は抑えれるが、『X』はどうする?」
葵は言った。
「そこで有紀さんの出番です…」
「何をするんだ?」
「偽の遺体に駆け寄って、検死のふりをして下さい……そして『葵は死んだ』と皆が集まった時に、言って下さい…」
「リアルさをより出すためか…」
「はい、ただし……これだけだは『X』は出てこないでしょう…そこで一つ仕掛けをします」
歩が言った。
「仕掛け?」
「歩さんには『葵が脱出方法のメモを残した』と言って下さい…そうすれば必ず『X』は尻尾を出します…」
……六日間…午後十時……
葵は偽椿に言った。
「これが事の真相です…」
葵はさらに言った。
「その他にも、広場であなたは爆発が起きた時に、最初に避難を促しました…普段は喋る事の無いあなたが……そして僕たちがパーティールームに戻った時に、あなたが組分けを提案した時点で…確証が持てました…」
偽椿は苦笑いしながら言った。
「私はまんまと君に引っ掛かったと?…少々君を見くびっていたようです…」
「それは僕もです……まさかここまで後手にわまるとは…ハッタリもたまには役に立ちます…」
偽椿の表情が強張った。
「まさか……脱出方法のメモは…」
「そんなものありません…システムは解析しましたが、脱出方法はまだわかりません…」
偽椿は呆れたように言った。
「フフフ……やはり君は面白い……月島葵…」
葵が言った。
「さぁ、僕のネタばらしはここまでです…あなたは何者ですか?」
偽椿は葵に撃たれた腕を抑え、力を振り絞り、歩に向かって言った。
「Doctor Watanabe(渡辺先生)」
「Why did you help me?(何故私を助けた?)」
その言葉を聞いた歩は表情を強張らせた。
葵は偽椿に言った。
「どういう事です?…助けた?」
歩は偽椿に言った。
「君は…まさか…」
「フフフ……言ったはずですよ……」
「……死なせてくれと……」




