③
三人の検死を、葵と有紀はしている。
美夢と容子は互いに抱き合い涙を……椿は下を向いて震えている。
歩と九条はただその場に立ちすくむしかなかった。
検死の結果……三人とも愛美と同じで、拳銃による射殺…。
九条が言った。
「山村さんは……この旅が終わったら…別れた家族に会いに行こうとしていたそうだ」
歩が聞いた。
「家族に?」
九条は続けた。
「ああ……昔、事業に失敗して多額の借金を背負って、家族は離散したそうだ。しかしその後…血の滲む努力をしたんだろ、借金の返済まであと僅かだったようだ」
椿は言った。
「この旅での報酬で借金が完済出来る予定だったようです…」
椿は泣いているのか……肩を落として下を向いている。
九条は拳を握りしめている……悔しさが伝わるほどに…。
皆は一度解散する事となった……皆、朝食をする気分ではなかったのだろう…。
部屋に戻った葵はいつもの仕草で考え事をしている。
髪をクルクル回している葵に美夢が言った。
「減っちゃったね……12人も居たのに…」
美夢はアイスカフェラテを差し出した……両頬には涙の跡がついている。
「無理はするな……美夢…」
ただ優しい葵の言葉にも、美夢は出来る限り、気丈に振る舞った。
「私だけ泣いてられないよ……皆頑張ってるんだから…」
「……そうか……」
美夢は不思議そうに言った。
「でも不思議よね……死んだ人が消えちゃう何て…」
「確かにそうだな……ありえない…」
「なんか……ああいうのを、天に召されるって言うの?」
「天に召される?」
「よく童話とかでもあるじゃない……天使が死んだ人を天国に連れていくやつ…」
「天使……天に召される…連れていく…」
葵は何かブツブツ言っている。
美夢は不思議に葵に言った。
「どうしたの?葵……ブツブツ言って…」
葵は突然叫んだ。
「そうか…そういう事だったのか!」
「美夢!僕たちは脱出出来るぞ!」
正午にパーティールームに集まった皆は葵の言葉に驚いた。
「脱出できるって…本当かいっ?!」
九条が、声を荒げた。
葵は口角を上げて言った。
「ええ……本当です…」
皆は驚きと、喜び、戸惑いか混ざった感じだ。
葵は皆の興奮を抑えるように言った。
「ただし、時間がありません……今晩脱出します…」
九条が言った。
「今晩?」
「はい……少し準備がいるので時間を下さい…そうですね、22時に僕の部屋に…美夢はそれまで歩さん達といてくれ…」
九条が言った。
「一人でいるつもりかい?危険だよ!」
葵が言った。
「犯人はまだわかりませんが……おそらく外部犯でしょう…皆さんにはアリバイがありますから……それに僕は死にませんよ…」
歩が言った。
「九条……ここは葵君に任せよう…」
有紀も歩に賛同する。
「そうだな我々には……どうにもならない」
二人に圧された九条は渋々納得した。
「わかったよ……ただしくれぐれも警戒は怠らないように…」
葵は九条に言った。
「感謝します九条さん…では僕は先に戻り、一眠りします…最近寝ていないので…」
有紀が言った。
「準備じゃないのか?」
葵が言った。
「寝るのも準備の一つのです……皆さんも今晩のために眠って下さい…因みに鍵は開けておきますので…一応声はかけてください…」
九条が言った。
「無用心だよ…」
「心配は無用ですですチェーンはかけておきますので…それでは…」
美夢が心配そうに葵に言った。
「葵……」
葵は美夢に表情を緩めて言った。
「美夢……心配するな……僕を誰だと思ってる…」
そう言うと葵は、美夢の頭を軽く叩いて、自分の部屋に戻ってしまった。
葵の出て行ったパーティールームは、しばし沈黙に包まれた。
容子が言った。
「葵君……大丈夫かな…」
美夢が答えた。
「大丈夫ですよ……あいついつも、ああなんです……じっとしてなくて…」
有紀が言った。
「美夢も大変だな……葵の面倒をみるのは骨が折れそうだ…」
美夢は少し考えて答えた。
「でも……じっとしている男は、つまんないでしょっ?」
有紀は少し驚いて……そして美夢を感心した…真意を最後まで言わない葵の事を、根拠なしで……ただ信じている。
有紀は言った。
「お前も強いな……美夢…」
「そんなことないですよ……すぐ泣くし…」
歩が言った。
「いや、美夢ちゃんは強い……俺たちも見習おう…」
九条が言った。
「そうだな……我ながら情けないが、葵君を信じよう」
こうして皆は葵の指定する時刻まで、各部屋で待機する事になった。
期待と不安が入り交じった、難とも言い難い気持ちを胸に…。
その時を待った。




