②
先程まで座り込んでいた葵は立ち上がり、外に出ようとする。
それを見た歩は葵を止めようとして言った。
「どこに行くつもりだい?」
葵は振り向く事なく言った。
「広場ですよ……もう正午は過ぎました…」
歩は葵の腕を掴んだ。
「危険だ……君だって見ただろう?あの炎を……それに犯人は拳銃を所持しているんだぞっ!」
葵は歩の目を見て、言葉に力を込めた。
「その犯人の手がかりがあるかもしれないんです…」
歩は大声で葵に言った。
「君が死んだら終なんだぞっ!」
すると有紀が言った。
「だったら……年長者の私たちが、葵を守らねばな……行くぞ…」
歩は有紀に言った。
「何を言ってんだっ?!有紀まで…」
「こうなったら、こいつは引かないぞ……それは歩もわかっているだろ?」
葵は歩に言った。
「僕は自暴自棄になどなってませんよ…」
「だったら何故…」
「タイミングがよすぎます…」
「タイミング?」
「うまく言えませんが…察して下さい…」
有紀が言った。
「行くしかないな……私も気になる…」
歩は仕方なしに言った。
「しゃあないな……いいか?九条…」
九条は他の皆の様子を見て言った。
「わかった……ただし30分だけだ……必ず戻ってくれ…」
葵は九条に言った。
「感謝します…九条さん…」
順平が焼死した広場に向かった三人は、あらためてこの島の異常さを実感した。
焼けた芝や飛び散った土などが、キレイにもとに戻っている。
歩が言った。
「つくづく……驚かされるなぁ…」
葵は鉄のボックス付近を丹念にしらべている。
葵は言った。
「妙ですねぇ……何故ここまでキレイに?…」
すると葵は何かを見つけた。
それは『黒い樹脂製の小さな物体』だった……葵はそれをハンカチ越しに摘まんだ。
「何でしょう?これは?」
有紀がそれを見て言った。
「元は何かの棒か?…折れたような跡があるぞ…」
有紀の言うように、先っぽは折れたような跡があり、もう逆側の先っぽは熱で変形したのか…丸みがある。現状の長さは3cm程だ。
葵はそれをジッパー付きの袋に入れて保管し、それをまじまじ眺めて言った。
「ん?これって…」
有紀が言った。
「で……わざわざリスクを犯してまで、我々をここに連れてきた理由は何だ?」
葵が言った。
「流石は有紀さん……察しがいい…」
歩は驚いて言った。
「なに?…現場検証じゃないの?」
葵が言った。
「それもありますが……僕にはどうしても納得がいかない事があります…」
有紀が葵に確認した。
「私と歩に話してもいいのか?」
葵は目を閉じて、そして力強く答えた。
「あなた方は信用できます…」
有紀が言った。
「何故言い切れる?」
葵は自分の考えを言った。
「歩さんは……誰よりも命を重んじています。その歩さんがあなたを『戦友』と言った…理由はそれだけで充分だと思いますが…」
歩が言った。
「葵君……」
有紀が言った。
「そうか、ならいい……まぁ歩はともかく、私は犯人じゃないがな…で?何を云いたい?」
歩にはもはや突っ込む気力もないようだ。
葵は言った。
「どうも後手になりすぎています……それにあれだけ人間不信になっていた順平君が、部屋を飛び出すと思いますか?」
有紀が言った。
「確かにそうだな……順平の部屋は08番で、広場は反対側だ……呼び出された可能性が高い…」
歩が言った。
「でも順平君が死んだ時には、全員にアリバイがあるんだぜ…」
葵が言った。
「次の疑問がそれです。愛美さんが殺害された時は全員にアリバイがなかった……しかし、何故今回は全員にアリバイがあるんです?」
有紀が言った。
「たまたま……とも、言えるが……違和感は感じるな…」
葵が言った。
「それにタイミングが良すぎる……まだうまく言えませんが、犯人は僕たちの一手先を、常に行っているような気がします。全てを見透かされたような…」
歩が葵に言った。
「つまり……どういう?…」
葵が言った。
「犯人はやはり内部犯だと僕は思います…」
三人が広場で現場検証をしてるのを九条がパーティールームの入り口から見ている。
山村が言った。
「皆さん大丈夫ですか?」
「ええ…今のところ……もう戻ってきそうです」
九条が言った通り三人はパーティールームに戻ってきた。
九条が葵に言った。
「収穫はあったかい?」
葵が答えた。
「物的証拠になる物はとくに……しかし広場は焼けた形跡などは消えて、キレイになっていましたよ…」
山村が言った。
「異常ですね…」
葵は言った。
「しかしこれで、この島がプログラムで形成されてる可能性がより高くなりました…」
九条が言った。
「これからどうすんだい?」
「僕はこれから全力で脱出方法を考えます……ここを解放しない限り僕らに先はありません…皆さん出来るだけ協力を…」
皆に異論はなかった……今はそれにすがるしかないのだ。
九条が話を変えるように言った。
「組分けの話なんだが……少し変更しようと思うんだけど…」
歩が聞いた。
「どう組むんだ?」
九条が説明した。
「君達……葵君、美夢ちゃん……歩と片岡さんの組はそのままで、容子君と山村さんを交換しようかと…」
葵が言った。
「何故ですか?」
「一ノ瀬さんが……男に囲まれるのは、もう我慢の限界らしい…」
九条は自分で言ってて悲しそうだ。
葵は九条に同情しつつ言った。
「問題ないでしょう……確かに一ノ瀬さんには酷な環境だったでしょう……気分転換も必要です、僕たちの身の回りの仕事もしていますからね…」
こうして昼食を食べて、新しい組分けで一度解散し、夕方の6時に12番の部屋の前に集まる事にした。
犯人は拳銃や火炎瓶を所持しているので、時計台は止めたほうがいいと…光一が提案した。
部屋割も少し変更した。10番の部屋に葵と美夢、11番の部屋な歩と有紀が…1番の部屋に九条、椿、容子が…そして最後に2番の部屋に堂島夫婦と山村に決まって、解散した。
夕食を何事もなく終えて皆はそれぞれの部屋に戻った。
部屋に戻った葵は、髪をクルクル回している……考え事をしているようだ。
「やはり転送倉庫の機能には武器や、危険物はない……どうやって拳銃を入手した?」
「最初から持ってたんじゃない?」
「拳銃何てそう簡単に手に入る物じゃない…」
葵はそういいつつも可能性はあると思った。
九条は財界、政界様々なパイプがある…手に入れようと思えば手に入る。
歩は戦場カメラマンで武器弾薬がある地域で、シャッターを切っている……この中では一番入手が簡単に出来る。
しかし歩の人の命への執着は異常だ……しかも戦場カメラマンはその使命から武器を嫌う……そんな歩が人を、ましてや嫌いな武器で人を殺すのは考えにくい……。
山村は?……彼の素性は明らかになっていない……そして椿……彼女も素性は明らかになってない…。
……拳銃はどこから?……。
美夢が呟いた。
「裏サイトで手に入れたとか、よくニュースでやってるよね」
「裏サイトか……でもここは通信が…ん?まてよ……だとしたらあれは…」
「どうしたの?葵…」
葵は何かブツブツ言っている。
「だとしたら今までの僕の考え方がガラッとかわるぞ……そうすれば残るはあれだ…」
しかし葵の閃きは虚しく…またも悲劇が起こる事となる…。
……深夜……
(どうして俺が?…)
(残るは…俺だけだ…)
「俺はこんなとこで死ねないんだっ!」
……パンッパンッ!
銃声が二発響く……。
(やっと…家族に…会え…る…。取…も、ど…せる…と…)
……六日目…午前八時……
葵と美夢は朝の集合時間のため、警戒しながら外へ出た。
部屋を出た瞬間それらは、目に入った。
もうなれてしまったのか……驚きはあったが、衝撃はあまりなかった。そして、お約束のあの臭い…。
「あ、葵…」
美夢は葵の腕を掴んだ、声は弱々しかったが…腕を掴んだ力は強かった。
葵たちを確実に追い詰めるように…それはあった。
02番の部屋の前に…。
堂島夫婦と山村の死体が…。




