④
葵の言う『光』というフレーズがいまいち皆は理解できないでいる。
美夢が言った。
「ひかり…?」
山村が言った。
「どういう事なんですか?」
先程まで興奮気味だった山村は『光』とうフレーズに反応し、少しだけ落ち着きを取り戻した。
光という言葉にネガティブなイメージは湧かない……つまりポジティブに捉えることができる。
葵は言った。
「お話にする前に、移動しましょう……この場所は無防備過ぎます…」
皆ははっと我に帰る。相手は拳銃を持っている……何処から狙撃されるかわからない……。
九条は言った。
「そうだな……移動しよう、ここは危険だ」
そうして皆はパーティールームに移動し、各自席に着いた。
椿は皆の飲み物を用意しに厨房へ向かった。
九条が切り出した。
「葵君……説明してくれるかい?」
葵は髪をクルクル回しながら言った。
「まず前にも言いましたが、この島の存在です……ありえない事が普通に起こっています…」
有紀が言った。
「リセットの法則か?」
「ええ、それもありますが……転送倉庫もです。部屋のパソコンから欲しい物を送信するだけで、何もない部屋にそれらが現れる……現実主義の僕からすれば、信じられない光景でした」
歩がその時の光景を……思い出すように言った。
「たしかに……たまげたよ…」
葵は続けた。
「そして先程の現象……有紀さん、死体が消えることは……物理的にあり得ますか?」
有紀は答えた。
「ありえない。まぁ火葬し、骨を風化させ……土に返せば……ある意味消えたともいえるが……あの短時間で消滅するなんて事はあり得ない…」
葵は言った。
「僕もそう思いますが……現に起こった。僕たちの目の前で…」
葵の言葉に皆は頷くしかなかった。
実際にその現象が起こってしまったからだ。信じたくなくても、信じるしかなかった。
山村はイラつきながら言った。
「そんな理解できない話より、あなたの言う『光』について聞かせて下さい…」
葵は山村を無視するように言った。
「そこで僕は今までの経緯から、一つの答えを導きました…」
九条は不思議そうに言った。
「答?…」
葵は少しだけ口角を上げて答えた。
「この島は誰かが、プログラムによって造った島だと…」
皆は突拍子もない葵の発言にキョトンとしている。
有紀が言った。
「プログラム?どういう事だ?…」
葵の口角はまだ上がっている……皆の反応を楽しんでいるように。
「そのままです……簡単に言うと、誰かが作成したシステムの中に閉じ込められた…と、言ったほうがいいですか…」
歩が言った。
「前にも言っていた……ゲームの話かい?」
「ええ、そうです……愛美さんの遺体が消えたのは、おそらく『死んでしまい実態でなくなった』と考えるのが、現状もっとも可能性が高い…」
有紀が何かに気づいて言った。
「まてよ……だとしたら、まさか…」
「そのまさかです……今ここにいる僕たちは『実態であって、実態でない』…」
美夢が言った。
「わけわかんない…」
山村が言った。
「実態でないのなら何故……血を流して死ぬんですか?」
葵は突然語りだした。
「人間とは不思議な生き物です……触れば感触を感じ、音が聞こえれば反応し、山村船長の作るご馳走を食べれば、美味しく味わう事ができる…」
葵は語るのをやめない。
「それらは全て脳を通して、実感することができる……例えば、乗り物酔いの酷い子供に『これは酔い止めの薬だ』と、言い…ラムネを与えると、乗り物酔いが収まる…」
「実に不思議です……ただこれらの思い込みも、脳がもたらすこと…」
有紀が言った。
「そうか!脳波を……しかし、どうやって?」
葵が言った。
「人の人格は、今まで生きてきた事を脳に記憶し人格を形成していると僕は思います…」
歩が言った。
「でもいくら脳があっても、人体がないと…」
葵はまた語り始めた。
「『この世の全ては粒子で形成されている』西欧科学で使われている言葉です……人も物も、この地球上の全ては、元は粒子から始まっているという考えです…」
有紀が言った。
「人体は…素粒子→原子→分子→細胞の順に、形成されていると言う…」
葵は言った。
「人体が無いのなら、作ればいい……と、でも考えたのでしょう……この旅を企画した主催者は…」
葵は言い直した。
「主催者はやめましょう……悪趣味な拉致監禁犯……そうですねぇ、『X』としましょうか…少しベタですが…」
九条は言った。
「話が大き過ぎていまいちなんだけど……つまりどういう事?」
葵は答えた。
「つまり……僕たちの脳波を抜き取り、そしてその情報を頼りに、人体をプログラムで形成し、この世界に送り込んだ……簡単に言うとそういう事です。」
有紀が言った。
「つまり……我々の実態は別の場所にあり、脳波だけでこの世界にいると?……だとすれば辻褄は合う…」
「そうなりますね…」
歩はハッとして言った。
「だとすると、愛美ちゃんは…」
葵は答えた。
「おそらく生きているでしょう…」
光一が言った。
「にわかに信じがたいが…」
すると今まで一言も発しなかった容子が、泣きながら……言葉を強めて発した。
「信じられない人は……信じなくていいっ!私は……私は信じるっ!信じたいっ!例えでたらめでも…葵君の言葉を…」
容子の表情は一言でいうのなら、強くなっている……親友が生きている可能性がでた事によって。
葵は髪をクルクル回しながら言った。
「でたらめとは……心外です…」
容子の顔は涙で濡れているが、少しだが笑顔で言った。
「ごめん……でも、よかった…」
葵は言った。
「しかし……安心はしてられません……脱出しない事には、答え合わせもできないので…」
有紀が言った。
「確かに……この世界で、殺害されてしまった事で…脳に損傷を与えている可能性もある…」
九条が言った。
「殺人犯もいることだし、のんびりはしてられないね…」
光一が言った。
「今後の活動は身を守りつつ……脱出方法を考えねばならんな…」
パーティールームの中では色んな意見が飛び交っている。事件以降はじめて、皆がまとまった感じがする。
美夢はそんな光景を嬉しく思った。
まとまった事もそうだが、皆の表情に少しだが希望を感じ取れたからだ。
美夢にサキが言った。
「みんなでなら、乗り越えられるわ…」
「はい……絶対生きて帰りましょう…」
(月島 葵……やはり君は面白いです。だがそう簡単にいくでしょうか?…ゲームはこれからです。私の描く展開に君はついてこれますかねぇ?)
この後、皆の想いを…焼き裂くような出来事が起こる…。
不安をいたずらに煽るように…。
爆炎が運ぶ……。




