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choice01  作者: 陽芹 孝介
第四章 絶望と希望
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「始まったな…」

「ええ…皆さんさすがに、気が動転していますよ…」

「やけに楽しそうだな?」

「ええ…予定外の人間………月島葵……やはり彼は面白いです。予定外も、たまには良いものです…」

「だが、君には及ばないだろ…」

「侮れませんよ……彼は……まぁ…最後に勝つのは私ですが…」

「君がそこまで興味を持つとは…『こちら側』に欲しいくらいだ…」

「それで…ゲームの主旨を変更しようと思うのですが……」



……午前十時……



「そうでしたか…だからあなたは戦場カメラマンに…」

戦場カメラマンになった経緯を歩から聞いた葵はアイスカフェラテを一口飲んだ。

そんな葵を見て歩は言った。

「救えないのなら、起こさせなければいい……そう考えてカメラで訴えるのを、俺は選択した…」

「納得しましたよ…あなたのあの怒りも…」

「痛むかい?」

葵は左頬をさすって言った。

「痛みます……殴られたからではなく、自分の不甲斐なさに…」

「話しは終わったか?」

と、話しかけてきたのは有紀だった。

有紀は言った。

「そろそろ一度解散した方がよさそうだが…」

九条が話に入ってきた。

「組分けはどうする?」

葵が言った。

「そうですねぇ……なるべくバランスよく分けた方がいいでしょう…」

皆との相談の結果組分けは決まった。

葵と美夢…。

歩と有紀…。

堂島夫婦と容子…。

九条と山村、椿…。その四組に決まった。

容子は愛美が死んでから一言も発していない……心に大きな傷が残った。

それらを踏まえて、容子はこの中で一番包容力のある堂島夫婦に、任すことになった。

「では、正午に時計台に集まる事に…」

九条がそう言うと、それぞれがパーティールームを出た。

もちろん警戒は怠らずに……出る前に葵が有紀に言った。

「有紀さん……用意してもらいたいものがあります」

「何だ?」

葵は有紀に必要な物は物を言った。

「それなら……実験室だな。部屋に戻る前に拠るか…」

葵が言った。

「それなら、僕らも付き合います……今は犯人も襲って来ないと思いますが…念のために…」

「そうだな…そうしてくれると、助かる」

こうして各自一度部屋へと戻った。

葵は美夢の部屋の前で待っている。

美夢はスーツケースを持って出て来た。

「ごめんねっ!待たせちゃって…」

美夢は無理に笑顔を作っている。

二人は葵の部屋に入った。

部屋に入った途端に美夢は泣き出した。

「あっ…葵っ、な…なんで?…こ、んな事に…」

愛美を発見した時も泣いていたが…その時の比ではない。緊張の糸が、プツリと切れたように…とにかく泣いた。

ほんの数日間だったが……愛美、容子と共に仲良く遊んでいた。

まるで二人の妹のように……悲しみも、他のメンバーより深いはずだ。

葵はしばらく美夢をそっとしておいた。

今は泣きたいだけ泣けばいいと、言わんばかりに……。

しばらくすると美夢は落ち着いたのか、泣き止んだ。泣き止んだ美夢に葵は黙って、紅茶を出した。

「ありがと…」

美夢は紅茶を一口飲んだ。

「暖かい…」

「美夢が泣いている間に適温になったようだな」

「一言多いよ…」

少し美夢に笑顔が戻った。

「ねぇ……葵?…」

「どうした?」

「私達……帰れるのかなぁ…」

「帰れるとも……脱出方法はまだわからないが…」

美夢は不思議そうに言った。

「脱出?救助の船か飛行機じゃないの?」

「美夢……残念ながら救助は来ないと思うぞ。僕たちは隔離されているからな、それにこの島は……現実であって現実でない」

「隔離?現実?現実でない?何言ってんの?」

美夢は訳がわからないと、いった表情だ。

「正午になれば……わかる…」

美夢は不思議そうだが納得した。葵の言う事はいつも意味がある…。

「よくわかんないけど…帰れるのね?」

「当然だ……僕を誰だと思っている?」

「『天変 月島 葵』…」

「僕を信じろ……」

そう言うと、葵は美夢の頭をポンポン叩いた。

美夢は葵に言った。

「うん……信じる……」

時刻は午前11時55分になろうとしていた。

「そろそろ時間だ時計台に行くぞ」

葵は美夢にそう言うと、部屋の入口に立った。

ドア穴から外の様子を確認する……ドアの前には誰もいないようだ。

美夢が葵の後ろに立ったのを確認して、ドアを少しづつ開く。

時計台の様子が少しだが確認できる……九条のチームと堂島夫婦のチームが既に待っている……歩達は……まだ来ていない。

「皆待っている……行こう…」

葵がそう言うと、美夢は黙って頷いた。

葵達が外に出ると、03番の部屋…有紀の部屋から、二人が出て来た。

時計台には順平以外の人間が揃った。

歩が言った。

「順平君は?」

九条が答えた。

「彼の部屋をノックしたけど……反応はなかったよ。どうしても出てきてくれないようだよ…」

葵が言った。

「まぁ、籠城を決め込んでいる間は……安全でしょう…」

「さぁ……もうすぐ正午だ…行こうか」

九条そう言うと、葵が言った。

「少しだけ……待ってください…」

九条が言った。

「どうしたんだい?」

「あちらを見ていて下さい…」

葵が指を指した方は……愛美の部屋だ。

山村は思い出したくないのか、明らかに嫌そうな表情で言った。

「いったいなんなんです?」

「いいから…もうすぐ正午です…」

葵に言われるまま、皆はその方向……愛美の遺体が入っている寝袋を見ている。

ただ異変はすぐに起きた。

ちょうど正午になった時に………。

それを見た全員は、開いた口が塞がらない表情をしている。

無理もない……愛美が入っていた寝袋は、空気が抜けたように萎んでいき、残っていた血溜まりはきれいに消えた。

………そう、消えたのだ。

葵の、口角は自然と上がる。

「さぁ、確かめに行きましょう。いったい…どうなったのかを…」

葵は愛美の部屋の前へと、走って行った。

他の皆も訳がわからないが、それを追った。

先に着いた葵が寝袋を開けている。

中身を確認して葵が言った。

「見てください…」

葵に促され、皆は寝袋を覗いた。

すると信じられない光景が底にあった。

歩が戸惑いながら言った。

「遺体が……消えている………!?」

歩の言葉に周りがざわついたが、葵は構わず有紀に言った。

「有紀さん、例の物を…」

「あ、あぁ……これを…」

さすがの有紀も動揺している。

葵は有紀から受け取った、霧吹きのような物で、遺体の入っていた寝袋の中や、血溜まりがあったと、思われる箇所をシュッシュッと掛けている。

山村が不思議そうに言った。

「いったい何を?…」

有紀が答えた。

「葵は、ルミノール液を撒いている…だが…」

美夢が有紀に聞いた。

「だか?なんですか?」

有紀は目を見開いて言った。

「ルミノール反応が…でてない…何故だ?…」

美夢が言った。

「自動に掃除したからとか?」

有紀は首を振った。

「まず、目の前で血溜まりと、遺体が消えたのはおかしい…それに仮にこの島の仕組みで、リセットされて清掃されたとしても…」

歩が言った。

「ルミノール反応がでないのはおかしい…」

有紀が言った。

「血は洗い流して、肉眼で確認ができなくても、ルミノール反応は必ず残る…それ程に血を完全に消すのは…困難と言える…」

葵が言った。

「寝袋の中も反応はありません…」

有紀が聞いた。

「葵…何故わかった?…」

葵はゆっくり立ち上がり、答えた。

「彼女が遺体だからです…」

歩が言った。

「それだけでは……わからないよ」

葵は説明を始めた。

「まずこの島で過ごすようになって、不思議だった事があります……『どうしてこんなに綺麗に維持できているのか?』とね…」

有紀は興味津々で聞いた。

「もしかしてリセットのルールか?」

「はい……だから僕は考えました。プールに広場、そして食糧庫は…リセットされる、だったら『それ以外の場所は?』と…」

光一が言った。

「だから遺体の移動を拒んだのか…」

「そうです……広場などに移動したら、試すことはできませんから…」

歩が言った。

「そういう理由だったのか…」

「そして愛美さんの遺体は消えました。跡形もなく……酷な言い方になりますが、愛美さんは死んだ事により、この島に『物』として認識され……リセットされたと、考えられます…」

山村が言った。

「仮にそうだとしても…じゃあ、何故寝袋は残っているのですか?!」

山村は目の前の光景に納得できないようだ。

葵は言った。

「これを見てください…」

葵は寝袋を上げて中を皆に見せた。中は当然のように空だ。

九条が言った。

「空っぽなだけだね…」

「気づきませんか?」

有紀が何かに気づいて言った。

「そうか……衣類だ!着ていた服も消えている…」

有紀は葵の言いたいことを察したようだが、他の皆はいまいち理解に苦しんでいる。

葵は言った。

「ここで僕は一つの仮説を立てました…」

歩が聞いた。

「仮説?…」

「ええ……つまり寝袋が残っているのは『所有者が生きている』から…。そして、愛美さんの衣類が消えたのは『所有者が死んでいる』からと…」

光一が言った。

「だからあの時……寝袋に遺体を入れる事を受け入れたのか…」

「ええ……しかし、あの状態のままでは気の毒と思ったのも事実です…」

山村が言った。

「しかしこんな事がわかったところで、なんになるんです?我々の身の安全が保証された訳でもないでしょ!?」

山村はまだ納得できないようだ…だか、山村の言うことももっともだ。

葵は言った。

「いや……この仮説が事実だったとしたら…」

葵は言葉を強めて言った。

「僕らにとって…光になる可能性が…」

「大いにあります…」

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