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choice01  作者: 陽芹 孝介
第四章 絶望と希望
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パジャマ姿の愛美が、部屋のドアの前に倒れている……血を流して……。

葵はこの最悪の状況を確認すべく、有紀に説明を求めた。

「有紀さん……なるべく簡略な説明を…」

「私も今来たところだ。葵……検死を手伝ってくれ…」

「わかりました、僕は上半身を……有紀さんは下半身をお願いします…」

二人のやりとりに山村は止めに入った。

「何をするつもりです!?人が………こんなに血を流して…何なんですかっ!?あなた達はっ!?」

山村はかなり動揺している。何を言っているのか、いまいち理解できない。

九条が山村を抑えた。

「山村さんっ!落ち着いて……今はこの二人にまかせよう!」

しかし山村は引かない。

「九条さんはっ!どうして落ち着いてられるんですっ!?人が…人が…」

九条は大声で言った。

「僕だって!…気がどうにかなりそうだよっ!でも…周りを見てよっ!」

山村はハッとして周りを見た。

女性陣はこの状況と二人のやりとりに怯えている。

九条は気を落ち着かせるように言った。

「僕たちが……できるだけ冷静でなければ……誰が皆を守れるんですか?…」

九条にそう言われると、山村は肩を落とした。

すると光一が山村の肩を叩いた。

「船長殿……九条殿のいう通りだ…」

葵が言った。

「では、検死にとりかかります…」

歩が言った。

「ちょっと待って葵君……ここは二手に別れよう……検死組と待機組にね……女性陣にここの空気は辛い…」

有紀が賛同した。

「そうだな……女性陣と山村氏、それに未成年の順平を連れて九条氏は、パーティールームで昨夜の各自の状況を聞いてくれ…警戒は怠るなよ…」

九条が言った。

「そうするしかないね……了解した…」

そう言うと九条は有紀に言われるまま皆を連れて、パーティールームへ向かった。

葵が言った。

「それでは検死を始めます。歩さんと堂島先生は周りを見張って下さい…」

葵に言われ二人は黙って頷く。

葵は愛美のパジャマのシャツに手をかけて、言った。

「愛美さん……失礼します…」

シャツの右胸元には丸い焦げあとがある……それを確認すると葵はシャツを脱がせた。

愛美のつめたい肌が露になる……出血元は…右胸元の傷。位置的に動脈を傷付けてしまったのだろう。

葵が言った。

「死因は……動脈損傷による、出血多量死か……おそらく肺も損傷してますから、呼吸不全のどちらかですね。シャツの焦げ跡と傷の形状から、拳銃による他殺ですね…因みに弾丸は貫通してません」

有紀が言った。

「死後硬直の感じから、死亡推定時刻は……6~7時間前の、午前1時~2時の間だな」

歩が言った。

「この出血量だ……紫斑は、おそらく出てないな…」

葵は愛美の部屋の中を調べようとし、ドアに手をかけが……しかしドアは開かなかった。

だが、葵は閉ざされたドアの淵を見て何か気づいたようだ。

「部屋の中で殺害されたようです…」

歩が聞いた。

「どういう事?」

「ここを見て下さい…」

葵が指す方を、歩と光一が見た。

葵が言った。

「ドアに血痕が付着してません……弾は貫通していないので、それは不自然ではありませんが、問題はドアの淵です」

明らかに引きずった血の跡が、ドアによって完全に切れている。

歩が言った。

「じゃあ、犯人は部屋の中で殺して……外まで引きずって来たって事?でもそれって…」

葵が言った。

「ええ……そうです……犯人は『死体を見つけさせたかった』て、事になります」

光一が言った。

「どういう事だ?」

葵が言った。

「殺害したのを隠したいのなら、部屋の中で殺して……鍵を奪い、ドアを施錠して、死体を隠しておけばいいのですから…」

光一が言った。

「だが、それでは……時間が経てば異変に気付くぞ…」

葵が言った。

「その通りです……何時間、何日も引きこもるのは無理があります。ですが……1~2日後くらいに、遺書か何かを、隙を見てドアの隙間に挟んでおけば?…」

歩が言った。

「自殺を装おえる…」

「そうです……だが、犯人はわざわざ死体を外まで引きずり出してます…「見つけてくれ」と、言わんばかりに…」

光一は考え込むように言った。

「いったい何の為にだ?そもそも誰がこんな事を?」

葵が言った。

「確かに犯人が誰なのか?……それは重要ですが、それよりも厄介な事が…」

歩が言った。

「相手は拳銃を所持している…」

葵が言った。

「ええ……ですから、まず身の安全の確保からです…」

「とりあえず、弔ってやろう…」

歩が愛美を抱き上げようとすると、葵が言った。

「どうするつもりですか?」

歩は葵に対して、不信感を漂わす感じで言った。

「どうするって……このままじゃ、可哀想だろ?」

「ダメです……死体はこのままにしておきます、試したい事があるので…」

歩は勢いよく立ち上がり、葵の胸ぐらを掴んで葵に怒鳴った。

「試したい事だってっ!?これ以上何をするってんだ!」

葵は歩の目を見て、歩とは対象的に冷静に言った。

「必要な事です……だから死体はそのままに…」

歩は葵が言葉を言い終えるのを、待つことなく葵の左頬を勢いよく殴った。

葵はそのまま倒れこみ、歩は葵に馬乗りになり、またも胸ぐらを掴んで勢いよく言った。

「君はっ!……君は人の命を何だと思ってるっ!?仲間だったんだぞっ!会って間もないけど……仲間だったんだぞっ!」

葵に抵抗する様子はまるでない。

だが、葵はまたも冷たく歩に言った。

「気がすみましたか?…」

葵の言葉に歩の感情はさらに爆発する。

「君はっ!………」

さらに葵を殴ろうとする、歩の右手を有紀が止めた。

「そこまでだ……」

有紀に右手を抑えられ、歩も少しだけ落ち着いたのか……黙って葵の胸ぐらを離した。

葵はゆっくり立ち上がり、そして言った。

「歩さん、僕は……この歳で、多くの人の死に関わってきました…」

歩は葵に背を向けたままだ。

葵は気にせず続けた。

「ですが、僕は今まで一度でも……人の命を軽んじた事はありませんよ。もちろん、今回も……」

歩は声を振り絞るように言った。

「わかっているよ……」

歩は少しだけ震えている。仲間を死なせた悔しさ……自分の無力さか……。

すると光一はいつの間にやら、転送倉庫から何かを取り出している。

葵と歩か揉めている間に用意したのか……因みに光一の部屋は愛美の隣の06番なので、転送倉庫は光一の部屋の裏にある。

光一は取り出した物を持って来て、揉めていた二人に言った。

「収まったか?二人とも」

有紀が聞いた。

「堂島氏、それは?」

光一が有紀に答えた。

「防臭機能がある寝袋だ。二人の言い分はわかった……だが、彼女をこのままにしておくわけにはいかん…」

有紀が言った。

「なるほど……その寝袋に入れて、寝かせてやると…」

「そうだ……。二人とも異論はないな?」

葵が答えた。

「ええ……ご配慮感謝します……堂島先生…」

「いや、渡辺殿が殴らなかったら………儂が貴殿を殴っていたかもしれん……儂も激情家だからな…」

「……でしょうね……」

「ただ、月島殿の今までの言動から、貴殿が非凡なのはわかる。だから殴らなかった……それだけだ…」

有紀が言った。

「そろそろ戻ろう……皆をあまり待たすと、余計な不安がでる」

パーティールームに戻る道中、有紀が葵に言った。

「派手に殴られたな…」

有紀の言うように、葵の左頬は少し痣ができている。

有紀は葵に聞いた。

「なぜ、避けなかった?お前なら避けれただろう?」

葵は答えた。

「僕に油断があったからですよ……この島に来た時点でもっと警戒するべきでした。完全に油断しました…」

「気を引き締めるためにも、わざと殴られたと?」

「そうです……自分への怒りでいっぱいですよ…」

そう言った葵は拳を握りしめている。

そんな葵に有紀は言った。

「あまり自分を責めるな。お前のせいではない……現に我々大人達も呑気にしていたのも事実だ…」

葵は返事をすることなく黙っている。

有紀は続けて葵に言った。

「歩の事だが………許してやってくれ…」

「僕には非があります……殴られて当然です…」

「それもあるが………あいつは誰よりも人の命を重んじている……ここにいる誰よりも…」

葵は少し考えて言った。

「それはわかってます……それもあったので殴られました。彼はただのカメラマンではありませんね…」

有紀は葵の問いに、答える事はなかった。

葵は有紀の様子を察して言った。

「有紀さんに聞くことではありませんね……後で本人に聞きます…」

「そうしてくれ……今のあいつなら答えてくれるだろう…」

葵は歩に殴られた左頬を、さすって言った。

「痛いですね……色々な意味で…」


色々な思い残す左頬は……。


ただ…ただ…痛かった……。



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