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(8)

 ドラゴンが死んだ後、少年は山羊や鳥たちの言葉が分からなくなった。

 そのかわり、人間の友達がたくさんできた。


 ドラゴンの体は、村人たちによって、湖の畔に手厚く葬られた。


 ドラゴンの体から抜いて植えなおした花々は、美しい花畑になった。

 その花畑と湖に囲まれるようにして、ドラゴンのお墓はある。


 少年は毎日、そのお墓にお参りをした。

 新しい友達ができると、その友達も連れていった。

 恋人ができると、恋人と一緒に行った。

 そして、家族ができると、みんなでお参りをした。


 雨が降ると、ドラゴンが暮らしていた洞窟で雨宿りした。

 苔の絨緞でふかふかになったその洞窟から、かつてドラゴンが見ていたはずの雨を見る。

「ドラゴン……」

 少年は時々、心の中で語りかけるのだった。


「寂しいよ」


 それは、友達がたくさんできても、大人になっても、消すことのできない寂しさだった。

 泣かなくていいんだよ。

 ドラゴンが生きていたら、きっとそう言うから、涙は見せなかった。

「明日も来るから」

 そう言って、少年はドラゴンのお墓をあとにする。


 やがて、少年も年老いて死んだ。

 ドラゴンのお墓参りは、村人たちに受け継がれていった。


 千年も生き、そのうちの数百年間、ひとりぼっちで孤独と絶望とに耐え、最後は友達の村を守るために戦って死んだ、伝説のドラゴン。


 そのお墓の傍らにある碑には、こう刻まれている。



  心強きドラゴン、ここに眠る。




   (ひきこもりドラゴン 終)

(あとがき)


 「ひきこもりドラゴン」は、私が誰とも会わず、誰ともしゃべらないような生活をしていた頃に書いた童話をアレンジしたものです。

 結末をどうするか迷ったのですが、少年に友達がたくさんできて、幸せに暮らしました、という話にはしたくないと思っていました。

 少年が山羊や鳥たちの言葉が分からなくなったのは、「大切なものを喪って大人になったから」というのが私の考えです。

 そして、それを喪った寂しさは、新しい友達ができることによっては消せない、と思っています。

 唯一固有名詞を与えた「ボヌム人」というのは、ラテン語で「善意の人」という意味です。

 私が自分の殻に閉じこもっていた頃、いちばん怖かったのは、善意を持ってやってくる人たちでした。自分のしていることが善だと信じているので、こちらが悪にされてしまう。

 ボヌム人たちは、村人から住む場所を奪おうとします。一方で、ドラゴンは「みんな自分の生きたい場所を持っている」と考え、苔をじめじめした場所に植えなおしてあげようとする。そういう対比を描こうとしました。


 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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