(7)
彼らの姿がすっかり見えなくなると、どしーん、という轟音を立てて、ドラゴンはその場に倒れた。
にわかに降り出した雨が、血を洗い流していく。
その雨はまた、家々を焼く炎をも消してくれた。
良かった
とドラゴンは思った。
意識が遠のいていく。もう呼吸をしているのがやっとだった。
「死なないで」
という声が聞こえた。少年の声だった。
ドラゴンは目を開けた。
左目も、ほとんど見えなくなっていた。
けれど、少年が泣いていることは分かった。泣きながら、ドラゴンの首にしがみついている。
「死なないで、ドラゴン」
無事で良かった
とドラゴンは安心した。
そして、最後の気力をふりしぼって、少年に語りかけた。口からは血があふれるばかりだったけれど、声は直接、少年の心に響いた。
泣かなくていいんだよ。
だって、だって、ドラゴンが死んじゃう。
これで良かったんだ。
嫌だ、嫌だ、死んじゃ嫌だよ。
僕は少し長く生きすぎてしまった。
ずっと、ずっと、一緒にいたいよ。
僕は死にたかったんだ。
でも、生きていて良かった。
最後に、君と会えたから。
息を引き取る直前、ドラゴンは夢を見た。
少年を背中に乗せて、空を飛ぶ夢だった。
森を越え、山脈を越え、草原を越えて、海に出る。
茜色に染まる夕焼けの空を、光がさざめき合う星の海を、ドラゴンは少年と飛んだ。
海から昇る大きな朝日、雨の後にかかる鮮やかな虹、珊瑚礁でできた島、雷が轟く火山島、雲よりも高くそびえる雪山……。少年に見せたかったものをすべて見せた。
そして、少年を村まで送り届け、別れを告げると、天を見上げた。
空の彼方で、先に死んだ仲間たちが待っている。
その仲間たちのところへ……。
ドラゴンは大きな翼を広げ、舞い上がった。




