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(6)

 ドラゴンは再び吠えた。

 

 ぎぇぇぇえええぁぁぁあああおおおぅぅぅ


 その声は、ボヌム人たちをたじろがせた。伝説のドラゴンは口から炎を吐くと聞かされていたからだ。

 けれど、炎は吐けなかった。そんなことは最初からできない。

 かわりに、ドロリとした血の塊を吐いた。

 痛い。

 熱い。

 苦しい。

 生まれて初めて感じる、激しい苦痛だった。

 それでも、彼はひるまなかった。

 ボヌム人たちを睨みつけ、叫び、前に進み続ける。

 炎を吐くことも飛ぶことも駆けることもできない、ひきこもりのドラゴン。

 彼にできる唯一の戦いは、その恐ろしい姿で威圧し続けることだった。

 叫べ、叫べ。

 ドラゴンは自分を奮い立たせた。命ある限り叫べ。

 前へ、前へ。

 決して倒れてはならなかった。


 ボヌム人たちは、じりじりと押され始めた。

 全身傷だらけになり、体を焼かれながら、それでも気魄を衰えさせず、自分たちに向かってくるドラゴン。

 それは、伝説の中にある、不死身の怪物そのものだった。

 彼らは、恐怖し始めていた。

 戦ってはならないものと戦っている、という恐怖だった。

 一方で、ドラゴンが村人たちに与えたものがある。

 それは、勇気だった。

 ワーッ

 という喚声が起こる。

 村人たちが、武器を手に、ボヌム人たちを背後から襲い始めたのだ。

 弱き者たちの突然の反撃。戦意を衰えさせていたボヌム人たちは狼狽し、混乱に陥った。

 それでも、戦って負ける相手ではなかったけれど、ボヌム人の司令官は、この戦いの愚かさを悟った。

 小さな村一つを占領するために、これ以上の消耗は無意味だった。すでに矢も砲弾も尽きかけている。 

「退けーッ」

 という号令の下、ボヌム人たちは撤退を開始した。

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