終身シュミレーション
「「もし明日死ぬなら、何をする?」」
「「せめて充実した環境で死にたい」」
「「そんなあなたに是非、終身シュミレーションサービスをオススメ致します」」
テレビを眺めていた彼は、見慣れないCMを目にした。
「終身…シュミレーション?」
「「気になる方はこちらまでお電話を!通話料はタダです!」」
さっそくかけてみる事にした。
「…もしもし」
「「お電話ありがとうございます、こちら終身サポートセンターです」」
「あの、終身シュミレーションサービスってやつなんですが。一体どんな内容なんですか」
「「はい、そちらの新サービスは次の日必ず死ぬという前提でシュミレーターを使って体験していただくサービスでございます」」
「その死ぬ内容と言いますか…死に方などは設定できるんでしょうか」
「「はい、様々な設定が可能です。窒息死、銃殺、首吊り、人類滅亡、バイオテロなど…リアルに体感されたい方はランダム設定も可能です。」」
「期間はどれくらいですか」
「「実際は一日程度です、体験世界では2日から1ヶ月。死因によってバラツキがあります。仮に明日死ぬなら事前に実行できるのはどのくらいの範囲なのかをシュミレート出来ます」」
「費用の方はおいくらですか」
「「はい、設定される期間や死因。それに伴い発生する料金は様々ですが、固定プランはいくつかご用意させております。最低でも3000円上限15000円の範囲内でのプログラミングをさせていただきます。」」
「参加するには…」
「「はい、当サービスは予約制で場所は各地域にあるサポートセンターで実施しております。ご予約はなさいますか?」」
「あ、はい。では明日にでも…」
ということで面白半分で行くことにした。
翌日の午後8時、彼はサービスセンターへと足を運んだ。
中に入ると目の前が受付、女の人がニコリと笑ってこういった。
「ようこそ、終身サポートセンターへ。ご要件は?」
「あのー午後八時にシュミレーションサービスの予約をいれた…」
「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
案内されたのは施設の奥の奥、そこからエレベーターで地下へ。
「こちらにお掛けください、少々お待ちくださいませ」
そこには大きな画面が二つ、そして奇妙な機械が付いている椅子があった。きっとここに座るんだろう、そう思っていた。
「ようこそおいでなさいました」
奥の扉から老紳士のような男が笑顔で出てきた。
「当プログラム担当の者です、早速ですがそこの椅子へ」
やはりこの奇妙な椅子に座るのかと、彼の予想通りだった。
「ではこのゴーグルをお付けください、説明が始まります。」
渡されたのは奇妙な形のゴーグル、まるでメガネに双眼鏡が付いたような形だ。
言われるがままにそれを装着。するとコンピューターの音がピコピコ鳴り、装着したゴーグルの画面に女の人が映し出された。
「「では説明致します、当プログラムでは死ぬことを前提にバーチャル世界で短期間過ごしていただきます。ここで選択していただきたいのはカスタムプランかランダムプランです。お好きな方にお手をかざしてください。」」
「えーっと…カスタムプラン」
「「こちらのカスタムプランは様々な設定をした上の体験になります。初回の方はランダムプランを推奨いたします。そちらでは最低限の設定変更しか出来ませんがこちらではすべて設定していただくことになります。尚その設定で発生する金額が上限2万円となっております」」
「聞いた話と少し違うなぁ…まぁいいや、ランダムプランっと」
「「こちらのランダムプランは最低限の設定のみ変更可能です。死因はランダムです。」」
彼はカスタムプランを選択した。選択科目もいくつか出てきて女の人が説明を始めた。
「「こちらで選べるのは死因、あなたの経歴、家族設定、職場、その他150の科目の変更が可能です」」
それを聞いた彼は唖然、結局ランダムプランを選択。
「「こちらで設定していただくのは家族設定と職場、アナタの人間像です。」」
「死因はランダムなんだよなー…家族は俺と嫁、だけでいいや。職場は…大企業の社長!人間像はみんなから慕われる社長…ふふふ、面白い」
「「次に設定していただくのは終身サービスです。こちらは現実で終身サービスに加入するのと同様。これを設定していただくとシュミレーションで発生する料金が安くなります。サービスのお値段は1000円です。」」
「こんなとこで金をとるのかー…まぁいいや。なしっと」
「「注意、加入していただければ実際にあった時の料金同様にシュミレート出来ます。参考程度に設定することをオススメいたします。なしでよろしいですか?」」
彼はそれを聞き、めんどくさくなって加入を押してしまった。
「「ありがとうございます、ランダムプランで保険加入、全額5000円となります。よろしいですか?」」
彼は了承ボタンを押した。
「「これからバーチャル世界へ転移します。お気をつけくださいませ。」」
ジリリリ…携帯が激しく音を起てる。
男は目を覚ます、それを眠そうに音を止める。朝の三時。さて仕事仕事…。
大企業の社長である彼はこうして朝早くから事務仕事をしなければならない。
隣で寝ている嫁を起こさないように静かに寝室を出る。
ワイシャツにネクタイ、仕事着に着替えビシッとキメ。パソコンの画面と今日も朝から睨めっこ。それが毎日だ。年中無休。それには彼も嫁も懲り懲り。
「貴方、ちょっとは構ってよ」
「仕方ないだろう、仕事しなきゃ生きてけない」
これがいつもの会話。
パソコンのメールボックスを確認、妙な広告が入っていた。
「なんだこれ…終身シュミレーションサービス?」
彼は気になりwebで検索する。
「へぇ…明日死ぬなら何するか。それがわからないから人生なんじゃん。」
そう言いつつ興味半分で予約、一週間後に予約を入れた。
朝9時会社に出勤。
「おはようございます社長」秘書があいさつをした。
「おはよう、今後の日程は」
「はい、これから…」
秘書と今日の日程を確認していくうちに、こんな話を切り出された。
「最近変なサービスが流行してるらしくて、なんでも自分の死に際を体験出来るんだとか…」
「それについてはキミはどう思っているのかね?」
「んーそれがあまり虫のいい噂がなくてですね、どういうわけかそれが現実かどうか判断できないくらいリアルなんだとかで胡散臭いと…」
そうなるのは彼も目に見えていた、しかし予約を入れている。なんてこと言えるはずもなかった。
「社長も変なサービスには十分お気をつけください、社長がいないとウチはやってけませんからきっと」
それから一週間後
「今日は遅くなるよ」
「わかりました、外食?」
「いや、家で食うよ。支度よろしく」
そう言って自宅を出た。そしてサポートセンターへ到着。
受付をとおり建物の奥へ奥へと進み、エレベーターを乗って地下へ。
辿りつた部屋には奇妙な機械が付いている椅子があり、大きな画面が二台。
奥から老紳士のような男が笑顔で出てきた。
「ようこそ、おいでなさいました…当プログラムの担当の者です」
彼は薄々思っていた、これはデジャヴか、と。
「では早速ですがこちらのゴーグルを…」
ゴーグルの画面には女の人が写り何やら話始めた。
「「では説明致します、当プログラムで…は死ぬ…こ…%’KJIOHHYGFD%…」」
何やら雑音が混じり、やがて画面は砂嵐に…そしてそれも止み、暗さと沈黙が辺りを支配した。
「「タダイマヨリ…タダイマヨリ…サツ…ハジマ…ウハハハハハハハハハハ。」」
「どうなってるんだこれは!?」
「「……sine」」
その瞬間画面の中からナイフが飛んできた。
「うわぁああああ!?」
ゴーグルを勢いよく外す、辺りには誰もいない。ナイフが刺さったような後もない。
「くそっ。どーなってんだこれ!!こんなのおかしい!!通りで胡散臭いと思ったんだ!!帰る!!」
出口へ向かう。
しかし、ドアは開かない。固く閉ざされていた。
「なんで開かないんだよ?え?おかしいだろこれ…開けろ!!開けろー!!」
すると後ろのドアがきしむ音を立てながら不気味に開いていく。
その扉は老紳士が出てきた所だ。
恐る恐る彼はその部屋に入る。辺は真っ暗。
奥の方に何やら赤く光っているスイッチがある。
「押せば…いいのか?」
彼は意を決してスイッチを押す。すると暗かった部屋に明かりが入る。
部屋を見渡すと四方八方には血痕が残っている。
「なんだよこれ…いったいどうなって」
急にドアが閉まる。そして何かが動く音がした。
明かりは消え、目の前にガラス張りが現れる。向こうで何かが始まるようだ。
そこには先ほどの老紳士がいて、椅子には誰かが座ってゴーグルをつけているのが見える。
「あれは…おい!おまえ!ここからだせよ!!おい!!」
老紳士に向かって彼は嘆く、一刻も早くこの不気味な部屋から出たかったのだ。
しかし妙な点に彼は気付いた。
「あの男…」
どこかで見たことのある姿だった、しかし顔はゴーグルで覆い隠されて確認できない。
「それでは只今より、身を持って死を体感していただきます!!」
老紳士は懐からナイフを取り出した。
彼は背筋が凍りついた、これから目の前で物凄く仰々しい事が起きるのだと。
「やめろ…やめろ!!」
老紳士はゆっくり椅子にかけている男の腹部めがけてその刃を突き刺していく。
老紳士は甲高く笑っていた、もはや常人が成し得ることではない。
腹へと刺さったナイフをグルリとエグリ返し中の肝が露になっていく。
男は痙攣していた、椅子にもたれながら魚のようにビクビクっと。
「うへへ…それでは最後は。」
老紳士はナイフの刃を顔に向け、一気に刺す。男はもうピクリとも動かなくなった。
彼に吐き気が襲う。辺は血だらけ。男の腹部から血という血が吹き荒れ、腸が椅子からもたれる程垂れ。顔はもう血だらけで、辺りの薄暗さのせいもあるが。その男が誰なのか確認は出来ない。
あまりにも酷い光景を彼は目の当たりにした。
おぞましい光景を目の当たりにした彼は、その場にしゃがむ。
「なんて…ことを…」
彼の腹から血が吹き出る。止まらない赤い滝。
「こ、れは…。」
彼は、知っていた。身に覚えのないはずのこの風景を。そしてそこに座っているのが誰なのかも。既に知っていた。なぜならその男は………。
ジリリリ…携帯が激しく音を起てる。
目を覚ました彼は、それを眠そうに音を止める。
ソファーで熟睡していたようだ。
「嫌な夢を見た気がする…。」
付けっぱなしのTVをぼんやりと眺めている彼、前にもあったようなこの風景。
「「最近○○市近辺で多発している連続怪死事件ですが、本日13件目を迎えました。被害者は男性、顔面の損傷が激しいため遺体の断定が難しいとされています。警察はこの異様な殺戮事件に対して一刻も早い解決に向かい調査してるとのことです。」」
「んー…妙なんだよな、何かが。」
テレビを眺めていた彼は、見慣れないCMを目にした。