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エピローグ

 あれから、一か月ほど、経った。

 

 あの後、ずっと、病院に籠りっきりだったので、初めての登校となる。

「よう、久しぶり」

 学校では一か月ぶりに遠藤と会う。

「あのさ、ちょうど二週間前かな。いきなり、和泉が転校したんだが、何か知っているか?」

「あ? ああ、知らん」

 実は知っているけどね。

「そうか?」

 未だに疑いの目で見る遠藤。そこで今度は――

「そういやさ、お前の薦めてくれた軽いの読み終わったから、返すわ」

 鞄の中から例の軽いのを取り出した俺は話を逸らした。

「おっ、どうだった?」

「んー中の下ぐらいかな。言葉の意味は滅茶苦茶で、かつ読み辛い。簡単な話、ただ、イラストレーターがいいだけの作品だった」

「がーん」

 俺が正直に酷評を叩きつけたら、遠藤は非常に落ち込んでいた。

 そんな雑談に花を開かせていたら、いつの間にか学校にいた。

 んで、いつも通り、遠藤と別れて教室に入った。そして、そのまま、俺の椅子に座った。

 ――と、瞬間。


「一年一組赤城悠哉君~赤城悠哉君~♪ 大至急、校長室まで~」


 ……物凄い音量で、とっても愛くるしい声音で、召集の放送がかかった。八割方、紀伊さんだろう。というか、そんなことするのも、出来るのも紀伊さんしかいない。

 周りがざわざわ騒ぎだした。そして、どうしたんだろうという疑問の目と赤城ってどいつだという野次馬的な眼で俺のことを見ていた。はぁぁぁああ、めんどくさい。


 校長室に着いた俺はどうせ紀伊さんだから、と気兼ねせずに躊躇なく引き戸を開けた。

「失礼します」

 でも、やっぱり、校長室なのである程度の礼儀を保って入っていった。

「やほー、赤城君♪」

 紀伊さんが校長の椅子に踏ん反り返っていた。

「あの、すいません、校長は?」

「シュッチョー」

 何故、出張をカタカナで書く。普通に出張と言え、出張と! と、どうでもいいツッコミを心の中でしてしまった。不覚だ。と、思いつつも口では違うことを言っていた。

「そうなんですか?」

「うん。だから、邪魔者もいないし、○○や×××、△△△△△しよ♪」

「しませんよ!」

 いきなり何を言い出すんだ、この人は……。

「んで、何の用ですか?」

 早くここから出たい俺としては、さっさと要件を済ませたい。

「だーかーらー、□□□□しようよ」

「だから、しませんって!」

「ちぇーつまんないのー」

「あんたは、それでもここの理事長かっ!」

「今の私は理事長ではなくて、一人のお・ん・な・よ」

「黙れよ! あんたっ!」

「……メソメソ。お母さん、私の学校の生徒にいじめられるー」

「そんなの自業自得だろうが」

「…………メソメソメソ。お母さん、私の何がいけなかったの?」

「すべてだよっ!」

「お母さんにも言われたことがないのに……」

「ここで有名なネタを改悪しない! ○ンラ○ズと富○由○季さんに謝れ!」

「誰にも言われたことがないのに……」

「そりゃそうだろうなぁ!」

 久々に全力で突っ込んでしまった。疲れる。呆れた俺は呆れた口調で呆れた態度で呆れたように再度、訊いた。

「……それで、何の用ですか?」

「和泉ちゃんのことでね」

 あっさりと肯定する紀伊さん。そして、校長室の空気がネゴシエイトしているような独特の緊張感に包まれた。あぁあ、この人の凄いところはこの切り替えの早さと雰囲気の制御にあるんだけどなぁ。残念ながら、いつもの雰囲気がなぁ。非常に残念だ、非常に。

「率直に言うわね、和泉明香里は大田孝之に引き取られたわ。そして、家裁で今後の彼女と彼女の親権について話し合う予定よ。それに伴って、彼女はここ、学校法人嶺成学園嶺成高等学校を自主退学――」


 ああ、やっぱりか。


 あそこであんな話をした以上、想定の範囲内……いや、俺の狙い通りだった。

 俺の言葉で大田さんが決心してくれたんだ。

 よかった。

 あいつが救われた。

 俺の手ではないけれど。

……なんで、俺はこんなにも寂しいのか。

 そうか、俺は人間を止めていなかったのか。

 俺にも月並みの感情があったのか。

「……そうですか、では、ありがとうございました。失礼します」

 紀伊さんにこんなところを見せ続けるのは格好悪い。

 だから、振り返り、紀伊さんに背を向けながら立ち去ろうとした。

「ちょっと待って。赤城君に手紙よ」

 再度、振り返り、紀伊さんを見た。紀伊さんは慌てて、自分のバッグの中から一つの手紙を取り出して、俺に差し出した。

「何ですか、それ」

「明香里ちゃんから預かってたもの」

「!」

 受け取った俺は丁寧に封を開けた。

 中には四枚の便箋が入っていた。

 その便箋にはこう書かれていた。




          拝啓

 赤城 悠哉様へ

 

 悠哉がこれを読む頃には、私はいないと思います。

 今までごめんね。そして、今までありがとう。

 初めて君のことを知った時、私は何で、あんな奴に、って怒ってたんだよ。

 それで、その怒りに任せて君の教室に突撃たしたんだよ。

 その時、君は私のことを適当に対応していたけど、でも、ちゃんと相手してくれたよね。

 私はね、それがすっごく嬉しかったんだよ。

 だって、私はいつも勉強ばかりで友達がいなかったからなんだよ。

 それからも、ずっと私のわがままにちゃんと相手してくれてたよね。

 うっとうしいめんどくさいって言いながらも相手してくれてたよね。

 ありがとう。

 君のおかげで友達ができた。

 君のおかげで楽しかった。

 君のおかげで強くなれた。

 君のおかげで自分の弱さに気付いた。

 君のおかげで優しくなれた。

 君のおかげで痛みを知った。

 君のおかげで命を救われた。

 君のおかげで人を好きって気持ちを知った。

 ありがとう。

 あのね、いつごろからか私は何だか君を目の前にすると口がおかしなことを言うようになっていたんだよ。

 たぶんね、それは緊張していたからだと思うんだ。

 えっとね、どういう事かって言うとね、


 私は君のことが好きだったんだよ。

 いや、今も好き。

 ずっと好き。

 永遠に好き。

 君以外好きになれない。

 好き。

 好き。

 大好き

 悠哉、大好き。

 

 だから、ありがとう。

 

 やっと伝えられた。

 ずっと伝えたかった言葉。

 ずっと伝えたくて伝えたくなくて伝えたくて伝えたくなくて

 でも、ちゃんと伝えられた。


 ありがとう。

 ありがとう。

 ありがとう。


      ありがとう。


      敬具

 四月二十二日   和泉 明香里




 俺の頬に熱いものが伝う。

 いかにも、明香里が書きそうな手紙だ。こんな手紙で拝啓敬具なんて、特に書きそうな感じだ。

 なぁ、何でいなくなるんだよ……明香里……

 伝えたかった言葉も伝えることもできなかった。

 俺だって、俺だって……

 好きなのに……

 伝えられなかった言葉。

 それを吐き出すように、俺はただ、静かに泣き続けた。

 鳴いて啼いて哭いて泣いて、

 なき続けた。


 それでも、もう、彼女はここにはいない。

テーマは


愛情の擦れ違い


ですかね。


過剰な期待と言う愛は受ける側からすると酷く重いもので、

それに押し潰される少女の姿を描いてみました。


で、赤城君は何にもやってませんね。

自殺しようとした明香里を助けたという点と大田さんと話したこと以外は。

でも、実際、一人で何でもできるわけでもなくて、立場や状況などで、出来ることが制限される。

つまり、彼にできたのは明香里を助けたこと、父親の背中を押してあげたこと、この二点しかなかった。


まあ、だから、このタイトルにしたのだけれど。


それじゃ、この話はここでおしまい。


まあ、状況によっては次作できるかもね?


では、読了ありがとうございました。


PS.連載中の転生ファンタジー小説「誰もこの命題を証明できない。」

もよろしくお願いします。

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