屋上にて馬鹿に口封じを
昼休み。
俺は屋上で遠藤、菅原、宮島と一緒に昼食を取っていた。
みんなの昼食は、
遠藤はおにぎりを五、六個食べていた。顔はかなり見られる顔なのに。
でも、そんなに驚くことじゃない。だって、遠藤は中学の時から、かなり食っていたから。
菅原と宮島と俺は弁当だった。
菅原の弁当は、のり弁と言う悲惨な弁当だった。ご愁傷様。
宮島はかわいらしく飾ったごく普通の弁当だった。だが、味はごく普通じゃなかった。とても、おいしかった。これ、女子高校生が作るものなのか、と驚くくらい。
俺の弁当は……
えーっと、何で、二段に分けた弁当箱にぎっしりペペロンチーノが入ってるのでしょうか? いや、ペペロンチーノは好きだけどね!
それにしたって、二段にぎっしりとペペロンチーノを入れるのは酷いんじゃないかい、琴葉?
これは十中八九、琴葉の作った弁当だと言える。俺の家では、料理は殆ど母が作るのだが、時々、その母が「うえー。だりぃ」とか言うと、母以外に唯一料理の出来る琴葉が作ることがある。
だがしかし、ここで喜んではいけない。
何故なら、あいつの料理は料理は出来るが、よく分からないミスを仕出かすのだ。そのいい例が、今日の弁当だ。
何で、弁当に似合わないものを弁当に入れるのか分からない。
まぁ、作ってくれないよりはマシだけどね。
俺は琴葉の作ったであろうペペロンチーノを箸で食べる。うん、この味は琴葉の味付けだ。
隣では、遠藤が立ち上がって演説をしていた。
「……だから、すごいんだって。あの四人って」
どうも、さっきからスフィアと言う若手声優四人で結成されたアーティストのことを言っているらしい。
で、何で、その人たちのブロマイドを持っているんだ、遠藤? いや、悪いって言ってるんじゃない。唯、興味があっただけ。
しかも、どう見ても面白くない話を聞いていて、宮島はくすくす笑っていた。にしても、宮島って笑ってる顔可愛いなぁ。
さて、そろそろうざくなってきたから。黙らすか。
俺は、手に隠したものを見えないようにしながら、喋っている遠藤に話しかけた。
「……さんは……」
「遠藤、遠藤」
「ん? 何だ? お前もスフィアの魅力に気づいたか! そうかそうかうんうん」
反射的に怒鳴る。
「そんなんじゃねえ!」
「じゃあ、何なんだ?」
「ちと、目、瞑って、口開けてくれないかな?」
「何のために」
「世界の幸福と全校生徒の安全の為に(笑)」
俺もこんな嘘じゃあ、引っかかるかな? と思っていたが、
「おう! 分かった! こうか?」
見事、引っかかった。こいつ、将来、詐欺とか引っかかるんじゃないのか? そう思わざるおえない程の騙され方だった。
「うん、それでいいよ」
そして、俺は阿呆面して口を開けながら突っ立っている遠藤を少々馬鹿にして、その唇にとある液体を一滴、垂らした。
アロンアルファを
「うん、目開いて、口も閉じていいよ」
その言葉を聞いて、遠藤はその通りにする。そして……
「………………!」
固まる。次に、
「~~~~~~~」
口に力を入れ無理矢理開こうとするが、痛いのか、すぐに止めた。
「にゃんでこんにゃことふぉしてゃにゃ、いふぁすくはにゃせ―――!」
どうも、離せと言っているらしい。そこで、俺は
「じゃあ、うざくない話をしてくれるんだったらいいよ」
アロンアルファの剥がし液を持って、そう持ち掛けた。遠藤はこくこく頷きながら言った。
「ふん」
「じゃあ、渡さない」
「!」
遠藤は目で訴える。何で、と。
「だって、今、お前『ふん』とか言ったじゃん」
子犬のように必死に首を横に振りながら否定する。
「ひってにゃい! ひってにゃい!」
「ふーん、どうかなー。なあ、菅原そう聞こえたか?」
「……言ったように聞こえる」
「すかわりゃー!」
「だそうだ。それよりも遠藤、あのさ、お前、内心気持ちいいだろ」
「!!!」
図星だったのか、心底驚いた顔をする。おいおい、お前の友をやって何年になると思ってんだ?
「いやね、お前のウォークマンの中にな、何だっけ、あれ? えーっと、確か、ドSのキャラが延々と罵倒するものがあったから、お前、こんなの聴くんだーと思って」
「!!!!!!」
ドMであることがばれるよりも、それを聞いていたことがばれる方が恥ずかしいらしく、涙目になりながら土下座していた。因みに、どうも、凄いものを表す時にド級とかド○って言うのは、元々、イギリスの戦艦ドレッドノートが元らしい。当時、ドレッドノートは世界の戦艦の常識を覆すぐらい大きく、ドレッドノートと似た大きさの戦艦をドレッドノート級と言い、それが縮まったものがド級、それを漢字にしたのが弩級と言った。
何故、ド級のドを弩にしたのは分からんが。
話を戻して、土下座している遠藤を見下ろす。どうっすかなーと考えていたら、ふと思いついたことがあったので、菅原に話してみる。
うまいこと菅原も承諾した(渋々だが)ので、遠藤に話しかける。
「遠藤、顔上げていいからそこで正座していて」
こくこく頷く。そして、
「宮島、少し立ってくれないかな?」
「え、いいですけど……?」
怪訝そうな顔をしながらも遠藤の前に立った。
よし、これで準備完了。俺と菅原は事故を防ぐために宮島の後ろに立つ。
今日は風も穏やかな日だ。凪いでいるのでもなく、強くもなく、さわさわ揺れるような風が流れている。それもいつも吹いているのではなく、吹いては休み、吹いては休みの繰り返しで吹いていた。
そして、ここは屋上。
来た!
そこまで強くない風だったが、立っている宮島と正座している遠藤。
視えてもおかしくないだろう。
その証拠に宮島は顔を融解した鉄みたいに赤らめていた。
そして、
いまいちよく分からないって顔の遠藤はよく分からず蹴っ飛ばされた。(見えないように配慮しながら)
でも、そこはドM。
恍惚とした顔をしてやがる。
やっぱりか……残念。
涙目の宮島。俺たちは、よく悲鳴を上げなかったと感嘆としていた。
「にゃんふぇひぇっふぉふぁさりぇふぁにょ」
何で、蹴っ飛ばされたの? と言ったのだろう。
だから、俺は言ってやった。
「まぁ、視えたんだよ。宮島のとある不可侵領域が」
「?」
首を傾げる遠藤。
そこで、今度は分かり易く言ってやった。
「視えたんだよ、スカートの中身が」
「……!」
え!? といった様子の遠藤は未だ、涙目の宮島を見る。そして、開かない口で叫ぶ。
「みぃふぇにゃいって、みゅひぇひぇにゃひふぇふぁ―――!」
知らねーよ。まぁ、でも、本人が視えてないって言うのだから本当なんだろう。しかも、さっきまでのきょとんとした態度も、そうだと頷ける。
――だが、
その真実は宮島には知らせないことにしよう。何か、面白くなりそう。
「赤城。お主、鬼畜だな」
え? 何? 声が高くてよく聞こえなーい。うっひゃひゃひゃひゃひゃ。
さて、そろそろ、いいかな。
俺は剥がし液を放る。遠藤はそれを犬のように追っ駆けて拾う。
俺はさも疲れたように溜息をした。
さてと、宮島をどうするかなー。
彼女は、未だに涙目だ。ま、俺のやることは一つ。
「これの首謀者は菅原です(笑)」
「「「……!!」」」
三人とも驚いた顔をする。遠藤と菅原と宮島では驚いている理由が違うと思うが。
「おい、何で俺が首謀者になっているのだ?」
「おいおい、お前から言ったんじゃねえかよ。かくかくしかじかと」
「言っておらんぞ。そんな言葉は」
「……晶くん?」
「いや、宮島。これは赤城が言ったことなのだ」
「いやいや、嘘を言っちゃあいけないよ、菅原さん」
闇金の取り立ての人みたいに脅す俺。もう、主人公失格だね。いや、人間失格だね。
「そんなことはどうでもいいから飯を食おう」
ごちゃごちゃと菅原が五月蠅いが、無視だ。スルーだ。シカトだ。
俺はわざとらしく携帯を見る。いや、実はあんなことにかまけて、みんな、あまり飯を食っていない。
「ささ、食おう。時間もあまりないしさ」
「……うん」
さっきの話はなんだったんだろうと不思議がる宮島。
とそこに遠藤復活。
そして、開口一番。
「いやーよかったよかったー。赤城。あのさ、また、やってくれないかな?」
「ぐふっ」
つい反射的に殴ってしまった。
でも、遠藤は気持ち良さそうにしてる。
もう、こいつは駄目だ。真正のMだ。うへー。
その後、宮島にも同様のことを言っていたのはご愛嬌である。
……そういや、後で聞いたのだが、あの遠藤のウォークマンに入っていたアレ。全く逆。即ち、ドMのキャラが語りかけてくるのもあるらしい。
……………………………………なんか、この国嫌だ。
後で、宮島に説明して誤解を解いた。ふー、疲れた疲れた。
9
さて、放課後……の前のHR。
先生が一人ずつ呼んで、テスト返却する。
「……赤城」
俺の番だ。前に出て、テストを受け取る。
……良いんだか、分かんねー。
得意の化学は、百八十七点だし、苦手の英語でさえも、九十二点だ。どーなってんの、これ?
その後、順位表も渡された。
あ、でも、そんなに良くないや、英語。
因みに、周りが静かなのはこのクラスが一応、進学校の最も優秀なクラスだからだ、と思う。
その理由に、隣からは阿鼻叫喚の嵐が聞こえる。
そんなこったで、正真正銘の放課後。
いつもの様に、和泉が訊いてくる。
「……何点なの? 化学は。」
「百八十七」
俺はつっけんどんに答える。それを聞いて、いつものテスト返却の時の沈んだ顔の約二倍に落ち込みようで言った。
「……また、負けた。」
「じゃあ、何点だ?」
「…………百二十三。」
「へ?」
俺はてっきり聞き間違いかと思った。何故なら、あの勉強馬鹿がクラスの平均点以下を出す筈ないと思っていた。
「それ、ほんとか?」
「………………。」
黙り込む和泉。何て言うか、彼女から出る雰囲気がいつも以上に暗く破滅的な感じがした。
とそこへ菅原が訊いてくる。ってか、いつの間にいたんだ、こいつ?
「……赤城。このテスト、どうなっているのだ?」
俺はこの息のし辛い空気を脱出する好機だと思って答えた。
「いや、知らねーよ」
「……えっと、確かですね……」
先生に呼ばれていた宮島が正答を答える。
彼女が言うには、どうもこんな感じらしい。
①上限がないということ。
何て言うか、とあるラノベにもありそうな設定だな。
どうも、教師の言い分としては、生徒の学力をもっとよく調べたいけど、百点て言う上限が……。ん? なら、上限なくしてしまえばいいんじゃね? と言うことらしい。
②それに伴って、テストの問題が百点分は、普通のテストなのだが、残りは、ほぼ記述問題であり、点数は加点式と言うこと。
これはまた御大層なこったで。
要は、応用問題が記述式で、その出来で加点するから上限はないということだろ。
これもまた、教師の言い訳があって、記述式だったらよく理解している生徒は自然と上がる筈だ、とのことらしい。本当か、それ。
③制限をなくす代わりにできた教科間の格差を是正する為に、総合点数は各教科の一位を百点として、それに準じた点数に変換して計算する
……何だか分かりにくい。
例えば、今回の化学の点数を例にしてみると、俺の点数が百八十七点で一位の点数が……あれ、百八十七だ。ま、いいや。総合点数は百点として扱われて、和泉は……約六十六点として扱われる(但し、総合点数は小数点以下まで計算するようだ)
……これ、標準偏差とか使って、正規分布にして計算した方がよくないか?
と、まぁこんな感じらしい。にしても、どーでもいいよなーこんな話。
それより遊ぼうぜ。
「なぁ、今日空いてる?」
俺は誘ったが、
「あ、今日はすぐ帰らないといけないです」と宮島はご丁寧に断わり、
「俺も無理」と遠藤は直球で切り捨てられ、
「済まぬ、今日は無理だ」と菅原にも一刀両断されて
見事、振られた。負けじと訊くが、
「何で?」
「仮入部」と遠藤が即答して」。
「同じく」と菅原も即答。
「……少し言えないです」少し遅れて、宮島。
と、惨敗だった。
「仕方ねぇ、帰るか。和泉、帰るぞ」
訊くが、無反応。
「おーい、和泉」
話しかけるが、またも無反応。
「お――い、和泉さーん」
丁重に訊くが、三度無反応。
痺れを切らして、彼女の顔を見る。
そこにあったのは、無表情でテストを見る和泉の顔だった。
和泉の瞳に映っていたのは、いつか見たあの時の彼女の瞳と一緒だった。
何……だ?
当惑する俺たち置き去りにするかの様に、鞄を掴んで帰った。いや、逃げた。
何からだろう? 解らない。
俺は逃げる姿をいつの間にか、あの時の彼女とトレースして、見ていることしかできなかった。




