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入道雲と影法師

一瞬の事だった。

奈緒美がその白銀の色を認識した瞬間、彼女の視界には白銀のレインコートを羽織った男の姿は、朝霧が日の光に消されたかの様に掻き消えていた。

目の錯覚かと考えたが、識者の感覚系の能力者にそんな事はない。

あるとすれば幻覚や隠蔽系の能力者が、能力を使ったのだろうと考える。

しかしと奈緒美は息を切らせながら思う。

能力者特有の神域結界を感じなかったのだ。

となれば今のは体術系の技? と奈緒美は分析する。

見失うという現象は、主に二つの要因がある。

一つは視界から外れると言う事。

単純な話、観測者の見えない位置に対象が入る事だ。

物影に入ったり観測者の動体視力を超すスピードで移動するのがこれに当たるが、白銀のレインコートを羽織った男と奈緒美との間には遮蔽物はないし、かなり離れた位置にいた奈緒美の目に映らない程のスピードなんてあり得ない。

例えばパッティングセンターで離れて見えた豪速球が、バッターボックスでみると目で追うのが難しくなるのと同じだ。

では一瞬の事でいなくなった人物は、どうやって消えたのかと考えると結論はもう一つの要因。


「相手の意識の間を外す歩法、無拍子。その発展系、『神足通』」


息を切らせながら、ボソリと奈緒美は呟く。

神足通とは能力者、特に『神道流』が使う歩法だ。(変わる世界の『変わり行く世界と動き出す世界』を参照してください)

技の本質は奈緒美が呟いた通り。

人にかかわらず観測者には認識する範囲がある。

それは物理的に言えば視界や認知範囲とも言うが、見失う二つ目の要因はそれとは違う。

我々が認識している世界は人間の脳の中では曖昧なモノだ。

人間が認識しているモノは自分が思っているより意外とアヤフヤである。

証明するのならば、二人一組になってお互いが一瞬だけ見た絵の詳細を聞いてみるといい。

意外なまで答えられない筈だ。

人間は注目した場所以外の事は、見ているようで見ていない。

この術理を使い神道流の歩法は人の心の隙を突き、拍子(タイミング)を外し一瞬の内に相手の死角へと移る技となる。

しかし恐ろしい技だと、奈緒美は走りながら一人ごちる。

単純な術理だが、シンプル故に汎用性があり破りにくい。

事実、認識や探査に優れる識者の能力者たる自分が見失うのだ、その威力は言わずとも解ると言うものだ。

しかし……


「シンプルだからこそ完璧な習得が難しい……そんな技を簡単に使える実力者がこの町にいる」


その事実が、奈緒美のこの町に対する疑問の始まりだった。

この町で何かが起ころうとしているのかだろうか?






と奈緒美の御大層と言うか思春期特有の妄想の答えは、簡単に解った。


「ああ、そりゃあ葵だ。ここの学生をやりながら、この町の山側にある奥の院を警護する役目がある奴だ」

「奥の院?」

「ああ、どうせ後から話すつもりだったからいいがオフレコにしてくれよ? この町には古くからある遺跡があるんだが、その遺跡の近くに禁足地がある」

「禁足地? ってなに」


最近の日本人は知らないのか? とイギーは笑う。

禁足地とは読んで字の如く、足が地につくのを禁じている場所の事をいう。

俗に立ち入り禁止区画の意味だが、禁足地と言う名前で呼ばれる場合は少々意味合いが変わってくる。

禁足地とは人が踏み入るのを禁じられた、


「神域の事だ」


神域と聞くとこの話を読んでいる読者の方たちは、『神域結界』の事を思い出すだろう。

それはあながち間違っていない、神々の末裔たる能力者達の領域だからこそ同じものと言える。

禁足地としての神域の意味は、神々が座する場所を中心に作られる人が踏み入れてはいけない空間を意味するからだ。


「でも、なんでそんなのがここに?」

「この都市の立地がな、ちょいと問題でな…。まあ、そういう事はどうでもいいんだ問題はその場所には絶対近づくなって事だ」

「危険なんですか?」

「ああ。とびっきりな」


神隠しという言葉を知っているだろうか?

一般的には人が消え、行方不明になるような現象を言う。

その現象は日本だけではなくヨーロッパなどでもある、有名な現象である。

しかしその現象のほとんどは、一つの共通点がある。

それはその現象が起こる場所が、超常現象や神や悪魔または妖怪などの存在がいたとされた場所なのだ。


「過去数回、禁足地に入った奴らは悉く消えてる。何かの儀式という線もあるが、原因は不明だ」

「被害が増えない様に、ここの学生会で警備をしているって事ですか?」

「そういう事だ。決して興味本位ではいろうと思うなよ?」

「子供じゃないです!!」

「子供だろーが」


子供扱いされて奈緒美は頬を膨らませながら席を立ち、部室の扉をでた。

部屋を出て行く奈緒美を背を見ながら、イギーは苦笑を浮かべると再び書類の山へと目を移した。

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