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後悔後先立たないと知る影法師

今年最後の更新となります。

今年は皆様お世話になりましたー。

来年もよろしくお願いします!!

「優しい事で」

「何の事だ?」


奈緒美が去った部室の中で、お茶を啜っていた思惟がボソリと呟いた。

その言葉に何らかの書類を見ていたイギーが、目も離さずに答える。


「見た感じ脅して入らせたかの様に見えるけど、あの子を守るためでしょ?」

「何の事やらな」

「あんた捻くれてるけど、根底は誠実なんだから」


とぼけるイギーに思惟は、微笑ましいものを見るように見つめた。



ここでこの時間軸における裏の世界状況を説明させてもらおう。

中東で起きた戦争の余波で、裏で起きた世界中の能力者達を巻き込んだ大戦により、能力者達の人口は一割近くまで下がっていた。

これに慌てたのは能力者を擁する組織だった。

組織の維持や実働部隊としていた能力者のほとんどが消えてしまったのだ、問題にならないはずがない。

その問題はとても深刻で、最優先で何とかしなければならない。

解決するべくその当時の組織達はいろいろな手を打ってきた。

その中で一番多いのが組織の合併だったりするのだが、今の話には関係ないので割愛する。

中でもこの時間軸の中で最も行われていたのは、能力者のスカウト………の名を借りた拉致が横行していた。


「聞いたわよー、PC部の会員からの話じゃこの学園に侵入する組織がわんさか来てるらしいじゃない?」

「………正確には四つの組織だ、わんさか来てるのはその末端80名だ。ホレ」


溜息を一つ吐きながら、イギーは手に持っていた書類を思惟に突き出した。

それを受け取った思惟は、その書類に目を通すとウンザリと半眼になる。


「暇ねえ。そんな事するぐらいなら、子供作ったほうが早いと思うんだけど?」

「即戦力が必要なんだろ? とは言え拉致してそこから戦力にするのも一苦労だと思うけどな」

「コストパフォーマンスの問題?」

「それもあるだろうが、時間的な問題が大きい。一人の人間を育てるのと作るのじゃ時間的にって所だろう」

「あ〜なるほど。チンタラやってたんじゃ戦力のある組織に潰されるか同士討ちの可能性があるわけか」

「そうなる前に戦力をある程度揃えてきたいんだろうさ」


この時点で能力者は特に女性の能力者は危険な状況にある。

一つはイギーが言った事で、二つ目は思惟が言った事。

簡単に言うと拐われて洗脳されて戦闘員にされた挙句、女性であれば無理やり襲われ子供を生むだけの機械にされかねないという事である。


「ま、そういうことから守るためなんでしょ?」

「いや? ただ単に俺が未来の戦力として確保したいだけかもしれないだろ?」

「そんな事ないわよ。あんた本気で人を騙す時はもっと聖人君子だもの」

「…言ってろ」


フンと鼻を鳴らすとイギーは図星を突かれたのか、再び書類に目を戻す。

そんな彼をまーたまたっとからかう様に笑いかける思惟は、ふと思い出したように呟いた。


「でも、かわいそうね彼女」

「何がだ?」

「体を鍛えるために、あんた飯森君の所に彼女をやったでしょ?」

「それがどうした」

「ご愁傷様って事よ」




「はあ、はあ、はあ」


春先の冷たい朝の風を体全体に浴びながら、奈緒美は後にも退けない事に、若干の後悔をしながら走っていた。

原因は言わずもがなの自分の発言だ。

練習する場所を探していたのもあるが、儀式を教えてもらえると言うのに二つ返事で了承してしまったのは今更ながらいただけない。

奈緒美はあの時に戻れるならば、うまい話にホイホイととびつくなと自分に苦言をしたい心境である。

とは言え、今のややスパルタ気味の今の訓練メニューに口出しも出来ないのはしょうがない事だと思う奈緒美だ。

朝は早く朝練さながらの走り込みから始まって、各自の武術(奈緒美の場合は守部神道流)の自主練、昼休みも軽く走りこみをやりつつ、放課後は合同で儀式体術と呼ばれるものをやり、その後に軽く走りこみをして終わりという一日。

励起法を使っていれば簡単なのだが、この流れの中では励起法は儀式体術以外に使われない。

なぜならば、励起法を使っての訓練は肉体的な成長が一切ないからだ。(詳しい説明は変わる世界『絶技 後編』を参照してください)

その話自体、奈緒美はよーく知っている、と言うか以前いた留学先で自分の身体を鍛えるために調べたのでレポート形式でまとめて残しているぐらい知っている。

だからこそ、今やっている事の必要性はわかっているのだが、今きついのはそれとこれは違う。

頭では納得しているのだが、感情としては後悔していると言う奴だ。


「ふっふっふっ」


調息をしながら、励起法をしないように気をつけながらひたむきに走る。

身体の辛さを軽減するべく、励起法を無意識に行いそうになるからだ。

一週一km程のトラックを一定のスピードで走りながら、辛さを忘れる為に奈緒美は周りに目を移す。

学園都市は元々、工業で栄えていた町をベースに作られた都市である。

それ故に周りに目を移せば、学園都市とは言うが風景自体は普通の地方都市の住宅地の様相だったりする。

サイファグループが、この町を学園都市に改造した理由は幾つかある。

一つは工業都市だった事、これは生産と言う側面と、建設コストとスピードとの兼ね合いだ。

二つ目は、一つ目の理由から大きな港と交通機関が整備されている事。

この町は古くから工業都市としてある為、工場に線路が引かれて港と連結している点で好都合だった。

三つ目としては、その工業都市が衰退しつつある事だ。

実はこの学園都市が作られる前の町は、バブル崩壊と共に衰退していたりする。

その三つの理由からサイファグループは国に働きかけ、町の工場を一手に買い上げ学園都市に改造した。

つまりはどういう事かと言えば、工場や学園の校舎などの町の一部以外は、住人が増えた以外はほとんど変わってないと言う事だったりする。

今奈緒美が走っているのは、山の麓にある住宅地の中にある高校のグランド。

校舎より高い建物はないために、首都圏に住んでた奈緒美としてはとても空が高く広く見える。

空が高いなーと苦しみから意識を飛ばしながら走っていると、奈緒美の目の端に白銀に光る何かが映る。


「………」


息切れしながら目を移すと、山の切れ目にある薮から白銀のレインコートを羽織った長身の男が出て来ている所だった。








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