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影法師と相互組合

サイファ学園都市の敷地はとても広い。

地方の工業都市を丸々改造して作ったので、その敷地と生産拠点としての力は他の学園都市の追随を許さないほどだ。

その証拠に学園都市の設置から十数年だが、各部門の研究室から出来た新素材や新技術などは、この都市から生産され世界中へと輸出されている。

サイファ学園都市の運営をするサイファグループの利益も莫大なモノになっているのは、周知の事実だ。

そんな状況で問題となるのは、何処の企業でも税金対策である。

サイファグループでは色々な手をとっているが、目に見えたモノでは目の前の区画だと奈緒美は感心する。

税金対策で一番通り易いのは福利厚生や必要経費などである、要するに何だと言えば、住宅街と言わんがばかりの広大な『部室棟』である。




あれから奈緒美は痴話喧嘩じみた争いが終わった後にイギーから、話があると言われてついて来ていた。

あの出会い頭の一件でとても不安だったのだが、思惟という女性から謝り倒されて仕方がなく付いてきたというのが真相である。

とは言え目の前のドアに掛けられた部名のプレートを見て、奈緒美は『あのお節介教授は…』と伏し目がちに呟いた。

『第三戦術研究部』と書かれているそのプレートの文字は、重金教授が言っていた同好会の名前である。

あの教授は奈緒美の事を心配していた。

だからだろう、こんなメンドくさいような手を取ったのは。


「どうした?」


そんな奈緒美に心配したのか、イギーが声をかけてきた。


「何でもないです。なんか人付き合いってのが難しいなーって思っただけです」

「その年で達観してるわねー」

「だな。君ぐらいの歳は慎重さより、間違っても進むぐらいの無謀さがあった方が良いと思うが?」

「その言葉が出てくるのも、あんたの年的にもどうだろうって思うのは私だけ?」

「どうでも良いだろ? ほら中に入った入った」


思惟の疑問に同意しながら、奈緒美は促されるまま部屋へと入っていく。

その部屋の中を見て一番最初の感想は、雑多だという感想だった。

それは男の部屋と言う様な汚い部屋ではなく、積み上げられた紙で溢れた雑多な部屋である。

内装は2LDKマンションの一室と似た内装で広いが、所狭しと積み上げられた資料やパソコンと周辺機器の所為でとても狭く見える。


「ゴメンねー汚い所で。いつも片付けなさいって言ってるんだけどね」

「男が多いからな、仕方が無いさ。まあ、掃除機は定期的にかけているから埃はないから安心していい」


言われて奈緒美が見回すと、確かに乱雑に物が置かれているが埃は見当たらなかった。

奈緒美はすすめられるままに椅子にすわりながら、この部屋はただ物が多いだけだと判断する。

とそんな事を考えていると、オレンジピールの香りが立ち昇るカップを突き出す手が出て来た。


「インスタントで悪いが、紅茶だ」

「イギー、私のは?」

「お前には焙じ茶だ、ほら」


先程の争いも何処かに和気藹々と喋る二人に和みながら、奈緒美は差し出された紅茶に口をつける。

湧き立つオレンジピールの酸味のある香りと甘味のあるフローラルな香りが、口から鼻へと抜けると奈緒美の身体が自然とリラックスして来る。


「知り合いの業者から直接仕入れたアールグレイだ。どうだ?」

「美味しいです」


奈緒美が素直な感想を言うと、イギーは満足そうに頷いた。


「さて、満足して貰った上で本題だ。君は教授からここの事をどの位聞いた?」

「えっ? えーと、一度訪ねるていいって感じのニュアンスしか聞いてません」

「てーと、ほぼ聞いてないか。教授、丸投げしたな?」

「私、いつもの報復だと思うよ」


湯飲みから飲んでいる思惟からの発言にイギーは眉間を押さえると、一つ溜め息をついて話を続ける。


「この学校の創設の目的は知っているか?」

「知らないわ」


簡潔に答えると、イギーはだろうなと頷いた。

サイファ学園都市は学園都市という形態をとっているため、その本分は人材の育成や新技術の開発が主である。

さてここで、くどい様だが能力者の特質を思い出して頂きたい。

能力者とは魔法や超能力・奇跡の様な技を使う人間の総称だと思いがちだが、細かく言うと少し違う。

正確には能力者とは人智を超えた、文字通り『能力』を持った人種のことである。

その能力と言う意味であれば、それは見た目が派手な戦闘能力だけの話ではない。


「例えば識者の中には相手の行動を先読み出来ると言う、見た目は地味だが内容が凄いのもあるわけだ。ただそれは戦闘には有益だが、実生活についてはどうだ?」


言われて奈緒美は虚を突かれたように答えあぐねる。

奈緒美だけではなく能力者が総じてそうなのだが、能力者は大小含めて戦乱によく巻き込まれることが多い。

それ故に能力者の頭の中は生き延びるべき為に、頭の中では戦闘の事で占められていることが多いのだ。

それを経験的に知っているイギーは、だろうなと口元を歪める。


「この学園都市は元々能力者達の保護と育成の為に出来た都市なのさ」


神代の時代から世界中には能力者達が作る様々な律法機関があった。

それらはヨーロッパのオリュンポスやニブルヘイム、中央アジアのガンダーラなどにも存在しており、いつの時代もその力を行使して世界を安定するために動いてきていた。

そしてこの日本にもその機関は存在する。

古き神々の地『高天原』に存在する、その名は『産霊むすび』と言う。




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