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スセリ姫と羽衣伝説 前

研究所の会議室の一画、テーブルに向かい合うように座った五條達四人。

コトリと片桐が女性陣の前に缶のお茶を置く。


「片桐、俺のは?」

「ない。綺麗な女性に出す金はあっても、男に出す金はない」

「なんと言う女尊男卑」


悪びれもせず言う片桐に五條は思わず突っ込む。

それを見ていて面白かったのか、三枝監査官は口を押さえてクスクスと笑っていた。

ちなみに片桐は『綺麗なお姉さんはもーっと大好きです』とか言ってたので、五條は脇腹に手刀をいれて悶絶させておいた。


「ふふ、この研究所の人等は面白い方が多いんですね」

「えっあー、すみません」

「良いんですよ。先程、船津室長にも言いましたけどモチベーションが高い証拠ですよ」

「いえ、流石にコレは普通の企業でもありませんから……。あの不躾ですが、監査官は他の支部にも行かれて?」

「ええっ行きましたよ。ねぇ雨宮さん?」

「えっ…………あっはい、そうですね。今迄四箇所回りました、ここで最後ですね」


監査官と士官との間に妙な間があった。五條の中にある違和感が大きくなるが、今は話を進める事が大事なので後回しにした。


「ここの研究所の別名を知っていますか?」

「いえ、知りません」

「不適合者の掃き溜めと言われてるんです」


三枝監査官は平然としているが、雨宮士官はなんだそれはと顔を顰める。

仕方があるまい、不適合者の掃き溜めとか聞いていて気持ち良いモノじゃないからだ。


「入隊前の試験にある適性試験ってあるだろ? ここの連中は皆『能力は隊としては欲しいが、適性試験で最悪』を言い渡された奴等ばかりなのさ」


片桐が戯けるように自嘲する。が、これは事実でかく言う五條もその一人だ。


「まあ、そんな訳でここの連中は異常な人間が多いんですよ。だから、不快になる事が多々あると思いますが許して頂きたいんです」

「お気遣いありがとうございます。しかし、大丈夫ですよ。今回査察する実験は基本的に何故か変人が多いらしくて、どうも今回の実験の為に集められた人員は能力重視で上の方が選抜したらしくて、予想はしてたんですよ」


見た目の柔らかさと違い、歯に布を着せない物言いに五條は顔を引きつらせる。

しかし、そのお陰でなんとなく内情が理解出来た。今回のプロジェクトが組まれたのは約一年前、その時人員の偏りにとても驚いた。なにせ他の部隊でも有名な変人や問題視される人物ばかりだからだ。

だが今の話でなんとなく察した、このプロジェクトに賭ける上の本気度が。

要するになり振りに構ってない、問題があっても結果さえ残れば良いのだろう。それが前回の騒動に対する処分がないと言う結果だ。

薄らと疑問になっていた事が解決すると共に、五條は結果が出ない事に恐ろしさを感じる。


「あのー五條技術官? そろそろ見学に案内お願いします」

「ああ、すみません。では、時間も良い頃なので、こちらへ」


思考から呼び戻された五條は、慌てて取り繕うと扉へと二人を案内する。

二人の内、雨宮技術士官と良く目が合う事に違和感を感じながら。





変人の巣窟と言うのは確かだと、雨宮技術士官に扮した奈緒美は表情を変えずに心の中で頷いた。

あの後、五條技術士官と片桐技術士官の二人に案内されたのは、現在の開発された儀式兵装のプロトタイプを保管する部屋だった。それは天井が高く広い保管庫で、恐らく実験にも使われているのだろう場所。その場所の端にある一つのブース。


「コレは……」

「ネタ臭く見えますが、これがウチの第二研と今さっきの第三研の合同作です」


それはマネキンに着せられる様に作られていた。マネキンの身体を包む様な、所謂全身タイツ。その身体の各部にはゴツゴツしたパーツがくっついている。

その姿に奈緒美は思わず口にする。


「ヒーローショーの着ぐるみ?」


勿論、正義の味方側である。分かりやすく言えば日曜のヒーロータイムの戦隊やライダーモノに近い姿、と言えばわかるだろう。


「いや、見た目はそうなんですが、これは一応恐ろしい程のブレイクスルーの果てに出来たモノなんで」


あまり言って貰いたくないのだろう、五條は顔を僅かながら引きつらせる。


「まあ、口頭だけと言うのも何ですから…片桐、準備は良いか?」

「あいよ」


五條の合図で、その装備をしたであろう片桐が現れる。

だが明らかに私服姿であろう服を着た片桐に、思惟と奈緒美は揃って首を傾げる。


「装備してないようですが?」

「いえ、ベルトのバックルを見てください。複雑な紋様が描いてあるのが分かりますか? あれは先程言った私が開発した、一瞬にして装備をする儀式装置です。片桐やってくれ」

「分かった………ここは『変身』とかやった方が良いかな?」

「ええぃ、なんでも良いからやれっ‼︎」

「へいへい」


まったく五條は仕方がないなと呟きながら、片桐はポーズを取りながら変身っ‼︎と叫ぶ。

するとどうだろう、アニメの様な光やエフェクトは出ないが色が入れ替わる様に、服はスパンデックスに変わり頭は宇宙服の様なフルフェイスのヘルメットを被っていた。


「私が発案した儀式です。元はa点とb点にあるモノを相転移させ交換する移送儀式『飛梅』で、片桐が設定した空間系儀式『マヨイガ』内に設置してある『スーツ』と交換しています」

「『スーツ』? 名前は決まってないのですか?」

「はい。スーツのコンセプトは身体に負荷を掛けずに能力者に近付くでしたよね?」


三枝が顎に手をあて、少し考える。


「人体強化型高機動外骨格、Human body Strengthening high mobility exoskeleton.略称………上手いのが思い浮かびませんね」

「ネーミングは難しいですからね」

「んー超人へ変身する組み立て儀式 高機動外骨格、To superman Mutate sectional Ritua high mobility exoskeleton.でスセリヒメで良いんじゃない?」


横から前々から考えてたのかよと、五條と三枝の視線が集まる。

すると片桐は照れたのか視線を彷徨わせた。

スセリ姫とは神代において嵐の神とされた素戔嗚スサノオの娘でり、日の本の国を治めた神大国主の妻である。かの女神は自身に一目惚れした大国主が、父素戔嗚からの邪魔や妨害を暗に手助けして救った国母の神だ。

解りやすく言えば、夫の危機を手助けして救う女神。片桐はおそらく包まれ手助けしてくれるスーツを、手助けをする女神の様に見えているのだろう。

そして、この兵装がこの国を救う手助けになる事を祈って。

意外とロマンチックな野郎である。


「ん、まあネーミングはともかくスーツ、えースセリは見たままは全身タイツ、スパンデックスに各部にプロテクターです。しかし、見る人間が見ればこれはオーパーツにしか見えません。片桐」


これからの対応に困りながら五條が目配せすると、片桐は部屋の隅に移動してトランクケース程の黒い塊を二つ鷲掴みして持ってきた。

雨宮こと奈緒美は、塊を見てアレと気付く。


「お気付きでしょうが、片桐が簡単に持ち上げているのは鋼鉄のインゴットで普通のスーツケース程の大きさで、一つあたり約800㎏を二つを軽々持っています。これは平均的な成人男性の体格の能力者が行う励起法の最低深度と同じ程です。このスーツは身体全体を乗数強化する励起法とは違い、スーツ自体が外骨格になって感知した装着者の脳波通りに動く仕様になっています」

「なるほど、秦氏の羽衣儀式を元にしてるんですね」

「羽衣儀式ってあの空を飛ぶアレですか?」


儀式の効果と名前の齟齬に奈緒美は思わず疑問を口に出してしまう。明らかに視察に来ている監査官が言うセリフではない。思わず顔色が変わりそうになるが、奈緒美は無理やり抑えつける。


「ええそうよ。儀式の勉強は出来てますが、儀式の歴史にはあまり詳しくないみたいですね」

「いやいや、自分もそう思いましたよ。何せ羽衣伝説と明らかに違う儀式ですからね。しかし三枝さんは知っているみたいですね、一つご教授していただきますか?」

「うふふ、では僭越ながら教授させていただきますわ」


どうやら話をそらせたようだ。奈緒美は内心ホッとしながら、カバーしてくれた思惟に感謝した。

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