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影法師の裏側 「忍と風神」

東京渋谷区

明治神宮から少し離れた場所にそのビルはある。

地上30階程の高層ビルの中ではまあまあと言う程の高さ。

外見は艶のある鈍色の壁面、近隣の住民からは『巨大な剣が突き立っている』と噂されていた。

理由は簡単、そのビルを本社ビルにしている会社のロゴマークが、『剣と金槌を交差』させたマークだからだ。

ロゴマークとビルの外観からの安易な連想である。

大地に剣を突き立てた会社の名前は『サイファグループ』、科学系の分野からの商品を作り上げ、生産、流通や福祉などの多角経営を成功させた企業(コングロマリット)

創業一年目で上場し、三年目にして年商五兆円を超えた化物企業である。

そんな会社のビルを見上げる男が一人。


「流石、現代最高の要塞と呼ばれる極東の城だ。核兵器の直撃で傷一つつかない防御力を持ってるな」


濃紺のパンツとジレ、白いシャツに流れる風を文様で表したネイビーとホワイトのネクタイ、そして一番特徴的なのは紅緋色をした布のロングコート。

見た目だけはかなり目立つ装いだ。

その男はビルの屋上のある一点をしばらく見つめると、見ていた窓に影が写ったのを見届けビルへと入って行く。

自動ドアをゆうゆうと越えると男は受付へと行き、肘を受付のテーブルに預け口を開く。


「社長さんに会いたいんだけど?」

「えっあっはい、アポイントはお取りですか?」


一瞬、受付の女性がどもる。

それは無理も無い事だ。受付の女性が見たのは、驚く程に綺麗な笑顔をした青年だからだ。

整った顔付きに優しげな甘いマスク、明らかに女性受けがいい顔付きの青年が魅力的な綺麗な笑顔をしていたのだ、受付の女性が心を奪われたのは仕方が無い。

むしろ、まともに返事を返したのがすごいのか、好みから外れていたのが良かったのか微妙な所である。


「とってないね」

「でしたら、秘書課の方に連絡をとりますのでお名前を……」

「その必要はない」


受付の女性が気を利かせて連絡をとろうとするよりも早く、男の声がそれを止める。

視線をやれば、小太り体型の二十代後半程の男が現れていた。


「やぁ細目のおっさん」

「総務の細目部長っ、お知り合いですか?」

「おっさんじゃない! こいつが迷惑かけたな、こいつは連れて行く…ったく用件は解ってる。こっちだ」

「話が早くて助かるよ。 相手から来てくれたんで早目に片がついた、ありがとう、お姉さん」

「はっはい」


疲れた風に言う細目に連れられた男は、来た時と同じく綺麗な笑顔で感謝を伝える。

受付の女性は完全にのぼせ上がり、心あらずだ。


「たく、お前は相変わらずか」

「ああ、相変わらずさ」

「連絡で来るのは知っていたが、こんなに早いとはな。今の状態を見ると、報告が正しかったか………トリップしてないで、いくぞイギー」


細目は笑顔のイギーを連れてエレベーターにはいる。階数ボタンは最上階、ボタンを押した後にパスワードを入力する為順序良く階数ボタンを押し、防犯用のカメラに目を見開き映る。


「パスワードに指紋認証、顔認証と虹彩認証か。厳重だな相変わらず」

「何だ正気に戻ったか。そのままあっちの世界に行ったまま帰ってこなければいいのに」

「いやいや、これから始まるんだ。楽しい時間がな」


まだ完全じゃないか、と細目の溜息と共にエレベーターのドアが開く。


「その為には金と人材、コネと後ろ盾が必要なんだよ」

「それはただのタカリだ」

「そうならない様に俺が来たのさ。わかるだろう、八方塞の北東門、細目公一さん?」

「その役職はここで言うなイギー、意趣返しで貴様の本名を言われたいか?」

「それは困る、せめて防諜対策してる社長室周りで頼むよ」


エレベーターホールを横切りながら、二人は剣呑な空気を纏わせながら歩く。

行き先は社長室と刻印されたプレートがついた扉、ではなく総務部の向こうにある資料室。

資料室に入ると、二人は資料やPCなどには目もくれず一番奥にあるドアを開ける。


「ペンタゴンでもここまで厳重じゃないぞ」

「我々の存在は限られた者だけ知ればいい。我々の目的は我々だけが知ればいい。そう言う事だ。それより早くしろ」

「ハイハイ」


部屋は殺風景な部屋だった。家具一つない、真っ白な壁紙の部屋。

二人はそこで申し合わせた様に、同じ行動を起こす。

行動の名前は『励起法』、能力者が使う乗数強化法。


「励起法と神域結界を使った動力とセキュリティか。聞いてはいたが、かなり凝ってるなぁ。励起波動の波動紋と神域結界の特性がキーと動力とか、能力者しか来れんなここには」

「元々そう言う設計だ。地上は普通の人間に見せれても、地下五階以下は見せれん」


しばらく二人の身体を襲う落下する様な浮遊感、終わると同時にスライドする壁。

開いた壁から覗く光景、それは月光が降り注いだような薄暗いジャングルだった。


「東京の地下、地層と地層の間に存在した巨大地下湖を改造した人工ジオフロントだ。先月、足掛け三年でようやく完成した」


巨大とまでは行かないが、数キロ単位の巨大な空洞。

天井には原理がわからない光の玉が淡い光を放ち、薄暗い世界の彼等を柔らかく包む。

エレベーターの前はジャングルの部分が開けており、そこには一人の青年が背を向けて空を向いて立っていた。

二人の気配に気付いたのか、青年が振り返る。


「来ましたか。細目さん、出迎えご苦労様です。仕事に戻っていただいてもいいですよ」

「いえ、今後の展開の為に私も聞かせてもらいます」

「そうですか、相変わらず細目さんは頼もしい限りですね。そして貴方も私達にとっては頼もしい剣であり、背中を押してくれる追風ですよ」





「報告をエッグハルト・ヴィオ・バーンブルグ。いえ、八方塞の南門、不吉の南風(はえ)、天狗の末裔、凶滅の追風。三剣 風文よ」


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