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影法師に風雨

能力者。

その単語を聞いて、奈緒美は身体を強張らせる。

奈緒美だけではなく、能力者は自分以外の能力者に対し警戒を抱く。

なぜならば、それが能力者達の歴史において繰り返されてきた力あるもの達の闘争の記録の影響に他ならない。

統計を取れば解るのだが、能力者達の死亡原因の第一位の老衰に次いで他殺なのだからだ。

能力者達にとって同じ能力者は、同じコミュニティに属する能力者以外は基本的には敵だと思っているからである。

それに何より彼女の能力『透見すかしみ』で相手の心が見えないのも警戒を引き上げるのに一役買っていた。

識者の能力を無力化するにはいくつか方法がある。

一つは能力者の能力に沿わないような方法をとる事。

例えば目に見えない音を見る天子の能力を封じるには、音を完全に消すという様にすればいいと言う事だ、現実にできるかといえば無理に近いことだが。

二つ目は至極簡単、相手の感知圏を出ればいい。

感知出来ないものは能力の発動すらない。

そして最後に奈緒美の目の前の男や、重金教授がやっていた方法。

高深度の励起法を使い相手の感知圏をジャミングする事だ。

結局のところ、識者の知覚能力は神域結界越しに感知する事により認識するものであり、それに影響を及ぼす励起法の力は神域結界を歪ませ、相手の能力を結果的にジャミングするのだ。

その結果が今の状況だ。

有名な同級生が能力者で、自分の鍛錬を励起法を行いながら近づいていたのだ、怪しい事をぶっちぎって胡散臭さの塊である。

励起法から感じる微細な波から、相手の力量は遥か上だと奈緒美は判断した。

それから考えられる、これからの行動は二つ。

逃げるか戦うかだ。

奈緒美はエッグハルトを睨み付けながら、ジリジリとすり足でゆっくりと逃げやすい位置へと移動していく。

しかし彼も彼女を逃さないように、ゆっくりと移動していく。

その姿はねずみを追い詰める猫の様にみえる。

やや怯え気味の中学生ぐらいの年の奈緒美と、楽しそうにジリジリと追い詰める青年の図はやや犯罪的だったりしていた。

だがそれを止める一つの影があった。


「やめんかイギー!!」


スパーンと叩かれる男ことイギー(エッグハルトの愛称)の頭が激しくぶれる。

その人影は奈緒美と同じくらいの身長で、濃紺のジャージと長い髪の毛をポニーテールにしているのが特徴の女性だった。

彼女は腕を組み、仁王立ちで一撃で沈めたイギーを見下ろしながら怒っていた。


「とうとう犯罪に手を出したか!! 毎度毎度、騒動の種を作って………この際だから、高校からの恨み、今日という今日は晴らさせてもらうわ!!」

「あいたたって、待て待て待て。やめろ思惟!! 俺は重金教授の頼みでって話しを聞けって!?」


見れば思惟と呼ばれた女性の右手が剣指を形作り、右足を出し腰を落とす構えをとっていた。

どこかで見覚えがある構えに、先ほどまでのプレッシャーを忘れそうになりかけの頭を動かし奈緒美は思い出す。

剣指を形どった指に、奈緒美はとある昆虫を思い出す。


「マンティス?」

「合ってるがこれはどっちかって言えば蟷螂カマキリの斧おぉぉっぉぉ、危ねっ!? 思惟お前、本気で殺そうとしてないかっ!!」

「当然」


励起法で極限まで引き上げられた動体視力ですらも、霞んで見えるほどの無数の突きをイギーは躱しながら奈緒美の呟きに律儀に答える。

そんなイギーを、思惟は淡々と流れ作業よろしく能面のような表情で行っていく。

いったい彼女に何があってそこまで怒らせているのかは解らないが、その理由は奈緒美は解る気がした。


「お前いつの間に覚えたんだっ…えーっと七星螳螂拳?」

「残念、これは八卦掌を取り入れてるから八歩螳螂拳よ」

「どっちでもいいわっ、いい加減にやめい!!」


おそらくは後から来た思惟という女性も、励起法の波動からみれば能力者なのだろう。

能力者であれば、それぞれがどこかしら誇りがあるもの。

大体の能力者であれば自分の武力に対し、少なからず自信があるものだ。

しかし、あの目の前の男はどうだろうか。

それなりに本気で放っている技を悉く避け、あまつさえ軽口を叩きながらニヤニヤと笑っているのだ。

いくら遥か高みにいる実力者だろうとは言え、あの態度は少しイラっと来るものがある。

ましては彼女と彼の関係は長いと予想がつくところから、そのイラッとくる時間は相当なものだろう。


「いい、加減にっ、倒れろ!!」

「そう、何度も何度も、殴られるかってーの!!」


思考の海へと埋没していた奈緒美が気づけば、カンフー映画さながらのような光景になっていた。

いきなりの展開にどうしていいか分からない奈緒美は、呆然とその光景を見続けている。

結局のところ、一区切りが着いたのはそれから三十分の後の話だった。




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