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挿話 とある能力者の一ヶ月 悟りの道筋

和也はパタンパタンと言う規則的な音で目を覚ました。

布で雁字搦めに固められてから気を失っていたのだろうが、身体を縛っていた布はなくいつの間にかに身体の自由は戻っていた。

身体を起こし座ると、板の間に転がされて寝ていたせいか身体の色んな所が固まっていて痛い。

身体の怪我はないが痛みをとるために励起法で手っ取り早く身体を戻そう、としようとして気がつく。


「励起法が発動しない?」

「当然だよ。秦氏が誇る機織の間では励起法は使えないんだ」


座り込んだ和也が振り向き、そして固まる。

それはとても美しい少女だった。

艶のある漆黒の黒髪、絹のようなきめ細やかを持つ抜けるように白い肌、切れ長の目だが優しそうな印象を持たせる眼、鼻筋はスラリと通り真紅を思わせる唇は鮮やかなモノクロで統一している彼女の顔を扇情的に彩っていた。


「あれっ? どうしたの? おーい」


服はこれでもかっという程の時代錯誤な着物。

右襟を上にした死装束の様な白い着物だ。


「あー、もしかしてこの部屋に投げ込まれた時に頭ぶつけて………」


着物からでた白魚の様な手も美しく、和也は思わず立ち上がり目の前で振られている手を取った。


「うわっ」

「俺の名前は新海和也。18歳、サイファ学園都市マテリアル製造科の一年です。あなたの名前は?」


手っ取り早く言えば一目惚れ、出会った瞬間に和也は彼女の美しさに堕ち…じゃなく落とされた。

ここ一年近くの人間関係のゴタゴタで腐っていた事や、この場所に何故いるのか、何の為に誘拐してまで連れて来られた事など全て彼の頭から吹っ飛んでいた。

彼の頭の中にあるのは、彼女の名前を知り第一段階で友達以上に成ること、そして時を経て二人の中はユックリと縮まりそして二人は………


「ボクの名前は(はた) 千鶴(ちづる)‼︎ 11歳っ‼︎」


和也は膝から崩れ落ちた。








「俺は決してロリコンではないっ!!」

「お兄ちゃん、どうしたの? ロリコンって何?」

「なんでもない、世の不条理を嘆いていただけだよ。あとロリコン云々の説明は勘弁して下さい、マジで」

「えー」


あれからチョットした騒動(和也の一方的な)があったのだが、落ち着いた彼は横に座る少女に色々な話を聞いていた。

彼女の名前は秦千鶴、ここ秦氏の本拠地であろう場所の最深奥『機織の間』で織姫を務める秦氏の中核を担う子供である。

秦氏とは機織の一族にして能力者の一族だ。

彼等の作る反物のほとんどは、能力者が着る戦闘服となる。

戦闘時に能力者の着る服は通常、励起法の余剰波によって強化されている。

その力はどれ位かと言えばこんな実験がある。

ある程度の量の絹糸の片方を固定、もう片方に重りを付けどの位まで耐え切れるかと言う実験だ。

絹糸は繊維の中でも強度は高く、100回やって耐えれた重さは平均は900g〜950gだった。

次に同じような実験方法で、能力者が励起法を行い接触した状態で再度実験すると平均は驚きの結果になった。

平均値は約8000g〜9000g、恐ろしいまでの変化である。

しかも繊維と言う物は編むことで更に強度を増す物だ。

秦氏の一族はそれに儀式を施す事により、能力者の服を戦闘に耐える素材に変える。


「要するにねー、特殊な儀式織で織ったら余剰波の伝導率が引き上がるの」

「へー、繊維の種類ごとの織り方で強化率が倍近く違う」


座る場所は日本家屋の板の間に設置されている巨大なスパコンに繋がれた大きなディスプレイの前。

誇らしげにディスプレイを指差しながら説明する千鶴に相槌を打ちながら、和也は現状を整理していた。

何度も言うようだが彼等、秦氏は説明した通り能力者の服を作る機織りの一族だ。

能力者が使う励起法の余剰波と儀式を利用し機織る。

秦氏の一族の役割は字面にすると説明すると簡単だが、彼等の一族としては複雑怪奇な事情となるので割愛させてもらう。

和也にとって問題なのは、ここはドコかと何の為に連れて来られたかだ。

ちなみに千鶴の説明はすでに1時間近く続いていたり、いい加減に話を聞いてもいい塩梅だと思う。だから、


「でね、基本パターンを……」

「ちょーっと待って、千鶴ちゃん」

「ん? なぁに?」


とりあえず話を止める。


「質問? それとも、何かのお話? 私、村の外の事はあまり知らないから、街のはなしが聞きたいな」

「えっ?」


ようやく話が出来ると言う前に、和也は出鼻を挫かれる。


「村って? ここはどこ、っじゃない日本の何処か解る?」

「日本って何?」

「………」


質問の返事に和也は絶句する。

横に座る少女は11才、年齢から言えば小学校四年〜五年生位。

小五、ロリ。


「お兄ちゃん? どうしたの?」

「いや、うん、何でもない。なんでもないよ、自分で自分の心をKOしただけさ」


兎も角、それ位の少女が日本と言う国としての枠組みを理解、いや知らないと言う事はある一つの推測がたつ。


「なあ千鶴ちゃん、学校って解るか?」

「何それ?」


やはりかと和也は奥歯を噛み締める。

いや、この監禁された自分の場所に少女がいる事と学生会から来た通達から考えれば、おのずと解る事だ。

学生会の通達とは『3年前に起こった大戦とそれに伴う人材不足と、予想される影響』と言う物だ。

3年前、中東で起きた戦争。

それによって能力者、正確に言えばベテラン能力者の大量の戦死者は、世界各地で能力者の人数を減らしていた。

おそらく秦氏の能力者も、ベテラン能力者が数多く戦死しているだろう。

そして隣にいる少女は明らかに秦氏の秘蔵っ子だ。

外の世界の事を知らない、一方的な話で会話が成り立たないコミュニケーション下手な話し方から推測すると、隔絶され閉鎖された世界で『秘密裏に育てられた』子供なのだろう。

そして自分の能力者としての能力だ。

『レジリエンス スチフネス』、分子に作用し物質の弾性や剛性を変化させる能力。

明らかに秦氏の生業にプラスになる能力者だろう。


「千鶴ちゃん、一つ聞いていいかい?」

「後で街のお話してくれるならいいよー」

「ああ、俺で良かったらいくらでも。でね、俺がここに連れて来られた時に誰かいた?」

「いたよ、菱胤(ひしざね)叔父さんが」

「その叔父さんが、俺の事を紹介してなかった?」

「してたよ」

「何て言ってた?」


和也の脳裏に能力者総論の重金教授の声が響く。


『能力者と普通の人間には数%だが、特徴的なDNAの配列の有る無しの差がある。このDNAが能力者であるかそうでないかを決定付けるのは、決定付けるのは確実だ。もし子供を能力者にしたいならば、伴侶は良く考えると良い』


「言ってた、花婿を連れてきたって」

『能力者同士の交配が、能力者を産む一番の近道だ」




「………………………………………」

「ねぇ、花婿ってなに? 私始めて聞いた言葉なんだけど」

「なっ…」

「なっ?」




「なんじゃそらーーっ‼︎ 俺は種馬じゃねーーっ‼︎ 」


そんなもの悟りたくないわと和也は思いつつ、目を白黒させながら隣に座る少女をどうしようかと悩んだ。






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