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雷神としての能力

能力者に対抗するには、どうするか?

対抗と言うには少し抽象的。

経済や人格などでは個人差があり、普通の人間でも越える事が出来るので、論議には当てはまらないので無視する。

対抗するのは、純粋に戦いにおいての戦闘力の話だ。

能力者とは個人個人が持つ特殊能力に加え、励起法と呼ばれる乗数強化法を持つ人種を言う。

人種とは書いたが正直な話、超能力や魔法に近い能力に体力や筋力・耐久性・回復力は、人外通り越して化け物の類である。

そんな相手に対抗するには? である。


修行を行う?

否。現実的ではない、修行をしたとしても励起法の伸び幅が尋常ではない為に追い付くのが現実的に無理だ。何より能力者も修行を行っているので、その差は開く一方だろう。

防具で固める?

否。防具で固める最大のデメリット、スピードの低下は防具の耐久力と言うメリットを大きく上回る可能性がある。ましては能力者の能力で破壊されかねない。

機械に頼る?

限定的に可だが限りなく不可に近い。

始めはいいだろうが時間が経つにつれ対応されやすい、能力者の状況変化への対応スピードは、普通の人間を大きく上回る。


他にも方法はあるだろうが、大体が無理である。

能力者の励起法と固有能力はかなり厄介なのだ。


ではどうするか?

それは






「うっわーっっ‼︎」


施設に入ってすぐ、奈緒美は自分が出来る最深度の励起法を使い駆けていた。

スピードを落とさず、ステップを踏みながら、左右に上体を揺らす。


「うわっととと、ひぃっっ‼︎」


傍から見れば奇声を上げながら走る奇妙な少女だが、本人はいたって本気。

いや必死という方が正確かもしれない。


「ぐぇ」


通路の角を曲がろうとした奈緒美、その襟首を大きな手が、むんずと掴み後ろへと引き戻す。

喉を急激に絞められて変な声が出たが、奈緒美は文句を言う余裕は無い。

何故ならば引き戻される瞬間に、彼女の前を薙ぎ払う様にレーザー光が走っていたからだ。


「無事か?」

「なんとか、鼻の先を少し焼かれたぐらいです」

「ここら一帯はトラップゾーンの様だ。施設の性質状、爆薬関係はないみたいだ」

「爆薬より危険極まりないですっ‼︎」


奈緒美はハイテンションな声色で、どこまでも平坦な声の葵に返す。

それは仕方がないだろう、いくら能力者といえども喰らったら大怪我間違いなしの『高出力レーザー』を使った罠を、息も尽かさず回避し続けたら普通はこうなる。

生存本能と励起法バンザイ、生きてて良かったというヤツだ。

廊下の曲がり角に身を潜めながら、奈緒美は打開策を模索する。


「レーザーが厄介です。どうにかなりません?」

「無理だ。流石に光の速さは今は弾き切れない。相手が能力者や人間ならば、相手の目線や攻撃パターンからなんとかなるかもしれないが」

「出来る時点で凄いです。でも打開策がない限り進めません」

「しかも『白霧』が無効化されている」


白霧とは儀式で編まれた、霧島の一族専用の戦闘衣装だ。

儀式で作られた品は、基本色々な奇跡を起こす。

例えば儀式を施した符を使えば、自分と寸分変わらない分身を作ったり。

例えば儀式を施した鐘を鳴らすと、無意識下に働きかけ人が寄らなくなったりと、効果は様々。

中でも多いのが戦闘衣や武器だ。

能力者の励起法は接触しているものを自身の身体と同じ様に強化出来るが、強化率は身体に比べれば格段に落ちる。

理由は様々だが、一番の原因は自身の身体ではないからというシンプルな物。

そこで強化率が低いならば、服や戦闘衣を儀式で強化すればいいと昔の能力者が考えたのだ。

普通の儀式服は耐久・耐刃・耐衝撃・耐熱・耐化学処理をしてあるが、白霧はその幾つかがない代わりにとある効果が付加されている。

それは形状変化と自己再生、エネルギー吸収。


「本来ならばレーザー位は簡単に吸収出来るのだがな」

「なんで、こんな時に? ……はっまさか不良品?」

「違う。この白霧を作ったのが秦一族だからだ」

「発注元に攻め込むって………」


何か釈然としないモノを感じ、奈緒美は乾いた笑いをあげる。


「ではどうします? 段々罠の密度が濃くなってますから、恐らくは目的のものはコッチだと思います。退く訳もいけませんよね?」


元々この作戦自体、誘拐された人間を救い出すという目的だ。

退く訳にはいかない。


「……奥の手を出す」

「奥の手……ですか?」


それだけ言うと葵は、おもむろに廊下へ歩き出す。

奈緒美が驚きの声を上げる。

そんな奈緒美に構わず、葵は右手を水平に上げる。


「葵さん⁉︎」

「能力を使う」


能力を使う、その言葉だけで奈緒美はレーザーの危機より、好奇心が勝った。

世界でも上位クラスの使う能力。

しかも励起法を使わずとも超人クラスの能力者だ、気にならない筈がない。

奈緒美は一秒たりとも見逃すまいと、廊下へほんの少しだけ顔を出し葵の右手を凝視する。

するとタイミングを見計らったかの様に壁の一部に音もなくスリットが走り、その暗い切れ込みの奥から赤いルビーの様な光が灯る。

次の瞬間、赤い光の点は線となり儀式によって純粋なエネルギーを減衰させない陣の影響により、高出力レーザーそのままで葵に襲いかかる。

だが、レーザーにより焼き切ると言う現象は起きない。


「ええっ⁉︎」


奈緒美は思わず驚き声を上げてしまう。

レーザー光が葵の目の前1mの辺りで止まっていたからだ。

赤い光が凍り付いたかの様に、赤い玉の様に宙に浮かんでいるのだ。

間髪入れずに壁のスリットが複数開き、再び同じ光景が繰り返されるが、結果は同じ葵の周囲に赤い玉を複数浮かび上がらせるだけに終わる。


「行くぞ」

「えっあっ、はい」


その幻想的で現実味を帯びない光景に茫然と見ていた奈緒美は、葵の抑揚のない平坦な声に呼び戻され慌ててついて行く。


「赤い光に当たるな。中和固定してエネルギー形状を変えているだけで、ぶつかったら火傷ですまない」

「ちょっ、それは早めに言ってください‼︎」


そのまま素通りしそうななった奈緒美は慌てて避けなが、心の中でやはりと結論づける。

葵の能力は恐らくはエネルギー変化、もしくは操作。

しかも光を操作も出来ると言う特殊なタイプだろう、未だにエネルギーを内包したまま浮かんでいる複数の光の球を目の端におきながら奈緒美は一時結論づける。


(雷神と言うだけあって、エネルギー操作は当たり前か。確かに相手にしたらこれ程絶望的な相手はないわ)


最強の身体能力に最速のスピード、エネルギー操作を難なくこなす能力者。

イギーが遊び半分で色々な二つ名を付けて遊んでいたが、奈緒美は何と無く気持ちが解る。

もう半分は本気でそう思っているのだと。


「扉だ」


考え事をしながら歩いていると、不意に葵の背中が止まっていた。

目の前には大きな鋼鉄製のスライドドアがあった。

位置的には螺旋を描きながら下りのスロープになっている道を、罠を掻い潜りながらきた終着点だ。


「儀式によるエネルギーの流れの終りが、この横……大体20メートル程か」

「ではここは管理室か資材室でしょうか? 扉の厳重さから重要施設だと思いますけど」

「入ってみるか」

「えっ?」


そう言うと葵は、この施設に入ってきた時と同じ構えをとる。

斬る気だと奈緒美が理解するより早く鍔鳴りが響き、分厚い鋼鉄製の扉に線が走る。


「切れませんね?」

「扉が厚すぎる、重さで動かないだけ。こうすればいい」


切れはしたのだろうが、重さと厚さで崩れない。

切れ味が鋭すぎるのも弊害があるんだ。

と、納得していた奈緒美の目の前で、葵の足が上がり蹴った。

しかも励起法を使ってだ。


「ちょっ、向こうに人がいたら死にますよっ⁉︎」

「………行くか」

「えっ?……無視しないでくださ………………何これ?」


砲弾の様に、地面と平行に飛んでいく厚い鋼鉄製のスライドドア。

あの質量が高速でぶつかったら、能力者と言えどもただで済まない。

ましては、この中には誘拐された人が居るのかもしれないのだ。

奈緒美は慌てるが後の祭り、無表情で中に入っていく葵に文句を言おうと続いて入って、絶句した。


「何、コレ?」


そこは資材置き場なのだろうか? 天井が高く奥行きがあり、大量の資材らしきものが積まれ奥は暗く霞んでいる。

しかし問題はそこではない、奈緒美の目の前では十数人の人間が血塗れで倒れていたのだ。

比較的無事なのは倒れている人間を挟むように立つ三人の男女。

一人は緑の狩衣を羽織る、白髪の強面の壮年男性。

一人は臙脂を基調とした華やかな小袖を着た女性。

その対峙した二人は睨み合っており、最後の一人は女性を守るように立ちはだかるチノパンにTシャツと言うラフな格好の気の弱そうな青年だった。











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