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地を這う雷

崖の様な切り立った山と山に挟まれた村。

所々にある棚田の水田に反射した月の光が、日本人の原風景に対する郷愁を幻想的にしている。

そんな谷間の村と形容してもいい程の風景は、能力者にとっては皮肉と言っていい程に空々しく見えた。


「赤外線センサーに監視カメラ、犬を放してる敷地が二・三ですか?」

「励起波を感じる。監視しているのがいる筈だ」

「ええ、精神波にのって声が漏れてますね。高深度の励起法でなければ私の能力は誤魔化せません。多分、水田横にある用具置き場とあそこの監視小屋。民家に見えるあれもそうかな?」

「儀式紋が見える。………養蚕小屋に儀式処理をしているなら工房だ」

「多分バイオプラントも併設されているみたいですから、多分そうだと思います。ほら、上手くカモフラージュしてますけど排水処理や換気装置が最新型です」


山の中腹。

切り立った崖の上、村を見下ろす様な場所に二人はいる。

その場所で二人は、低深度の励起法で強化された視力で村を窺って侵入ルートの割り出しをしていた。


「厳重ですね。流石は能力御用達の秦氏」

「イギーの説明か?」

「はい」


秦氏の一族は他の神々と同じ時期に渡って来た、神の一族の一つである。

この島国に渡って来た時点で様々な混血になってしまいルーツはようとして確定しきれないが、能力者としての特徴から彼等は『機織り一族』と呼ばれている。


「今でこそ様々な分家に分かれてしまい一族としての力は弱まっているが、能力者達の服を作り続けた一族としてのポテンシャルは計り知れない。でしたね」

「間違いない。常に時の権力者に狙われ続け、それを撥ね退け続けた実力は目を見張るらしい」


能力者の服。

励起法を使う能力者の服は、わかっていると思うが殊更頑丈でなければならない。

実際のところ能力者の励起法から溢れる余剰の励起波が、能力者達の服を強化しているので普通の服でも構わない。

だが、戦闘。

特に対能力者戦闘においてはそうはいかない。


「能力者同士であれば、自分の励起法に合わせた服が必要だ」

「簡単に破れちゃいますからね」

「他にも能力者の能力や励起法をスムーズにしたり、相手の励起波を撥ね退ける力もある。用途に分けて色々なモノがあるとも聞く」


それは逆に考えると、能力者の能力を封じる服を作れると言う事だ。

だからこそ彼等は狙われ続けた。


「能力者同士でも狙われ続けたらしい」

「その結果がこの厳重な警備なんですね」

「そう言う事……」


突然、葵との会話が止まる。

ゆっくりと片膝を立てて座ると、何かを感じ取るように目を閉じる。


「どうしました?」

「空気が変わった。誰かが見つかったのかもしれない。どうする?」


くるりと首だけを奈緒美の方へ向けて、葵は彼女の指示を待つ。

えっと一瞬何の事かと奈緒美は驚くが、自分が指示を出す事を思い出す。


「あっえっと、今回の作戦は簡単に言えば陽動と突入が代わる代わる交代するモノだから…今回は私達は第三陣目ですが順番はあってないモノです」

「どうする?」


葵が聞き返した瞬間、清閑としていた村に爆音が響き渡った。


「っ⁉」

「この励起波はイギーか、奴が見つかるのは考えられない。となると、ワザと見つかったか。どうする?」

「どうするも何もっ……えーっい、行きましょう‼」


急変する事態に混乱しながらも奈緒美は決断する。

それを聞いた葵は一つ頷くと、奈緒美が驚く間もなく彼女を抱き上げた。


「えっ、ええっ⁉」

「イギーは電撃戦と言った。ならばこの方が早い」

「ちょっとおぉぉーーっ‼」


奈緒美の許可や意向もなく葵は彼女を抱きかかえると、吸い込まれる様に崖を駆け下りた。






雷神。

それは暗雲を縫う様に走る雷を司る神。

空を切り裂く雷鳴と共に、一瞬で千里を駆ける雷の化身。

その名を受け継ぐ一族の実力を、奈緒美は肌で感じていた。

切り立った二十メートル程の崖を自由落下だけではなく文字通り駆け下り、大地を踏み締める事もなし崖を蹴り真横に跳ぶ事により真下にかかっていたベクトルをスムーズに変える。

目の前にあった林を足を止める事なく抜け、赤外線センサーの網を木々の枝葉を使った三次元的な移動を使いすり抜け、二メートル以上もあるであろう壁を一足飛びで越えた。

直線距離にして約三十キロの距離を一分足らずで駆け抜けたのだ。

しかも、それは奈緒美を抱えた状態で。


(何て身体能力。低深度の励起法で熟練の能力者を超えている………あと、これは、なんかヤバイ)


奈緒美は抱きかかえられた胸の中で、少しウットリしながらも葵の身体能力に驚いた。

………余裕ありすぎである。




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