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森の中での影法師

秦氏(はたうじ)、古代日本に宗教の概念を持ち込んだ大陸から渡って来た一族。

彼等が持ち込んだ宗教が元と成り、日本の神道が産まれたと言う説もある。

それ故にその一族は、神官や祭事を担う人物が多い。

と言うのが表側の話だが、能力者が跳梁跋扈する裏の世界ではもう少し詳しく知られている。

古代の日本、神代の時代。

当時の日本は、流浪の民が最後に腰を落ち着ける場所だった。

北欧の神話が例として解りやすいのでそれを基軸にして話そう。

北欧神話の元になった散文のエッダなどの文書。

それによるとアース神族やヴァン神族、巨人族などが入り混じり戦いに明け暮れる時代だったらしい。

しかし、その神々の時代は終焉を迎える。

皆さんも一度位は聞いたことがあるだろう、神々の黄昏(ラグナロク)と呼ばれる大戦だ。

その神々の黄昏と呼ばれる大戦により神々は滅び、世界が終わったとされる。

しかしながら、大戦と言われていても神々が総て滅んだわけではない。




月明かりが木々の間から漏れる真夜中の山中。

木の葉が降り積もり柔らかくなった歩きにくい斜面を、一歩一歩と踏みしめながら道無き道を進む影が二つ。

一つは長身の白銀の影、そしてその影を追うのが迷彩で森に溶け込む様な小柄な影。


「ハァハァ、そのラグナロクを乗り切った神々は巨人族から逃げる様に、ハァ、大陸を横断し最後に辿り着いた、フゥ、のが、この島国って事ですか」


息を切らせながら小柄な影、奈緒美は言う。


「霧島の口伝ではそう聞いている。その様な事例は世界では多々あるとイギーは言っていた。ローマ人に消されたり改変された神や、ケルトのドルイド、南米の淘汰された神々、封神された仙人達の一部」

「そんなに沢山の神々が、ハァハァ、葵さん。チョットストップ。休憩させて下さい」


奈緒美が止めると白銀の影は、クルリと振り向くと腕時計を見る。


「イギーの言う作戦時間迄はまだある。作戦行動に支障がない様に休む事を言われているから休むといい」

「解りました」


ようやく一息がつけると、奈緒美は斜面に腰を下ろすと励起法を使わず息吹だけで息を整える。

ちらりと横を見ると、木に寄り掛かり目を閉じている霧島葵がいた

この最上級とも言える能力者を自分が動かす、出来るのかと奈緒美は自問自答しながらイギーとの会話を思い出す。



「私が彼を?」

「そうだ。頼むぞ葵、仕事はこのルーキーの指示に従う事だ」

「了解」

「ちょっ、ちょっと待って下さい。理解が追いつきません。説明をっ」


人が引けた部室の中、残ったイギー・思惟・奈緒美・葵の四人。

そこで伝えられた内容に、奈緒美は軽くパニックに陥る。

自分で言う事ではないが、底辺とまでは言わないが能力者としては下位にあたる自分が上位、それもトップクラスとも言える能力者に指示を与えるなんて考えもしなかったからだ。


「説明も何も、適性の問題だ」

「適性⁉」

「俺が分類した能力者の適性だけどな」


能力者は総じて我儘な人物が多い。

これは悪く言えばだが、良く言えば意思が強くアクが強いと言う事だ。

しかしながら、アクが強いと言っても方向性がある。


「識者には戦闘系、導士には学者系、法師は指揮者ってのが多いと言う簡単なモノだがな」

「大雑把ですね。でもその分類は何と無く解りづらいです」

「解りづらいのはしょうがないわよ。イギーは適性が多いって言っているだけだから。私なんかは解りやすいわよ、識者で戦闘系、イギーに至っては法師の指揮者系」


そこで奈緒美はイギーの能力者系統を初めて知り、恐怖を覚えながらも納得する。

一番最初に出会った時のプレッシャー、それに伴う恐怖にも似た危機感は間違いではなかったのだから。

能力者系統の中でも全体数の約0.0001%にも満たない能力者。

励起法の出力と空間内把握能力は普通の能力者とは桁違いであり、物理法則のみならず運命や因果率も操作すると言われる正真正銘の化物。

奈緒美の恐怖を見とったのか、イギーは苦笑しながらアッサリとバラした思惟に批難の目を向けた。


「お前と葵しか知らない人の秘密をアッサリとバラすな思惟」

「ゴメンゴメン、でも今度の作戦行動で他にもバレるかもしれないからいいじゃない。ほらナオちゃんもとって食う訳じゃないから怖がらないの」


笑って笑ってと言われるが、そんな問題じゃない。

奈緒美の腰は退けていた。


「話の腰を折るなよ。まあ、話を戻そう。ただ適性は多いってだけで完全に当てはまる訳じゃない。その良い例が奴と君だ」

「葵さんと私?」


イギーが指差すのは葵と奈緒美。

彼女は恐怖も忘れポカンと口を開けたまま呆気にとられる。


「能力者の中でも最強の葵さんと私が?」

「そうだ。この数週間、色々な事を君にさせてその報告を聞いた所から、君は指揮者としての適性があると見た。宗像との訓練で、君は相手の動きを観察し過ぎて反応が遅れて負けるらしいな」

「はい。以前師範との戦闘訓練の通りにしていたんですけど……」

「悪い事じゃない。君に戦いを教えた人は君に合った戦闘法を教えている」


イギーの言葉に疑問しか浮かばない。

何しろ以前宗像に、経験が足りないと大成しないと言われていたからだ。

それが表情に出たのか、イギーは苦笑気味に言葉を繋ぐ。


「宗像あたりに言われたんだろう? まったく、導士と識者の戦いは基軸が違うのにな」

「違う?」

「導士の戦いは制圧戦なのよ。ここだけの話にしてね宗像兄弟の能力は『潮干』『潮満』って言ってね」

「ちょっ、良いんですか⁉」

「良いのよ、あの兄弟の能力は知っていても防ぐ術はないわ。何せ兄の斥力、弟の引力防ぐ手立てはないわ」


宗像兄弟の能力は効果対象に、引力もしくは斥力を発生させる能力だ。

彼等の戦い方は、相手の動きを能力で封じながら戦うと言うトリッキーなモノだ。

一旦その能力にかけられると相手はあらゆるモノがくっ付くか弾け飛ぶ。


「四方八方からあらゆるモノが飛んで来たり、あらゆるモノから弾き飛ばされる。いくら頑丈な能力者と言ってもたまらない訳」

「確かに制圧戦ですね。操作し導くモノの本領発揮ですか」

「まあ、そんな奴等の戦い方は大体が中距離から遠距離が主だ。だが識者は違う、君達の本分は近距離戦(クロスレンジ)

「それなら尚更経験が必要じゃないですか?」


そう言うとイギーは、やはりかと呟く。


「自分の能力、忘れてるだろう?」

「あーっ‼」







木に背中を預けながら奈緒美はイギーに指摘された事を思い出して頬を染める。

確かに自分の能力を忘れていた。

自分の能力『透見(すかしみ)』は相手の心理を読み取り、相手の次の行動を読み取る事が出来る。


「経験を凌駕する能力って忘れてたわ」


宗像士郎が言っていたのは、経験する事で勝負勘の様なモノを鍛えると言う意味だ。

しかし奈緒美に対しては意味が違う、元々その様な事を地でやる能力なのだ。

学園に来てから付き合う人間が励起法を使っている能力者か、心を読まれても気にしない人ばかりで、ついつい忘れていた。


「イギーに言われた事を思いだしたか?」


そんな時、静かに立っていた葵が声を掛けて来た。

奈緒美は意外そうな顔で、まじまじと彼を見る。


「違ったか?」

「いえ、ちっ違うんです。意外と言うか、声をかけられるとは思わなかったんで………でも、どうしてイギーさんとの事って思ったんですか?」

「自分の能力の話を呟きから推測した」

「ああ、成る程」


葵の言葉に、これは難しいなと奈緒美は考える。

重金教授の頼みを聞いた奈緒美としては、葵の先程の言動の元はどこから来たのか? と言うのが試金石だった。

これが能力の事と自嘲した笑いからと言うならば良かったのだが、結果は酷いモノだ。

平坦な声色と、推測と言う感情を一切含まない言葉からコレは長丁場になると奈緒美は嘆息する。

なにせ能力を使って感情の色を確認しても、全然見えない透明さ。

救いがあるとすれば、先天的な障害なのに知能が高い事。

先天的な障害がある場合は、発達障害を伴いIQが低い場合があるのだ。

流石は能力者と言う所だろう。


「葵さん‼ 私、頑張ります‼ だから一緒に頑張りましょう‼」

「良くわからない」

「良いんです、今わからなくても後で解りますから。それより葵さんも色々な事を教えて下さい。とりあえずはさっきの話の続きを‼」


奈緒美は頑張ろうと気を引き締める。

重金教授もイギーも、自分に期待を掛けているのが何となくわかるから。

だからこそ、だ。


「時期はバラバラだが、それらの神々は申し合わせたかの様にこの極東の地に集まった。そして古くからこの国に住む神々と交わり、この国の礎と……」


暗い森の中、奈緒美は葵の平坦な声色の説明を聞きながら未来へと思いを馳せた。












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