天使のお仕事2
今日の仕事はもうすぐ終わり。まぁ、列は全然減ってくれないけど、僕のノルマは終了。この後は同僚が僕の仕事を引き継ぐんだ。そうして無事引き継ぎを終わらせて家に帰ろうとしたら、上司が手招きをしていた。
これ、いやな予感がするんだけど…
そんなことを思ったって、僕は上司には逆らえない訳で。――いやだって上司って僕より格上の天使だもん、階級差ってやつだよ――内心渋々と、上司につれられて会議場までいくことになったんだ。あ、会議場っていうのは、天使が悪魔と会話する場所なんだ。死者の過去のまとめを悪魔に手渡すときなんかに使うんだよ。
会議場ってことは、悪魔と話さなきゃいけないのか…僕、悪魔とは話が合わないんだよな。まぁ、でも仕事の話だろうから大丈夫か。多分、美里の話しだし。まぁ、僕もよくわかってないからなんにも答えられないんだけどね。そんなことを考えながら会議場に向かう僕と上司。会議場に着いたとき、そこには僕が予想していたものとは異なる光景が広がっていた。
——遅かったな、天使たちよ。
——申し訳ございません、神様。仕事を終わらせてからきたものですから。
なんと神様がいらしたのだ。慌てて上司に習って頭を下げる。その状態から会議場を見回すと、だいたいの状況がよめてきた。神様がお二方、天使が上司ともう一人、悪魔が二人、美里、それから僕。これは美里に関してのことだな、すぐにわかった。上司たちや悪魔たちはあまり話を知らないのか、美里をいぶかしげな目で見ている。美里は居心地が悪そうだ。
——神よ、我らをここに集めた理由をお聞かせ願いたいのだが。
悪魔の一人がしびれを切らしたようにいう。どうも僕らがくるよりも前からいたようだし、聞きたくて仕方ないのだろう。僕も詳しいことは知らないから、いろいろ聞きたい。もう一人の悪魔や上司たちが賛同していく中、神様はまず、僕に話をふった。
——そこの、あぁお前だ。
——はい、神様。
——この娘が受付嬢にきたときのことを話してくれんか。
——わかりました。
そうか、まずは順番にってことだな。そう思って僕は美里が受付にやってきたときのことを丁寧に話した。自分では処理できないことだと思って、上司に報告したことも、全部。
次は上司が話す番だった。上司がいうには、僕から概要——つまり自分の名前を覚えている死者がいる、別室に案内した、どうすればいいか、という報告——を聞いた時点で、僕と同じように自分の手に負える問題じゃないということで、神様にご報告されたようだ。その後、一応美里の様子を見に行こうとしたようだが、神様に後のことは任せろ、といわれたため、いつもの仕事に戻ったらしい。まぁ、僕も上司に報告した後は、そのまま仕事に戻ったし、そんなものかもしれない。
——この二人が話したことが、この場に至る概要じゃ。
——死者の娘に話を聞いてはおられぬので?
——うむ。娘は美里と名乗っておる。その名で呼んでやれ。
——では美里、妾たちに、主の覚えていることを話してくれぬかの?
「わかりました。」
私の名前は美里です。日本という国の××市に住んでいました。私が一番最後に覚えてるのは、交通事故の記憶です。弟を迎えにいった帰りでした。夕方の薄暗い時間は、割と事故が起こりやすい時間で、私が事故にあったのは、そんな時間でした。誰かが私の背中を押したんです、そしてトラックにはねられた。意識がなくなる寸前に聞こえたのは、弟の泣き声と、女の高笑いでした。女はこうも叫んでました。「生け贄は捧げたわ!神様!私を……の世界にトリップさせてちょうだい!」何の世界かは聞き取れませんでしたが…
美里はそれだけ話すと、「事故の前のことも覚えているけど、ここに来る直前の記憶は以上です」といった。彼女は混乱というよりは、少しの怒りすら感じているようだった。
——そうでしたか。どうも大変な目にあったようですね…
——天使らよ、トリップとやらを希望した人間は今までにいたかの?
神様が僕たちに尋ねた。僕は首をかしげる。僕が知る限りはいなかった。しかし、たとえいたとしても僕の業務内容ではわからなかっただろう。上司も首を横に振り、それから少し付け加えた。
——おりません。しかしながら、トリップしたいなぁ、などと考えたことがあるものはいくらかおったようです。
——いたな、確かに。しかしそのために人間を殺したようなやつはいなかったよ。
上司の言葉に悪魔が付け足す。一瞬、なぜ悪魔が知っているのかと思ったが、悪魔の担当は裁判だったな、と思い出した。記憶についてはよくよく調べているだろうから、確かだ。間違いないだろう。
事実確認は終了した。神様は美里をどうするつもりなんだろう。